ラテンビート映画祭2011『MISS BALA 銃弾』 [ラテンビート映画祭2011]

ラテンビート映画祭2011

『MISS BALA 銃弾』

ミスバラ銃弾.jpg

メキシコの麻薬組織の手による凄惨な行為の数々はネット上でも度々取り上げられてる。
軍隊なみに武装してるため、警察も歯が立たず、報復を恐れて、警官の職を辞す者が後を絶たないという。

この映画は2008年に麻薬と武器所持の現行犯として、麻薬組織の大物とともに捕まり、世間を騒然とさせた(と言っても俺は知らなかったが)元ミスコン女王ラウラ・スニガをモデルに、現代メキシコの闇を描いている。


アメリカと国境を接する、バハ・カリフォルニア州のミスコンテストにエントリーしたラウラは、女友達のズスと出かけたナイトクラブで、麻薬組織の襲撃に遭遇する。
トイレに居て難を逃れたラウラは、翌朝ズスの安否をパトロール警官に尋ねるが、警官が彼女をパトカーに乗せ、連れて行った先には、前夜クラブを襲撃した麻薬組織の男たちがいた。
ラウラを事件の目撃者と知ったリーダーのリノは、有無を言わさぬ口調で、彼女の名前、住所、家族構成を聞き出し、言った。
「ミスコン女王になりたいなら、手を貸してやる。
その代わりお前も俺たちに手を貸すんだ」

三大映画祭2011で上映された『キナタイ マニラ・アンダーグラウンド』でも、警察学校の生徒の過酷な体験が、一人称の語り口で描かれてたが、この映画でも、ラウラに降りかかった災難を、彼女に常に寄り添う形のカメラ目線で捉えてる。

リノはラウラがミスコンを狙える美人であることを有効に利用しようとする。だから脅しはするが、手荒に扱うことはしない。
ラウラが命じられた最初の大きな仕事は、札束をウエストに巻きつけて、セスナで国境を越え、アメリカ側で取引の品を積んで、帰りは車で検問所を通って戻ること。
アメリカ側からメキシコへ入る方が、検問がユルいからだ。

無事仕事を済ませ、メキシコ国境の町へ入ったラウラの車に数発の銃弾が。シートに身を伏せて、成すすべもない彼女をリノが救い出す。
そこでは麻薬組織同士の市街戦が勃発していた。
放心状態のまま、ラウラはバハ・カリフォルニアのミスコン会場へ連れて行かれる。
リノが主催者に口利きをしたのは、途中出場のラウラが、そのまま女王に選ばれたことで明らかだった。
そしてリノはミスコン女王を手の内に置くことで、さらに過激なシナリオを描いていた。


この映画では2つの場面が、対のように描かれてる。
1つはラウラがミスコン女王となったその晩、リノの車で夜道を行く場面。
「こんな風にミスコンになれても嬉しくない」
と言う彼女に、リノは
「降りてこの道を真っ直ぐ歩けば大通りに出る。俺は追わない。
後はお前の好きにすればいい」

ラウラは道を歩き始めるが、しばらくして踵を返し、リノの車に戻る。
彼女はなぜ車に戻ったのか?
リノが約束を守ると思えず、どのみち手の内から逃れることはできないとの諦念からか、あるいは、銃撃戦から身を守ってくれたリノに優しさを感じ、リノのそばにいれば、金にも困らないという打算も働いたのか?

だがリノは、オトリ捜査官を突き止め、縛り上げて、その首にロープを巻いて、車で引き摺って殺し、その死体にメッセージを巻きつけて、橋の欄干から吊るすということを平然とやる、残忍な男でもあるのだ。

もう1つは映画のラスト。警察長官殺害計画に利用されたラウラが、その計画を長官に耳打ちしたことで、銃撃戦の末、麻薬組織メンバーはリノを除き射殺。
彼女は危険を知らせたにも関わらず、組織の一員だったと、警官隊から袋叩きに合い、そのまま記者会見に引きずり出される。
そして車に乗せられ、身柄を保護されることもなく、メキシコの路上に置き去りにされるのだ。

利用価値を見出しながらも、ラウラに最後に選択の余地を残した麻薬組織のリーダーと、庇護することもなく彼女を捨て去った警察。
2008年に捕まったラウラに、結局選択の余地は無かったのだということを暗示させるような、2つの対照的な描写だった。

2011年10月14日

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