このリーアム・ニーソンに頼ってはいけない [映画サ行]

『THE GREY 凍える太陽』

img3249.jpg

数日前に、アラスカで新しい人生を切り開こうとするヒロインを描いた『ウェンディ&ルーシー』にコメント入れたが、この映画で描かれるアラスカは絶望の地だ。

リーダーシップを執る人間の判断が正しいとは限らない、ということを描いてる点でいえば、同じサバイバル・パニックものの範疇にある『パーフェクト・ストーム』を連想させる。
あの映画も漁船の船長だったジョージ・クルーニーに「その判断でよかったの?」と思える部分が目立った。最期も救われないし。

この映画の場合、リーダー格となるのがリーアム・ニーソンだから、そりゃ「Aチーム」も率いてきたし、『96時間』でも霊長類最強みたいな親父ぶりを示してたから、この男についてきゃ大丈夫だろうと思うのが人情だ。
だが幕開けで、リーアム演じる主人公オットウェイのモノローグを聞いてると、どうも様子がちがう。


アラスカの石油採掘現場で、野生動物の襲撃から作業員を守る、ハンターの仕事に就いてるオットウェイは、バーで酒を煽った後に、外に出て、手にしたライフルを自分の口に入れるような真似をしてる。

オットウェイは手紙をしたためる。届く宛てのない手紙だ。
それは亡き妻への手紙。妻は病死した。
もうあの満たされた穏やかな時間は戻ってこない。

この石油採掘現場は、過酷な場所で働くしかない男たちの巣窟だ。
オットウェイにとって、人生は意味などないに等しかった。


休暇で家族のもとに帰る作業員たちと、飛行機に乗り込んだ。
機体はしばしば揺れた。嵐に遭遇してたのだ。

妻とベッドで過ごす夢を見てたオットウェイは、激しい衝撃に飛び起きた。
機体は急降下してる。
オットウェイは冷静に、一番効果的なシートベルトの締め方で体を固定し、酸素マスクを装着した。
体は逆さになり、機体の天井は吹き飛び、目の上に森林が見える。


そこで意識は途切れ、気がつくと氷原の只中に放り出されていた。
少し歩くと、バラバラになった飛行機の残骸が目に入った。
助けを呼ぶ声がする。
自分以外にも生存者がいたのだ。男ばかり全部で8人。

墜落場面の描写も恐ろしいが、墜落地点に吹雪が吹きすさんでるのも凄まじい。
生き残ってホッとしてというような風情ではないのだ。

8人のうち、ルウェンデンという男は、墜落の衝撃で腹部を損傷し、
「こんなに血って出るもんなのか?」と自らうろたえるほどの重傷だ。
血を止める術はない。

オットウェイはパニックを起こすルウェンデンの目を見て言う
「いいか、お前はもう死ぬ」
「愛する者はいるか?」
6才の娘がいると言う。
「娘と過ごしていると思うんだ」
「死ぬ時は暖かくなる」
ルウェンデンの気は静まり、やがて最後の息を吐いた。

この場面はさすがリーアム・ニーソンという、語りかけと表情で、見る者の胸を締め付ける。
こういう役者が主役を張ってることで、同じストーリーを描いても、厚みが変わってくるものだ。


仲間のひとりを穏やかに旅立たせたオットウェイを、6人の男たちは囲んでいた。
「まず焚き火を炊くこと、食料を探すこと」
オットウェイの指示で、6人の男たちは動き始めた。
死体が散乱してたが、手をつける余裕もない。

夜になると、酷寒と飢えの問題よりも、深刻な事態が眼前に迫りつつあることを、男たちは痛感した。
闇夜に無数の目が光ってる。その墜落地点は、オオカミの縄張りの中だったのだ。
オットウェイはオオカミの習性を熟知していた。
縄張りに入った者には攻撃をしかけてくる。
夜は2時間おきに見張りを立てることにした。

だが見張りに立ったヘルナンデスは、小便の最中にオオカミ数頭に襲われて、最初の犠牲者となった。
翌朝オットウェイが死体を発見するまで、誰も気がつかなかった。

男たちの間に激しい動揺が走る。オットウェイは決断を下す。
「この縄張りの中にいては、この先も執拗に攻撃を受ける」
氷原の向こうにかすかに見える森を目指して移動すると言う。
だがディアスは異を唱える。
「ここに留まれば救助が来るはずだ」

ディアスは、そもそもリーダー風を吹かすオットウェイが気に食わない。
だが他の5人はオットウェイの判断に従うかまえだ。ディアスも追従するしかなかった。

氷原は激しい風が行く手をはばみ、深い雪にも足を取られる。
足に怪我を負っていた最年少のフラナリーが、最後尾であっという間に、オオカミたちの餌食となった。残るは5人。
一刻も早くこの氷原を抜けて森へ逃げ込まねばならない。


しかし素人の俺でも、なんで墜落地点に留まるより、森の中に逃げ込んだ方が安全と思うのか、よくわからない。そもそもオオカミは森にいるんじゃないのか?
たしかに氷原の真っ只中では、逃げ隠れもできないとはいうが、残骸ではあっても、機体という鉄製の人口物が残ってるんだから、シェルターに組み上げるような形で、オオカミの攻撃を防ぐ手立てはできたのではと思ってしまう。

だが長期戦になれば、燃やす物も無くなるし、食料の確保という問題もあるな。
『アンデスの聖餐』みたいなことはしたくないだろうし。

この後、森に逃げ込んだものの、事態は一向に好転しないという、アメリカ映画には珍しい位に、絶望的なサバイバルが描かれていく。
カタルシスを与えてくれるようなことはない。
ほとんどまともな武器もないから、オオカミに立ち向かう術がないのだ。

脅威なのはオオカミだけではない。5人のうち黒人のバークは、墜落時の低酸素症で、次第に衰弱していく。高所恐怖症のタルゲットは、断崖絶壁から対岸へのアプローチに足がひるむ。
生存者のうち、常に冷静に行動してきたヘンリックは、オットウェイの判断と行動に微かな疑念を抱いていた。
彼はバーから外に出て行ったオットウェイを、たまたま目で追っていたのだ。


リーアム・ニーソンの他に顔を知られた役者が出てない。
なので誰が犠牲になるかという、映画好きにとっての見当つけもできない。

高所恐怖症のタルゲットを演じてるのはダーモット・マローニーなんだが、俺はラストにキャストの名前が出た時にも、彼がどの役だったのかわからなかった。
ダーモット・マローニーは『ベストフレンズ・ウェディング』など90年代にはイケメンとして売ってたが、2002年の『アバウト・シュミット』で全く面影もない位に印象を変えた役を怪演してて、俺はその時に「この役者はけっこう曲者なんだな」と認識した。
しかし今回の役もメガネをかけてたとはいえ、全然わからなかったのだから、大したもんだ。


5人の男たちが森の中で、焚き火を囲んで、互いに大切な人間のことを話す場面がある。
タルゲットは小さな娘がいて、娘の髪は父親の自分が切ることになってると話す。
娘の髪が頬を撫でてこそばゆい。
その感触こそがタルゲットが、生き延びて帰らねばならない、幸福の源となってる。

この場面でオットウェイは口を閉ざしていた自分のことを語り出す。
父親に愛情を注いでもらえなかったこと。
「父親は酒呑みで、典型的なくそったれのアイリッシュだ」
だが父親は詩を好んで書いたという。
その詩の一節がオットウェイにとって、呪文のように心に刻まれてる。

「もう一度闘って、最強の敵を倒せたら」
「その日に死んで悔いはない」
「その日に死んで悔いはない」

オットウェイは生き延びるつもりなのか?死に場所を求めてるのか?

リーダーシップを執る人間が、まさに「グレイ」な存在なのであって、しかしだからといって、この男を無視して、自分だけでサバイバルできる胆力があるだろうか?
極限状態に陥った時、人間は強い意志を持った者に自らの運命を託そうとしてしまうのではないか?

この映画はラストに至っては、ブラックユーモアの気配すら漂わせているんだが、生存者の男たちに、やはり選択肢は他にはなかったんだろうなと、その不条理にも納得せざるを得ない。
そのくらいアラスカという地の、容赦ない厳しさかげんが描かれてたということだ。


監督のジョー・カーナハンは『スモーキン・エース』『特攻野郎Aチーム』と、漫画チックなアクションが続いたが、今回はジョークは一切抜きという、『NARC』で見せた、ゴリゴリとした男たちのドラマに回帰してる。

この映画は兄のリドリーと共に、トニー・スコットがプロデューサーとして名を連ねている。映画は全米では興収第1位を獲得してる。これが彼の最後の仕事になったのだろうか…

2012年8月21日

nice!(0)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 0

コメント 1

메이저사이트

I came across this post and thought about it. I think the person who made the post is a very great person. Perhaps many different people are having fun because of this post. I am interested in the posts you share.

by 메이저사이트 (2023-11-06 12:20) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。