牧口雄二・東映カルト3連打② [牧口雄二監督]

『戦後猟奇犯罪史』

戦後猟奇犯罪史.jpg

「テレビ3面記事ウィークエンダー」を見てた人は多いだろう。10年近くも続いた番組だったから。
今はワイドショーや「アンビリバボー」などの番組で、ポピュラーな手法となってる「再現フィルム」というヤツを、最初に本格的に導入したのがこの番組ではないか。

リポーター(に扮するタレント)が、スキャンダラスな事件の経緯をフリップを使って、テンション高めに解説していくもので、桂ざこば(当時は朝丸)の
「こいつや!こいつでんがな悪いのは!」
の名調子を生んだりした。

リポーターの中でもキャラが立ってたのが泉ピン子だった。とにかく早口で結構えげつない表現もバンバン口にするんで、「今日は何を言い出すか」というのが、この生放送の番組を見る楽しみの一つになってた。

この『戦後猟奇犯罪史』は「ウィークエンダー」風のセットを組んで、泉ピン子がリポーターとなり、3つの有名な猟奇事件を紹介していくという構成になってる。
「ウィークエンダー」は1975年に始まった番組だが、この映画はその1年後に公開されてる。つまり番組人気が出ると、すぐに便乗して、泉ピン子を引っ張ってくるという、当時の東映の「ウケるならすぐにやれ」なフットワークの軽さが知れる。

フットワークが軽いといえば、この映画は1976年の6月に公開されてるんだが、そのひと月前に、歌手・克美茂の「愛人殺害死体遺棄事件」が報じられると、「これも映画に入れろ」と号令がかかり、撮影して公開に間に合わせたというのだから凄い。
凄いんだが、映画を見ると、3つのエピソードの内、真ん中に挟まれたこれだけ、あきらかな「やっつけ感」がダダ漏れしてる。尺も短い。

題名には「犯罪史」とうたわれてるが、この放り込みエピソードがなければ「西口彰」の事件と「大久保清」の事件の二つだけなんで、俺の予想してた内容とは違ってた。もっと猟奇事件の数々が、畳み掛けるように描かれてくもんだと思ってたのだ。
つまり「えっ、そんな事件もあったの?」という驚きが得られるかと。
西口彰といえば、『復讐するは我にあり』で緒形拳が演じた、あの連続殺人犯であり、大久保清もテレビドラマでビートたけしが演じて評判を得ている、「猟奇犯罪界のビッグネーム」だ。
ただそれは今だから言えることで、どちらもこの映画の方が取り上げたのは早いのだ。


この映画で西口彰を演じるのは室田日出男、大久保清を演じるのは川谷拓三という、「ピラニア軍団」の主演作2本立ての趣だ。間に「番外編」1本みたいな。

「西口彰」事件で描かれるのは、それまで詐欺や窃盗などの前科を持ってた西口が、初めて人を殺める38才の時からだ。運送会社のトラック運転手の職にあった西口が、当時専売公社が、たばこの配送と代金の集金を運送会社に委託してることを知り、その強奪を企てた。
集金人をひと気のない橋の上で襲い、川に転落させ、岸まで這いずってきた集金人をさらに足蹴にして集金袋を奪う。さらにその足で同僚の輸送車ドライバーを刃物で執拗に刺して殺す。
冒頭の場面から室田日出男の演技には迫力があり、血まみれのシャツのまま、列車の脇を歩いてるショットもいい。
西口はその凶暴さを普段は表に出すことがなく、大学教授の名を騙って、日本全国の旅館などを泊まり歩いている。
「真珠を4つ埋めているってんだから!」(ピン子解説)と言われ、女にはモテた。

顔を特徴づけていた頬のホクロを取るために、50円玉の真ん中の穴にホクロを合わせて、頬に貼り付け、火であぶった針金のような物で、ホクロを焼き切るという場面もある。
浜松の旅館では長居したようで、その間に旅館のおかみと、その娘の両方と情を通じるという「親子どんぶり」状態となり、母娘で取っ組み合いの争いとなったりする。
結局そのふたりとも絞殺してしまうんだが。
おかみが娘が見当たらないんで
「あんた、娘に何かしたのかい?」
と尋ねられた西口が、たばこをふかしながら笑う場面は怖い。
緒形拳のギラギラとしたオスの生命力のような個性とは違い、室田日出男は「ヌメッと」した捉えどころのない雰囲気の中から、不意に凶暴さが現れる。


一方、8人の女性を殺害した大久保清の事件は、犯行から逮捕、そして取り調べをのらりくらりとかわす様子に尺を割いてる。
大久保清は母方のロシアの血を引いていて、きれいな顔立ちをしてたので、女性に悪印象を与えなかったと言われてるが、ビートたけしはもとより、その点では川谷拓三もないだろうとは思うね。
「どこがロシア人とのハーフやねん!」って感じで。

そんなこともあるのか、映画の中で、この大久保はやみくもに女性に声をかけまくってる。
ベレー帽とルパシカを着て、画家を装い、モデルになってほしいと、言葉巧みに車に乗せて、人里離れた山林でレイプする。「青姦用に」とビニールシートまで車に積んでたらしい。
車の中で女性にキスする最中に付け髭が取れるとか、川谷拓三の演技はコメディ調で、レイプしようと追っかけてる場面に、軽快な音楽が流れるなど、題材との乖離が激しい。

ただ後半、取調べに抵抗を続けてた大久保が、独房での孤独に絶えられず、自白を始めてからの場面は、同じ犯行場面でも印象がグッとシリアスになる。

つまり前半で描かれたレイプから殺害に至る、あの妙にメルヘンな感覚は、大久保の内面から描かれたもので、後半で描き直される、大久保が女性を絞め殺す時の、川谷拓三の鬼気迫る表情は、実際はこういう光景だったのだという、事件の悲惨さを突きつけてるのだ。
にしても、大久保が独房のトイレで大便をしていて、便器の底を見ると、無数の目玉が盛り重なって見ているという描写などは、悪趣味も度を越してるぞ。
まあ悪趣味前提で作られてるんだろうが。

2012年3月10日

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