押し入れからビデオ⑯『新ジキル博士とハイド氏』 [押し入れからビデオ]

『新ジキル博士とハイド氏』

新ジキル博士とハイド氏.jpg

1982年のコメディで、この題名はCICビクターからビデオ発売された時のもの。
なんでそんな但し書きをつけるかと言うと、これは劇場未公開作で、ビデオに先立って、テレビ放映されてたのだ。
その時の題名は『ジキルとハイド 爆笑大作戦』だった。

本来はそっちの題名で紹介したかったんだが、テレビ放映された時には録画してなかった。
深夜たまたまチャンネル合わせて見てたら、すげぇ笑えるじゃんか!と、すっかりのめり込んでしまったのだ。
その後にビデオを中古で手に入れたんだが、この映画の面白さは、ひとえにテレビ放映時の青野武の吹替えによるものだと痛感した。
市販されてた(今は廃版)ビデオは字幕版で、その字幕ではあまり笑えないのだ。

なので今回この映画を取り上げたのは、スティングレイでもキングレコードでもいいので、是非テレビ放映時の吹替え版を収録したDVDを出してもらいたいという願いからだ。

ここから先は映画のディテール紹介になるけど、マニアックな固有名詞がいつにも増して出てくることになろう。

まず主役の外科医ジキルと変身後のハイドの二役を演じる、マーク・ブランクフィールドという役者を、ほとんどの人は知らないだろう。
他の出演作をチェックしてみると『続・天国から落ちた男』とか『スプラッシュ2』とか、作ってたことすら知らない続編に主演してる。
ということはスティーヴ・マーティンやトム・ハンクスの代打として重宝されてたような存在か。

ルックス的には、素の外科医ジキルの時だけ見れば、ゲリット・グレアムに似てる。
『ユーズド・カー』でカート・ラッセルの相棒を演じてたり、デパルマの『ファントム・オブ・パラダイス』で、ロックスター「ビーフ」を演じてた役者だ。感電死してたが。

このマーク・ブランクフィールドが、ハイドに変身して以降は、もうやぶれかぶれと思えるような怪演を見せてる。

「ジキル博士とハイド氏」というのはロバート・ルイス・スティーブンソンの怪奇小説で、ジキル博士が自ら開発した薬品を飲んだことで、獣のような別人格のハイドが現れるという、解離性二重人格をテーマにしてるのだが、この映画はそのモチーフを、ドラッグねたに流用してるのだ。

丁度この時代に人気を博してた、チーチ&チョンの「マリファナ」コメディの変種といえる。


総合病院の天才外科医ジキルは、院長から大富豪のオペを命じられる。
大富豪の名前がヒューバート・ハウズという、モロにハワード・ヒューズをモデルにしてるんだが、ほとんど死にかけてて、『血の唇』のじいさんみたいになってる。
大富豪ハウズは、内臓の全器官移植を望んでいて、それができるのはジキルだけだと名指ししてきた。

だがジキルは外科医のメスを置き、研究に専念したいと考えていた。
高額な手術に頼らずとも、人間の本来持っている生命力を高め、獣性を呼び覚ますことで、病気やストレスにも打ち克つことがきっと可能だ。
そんな「ドラッグ」を開発しようとしてたのだ。

ジキルの勤める総合病院には「慈善病棟」というものがある。
小ぎれいで洗練された一般病棟から、扉ひとつ隔たれた部屋は「ここはレ・ミゼラブルの世界ですか?」と思うような薄暗く不潔なベッドに、貧乏な人たちが横たわってる。

ジキル医師はこういう人たちを助けたいと思ってたのだ。
ジキルは院長の娘メアリーとつきあってたが、院長は
「大富豪のオペを断れば結婚はご破算にする」と脅してくる。


とにかく自説を証明するため、ドラッグの開発に余念がないジキル。
だが野暮用が多くて研究に専念できない。

今日もナースが
「異物がはさまったまま抜けなくなってる患者がきてます!」
「異物がどこに?」
「V・A・G・I・N・Aに」
と単語を区切って言うので、ジキルはすぐには判らず黒板に書いてみる。
最後の単語を書き終わる前にやっと気づくんだが、字幕で「おまん…」て出てる。
ギャグに関してはスベッてる字幕なんだが、こういう所は攻めてるんだな。

診断に行ってみると、白人の美女と、ミスター・オクレみたいな風貌の日本人(たぶんそういう設定)が合体してる。オクレは日本語ともつかないような日本語で怒鳴ってる。
黒澤時代劇の口調だろうね。
で合体してた美女は、チャイナタウンの「マダム・ウー・ウー」という怪しげな店のコールガール兼歌手で、アイビーと言った。
「穴あいちゃったから」と言って脱いだ黒ストッキングを頭に被せられ、ジキルはその色気にやられた。

病室を出ると廊下を通りかかった重症患者から
「ぜひジキル先生にオペを」
と頼まれるが、黒スト被ったままのジキルを見て
「やっぱり女房に縫ってもらいます」


ようやく研究室に戻れたが、疲れてつい開発中のドラッグに顔をつっぷして眠ってしまう。
途端にジキル医師の体に変調が起きる。

ハードロックの華麗なギターソロをバックに、ジキルの白衣はいつの間にか襟の高いビロードのシャツに変わり、その開いた胸元からは、胸毛が生えだし、金のネックレスまで。
髪型はアフロに変わり、ケツは上に持ち上がり、軽やかにステップを踏む。
身悶えながら指を見ると、なんと指の皮膚を突き破ってデカい指輪が出現。
小指の爪だけがグーンと伸びる。
なんでかというと、その爪をスプーン代わりに、コカインを吸い込むためだ。

そして股間も大変なことになってるのだ。
このあたりの描写は『ハウリング』だねほとんど。


すっかりファンキーマンのハイドに変貌して、病院を脱け出すと、知らない人の車を奪って、
「マダム・ウー・ウー」へ直行する。
中華系のはずなんだが、日本人の板前がお出迎え。

「ハイ!ハイ!」と「バカヤロー!」しか言わないが。
この小太りな板前が俺のツボを突きまくってくる。

店内ではニューウェーブ系のツンツン頭の若者たちが踊ってるのか暴れてるのか、そんな中でアイビーがバンド引き連れてステージに登場。パット・ベネター風かな。
歌が終わるとハイドは、アイビーを引っ張って「個室」へと消える。

翌朝、素に戻ったジキル医師は、激しいセックスを物語る部屋の惨状に呆然とする。
「僕はどこまで野獣になったんだ?」
部屋のすみにはなぜか羊もいて
「お前とも?」
羊はウンウンと頷いてる。
こういうくだらないギャグが連発されるんで、覚悟が必要だ。

「メアリーを裏切ってしまった!」と自責の念にかられ、彼女の部屋に窓から忍び込む。
「僕には君しかいない」
メアリーとも一戦交えて、タバコを吸ってると、院長がライフル片手に押し入ってくる。
「娘が犯される声が聞こえたぞ」
ジキルがとっさに「大富豪のオペをやります!」と言うと
「そうか!」
「じゃあハメ倒せ」


ジキルは「フォーミュラ143」と名づけたドラッグを、トイレに流そうとしていた。
だが流れる瞬間に手を突っ込んで取り出してしまう。
いけないと思いつつ、誘惑に抗えない。

ドラッグを吸い込んで、またしてもハイドに変貌して、ファンキーに町へと飛び出して行く。
何度もドラッグに手を出すうちに、普段からハイド化が進むようになってしまうジキル医師。

大富豪ヒューバート・ハウズのオペの最中にもハイドに変貌し、用意された臓器を床にぶちまけて出て行ってしまう。
オペに立ち会ってた院長は、オペに失敗したら、病院一体を買い占めて爆破すると大富豪から脅されてたので、もうしょーがないと、上半身裸になって、
「俺のを使え」と部下に命じる。
腹のくくれる男じゃないか。

半ばハイド化したジキル医師は、整形外科医のラニヨンに
「なんとかしてくれ!」と泣きつく。
「俺の中にもうひとりの俺がいるんだよお!」
「もう一人の自分を隠すことはない」
ラニヨンはそう言うと白衣を脱ぐ。黒いブラとパンティをつけてる。
ラニヨンは女装趣味だった。ジキルは窓を破って逃げ出した。


ドラッグの開発費用も底をつき、困り果ててたジキルは、1枚の招待状を目にする。
実はメアリーがジキルの研究内容を、イギリスのパッツプラー賞委員会に送っていて、その受賞が決まったというのだ。賞金は50万ドル。

今やハイドと化したまま、旅客機の貨物室に潜り込んでイギリスを目指す。
メアリーも受賞式に参加するため、ロンドンへ。なぜかアイビーも向かっていた。

受賞式の壇上でジョージ・チャキリス本人から名前を呼ばれたジキル医師。
だが出てきたのはハイドだ。
モータウン風のサウンドで歌い始め、
「人間の獣性を呼び覚ませ!」と服を脱ぎ始めたんで会場は騒然。
「あいつを捕まえろ!」と大捕り物が展開される。

ハイドが会場を逃げ出すと、ロンドンの町はモノクロになってる。
『ジキル博士とハイド氏』の最初の映画化は、1930年代のモノクロ作品だったのだ。
昔の怪奇映画風の演出ってわけだ。

追い詰められたハイドは建物の屋上から落下。
駆けつけたメアリーとアイビーは火花を散らす。
「私とのセックスは凄いんだからこの人!」
「私には紳士でとっても優しいのよ!」
意識を取り戻したジキル医師は
「僕のために争わないでくれ」
「じゃあ、二人で共有しましょう」
となってめでたしめでたし。

最後にロバート・ルイス・スティーブンソンの墓が映り、その地面の下で、スティーブンソンの骸骨が
「俺の小説を台なしにしやがってえ!」
と暴れてるとこでジ・エンド。まあたしかにね。


この字幕版を見ると、テレビの吹替えでは、青野武がアドリブ入れてる部分があるのがわかる。
そこが笑えたりしてたのだ。
女装のラニヨンから逃げ出す時に「こわ~い!」って言ってたりね。
主演のマーク・ブランクフィールドの怪演に、青野武もノリノリで声をあててるのが伝わってきた。

これを製作したのが、ローレンス・ゴードンとジョエル・シルバーの黄金コンビというのも凄い。
時期としては、ウォルター・ヒルの『ウォリアーズ』から『ストリート・オブ・ファイヤー』という最盛期の作品を製作してる頃で、その合間になぜかこんな映画を作ってるのだ。

撮影も『殺しの分け前/ポイント・ブランク』や『ロリ・マドンナ戦争』などカルトな名作を手がけてるベテラン、フィリップ・ラスロップだ。
この映画と同じ年には、ヴェンダースがコッポラと、大揉めに揉めながらながら作った『ハメット』のカメラをやってる。

ハイドが歌い踊るモータウン風ナンバーなど、音楽担当はバリー・デ・ヴォーゾンだ。
彼の名は、ペリー・ボトキン・Jrと共同で書いた『妖精コマネチのテーマ』のヒットで知られてる。

これは元々はデ・ヴォーゾンが音楽を担当した、1971年の映画『動物と子供たちの詩』に使われてた曲を流用したものだった。
女子体操のナディア・コマネチが、当時どれだけスターだったかを物語ってる。

2012年8月28日

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nerd

古いノートに今さらコメントで失礼します。
私も当時の深夜TV放送(関東)の衝撃が忘れられません。
青野武さんによる、悪顔ハイドの「ビンビンだぜぇ~!!」には大笑いさせてもらいました。
あまりの凄さにあっけにとられていたらさくっと終劇してしまい、
「い、今のは何だったんだ・・・。」とあっけに取られてました。
しかし翌週か、翌々週には深夜にまた放送しており、再度爆笑させて頂いたこの作品、なんと、吹き替え版はビデオ化されていないのですか。とても残念です。
お目汚し、失礼いたしました。
by nerd (2020-04-25 02:10) 

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