TIFF2012・8日目『モンスター・パニック』他 [東京国際映画祭2012]

東京国際映画祭2012

「審査委員長・特別オールナイト コーマン魂」

『レッドバロン』
『ピラニア』
『モンスター・パニック』



今年のTIFFの俺的メインイベントが、このオールナイト企画なのだ。

ロジャー・コーマンの、監督としての最後の映画になる1971年の戦争映画
『レッド・バロン』
ジョー・ダンテ監督の出世作となる『ピラニア』
そしてエログロ度において、このジャンルでも突出した傑作
『モンスター・パニック』の3本立て。

名画座全盛だった時代でも、浅草にしろ、三鷹にしろ、蒲田にしろ、この3本を番組に組んだ例はなかったんじゃないか?
『ピラニア』と『モンスター・パニック』の2本立てはあり得ただろうが、その当時にはすでに『レッドバロン』は名画座にはかからなくなってたと思う。

何れにしても、何十年ぶりかのスクリーン再体験。
取り壊しが決まった浅草中映とか、俺が昔あしげく通った名画座の記憶を喚起させるような、魅惑の3本立てだよ。

あの頃の名画座は、椅子もクッション利かない
音も悪い。プリントは劣化して、ノイズの雨が乗ってる。
そのフィルムはたまに切れて、つなぐまで待たされる。

そんな状態の中でも、別に観客は文句も云わず、座席に座ってたもんだ。
そんな環境でしか出会えなかったはずの、この3本の映画を、シネコンの快適な座席と音響と、なにより今回上映されたのは、ニュープリントと思しく、これらの作品の、初公開時なみのきれいな画質で再見できたのだ。

俺は『レッドバロン』以外の2本は、初公開時に映画館で見てる。
個人的には素晴らしい3本立てだと思ったが、ちょっとレアすぎるんではないか?という懸念もあった。
だが蓋を開けてみると、「TOHOシネマズ 六本木ヒルズ」で3番目のキャパである「スクリーン5」の265席の、ほぼ9割方が埋まってたんではないかな。
この盛況ぶりには驚いた。
それに来るのは男ばかりかと思ってたが、意外と女性のひとり客もちらほらと。

早朝4時半すぎに上映が終わり、大江戸線の六本木駅へ向ったが、どこぞのクラブかで、ハロウィンパーティでもやってたらしく、コスプレした若い男女で溢れ返ってた。
『時計じかけ…』のアレックスに扮した男二人づれがいて、「君たちわかってるねえ」とちょっと感心。
そこにいた若者たち全員が、ロジャー・コーマンなど知らないだろう。
でもこちらも心の中ではアゲアゲの夜を明かしてきてたのだ。

上映前に昨年に続いて、ロジャー・コーマン先生の登壇が実現。
今年はコンペの審査委員長だしね。
『レッドバロン』の時代背景や、リヒトホーフェンに関する予備知識を語ってくれた。
トークの時間は短くて、本来はこの3本の製作に関わる裏話的なものを期待してたが、そこはスルーだったのが残念。



『レッドバロン』

レッドバロン.jpg

第1次世界大戦で、「赤い男爵」と呼ばれ、敵国のパイロットたちに怖れられた、ドイツの撃墜王マンフレッド・フォン・リヒトホーフェンを描いた、ロジャー・コーマンが手がけた映画の中でも、バジェットの大きな戦争映画だ。

リヒトホーフェンを主役にした、2008年のドイツ映画『レッド・バロン』が、昨年日本でも公開され、俺は映画館に2度見に行った。
そのドイツ版が、複葉機による空中戦をほぼCGで再現してたのに対し、ロジャー・コーマン監督は、すべて実機を飛ばして撮影を敢行してる。
スクリーンバック合成のようなことも極力せずに、俳優たちを実際に複葉機に乗せて撮影したと、コーマン先生は云ってた。

「ちなみにこの映画は、その年のニューヨークタイムズが選ぶ、映画ベストテンにも選ばれたんだよ」
と、プチ自慢入れてくるのも忘れなかったが。


映画の冒頭から、複葉機による空中戦が、ふんだんに描かれていて、宮崎駿監督とかは大好きなんではないか。
内容としては、質実剛健な「男の戦争映画」という感じで、騎士道精神にこだわるリヒトホーフェン男爵と、きれいごとで戦争は戦えないという、近代戦との相克をシンプルに描き出している。

ただリヒトホーフェンの頑迷とも見える性格は、とっつきがいいとはいえず、それゆえ彼の性格描写と、空中戦が交互に描かれていく流れは、単調さも否めない。

ニューロティックな役柄を振られることが多いジョン・フィリップ・ロウとしては、この誇り高きドイツ軍人の役は、キャリアの代表作といってもいいだろう。

この1971年版が好きな人には、2008年のドイツ版はあまり評判はよくないようだ。
複葉機がCGだったりという他にも、リヒトホーフェンと彼が出会う年上の従軍看護士の女性との、メロドラマ的な要素が余計ということもあるのか。

俺としては2008年版は、冒頭の描き方に始まり、全体に流れるロマンティシズムは悪くないと感じたが。
なによりテーマ曲が、近年の戦争映画の中でもズバ抜けてカッコいいのだ。

「ロジャー・コーマン映画」というと、低予算のイメージだが、この『レッドバロン』は爆撃シーンでも、かなりの量の爆薬を炸裂させており、コーマン監督も油ののった年齢で撮ってるから、演出にも緩みがない。
広大な田園の上で繰り広げられる空中戦を、スクリーンで見られるのは爽快だ。




『ピラニア』

ピラニア.jpg

1978年のジョー・ダンテ監督作。
『グレムリン』大ヒットへの布石となる、アニマルパニックの快作。

アレクサンドル・アジャ監督によるリメイク版『ピラニア3D』も、エログロ強度が大幅にバージョンアップされていて、それはもう素晴らしかったが、あの阿鼻叫喚の「淡水浴」シーンの原型として、当時これを見た時は、けっこうショッキングではあった。

オリジナル版の脚本はジョン・セイルズで、ピラニアが軍による実験によって、攻撃力や環境適応能力をアップさせた、「殺人兵器」として人々を襲ういう着想よりも、もっと皮肉な人物描写をこめているのが、今回見直してみてわかった。


テキサスの山中で道に迷ったカップルが、金網に覆われた軍の研究施設を見つける。
廃墟となってるようで「立ち入り禁止」の札がかかる。
当然無視して入っていく。
すっかり夜なんで、ここに泊まってしまえと。

プールらしきものがあるんで泳ごうということになる。
だがそれはプールではなく殺人ピラニアを養殖してる水槽だった。
軍が研究を取り止めた後も、生物学者がひとり秘かに改良を続けてたのだ。

ピラニアの餌食になったカップルの親から、失踪人捜査の依頼が来て、女性捜査官マギーがやってくる。
地元に詳しい中年男ポールに協力を仰ぎ、二人は軍の研究所を見つける。
プールらしき場所の周辺に、カップルの衣類がある。
「溺れて沈んでるかも」
マギーはポールが止めるのも聞かずに、水槽の水を放水してしまう。

放水された水は、近くの川に流れ出す。もちろんピラニアも一緒に。
ポールは水槽の水を舐めて、塩分があると気づく。

生物学者は淡水魚のピラニアが、海でも生息できるように改良していた。
つまり川に放流されたピラニアは、海へ出て、そこからアメリカ中の河川へと遡っていくことになる。


まあそれに気づくのは後のことで、結局よく調べもせずに放水バルブを開いてしまったマギーによって、殺人ピラニアの惨劇が引き起こされるわけだ。

もちろん勝手に研究を続けてた生物学者も悪い。
だが施設には立ち入り禁止の札を立ててある。
そこに敢えて入り込んだカップルが、何に襲われようが、それは自己責任の範疇だ。

なのでこの殺戮パニックは、マギーという思慮に欠けた女による「人災」なのだ。

ピラニアを放水してしまったことを知り、マギーとポールは下流にあるキャンプ施設へ警告に急ぐ。
だが被害を食い止めるために八面六腑の活躍をするのは、地元の中年男ポールだ。
彼はダムの底にある毒薬パイプを開いて、水中のピラニアを全滅させようと、潜って作業中に、ピラニアたちに襲われ、全身を噛み付かれて瀕死の重傷を負うまでに。

マギーは怪我らしい怪我もせず、水遊びの客たちの大惨事を目のあたりにしても
「私が放水してしまいました」
と謝罪のひと言もない。
こんな無責任な主人公というのも珍しい。



『モンスター・パニック』

モンスター・パニック.jpg

1980年作で、コーマン先生によると『ピラニア』とともに、先生が設立した
「ニュー・ワールド・ピクチャーズ」の最初に手がけた映画とのこと。

初公開時にガラガラの映画館でこれを見たが、そのサービス精神の旺盛ぶりに、すっかりテンション上がったのを憶えてる。
そしてこのエログロ描写が、女性監督の手によるものと知って驚いたのだ。

そのバーバラ・ピータースという監督は、ロジャー・コーマン門下生で、この映画の前に数本「グラインドハウス」映画をコーマン先生の下で撮っている。
当時このジャンルで女性監督が撮るというのも珍しかったと思う。

ロジャー・コーマンという人は、そういう意味でも分け隔てなく、
「撮れそうな人間に撮らせる」という姿勢だったのだろう。

『ピラニア』よりキャスティングはメジャーとなっており、『地底王国』のダグ・マクルーア、リチャード・ハリスの嫁のアン・ターケルに、『コンバット!』のヴィック・モローだ。
いやこのジャンルとしては、これは十分メジャーなレベルなのだ。


鮭がほとんど獲れなくなって、不景気の波にさらされる漁港の町。
缶詰工場を誘致して町の活性化を図ろうとする漁港組合のボスと、環境破壊を懸念して誘致に反対する、ネイティブ・アメリカンの人々との間に、軋轢が起きるこの町を、得体の知れない怪物が襲い始める。

頭部は脳がむき出しとなっており、二足歩行できるが、海草に覆われた、その体はほとんど魚であり、足ヒレもある。
そんな半魚人モンスターはなぜ出現したのか?

缶詰工場のために養殖していた鮭に、特殊な成長ホルモン入りの餌を与えていて、その鮭を食べた魚の一種が突然変異を起こしたらしい。

それも一匹ではなくワサワサ出てくる。
特殊メイクの名手ロブ・ボッティン造形のモンスターのヌルヌル感が気色悪くてよい。

こいつは人間の男は迷わず惨殺、動物はそのまま食べて、女はというと生殖のために襲うのだ。
ビキニの女の子を、ちゃんと裸にひん剥いてる。
あんな手をして器用だな。

女の子は裸で襲われることになっており、女性監督の思いきりのよさに感服する。
交尾させられた女の子が、海岸の海草に包まれてるのを発見されるくだりもエグい。


折りしも町は年に一度の「サケ祭り」に沸いており、その会場にモンスターたちが乱入して、大パニックに。
次々と犠牲になる住民たち。
だがアメリカ人たちはやられてるばかりではない。

男たちが角材を手に手に、モンスターを囲むと、集団リンチ状態でフルボッコに。
まあモンスターもこれといった飛び道具もないんでね。多勢に無勢。

翌朝にはなんとか事態も沈静化したが、病院では瀕死の状態で運びこまれた、海岸の女の子が、早くも出産を迎えていた。
分娩医は急激に彼女の腹が膨張していくのに、思わず声を上げてしまう。
女の子は絶命し、その腹を突き破って、モンスターの胎児が現れる。

これは『エイリアン』の流用ではあるが。

のちに『エイリアン2』の音楽を担当することになるジェームズ・ホーナーが、この映画を手がけてる。
まだキャリアのごく初期で、2年後に『48時間』の音楽で脚光浴びることになるのだ。

この『モンスター・パニック』も、この手のジャンル映画特有の安っぽい音楽ではなく、若きホーナーがきっちりスコアを書いてるので、映画の緊張感も高められている。

低予算のジャンルムービーでも、手を抜いてない、ロジャー・コーマン・ブランド気合の一作となってる。
バーバラ・ピータースを起用した経緯とかが聞けるとよかったんだが。

2012年10月28日

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