チョウ・ユンファの二丁撃ちはないよ [映画サ行]

『さらば復讐の狼たちよ』

img2070.jpg

この題名でチョウ・ユンファが出てるとなれば、「香港ノワール」の復活かと色めき立って見に駆けつけたという人も少なくはなかっただろう。
活劇要素がないとはいわないが、「義のために死を厭わない」という『男たちの挽歌』的な世界観とは異なる、ひとクセあるドラマとなってた。


冒頭、1両立ての汽車が線路の向こうからやって来るんだが、これが何頭もの馬に車両を曳かせてるという「馬列車」というもので、映画の時代背景となる、1920年代には実際に運行されてたというから驚く。
ライフルの照準を、その汽車に合わせてるのが、“アバタのチャン”と呼ばれ、恐れられてるギャング団のボスだ。襲撃により汽車は脱線する。チャンのギャング団は7人だ。

久石譲による音楽は、明らかに『七人の侍』のテーマを模している。
汽車を馬が曳いてるわけだから、幌馬車隊が襲われたように見え、この冒頭場面で、チャンを演じ、監督も兼ねてるチアン・ウェンが、「ウエスタン」を志向してるのがわかる。


チャンに襲撃を受けた汽車には、県知事とその妻と、書記の三人が乗ってたが、転覆の際に書記は死に、チャンは金目の物を出せと県知事を締め上げる。
だが大したものはなかった。銃を突きつけられた男は、
「この先の鵝城という地方都市に赴任する所だった。そこの県知事になれば、税を徴収して金儲けできる」と掛け合う。
男はマーという名の詐欺師で、実は県知事の官位を金で買っていたのだ。
マーは自分は県知事に同行する書記だと、チャンに嘘をついた。
チャンはその話に乗ることにした。

「鵝城」は要塞のような町で、水路から町の玄関となる門に着いた、チャンの一行は、「新しい県知事」として、町民の歓迎を受けた。
白のスーツの上下で颯爽と現れたチャンを、ギャングと疑う者はいない。

だが彼らの様子を、屋敷の高台から望遠鏡で観察する男がいた。
人身売買や麻薬密売など、悪事の限りを尽くしてこの町を牛耳るホアンだった。
その傍には瓜二つの影武者の姿もあった。

町に着くなりチャンとマーの目論みは外れた。前任の県知事が町民から90年後の分まで徴税してたことがわかる。もう町民から取り立てることはできない。チャンは言った。
「ならば持てる者から頂くのみだ」


ホアンの用心棒で気の荒いウーが、町民に手酷い暴力を振るったとして、チャンの前に連行されてきた。暴力を振るわれた町民は、ホアンを恐れて口をつぐんでいる。
だがチャンは毅然とウーに罰を与えた。
それを知ったホアンは激怒。
独裁者たる自分を差し置いて、勝手な振る舞いに及ぶ県知事に思い知らせよう。

ホアンは県知事に若い手下たちがいることに目をつけた。チャンが息子のように思う最年少の「六弟」が狙われた。町の食堂で飯を食った際に、二人前なのに、一人前の金しか払わなかったと、店主から言いつけられたのだ。
勿論ホアンから手が廻ってた。

ホアンの若く冷酷な用心棒フーが、検察官と偽ってその場に現れ、六弟を追求する。
一本気な性格の六弟は
「腹を割いて一人前しか食ってないと証明してやる!」
と、本当にナイフで腹を割き、腸の中身をさらして、その場で果てる。

六弟が言われなき罪を着せられ、挑発された末に命を落としたことを知ったチャンは、独裁者ホアンへの復讐を誓う。
そう簡単に命を狙える相手ではない。だがホアンも自分の素性に気づいてない。
ギャングのチャンと、町の独裁者ホアンの、腹の探り合いは、次第に血で血を洗う戦いへとなだれ込んでいく。


チャンとホアンの会席の場面などは、大袈裟に笑い合いつつ、目は相手を睨んでるという、まさに「隙あらば」の緊張感で描かれてる。活劇の要素より、相手を常に窺うような会話のやりとりが多い。
そこに突如として血なまぐさい描写を放りこんでくる。

誰も信用できないような、騙し合いの人間関係と、バイオレントな要素の組み合わせとなると、これは「ウエスタン」でも「マカロニ・ウエスタン」中華風といった味付けなのだ。

チアン・ウェンの演出は、どうもこの会話部分の芝居がかった作風に臭みがあって、ここは好みが別れる所だろう。
1993年の監督第1作の『太陽の少年』は、俺は大好きな映画だが、あの映画でも、瑞々しさとともに「どうだこの演出!」という、野心が表に出たような描写もあった。
1998年の2作目『鬼が来た!』になると、日本の軍人を描いてる部分は置いとくとして、芝居に関する演出に「あくどさ」が増してる気がして、俺は世評ほどにはいいと思わなかった。

この『さらば復讐の狼たちよ』は、パンフレットを読むと、物語の設定やセリフの端々に、現中国の体制への皮肉や、暗喩が散りばめられているという。
そのあたりは当の中国国民でないとピンと来ないのではないか。


俺が感じ取ったのは、この物語の登場人物が「名を語る」という設定だ。

チャンはギャングの素性を隠して県知事として振舞う。
詐欺師のマーは、県知事の官位を金で買ってたが、身の危険を感じ、自らを書記だと名乗る。
ホアンも身を守るため、影武者に「ホアン」を名乗らせている。
それがすべて通ってしまうというのは、監督が意図したかはわからないが、中国が「名乗ったもん勝ち」な国だということを表してるのだ。

それは日本のブランド名や、産地名を、中国国内で「登録商標化」してしまう、あのビジネスのやり口を連想させる。


監督と主役のチャンを兼ねてるチアン・ウェンは、役者としての風格が出てきた。
表情が時折、小林薫に重なる所がある。誰かが書いてたがケンコバにも似てるね確かに。

チョウ・ユンファはほとんど銃を手にしない。
狡猾な独裁者を余裕を持って演じてるんだが、底冷えするような冷酷さというものが足りない。
ちょっと抜けた所のある「影武者」と二役を演じ分ける、そのことに満足してしまってる感じがした。

二人の主役よりも、詐欺師マーを演じるグォ・ヨウが面白い。
『続・夕陽のガンマン』のイーライ・ウォラックのような立ち位置にあり、保身のためにだけ、頭がフル回転してるような、その表情の変幻自在ぶりに見入ってしまった。

けっこう日本公開作があるのに、俺はこの人が出てる映画をほとんど見てないんだな。
ちょっと他の映画も見てみよう。

2012年7月16日

nice!(0)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 0

コメント 1

메이저사이트

This blog has a lot of unique information. I believe your blog will be important to most of the public. Stay safe and healthy always. thank you.

by 메이저사이트 (2023-10-31 14:13) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。