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東京フィルメックス③『奪命金』 [東京フィルメックス2011]

東京フィルメックス2011

『奪命金』

だつめいきん.jpg

フィルメックスといえばジョニー・トー監督という感じで、今年も最新作の上映。
銃撃戦がなくても面白いわやっぱり。
題名から一瞬、銀行強盗の話かと思うが、「命を奪う金」要するに、金に翻弄される香港人の現在を描いた群像劇だった。

義理堅い下っ端ヤクザ役のラウ・チンワンと、刑事役のリッチー・レンはジョニー・トー組の常連だけど、女性銀行員役のデニス・ホーのことは知らなかった。俺は韓流とともに香港のスターにも明るくないのだ。
彼女は歌手としての方が有名らしいね。でも演技も上手かったし、とびきり美人というわけじゃないけど、笑顔が可愛かったよ。ボーイッシュな髪型も似合ってた。
この三者にフォーカスしながら物語が進んでいくが、それぞれ時系列がズラしてあることが後半わかってくる。
タランティーノが『パルプ・フィクション』で試みた手法だ。


金融商品のセールスで、成績を上げられないでいる女性銀行員のテレサ。上司からのプレッシャーがきつい。
頻繁に大金を出し入れしに来る高利貸しの男に、金融商品を勧めてみても
「銀行が手数料で稼ぐだけだろ」
と取り合ってもらえない。
テレサは、銀行に預けてるだけじゃ金利もつかないし、老後が心配だという年配の女性客に、少し迷いながらも、リスクの高いBRICSファンドを勧める。
契約できれば成績が上がる。リスクはあくまで自己責任と購入者に認識させるために、手続きを録音し
「了承しました」と言ってもらう。この場面を映画はじっくり描いている。

年配の女性との契約を終えたテレサの元に、また高利貸しの男がやってきて、1000万香港ドルをおろす。電話の向こうの相手に
「権利書1枚じゃ500万しか貸せない」と言い、500万は預け直すことに。
男は急いでる様子で、預け入れのサインもせず立ち去る。
置き忘れたケータイを渡そうと、テレサが地下駐車場に向かうと、高利貸しの男は、ベンツの運転席で血を流し、突っ伏していた。
テレサは警備員に近寄るなと言われ、そのまま自分のブースに戻った。男が引き出した事になってる500万が袋に入ったままテーブルに。
テレサはそれを引き出しの中に入れ、鍵をかけた。


ヤクザのパンサーは、もういい歳で、腕っぷしも知恵もなかったが、その義理堅さだけは親分も認めていた。
親分の誕生会を仕切り、祝儀を集める。この世界も不景気で、宴会の料理も高くつく肉や海鮮は使わず、精進料理にして、一卓になるべく人数を詰めて、卓数減らして料金を抑えるなど、涙ぐましい努力をしてる。
そんな祝いの席を、西九龍署の刑事チェンが中断させる。パンサーの兄貴分を傷害事件の容疑者として引っ張っていく。

パンサーは兄貴分の保釈金を工面するため奔走する。昔の仲間の食堂で朝から一日粘って、根負けした店主からカンパを貰い、また段ボール回収トラックで日銭を稼ぐ仲間には
「お前らが見下すような仕事でも、お前らより稼いでるぞ!」
と言われながらも、なんとか金を出してもらう。同行する兄貴分の手下は
「あんたすごいな。俺はもう抜けるよ」と立ち去ってく。

ようやく保釈金ができたと思った矢先、今度は東九龍の刑事が、兄貴分をしょっ引く。
金もないのに揉め事ばかり起こして、手下も離れてくような男のために、パンサーはそれでも、また保釈金のあてを探す。

親分の誕生日会に名刺を置いていった骨壷売りの会社を訪ねてみる。すると社長はパンサーと若い頃つるんでたロンだった。表向きの商売と別に、ロンは闇の株ブローカーで儲けていたのだ。
保釈金もすぐに用立ててもらい、
「お前も株を勉強して一緒に商売やろう」
と言われ、パンサーは価の上がり下がりの表をノートにつけながら、法則性を発見していく。

だが折りしもギリシャの財務危機が起こり、それがユーロ全体に波及しだすと、香港のマーケットも直撃を食らうことに。株価は暴落し、ロンは投資主に大損をさせ、窮地に陥る。
特に韓国人のソン社長は恐ろしい存在だった。補填する金を作るために、高利貸しの男に連絡とるが、500万しか貸せないと言われる。パンサーは高利貸しを脅すしかないと、銀行の駐車場へと向かう。


テレサとパンサーのエピソードはリンクするんだが、テレンス・リー演じる刑事のエピソードは、直接は繋がらない。
刑事チェンは仕事はできるが、私生活では判断が鈍い。妻が眺望のいいマンションを、投資にもなるからと買おうとするが、チェンは踏ん切りがつかないでいる。しかも病床の父親がチェンの知らない所で、もう一人子供をもうけていたことが発覚、年の離れた小さな妹を引き取る決心もつかないでいる。
そして業を煮やした妻が自分の判断でマンションの手付けを打った直後に、市場の暴落が起こるのだ。


ジョシー・ホーが高級マンションの住民を殺戮しまくる『ドリーム・ホーム』でも、不動産バブルに翻弄される香港人を、グロテスクに描いてたが、ジョニー・トー監督は、同じように、実体のつかめないようなものに翻弄される人々を描きながら、その虚しさとともに、それでもくたばったりするもんかという、香港人の逞しさを感じさせるような結末を用意している。

低予算なため、俳優のスケジュールの空きを見つつ、撮り進め、数年がかりで完成させたというが、ユーロの経済危機という、まさに現在進行形のネタが物語になってるという、この即時性はどうやって成し得たのか。
撮り進めていた分は編集も済んでいて、ユーロ危機の部分を最後に差し込んだんだろうか?
この監督には毎回いろんな意味で驚かされるな。

2011年11月29日

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東京フィルメックス②『プンサンケ』 [東京フィルメックス2011]

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『プンサンケ』

プンサンケ.jpg

まずかなり無茶を通す映画である。
南北朝鮮の離散家族の依頼を受け、家族の現在を撮ったビデオや物資を抱え、国境の休戦ラインを夜の闇に紛れて往き来する男がいる。映画で最初に運ぶのは、物資だけでなく、小さな子供だ。北側のフェンスには電流が流れていて、その通電を遮断して、鬱蒼とした草村を進む。

イムジン川を泳いで渡り、南側の休戦ラインへ。川から上がると裸になり泥を塗る。熱探知カメラで監視されてるので、体温を放射しないためだ。そのまま同じような草村を抜け、南側のフェンスが近づくと、足元には特殊警棒のように伸びる棒が隠してある。身の丈以上の長さになる、その棒で棒高跳びの要領で、子供を背負ったまま、フェンスを飛び越える。

男はひと言もしゃべらない。だから名前もわからないし、北の人間か南の人間かもわからない。ただ金を払えば依頼に応じる。男が運んだ品を受け取った密輸ブローカーが、摘発されたことから、その存在は韓国諜報局の知るところとなる。

諜報局は亡命した北の政府高官を、機密情報の提供と引き換えに匿っていたが、情報を出し渋る高官に手を焼いていた。その高官には北に残した若い愛人がいて、彼女を脱北させてくれれば、情報を出すと言う。諜報局は、密輸ブローカーから、男とのコンタクトの方法を聞き出し、愛人の脱北を依頼する。
男は「3時間で連れて来る」と、闇に消える。

愛人の名はイノク。眠っている部屋に侵入した男は、叫ぶ彼女を黙らせ、依頼の手紙を見せる。いつもと同じ方法で休戦ラインに足を踏み入れる。
何も話さない男にイノクは苛立つ。男の手を振り切って進もうとした時、地面の警報装置に触れる。一斉に動き出す北の警備兵たち。男はイノクを抱え、イムジン川の水中に身を潜める。
川岸に上がると、イノクは息をしてない。男は人口呼吸で、彼女の唇を塞ぐ。息を吹き返した彼女の肌に泥を塗り、南側のフェンスへ。さすがに彼女を背負って棒高跳びは無理。自分だけ飛び越えて、警報を鳴らして去る。
唖然とするイノクは、すぐに捕らえられるが、連行される途中で、男が警備兵たちを不意打ちして、監視棟から連れ出す。
きっかり3時間で連れ戻してきたことに、諜報局員は驚嘆するが、局長は男を拘束し、尋問にかけるため、手錠をかけ、局員に後を任せる。だがその局員はあっさり男の反撃を受けて取り逃がす。

翌日、男は、高官とイノクを乗せた諜報局の車を奪取。イノクは驚くが、男に報酬が払われてないことを知り、私たちが直接払うべきだと言う。イノクの男への視線に気づいた高官は、あの3時間の間に何かあったのかと詰問する。若い愛人を持った初老の男が、見苦しいまでの嫉妬の塊となっていく。
高官は男に金を払うからと、車を指定する場所まで向かわせるが、それは諜報局に引き渡す罠だった。

諜報局の取り調べ室で、男は、目と鼻と耳に通電される拷問装置で尋問されるが、ひと言も口を割らない。
丁度その時、中国から北に潜入してた韓国の諜報員が捕らえられたという情報が入る。北の拷問に耐えられる者はいない。局長は男に、諜報員を連れ帰ってくれば、イノクと共に第三国へ出国されてやると言う。
それを聞いたイノクは、任務を受けた男に
「政府はあなたを利用するだけ。だからひとりだけで逃げて」と。
男は北に潜入し、諜報員を救い出して戻って来る。
だがその事実は韓国内に潜入している北の工作員に伝わり、男の存在はついに南北双方に知れてしまう。


この後の展開は、男のあまりの不死身さと神出鬼没ぶりで、マンガのような展開になってしまう。
その前に例えば休戦ラインに隠してある棒だけど、フェンスを越えた時は棒は向こう側に残ってるわけで、どうやって次使う時までに隠しておくのか?警備兵が見つけるだろ。
まあそんなことは細かいことと言いたげな位に後半は無茶である。
北に捕まった諜報員の居場所がなんで簡単にわかるのか?男はこの後、北の工作員に捕まり、アジトで拷問受けるが、アジトの場所も特定できないように連れてこられてるはずだが、後になって簡単に戻ってきてる。

北の工作員と、南の諜報員と、同じ夜に別々のクラブで女はべらせて酒呑んでるが、男は両方の場所を突き止めてる。そして両方の場所から数人づつ隙を付いて襲い、自分の住まいである、貯蔵庫のような場所に放り込む。北と南の人間にそこで殺し合いをさせようってことだが、いつの間にかサブマシンガンを何梃も調達してるし。
北の工作員たちが何で豪勢に酒盛りをしてるのかというと、それにはイノクがしてたダイヤのネックレスが絡んでるんだが、そこに至るまでの件が、ちょっと後味悪すぎるよな。

結局、男が何者か明かされないのも、不死身なのも、神出鬼没なのも、それは
「こいつ一人いれば解決できるのに」
という、ある種のヒーロー像の具現化なんだろう。
それは無邪気さではなく
「いつまでこんなことやってるんだよ」
という、民族の現状に対する苛立ちや怒りの妄想化だ。
だから展開としちゃ有り得ないことでも、画面には迫力が漲ってるのだ。

監督のチョン・ジェホンによると、役者のギャラも出ないほどの低予算で作ったというが、派手なアクションはほとんどないが、低予算を感じさせない厚みで貫かれてると思った。
俺は韓流には明るくないんで、主役のユン・ゲサンも初めて見るんだが、精悍な顔立ちに見えて、眉が下がる「泣き顔」なのが、業を背負ったようなヒーロー像に合ってた。
イノクを演じたキム・ギュリは何か古めかしい顔立ちというか、樹木希林の若い頃、悠木千帆という芸名だった頃の彼女に似てた。

2011年11月25日

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東京フィルメックス①『カウントダウン』 [東京フィルメックス2011]

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『カウントダウン』

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東京国際映画祭が終わると、1ヶ月後には東京フィルメックスの開催。

映画好きとしちゃ、2ヶ月連続で小遣いの持ち出しが続くキツい時期ではあるんだが、今年のラインナップは、俺的には色めき立つような作品があんまり見当たらないんで、思ったほど財布に負担もかからなかった。

この『カウントダウン』は「コンペティション」部門で上映されてるが、語りたいテーマがある映画というより、商業映画としてよく出来てると思った。だがよくできていると思うからこそ、どうも喉につっかえる部分もある。


露天商の夫婦の車をナンバープレートで割り出し、レッカー移動かけようとする男。
「車を持ってくなら死んでやる!」とポリタンクの液体を頭からかぶる店主。
男は「反省も謝罪もいらない」
「男なら相手の心臓にナイフを刺しこめる勇気を持て」
と言うと、店主の足元に火のついたライターを落とす。
「軽油は引火しにくいんだよ」

スタンガン仕様の特殊警棒を片手に、ヤクザの事務所にも乗り込んでく。
男の名はゴンホといい、冷徹な借金取立て人だ。取立ての報酬を受け取ると、その足で町の闇金へ。
女社長は「自分の借金返すために取立て人になるとはね」
仕事を済ませ高級セダンで気分よく自宅へ向かう途中、車は信号待ちしたまま動かなくなる。
ゴンホはハンドルを握ったまま、気を失ってたのだ。

病院で医者から、末期の肝臓ガンで、余名は3ヶ月と告げられる。10日以内に適合するドナーを探し、移植手術を受けるしか、助かる道はない。
田舎で小さな理髪店を営む両親には障害があり、臓器は使えない。ダウン症だった息子は5年前に死んでいた。だが息子の臓器は当時、何人かに提供されており、その相手を探し出せば、息子と血の繋がった自分にも適合するんじゃないか。

仕事柄か顔見知りとなった刑事に、差し入れなどしながら、ようやく見つけたのは、刑務所に収監されてる、ハヨンという女詐欺師だった。
面会に行き、大金を提示するゴンホに、ハヨンは自分を刑務所送りにした男を見つけだせたら、移植に応じると条件を出した。
出所の日、彼女を出迎えたのはゴンホだけじゃなかった。ハヨンに大金を巻き上げられた朝鮮族の男たちの襲撃をなんとか振り切り、病院へと向かうが、ハヨンの演技に騙されて薬局に立ち寄った隙に、ゴンホは自分の車ごと逃げられてしまう。

ハヨンは、ラブホテル向けに怪しい電動椅子を売りさばく会社社長が、自分を騙した男だとゴンホから聞いていたのだ。その社長は金を集めるだけ集めて、船で高飛びしようとしていた。
ハヨンはその会社の若い社員に狙いを付け、ホテルに誘い、寝てる間にカードキーを盗む。
社内に侵入すると、パソコンから社外秘のデータをUSBに写し、社長にゆすりを掛ける。
会社の証券など莫大な金額を要求する。

だがハヨンは知らなかった。社長はその若い社員を椅子に縛りつけ、太腿に麻酔を打って痛みを感じなくさせた上で、金属バットで足の骨を粉々に砕くような、残酷さを持っていることを。


ゴンホを演じるチョン・ジェヨンは『黒く濁る村』での怪演が印象に残ってるが、この映画での表情を抑えて、ぶっきらぼうに話す感じは、堤真一に似てるかな。
女詐欺師ハヨンを演じるのは『ハウスメイド』がエロかったチョン・ドヨン。

息子を亡くしたゴンホに対して、ハヨンは17の時に産んだ娘を捨てた過去がある。互いに我が子への負い目を背負ってる者同士だ。
そのハヨンの娘をも巻き込んで、クライマックスへと進むわけだが、カセットレコーダーに吹き込まれたゴンホの息子の肉声が、死の真相を蘇らせていくあたりで、この映画は、取立て屋と女詐欺師の攻守逆転を楽しむ展開から、父親としての贖罪のドラマへと転換していく。

どうも喉につっかえるというのは、ゴンホの過去と現在の姿が、一本の線で結びつかない感じがあるからだ。
妻は家を出てしまい、ダウン症の息子をかかえたゴンホは、借金まみれで心も荒み、息子にも辛く当たっていた。5年前に息子が死んだ日のことを思い出せないゴンホに、医者は、辛い記憶を封印するための心の作用だろうと診断してる。

その後、冷徹な借金取りとなる訳だが、人が変わったのはいいとして、腕っぷしまでそんなに上がるもんなのか?過去のゴンホは強い男には見えないし、そんなにタフなら稼ぐ当てもあったろう。
優しく接してやれなかった息子への後悔が、ある種自己嫌悪から、無謀と思えるような取立ても厭わないようになったのか。
だが「別にどうなってもかまわん」と思ってるんなら、余命3ヶ月の宣告にも焦る必要ないと思うが。
必死にドナー探してでも生き延びたいという、そのモチベーションが過去とつながらないんだよな。

それとあらすじに書いたけど肝臓ガンの宣告受けた後、ゴンホが音信を断っていた両親の元に顔を出す場面で、両親が共に障害を持ってることがわかる。
ゴンホは「障害があるのに、なんで子供を作ったんだ」と責めるように言う。
つまり自分も若くして末期の肝臓ガンにかかり、自分の子もダウン症だったと言うことだろう。これは障害のある人間からは、障害のある子が生まれるという偏見を助長してないか?
あと障害を持った両親からの臓器は移植できないとしながら、5年前に死んだダウン症の息子の臓器は提供されてる。これはそういうものなのか?

息子役はホ・ジョンホ監督が実際に施設を回って探し出したという、ダウン症の少年が演じてるが、この子は非常に演技が上手かった。父親のゴンホから、症状のことをなじられる場面などは、本人は傷ついてやしないかと、心配になったよ。

2011年11月23日

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