三大映画祭週間2011『ハッピー・ゴー・ラッキー』 [映画ハ行]

三大映画祭週間2011

『ハッピー・ゴー・ラッキー』

ハッピーゴージャケ.jpg

東京国際映画祭で上映された時は見逃してて、そのまま一般公開もされず諦めてたんで、今回の企画のラインナップに入ってたのは嬉しかった。
マイク・リー監督としては、サラサラッと絵筆を遊ばせて描いたような、スケッチ風の軽やかさが心地よかった。


サリー・ホーキンスが自転車で街をすり抜けてくオープニングから、映画にすんなり乗っかれる。
でもその自転車を降りて、古本屋をひやかして、戻ってみたらもう盗まれてる。
彼女演じる独身アラサーのヒロイン、ボビーはそのことに怒るでもなく
「まだ、さよならも言ってないのに…」
と、翌日には車の免許を取ることに決める。

もう10年来ルームシェアする女友達と妹とで、クラブ行ってパルプの『コモン・ピープル』でテンション上げて、部屋に戻って3人でマリファナ吸ってエヘラエヘラと朝を迎える。
普段は彼女は幼稚園の先生で、子供たちを楽しませながら、物事に集中させようと、あれこれアイデアを尽くしてる。

ボビーはとにかく前向きというのか、楽天的というのか、人によってはイラッとくる位に明るい。
天然に明るいというのとはちょっと感じが違う。
俺の知り合いにもいたけど、わあーっと喋って自分で先に笑っとくタイプ。場の空気を重くさせたくないというような、そういう心理が働きすぎるとこがあるのかな。


マイク・リー監督の映画は、あけすけな会話の応酬が、そのまま映画のテンポを生んでいくんだけど、今回の見ものは、映画の中で何回も出てくる、ボビーと自動車教習官とのやりとり。
英国は、自動車教習所に習いに行くんじゃなく、教習官の免許を持った者が、自分の車を使って、生徒の家の近くまで来て、そのまま路上教習する、そういうシステムなんだね。

で、教習官のスコットという中年男、かなり堅物で神経質そう。
初対面の時から細かく厳密に指導しようとするんだが、ボビーはケラケラ笑って応対、言葉尻はちゃかすし、教習官すでにイラッときてます。
しかも運転にブーツ履いてくるなと言ってるのに、毎回履いてくる、何なんだよこの女って感じだ。

この車中のふたりの、全く噛み合わないが言葉数だけは飛び交うコミュニケーションぶりが、とにかく笑える。
特に教習官が呪文のように唱える
「エンラーハ!エンラーハ!」
がヤバい。何のことかと言うと本人曰く
「意味のわからない言葉は耳に残る」

「エンラーハ」とは、ピラミッドの聖なる三角形の頂点を意味す(というような説明だったが)。
つまり交差点では一旦停止、右見て、左見て、バックミラー見る、この一連の動作を、首を三角形に動かして行うこと、それを「エンラーハ」と覚えておけば、怠らないで済む。
と一所懸命話してるんだが、笑ってるだけなんで、交差点に入るたび、教習官が
「そこ、エンラーハ、エンラーハ!」
と唱えることになる。
ボビーの頭には入ってないだろうが、見てる俺の頭には刷り込まれちまったよ。

最初の内はボビーがいくら話を振っても、決して自分のことを話そうとしないスコットだったが、教習を重ねるうち、次第に話をするようになってくる。
だが、そのほとんどは自分の周囲に対する、憤懣をぶちまけるという感じで、怒りが抑えきれず、
「エンラーハ」も忘れて交差点突っ切る。
ボビーがさすがになだめる。どうもこの中年の男は、神経質というより、心に問題を抱えてるらしい。

それに教習を重ねるうちに、ボビーのことが気になってきてしまってるようだ。
彼女が児童相談所の青年とつきあうようになり、彼の車で送ってもらうと、家のそばの街路樹に隠れて立つ人影が。
「スコット?」と呼びかけると、脱兎のごとく逃げ去った。
こうして教習を重ねる毎に、ふたりの間にある種の緊張が張り詰めてくる。
ボビーはどう対処するのか?


サリー・ホーキンスとともに、マイク・リー監督作への出演経験があるスコット役のエディ・マーサンは、怒りと苛立ちと滑稽さが渦を巻いてるような圧巻の演技。
風貌とか、まくし立ててしゃべる感じが、若い頃のリチャード・ドレイファスみたいだね。

この自動車教習の他にもいくつかのエピソードが描かれるけど、散文的でなにか深いテーマ性があるわけじゃない。
でもひとりの女性の暮らし向きが、歯切れいい会話によって、活写されていて、もうこれはマイク・リーの「話芸」としかいいようがない。

2011年10月1日

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