ダイ・ハードなアイリッシュギャング [映画カ行]
『キル・ザ・ギャング』
副題に「36回の爆破でも死ななかった男」とついてるが、これは事実誤認を誘発する。
「36回」というのは、1976年夏に、オハイオ州クリーブランドで起きた、ギャング間の抗争事件における、爆破件数を示したもの。
その抗争の主役となるのが、地元で生まれ育ったアイルランド系のギャング、ダニー・グリーンだ。
実在のギャングの生涯をタイトに描いて、「東映実録路線」のようなテイストの2011年作で日本未公開。
DVDリリースを待ちかねてた。
まずキャスティングが小躍りしたくなるほど渋いので列記しとく。
ダニー・グリーン(主人公のアイリッシュギャング)=レイ・スティーヴンソン
ジョー・マンディツキ(幼なじみでクリーブランド市警刑事)=ヴァル・キルマー
ジョン・ナルディ(地元ギャングでダニーと意気投合)=ヴィンセント・ドノフリオ
キース・リットソン(ゴミ回収業を通じてダニーの仲間に)=ヴィニー・ジョーンズ
ションドー・バーンズ(ダニーの腕を買う高利貸し)=クリストファー・ウォーケン
ジェリー・ミーク(港湾局の組合長)=ボブ・ガントン
リカヴォリ(地元のイタリアン・マフィア)=トニー・ロー・ビアンコ
“ファット・トニー”サレルノ(ガンビーノ・ファミリー直系のNYのマフィア)=
ポール・ソルヴィーノ
レイ・フェリーノ(サレルノが仕事を依頼するロスの殺し屋)=ロバート・ダヴィ
これだけ揃えても、喜ぶのは映画好きだけなのだろう、劇場公開に至らなかったのが残念だ。
クリーブランドといえば、MLBのインディアンズの本拠地というイメージくらいで、こんなギャングの抗争に揺れてた時代があったとは、初めて知った。
クリーブランド東部の下町コリンウッド周辺が舞台となってる。
ここで生まれ育ったダニーは、2m近い巨躯で、腕っぷしも強いが、人望もあった。
1960年代に地元の港湾労働者として働いてたが、労働条件は劣悪で、仲間からは、港湾局の組合長に立候補してくれと頼まれてた。
冷酷な組合長ジェリー・ミークは「余計なことは考えるな」とダニーを牽制した。
幼なじみにバクチで借金を作ったと泣きつかれたダニーは、地元のマフィアの元に話をつけに行く。
そこでジョン・ナルディと顔見知りとなり、借金をチャラにする条件として、港の倉庫から物品を強奪する仕事を請け負う。
だがそれをダニーの仕業と見抜いた組合長ミークは、自分が警察に通報すれば、今後一生組合長になどなれないぞと脅す。
そして奪った物品の利益を半分寄こせと。
ミークのボディガードが金を受け取りに来るが、ダニーは銃を向ける相手に、
「そんな物しまって、俺と踊らないか?」
と挑発する。
踊るとは、素手で殴りあうという意味だった。
挑発にのったボディガードは、ダニーの拳によって床に沈む。
翌朝、組合長の椅子に座るダニーに驚き、ボディガードを呼ぶが、誰も来ない。
ミークは、ここを立ち去れという意味で
「3秒やる」と云うと、
ダニーは「なんのために?」と応え、ミークを何度も平手打ちして、事務所から追い出してしまう。
腕づくで港湾局の組合長の座に就いたダニー。
だが、ダニーの羽振りのいい生活から、汚職の匂いを嗅ぎつけた、幼なじみで今は市警察の刑事であるジョー・マンディツキによって、ダニーは逮捕され監獄へ。
出所したのは1971年だった。金もなくなり、妻のジョアンと幼い娘たちを連れ、町でも治安の悪そうな地区に一軒家を借りた。
近所にはバイクの騒音を轟かせる暴走族がたむろしてたが、ダニーは臆せず乗り込んでいき、リーダーを引っ張り出すと、またもや
「俺と踊らないか?」
その場で返り血を浴びる位にブチのめして、追い払ってしまう。
ジョン・ナルディの口ききで、ダニーはレストラン経営者のションドー・バーンズに挨拶に出向いた。
ションドーはカジノも経営しており、バクチの負けを取り立てるため、高利貸しも同時に営んでいた。
ダニーの体格と腕っぷしを見込んだションドーは、借金の取立てを任せた。
ダニーは有無を言わさずに取り立てて回り、ションドーの信頼を得る。
その報酬だけでは十分でないと感じていたダニーは、隣人のフラートが自前のトラックで行ってる、ゴミ回収業に目をつける。
ビジネスを仕切ってるのは地元のイタリアン・マフィア、リカヴォリだった。
ゴミ回収業の男たちは気が荒く、人の云うことを聞かない。
リカヴォリは男たちを組合に加入させることができれば、ダニーにゴミ回収ビジネスに噛ませてやると条件を出す。
男たちを組合員にできれば、組合費として売上げをピンハネできるからだ。
ダニーは回収業者でも猛者と呼ばれるキース・リットソンを抱き込み、これも半ば強引な手法で、男たちを組合に加入させていく。
だが隣人のフラートは頑として拒んだ。
一人でも加入しない者がいると、みんな右へ倣えとなる。
ダニーはリカヴォリから、隣人を始末しろと命じられる。
その話を聞き及んだフラートは、先にダニーに銃を向けてきた。
撃ち合いとなり、フラートは死んだ。
妻のジョアンは、常に不穏な空気に包まれてるダニーとの生活に耐えられなくなり、子供を連れて出ていった。
4年後の1975年、ダニーはそろそろ堅気の仕事がしたいと思い、ションドーに
「ダブリン風のパブを出したい」
と持ちかける。ションドーは
「成功者は自分の金は出さないもんだ」
と云い、ニューヨークのガンビーノ・ファミリーに融資を掛け合う。
だがファミリーから金を受け取った、ションドーの使いが、その7万ドルを着服。
麻薬売買の現場を警官に押さえられたことで、金も押収されてしまう。
金の返済を巡って、ダニーはションドーと揉める。
ションドーは目をかけてきたダニーの態度に怒り、その首に2万5千ドルもの賞金をかけた。
車に爆弾を仕掛けられたが、間一髪で難を逃れたダニーは、すぐさま報復。
ションドーを同じように車で爆死させてしまう。
ダニーをこのまま野放しにはできない。リカヴォリは手下を動かし、ダニーの自宅に爆弾を投げ込む。
ダニーはつきあってたエリーの身を庇い、全壊した家屋の下敷きとなったが、ここでも奇跡的に生き伸びた。
ダニーは仲間と結束し、地元のイタリアン・マフィアとの全面戦争に突入した。
ひと夏に36回の爆破事件が起きたが、ダニーはまだ生きていた。
いくら殺そうとしても、平然と生き続ける「ダイハード」なアイルランド野郎に、リカヴォリはついに手打ちを提案。
だがその席でダニーは
「俺は骨までしゃぶられてきたんだ」
「もう言いなりにはならない」
と、好きに振舞うと言い放った。
もはや自分の手に余ると感じたリカヴォリは、ブルックリンに拠点を置く、上層部のマフィア、“ファット・トニー”サレルノに始末を依頼する。
サレルノは、ロスに使いを寄こし、殺し屋のレイ・フェリーノに仕事を託した。
そのサレルノの元を、なんとダニーが挨拶に訪れた。
その申し出は意外なものだった。
ダニー・グリーンというギャングの人物像が、ちょっと掴みどころがない感じで、そこに面白みがある。
普段は本を読むのが好きな「静かなる男」という印象なんだが、いざとなると腕に任せて決着を図る。
小細工はないのだ。
長いものに巻かれるのを好しとしないため、常に軋轢を生むし、トラブルを屁とも思ってない。
野心はあるんだろうが、具体的にどこまで上ろうとか、そういうギラギラ感はない。
クスリはおろか、酒も呑まないから、私生活も乱れた風にはならない。
アイリッシュとしての誇りは高かったようだ。
演じるレイ・スティーヴンソンは、『パニッシャー ウォーゾーン』で主役を張ったものの、その後は地味に糊口をしのいでる感じだったが、この映画はキャリアの代表作になりそうな快演ぶりだ。
特に口ひげをたくわえてからが、いかにも70年代のタフガイの風情が出て、過去の出演作では感じさせなかった色気も漂わせている。
『マイティ・ソー』の時も、一際デカさが目立ってたが、今回も何が驚きって、『スナッチ』とかどの映画に出てても、一番デカいなと感じてたヴィニー・ジョーンズが、レイ・スティーヴンソンと並ぶと小柄に見えるという!
男の映画だから女優は飾り程度になってしまうが、エリーを演じるローラ・ラムジーは可愛い。
いきなりオッパイ丸出しでダニーを誘う場面は、思わぬサービスカットになってる。
監督は『パニッシャー』シリーズの、レイ・スティーヴンソンではなく、トム・ジェーンが主役を演じた1作目の方を撮ったジョナサン・ヘンズリー。
俺は『パニッシャー』はけっこう好き。
この映画70年代のロックがかなり流れてるんだが、相当に渋い選曲と思われ、1曲も知らなかった。
こんなのは珍しい。サントラがあれば買って聴いてみたい。
「野太く生きて、パッと散った」男の話だ。
ギャングの実録はだから面白いのだ。
2012年11月4日
副題に「36回の爆破でも死ななかった男」とついてるが、これは事実誤認を誘発する。
「36回」というのは、1976年夏に、オハイオ州クリーブランドで起きた、ギャング間の抗争事件における、爆破件数を示したもの。
その抗争の主役となるのが、地元で生まれ育ったアイルランド系のギャング、ダニー・グリーンだ。
実在のギャングの生涯をタイトに描いて、「東映実録路線」のようなテイストの2011年作で日本未公開。
DVDリリースを待ちかねてた。
まずキャスティングが小躍りしたくなるほど渋いので列記しとく。
ダニー・グリーン(主人公のアイリッシュギャング)=レイ・スティーヴンソン
ジョー・マンディツキ(幼なじみでクリーブランド市警刑事)=ヴァル・キルマー
ジョン・ナルディ(地元ギャングでダニーと意気投合)=ヴィンセント・ドノフリオ
キース・リットソン(ゴミ回収業を通じてダニーの仲間に)=ヴィニー・ジョーンズ
ションドー・バーンズ(ダニーの腕を買う高利貸し)=クリストファー・ウォーケン
ジェリー・ミーク(港湾局の組合長)=ボブ・ガントン
リカヴォリ(地元のイタリアン・マフィア)=トニー・ロー・ビアンコ
“ファット・トニー”サレルノ(ガンビーノ・ファミリー直系のNYのマフィア)=
ポール・ソルヴィーノ
レイ・フェリーノ(サレルノが仕事を依頼するロスの殺し屋)=ロバート・ダヴィ
これだけ揃えても、喜ぶのは映画好きだけなのだろう、劇場公開に至らなかったのが残念だ。
クリーブランドといえば、MLBのインディアンズの本拠地というイメージくらいで、こんなギャングの抗争に揺れてた時代があったとは、初めて知った。
クリーブランド東部の下町コリンウッド周辺が舞台となってる。
ここで生まれ育ったダニーは、2m近い巨躯で、腕っぷしも強いが、人望もあった。
1960年代に地元の港湾労働者として働いてたが、労働条件は劣悪で、仲間からは、港湾局の組合長に立候補してくれと頼まれてた。
冷酷な組合長ジェリー・ミークは「余計なことは考えるな」とダニーを牽制した。
幼なじみにバクチで借金を作ったと泣きつかれたダニーは、地元のマフィアの元に話をつけに行く。
そこでジョン・ナルディと顔見知りとなり、借金をチャラにする条件として、港の倉庫から物品を強奪する仕事を請け負う。
だがそれをダニーの仕業と見抜いた組合長ミークは、自分が警察に通報すれば、今後一生組合長になどなれないぞと脅す。
そして奪った物品の利益を半分寄こせと。
ミークのボディガードが金を受け取りに来るが、ダニーは銃を向ける相手に、
「そんな物しまって、俺と踊らないか?」
と挑発する。
踊るとは、素手で殴りあうという意味だった。
挑発にのったボディガードは、ダニーの拳によって床に沈む。
翌朝、組合長の椅子に座るダニーに驚き、ボディガードを呼ぶが、誰も来ない。
ミークは、ここを立ち去れという意味で
「3秒やる」と云うと、
ダニーは「なんのために?」と応え、ミークを何度も平手打ちして、事務所から追い出してしまう。
腕づくで港湾局の組合長の座に就いたダニー。
だが、ダニーの羽振りのいい生活から、汚職の匂いを嗅ぎつけた、幼なじみで今は市警察の刑事であるジョー・マンディツキによって、ダニーは逮捕され監獄へ。
出所したのは1971年だった。金もなくなり、妻のジョアンと幼い娘たちを連れ、町でも治安の悪そうな地区に一軒家を借りた。
近所にはバイクの騒音を轟かせる暴走族がたむろしてたが、ダニーは臆せず乗り込んでいき、リーダーを引っ張り出すと、またもや
「俺と踊らないか?」
その場で返り血を浴びる位にブチのめして、追い払ってしまう。
ジョン・ナルディの口ききで、ダニーはレストラン経営者のションドー・バーンズに挨拶に出向いた。
ションドーはカジノも経営しており、バクチの負けを取り立てるため、高利貸しも同時に営んでいた。
ダニーの体格と腕っぷしを見込んだションドーは、借金の取立てを任せた。
ダニーは有無を言わさずに取り立てて回り、ションドーの信頼を得る。
その報酬だけでは十分でないと感じていたダニーは、隣人のフラートが自前のトラックで行ってる、ゴミ回収業に目をつける。
ビジネスを仕切ってるのは地元のイタリアン・マフィア、リカヴォリだった。
ゴミ回収業の男たちは気が荒く、人の云うことを聞かない。
リカヴォリは男たちを組合に加入させることができれば、ダニーにゴミ回収ビジネスに噛ませてやると条件を出す。
男たちを組合員にできれば、組合費として売上げをピンハネできるからだ。
ダニーは回収業者でも猛者と呼ばれるキース・リットソンを抱き込み、これも半ば強引な手法で、男たちを組合に加入させていく。
だが隣人のフラートは頑として拒んだ。
一人でも加入しない者がいると、みんな右へ倣えとなる。
ダニーはリカヴォリから、隣人を始末しろと命じられる。
その話を聞き及んだフラートは、先にダニーに銃を向けてきた。
撃ち合いとなり、フラートは死んだ。
妻のジョアンは、常に不穏な空気に包まれてるダニーとの生活に耐えられなくなり、子供を連れて出ていった。
4年後の1975年、ダニーはそろそろ堅気の仕事がしたいと思い、ションドーに
「ダブリン風のパブを出したい」
と持ちかける。ションドーは
「成功者は自分の金は出さないもんだ」
と云い、ニューヨークのガンビーノ・ファミリーに融資を掛け合う。
だがファミリーから金を受け取った、ションドーの使いが、その7万ドルを着服。
麻薬売買の現場を警官に押さえられたことで、金も押収されてしまう。
金の返済を巡って、ダニーはションドーと揉める。
ションドーは目をかけてきたダニーの態度に怒り、その首に2万5千ドルもの賞金をかけた。
車に爆弾を仕掛けられたが、間一髪で難を逃れたダニーは、すぐさま報復。
ションドーを同じように車で爆死させてしまう。
ダニーをこのまま野放しにはできない。リカヴォリは手下を動かし、ダニーの自宅に爆弾を投げ込む。
ダニーはつきあってたエリーの身を庇い、全壊した家屋の下敷きとなったが、ここでも奇跡的に生き伸びた。
ダニーは仲間と結束し、地元のイタリアン・マフィアとの全面戦争に突入した。
ひと夏に36回の爆破事件が起きたが、ダニーはまだ生きていた。
いくら殺そうとしても、平然と生き続ける「ダイハード」なアイルランド野郎に、リカヴォリはついに手打ちを提案。
だがその席でダニーは
「俺は骨までしゃぶられてきたんだ」
「もう言いなりにはならない」
と、好きに振舞うと言い放った。
もはや自分の手に余ると感じたリカヴォリは、ブルックリンに拠点を置く、上層部のマフィア、“ファット・トニー”サレルノに始末を依頼する。
サレルノは、ロスに使いを寄こし、殺し屋のレイ・フェリーノに仕事を託した。
そのサレルノの元を、なんとダニーが挨拶に訪れた。
その申し出は意外なものだった。
ダニー・グリーンというギャングの人物像が、ちょっと掴みどころがない感じで、そこに面白みがある。
普段は本を読むのが好きな「静かなる男」という印象なんだが、いざとなると腕に任せて決着を図る。
小細工はないのだ。
長いものに巻かれるのを好しとしないため、常に軋轢を生むし、トラブルを屁とも思ってない。
野心はあるんだろうが、具体的にどこまで上ろうとか、そういうギラギラ感はない。
クスリはおろか、酒も呑まないから、私生活も乱れた風にはならない。
アイリッシュとしての誇りは高かったようだ。
演じるレイ・スティーヴンソンは、『パニッシャー ウォーゾーン』で主役を張ったものの、その後は地味に糊口をしのいでる感じだったが、この映画はキャリアの代表作になりそうな快演ぶりだ。
特に口ひげをたくわえてからが、いかにも70年代のタフガイの風情が出て、過去の出演作では感じさせなかった色気も漂わせている。
『マイティ・ソー』の時も、一際デカさが目立ってたが、今回も何が驚きって、『スナッチ』とかどの映画に出てても、一番デカいなと感じてたヴィニー・ジョーンズが、レイ・スティーヴンソンと並ぶと小柄に見えるという!
男の映画だから女優は飾り程度になってしまうが、エリーを演じるローラ・ラムジーは可愛い。
いきなりオッパイ丸出しでダニーを誘う場面は、思わぬサービスカットになってる。
監督は『パニッシャー』シリーズの、レイ・スティーヴンソンではなく、トム・ジェーンが主役を演じた1作目の方を撮ったジョナサン・ヘンズリー。
俺は『パニッシャー』はけっこう好き。
この映画70年代のロックがかなり流れてるんだが、相当に渋い選曲と思われ、1曲も知らなかった。
こんなのは珍しい。サントラがあれば買って聴いてみたい。
「野太く生きて、パッと散った」男の話だ。
ギャングの実録はだから面白いのだ。
2012年11月4日
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