「午後十時の映画祭」50本⑨作品コメ [「午後十時の映画祭」]

引き続き、この映画が観たい「午後十時の映画祭」50本(70年代編)のタイトルリストに沿ってのコメントを。
五十音順で、今日は「ナ」から「ホ」まで。



『ナイト・チャイルド』(1972)イギリス 
監督ジェームズ・ケリー、アンドレア・ビアンキ 主演マーク・レスター、ブリット・エクランド

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『小さな恋のメロディ』の純真な演技で当時の女性のハート鷲掴みにしたマーク・レスター。当時13才だった彼が、その翌年こんなエロい役を演ろうとは、とファンを若干引かせたとされるミステリー。

マドリッドに立つ白い邸宅に父親の後妻ブリット・エクランドが鍵を開けて入ってくる。父親ハーディ・クリューガーは、パリに仕事場を持ち、めったにこの家に戻らない。彼女は誰もいないと思ってたこの家に、義理の息子マーク・レスターがいたので驚く。寄宿学校が予定より早く学期休みに入ったという。
彼女は何を考えてるのか表情が伺えない、この義理の息子に不安を募らせる。
前妻が風呂で感電死したというのも、ひょっとしてと疑わせるものがあった。そしてこの邸宅に二人だけで過ごすうち、義理の息子の彼女に対する行為は次第に大胆なものになってゆく。

ブリット・エクランドは『狙撃者』と同じ年の出演だから29才だが、その色気たっぷりの身体を、ガウンの上からではあるが、撫で回したりしてるマーク・レスターがうらやましい。
背後から胸を揉んだり。「裸になれ」なんて命令してる。
ブリット・エクランドも、従う必要もないと思うんだが、その通りしちゃうのだ。

これは封切り当時には見れてないが、けっこうテレビで放映されてた。ブリット・エクランドのヌードもちゃんと映ってたんだが、実はマーク・レスターの方も、裸になってる場面が目立つ。
父親ハーディ・クリューガーとは、親子にしてはという位に熱い抱擁をして、後妻を引かせてるし
「えっ、監督そっち?」というミスリードっぷりが侮れない所だ。

ジェームズ・ケリーという監督はよく知らないが、共同監督にアンドレア・ビアンキの名がある。
この人は悪評高き『ゾンビ3』を作ったかと思えば、アンドリュー・ホワイト名義で、ポルノ映画やエロサスなんかを作ってるイタリア人だ。
「ゾンビ」と「エロ」という、「男だったらそうだよね」な仕事選びを貫いている、そんな人生を俺も送りたいもんだ。

なんか以前DVDが出てたような気がするんだが、気のせいかもしれない。



『ハメルンの笛吹き』(1971)イギリス 
監督ジャック・ドゥミー 主演ドノヴァン、ジャック・ワイルド

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『小さな恋のメロディ』でマーク・レスターと名コンビぶりを見せてたジャック・ワイルドが、やはり同じ年に出たミュージカル。これがビデオ・DVDにならないのは、ドノヴァンの楽曲の版権問題というのは明らか。

数年前たしか日仏会館で字幕のないヴァージョンの上映があったと記憶してる。
見たかったんだけどね。そんなわけでこれも未だ見れない映画の1本。
ジャック・ドゥミーのミュージカルは『ロバと王女』までリバイバル上映されてるんだから、これもお願いしたかった。

ドノヴァンは60年代後半の「フラワー・チルドレン」世代を象徴するようなシンガー・ソング・ライターだが、俺は『メロー・イエロー』とか『サンシャイン・スーパーマン』とか、代表曲しか知らない。「吟遊詩人」っぽい雰囲気は、この物語の主人公に合ってそうな気はするね。

ジャック・ワイルドは旅芸人の一座の仲間で、足の悪い絵描きを演じてるが、彼が恋してしまう町長の娘を演じてるのがキャスリン・ハリソン。
まだこの時11才という彼女は、1975年にルイ・マル監督の『ブラック・ムーン』で主役を演じる。
「不思議の国のアリス」が、少女から大人へ脱皮してくようなイメージを匂わせた、シュールな映画となってた。ヌードにもなってたような気がする。

有名な童話に、ドノヴァンがどんな楽曲をつけてたのか、ジャック・ドゥミー監督だから、その色鮮やかな映像もともに期待しつつ、スクリーンで見れる日が来ることを。



『白夜』(1971)フランス・イタリア 
監督ロベール・ブレッソン 主演ギョーム・デ・フォレ

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ロベール・ブレッソンの映画で最初に見たのがこれだった。製作から7年後の1978年に、フランス映画社の配給で、岩波ホールで上映された。
数年前に東京国際映画祭での特別企画でブレッソン監督のレトロスペクティブがあり、もう1回見たいと思い続けてたんで、また見に行った。

ブレッソンの映画は紀伊國屋書店からDVD-BOXが出てたりして、大方の作品は見れるんだが、この『白夜』と『やさしい女』は未だにビデオ・DVD化されてない。
『白夜』を最初に見た時、あの岩波ホールの座り心地の良くない座席が気にならないほど、なんか見てて気持ちよーくなってしまったのを憶えてる。眠くなる感覚とも違う。

パリ、ポンヌフ橋からセーヌ河へ身投げしようとしてる若い女性と、彼女を助けた画家志望の青年の3夜の物語。
レオス・カラックスがこの映画にインスパイアされて『ポンヌフの恋人』を作ったというが、あの演技も演出も過剰で、くたびれる映画の、どこにこの映画からインスパイアされた部分があるのか、よくわからん。
その位、過剰な演出は一切なくても、恋人との再会を待つその女性に惹かれていく青年の、いたたまれない心の内がくっきり浮かんでくる。

しかしストーリーよりもやはり映画の心地よさだ。ふたりが路上のギター弾きの演奏を聴いてる場面など、その音色に包み込まれるような感じだった。
二回目に見た時はそれほどではなかったが、とにかくあの岩波ホールでの最初の体験は忘れられない。
「こんな気持ちいい演出をする監督がいるのか」と思った。
それからブレッソンの映画をいろんな場所で追っかけて見たんだな。
でも結局これが一番好きな映画だ。



『ビリー・ホリディ物語/奇妙な果実』(1972)アメリカ 
監督シドニー・J・フューリー 主演ダイアナ・ロス

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これも見てない。だって見る手立てがないんだもの。楽曲の版権絡みというのは容易に分かる。
「ブルースのレディ」と称される史上最高の女性ジャズ・シンガーであるビリー・ホリディの、その才能と表裏を成した、レイプ、貧困、売春、麻薬中毒という、壮絶な人生を描いた自伝の映画化。

ダイアナ・ロスはザ・シュープリームスを解散後、ソロになって直後の28才で、この役に挑戦してる。
ザ・シュープリームス時代の彼女は、後追いでしか知らないが、ソロになってからの『エイント・ノー・マウンテン・ハイ・イナフ』や『タッチ・ミー・イン・ザ・モーニング』はラジオでよく流れてて、俺も好きな曲だった。
この映画に関しては「ビリー・ホリディの歌唱とは声の質がちがう」という批評が多かったようだが、その年のアカデミー主演女優賞の候補にはなってる。

見てないからこの映画に関しては何とも言えないが、順番として1978年の『ウィズ』と逆だったら良かったんじゃないか?なんて思う。
俺は『ウィズ』は封切りで見てるが、やはりオリジナル版『オズの魔法使い』のジュディ・ガーランドを知ってると、「ドロシー、歳いきすぎ!」と誰もが思うわな。
でも70年代には黒人の女性歌手で、映画もこなせるスターは彼女くらいしかいなかった。
今ならビヨンセでもリアーナでも、候補は何人も挙がるんだが。

ビデオ・DVD化は今まで無し。
音楽映画なんで、シネコンでリマスター版を見てみたい。



『フリービーとビーン大乱戦』(1974)アメリカ 
監督リチャード・ラッシュ 主演ジェームズ・カーン、アラン・アーキン

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昨年公開された『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事』を見てて
「これは新世紀のフリービーとビーンだな」と思った。

考えるより先に手が出る猪突猛進の刑事ジェームズ・カーンと、なにかにつけ几帳面で、相棒に振り回されるアラン・アーキンのコンビが、違法賭博の組織のボスを追って、サンフランシスコの街を混乱に落とし入れるアクション・コメディだ。
サンフランシスコ市警といえばハリー・キャラハンやフランク・ブリットという名物刑事がいるが、フリービーとビーンは、比べるのもどうかと思うほどの脱線ぶりだ。

アクション演出自体が、刑事アクションの範疇じゃなくて、なんか「トムとジェリー」でも見てるような、カトゥーン的破壊感が炸裂してる。カーチェイスのあげくに、車が宙を舞って、建物に突っ込むなんて描写も、今は珍しくないが、俺はこの映画で初めて見た気がする。
たしか老夫婦のアパートの部屋に突っ込んで、車のドア開けたフリービーとビーンがヨロヨロ降りてきて、呆然とする老夫婦に、アラン・アーキンが「すっ、すいません、すいません…」
って言いながら部屋を出てくのが可笑しかった。

あと二人が女装した男に発砲される場面があるんだが、この男が体格はゴツいんだが、顔は女性にしか見えなくて驚いた。『ナイトホークス』のスタローンの女装とはレベルがちがう。

しかしアラン・アーキンの「人に振り回される芸」は絶品だね。『あきれたあきれた大作戦』(この邦題もあきれるが)の時もピーター・フォークにさんざ振り回されてた。
実はこのジェームズ・カーンとアラン・アーキンが、2008年の『ゲット・スマート』で同じ画面に収まってた。
「フリービーとビーンが再会してる」と嬉しかった。

リチャード・ラッシュという監督は1960年代後半に「ヘルス・エンジェル」ものを何本か作っていて、今の所1994年のブルース・ウィリスが出たエロサス『薔薇の素顔』が最後だが、1970年代以降はそれを含めて4本しか撮ってないという寡作ぶりだ。
別にテレンス・マリックみたいな作家性があるわけじゃないのに、その寡作ぶりが意味不明な人。
悪夢のような映画撮影現場を描いた1980作『スタントマン』も海外ではカルト映画扱いとなってる。

『フリービーとビーン大乱戦』はビデオは出てるが、DVD化はなし。
ワーナーなのでオンデマンド販売の可能性は高い。



『ボビー・デアフィールド』(1977)アメリカ 
監督シドニー・ポラック 主演アル・パチーノ、マルト・ケラー

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アル・パチーノ主演作で俺が秘かにフェイバリットとしてる映画。なんでかというとパチーノが静かにしてるからだ。『狼たちの午後』以降、なにかにつけ、がなり立てたり、まくし立てたりという演技が目立つんで、「いい加減落ちついてくれ」と言いたくなってしまうのだ。

これはヨーロッパを転戦するF1レーサーが主人公なのだが、レースの場面より、パチーノとマルト・ケラーによるラブストーリーの側面が強く、「レース映画」をピックアップする時に、つい忘れられるという率が高い。

死と隣り合わせのレーサーの人生で、つい虚無的になってしまうパチーノが、事故に遭った仲間を見舞いがてら、スイスのサナトリウムを訪れ、そこで自分とは対照的に、一瞬一瞬を生きようとするような、マルト・ケラーと出会い、惹かれてゆく。
イタリアの有名な避暑地コモ湖から、フィレンツェ、アルプスの山々を抜けて、パリへ。ふたりのロマンスとともに、ヨーロッパの美しい景観が目を楽しませてくれる。
カメラはフランスを代表する撮影監督アンリ・ドカエによるもの。
マルト・ケラーが衝動的に熱気球に乗って、大空に舞う場面の空撮とかいいんだよねえ。

シドニー・ポラックの演出は、せかせかしてなくて、ゆったりとシートに身を任せられる感じ。
セリフも多くないんだが、パチーノとマルト・ケラーふたりの表情を寄り添うように見つめ、どんな感情が滲み出てるのか、手に取るようにわかる。役者の演技力を信頼してるんだろう。

デイヴ・グルーシンの音楽も心地よい。70年代のコンポーザーで誰を挙げるかという時に、特に70年代半ばからの10年間だと、俺はデイヴ・グルーシンに一番ハマったかも。

実際にF1のサーキットで撮影もしてるし、バジェットは大きい映画なんだろうが、派手さがないので、アル・パチーノ主演作の中でも、あまり語られないのが残念。

ビデオのみでDVD化されたことないが、もう一度スクリーンでヨーロッパのロケーションを堪能できたらいい。

2012年1月3日

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超小っ人

ブリットを知ったのは、『オリバー』や『小さな恋のメロディ』で子役として名を売ったマーク・レスター主演の『ナイトチャイルド』で、いきなりM・レスター扮するマーカスに義母エリーズ役のブリットが背後からバストを弄られる場面や、エリーズの再婚相手でマーカスの父親役ポール(H・クリューガー)との生々しいベッドシーン、それとマーカスを誘惑して彼のベッドに夜這いを掛ける刺激的なシーンの数々に度肝を抜かれた思い出が強烈です。何しろ僕の思春期半ばの頃でしたから…。
その後、『007黄金銃を持つ男』でボンドガールとして一躍脚光を浴び、世界的なロック歌手のR・スチュアートと浮名を流したことで、僕的にも印象を深めました。
P・セラーズとの間に一女を生しながらの離婚後にも、ロッドを骨抜きにした魅力的な女体を視たくて、彼女の裸踊りの場面の配された『ウィッカーマン』をTSUTAYAへ借りに行きましたが、同作品がN・ケイジ主演でリメイクされていたことを知らずレンタルしたリメイク版映像を眺めてガッカリ!映画としては凡庸なストーリーだから面白いモノでもなく、(オリジナル版での)ブリットのヌードシーンだけが目当てだったので…。未だに『ウィッカーマン』オリジナル版には巡り合えません(涙)。
by 超小っ人 (2015-10-15 12:48) 

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