タン・ウェイとシアトルの秋 [映画ラ行]

『レイトオータム』

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ヒューマントラストシネマ渋谷の一番小さなスクリーンで上映してた。女性客ばかりで補助席まで出てたぞ。なんで大きなスクリーンに移さないかな。彼女たちのお目当てだろうヒョンビンのことは、韓流に明るくない俺は全く知らない。

タン・ウェイ目当てに来た俺はアウェイ状態だったが、そのタン・ウェイにしたって、俺は『ラスト、コーション』も実は見てない。「激しい性愛シーンが」みたいなことが宣伝されてたんで、「ああ、これはかったるいかもな」とスルーしてたのだ。
いや、しかしいいなタン・ウェイ。

この映画は役柄上、メイクも素に近い感じで、髪はひっつめ、ほとんど笑うこともなく、伏し目がちでいることが多い。俺は彼女を見てて、誰かに似てるなあ、とずっと考えてた。アジアの女優を見ると、大抵日本の女優の誰それに似てたりするんだが、女優ではなかった。

ZARDの坂井泉水に似てるのだ雰囲気が。ZARDのアルバム・ジャケットみたいなポーズで写ってるスチルがパンフに載ってる。イメージが繋がってすっきりした。

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中国の女優と韓国の男優によるドラマだが、舞台はアメリカだ。
冒頭、閑静な住宅街を、放心状態でふらついてる女。タン・ウェイ演じるアンナは、この時、夫の暴力から身を守ろうと反撃し、夫を死なせてしまってた。

それから7年間、アンナはアメリカの女子刑務所に収監されていた。シアトルに住む母親の訃報が届き、模範囚の彼女は、葬儀のため、72時間の外出許可を受けることに。携帯を持たされ、常に居場所の確認が義務づけられた。

シアトル行きのバスに乗り込むと、発車寸前にアジア人の若い男が駆け込んできた。同じアジア系のアンナの顔を見つけ、バス代の持ち合わせがないので貸してほしいと、英語で頼んできた。アンナは逡巡したが、結局お金を貸すことに。
「お金を返すまで、これを預かってて」
と腕時計を渡されるが、アンナには迷惑なだけだった。
若い男はフンという名の韓国人だった。彼は中年女性などを顧客に持つ「エスコート・サービス」をしてたが、暗黒街のボスの妻と関係を持ったことから、追われる身となっていたのだ。
中国人のアンナと韓国人のフンは、互いの国の言葉はわからず、バスの車内ではフンが英語で一方的に話しかけるだけ。相手にしないまま、シアトルで二人は別れる。

アンナは結婚以来帰ってなかったシアトルの家に迎えられた。集まった親族たちは、彼女をねぎらってはいるが、身内から罪人が出たという思いは、互いの間に埋めようもない距離を生んでいる。保釈金を払ってくれた兄は、アンナに家の売却同意書へのサインを求める。

アンナは外の空気を吸うために裏庭に出ると、隣の家の住人と顔が合う。
妻子と遊んでた男が、アンナの方にやってくる。
「変わらないな」
「私は変わったわ。知ってるでしょ?」
ワンジンはアンナの兄の友人で、アンナの初恋の相手だった。アンナが結婚した後、夫に暴力を振るわれるようになり、ワンジンはアンナに駆け落ちしようと言っていた。だがワンジンは踏ん切りがつかず、そのことをアンナの夫に知られてしまった。
ワンジンは刑務所に面会に行くこともなく、別の女性と家庭を持ってたのだ。

アンナはその日は親族たちから離れ、シアトルの町のホテルに部屋をとった。美容室へ行き、化粧をして、おしゃれな服を買って、町を歩いた。
だが携帯が鳴り、自分が囚人であるという現実に引き戻された。服は捨て、髪も元に戻した。
そして町中で偶然見かけたフンに声をかけた。
アンナは英語で言った
「私を抱きたい?」


72時間の猶予しかない女と、いつ捕まるかもわからない身の男。互いの秘密を隠しながら、シアトルの町をデートして歩く二人。閉園した遊園地に二人が潜り込む場面がある。
遊具を解体中のスタッフの男と、彼の恋人らしい女が言い合うのを、物陰から眺めてるアンナとフン。
聞こえてはいない男と女の会話の内容を、二人で推測してみる。そんな遊びをする内、笑顔ひとつ見せなかったアンナの表情が和らぐ。

この場面は映画のフィルムをビュー・ファインダーで見てるような演出がされており、洒落てる。
そのデートのさ中、アンナは、自分の境遇や今までのいきさつを、中国語でフンに話す。フンは彼女の表情を覗いながら、相槌を打ってる。それはひとり言のようでもあったが、アンナは心中を吐露することで、スッと気持ちが軽くなるようでもあった。

葬儀の日、不意にフンが現れ、ワンジンは不審な目を向ける。その場でアンナはワンジンに対する憤りをぶつけ、アンナの72時間の外出は終わりに近づいていた。
バス乗り場でアンナを見送るフン。だがバスが発車して、アンナが目を上げると、そこにはフンが。
「もう一度、自己紹介し直そう」
シアトルから戻るバスの中で、二人は饒舌だった。

行きにも立ち寄った休憩所で、二人はバスを降りた。さびれた湖のほとりに佇み、フンはアンナを引き寄せて、口づけした。
アンナを抱きしめ
「君が出所したら、この場所で会おう」
その表情は何かを覚悟してるようでもあった。


1966年の『晩秋』という韓国映画がオリジナルだそうで、その映画は現在フィルムが失われてるんだそうだ。
1972年の斉藤耕一監督作『約束』は、そのストーリーを日本に置き換えたもの。アンナにあたる役を岸恵子が演じ、フンにあたる役を萩原健一が演じてた。これは昔NHKで放映時に見た記憶がある。
ショーケンはこの映画のフンとちがい、すでに窃盗か何かの罪で警察に追われてるという設定だったと思う。
バスではなく電車の中だったな。ショーケンの演技が今でいうと浅野忠信のような「芝居がかってないセリフ回し」の元祖のような感じで、当時はそこが面白かった。

この映画のヒョンビンは、韓国の男優の例にもれず長身で、ショーケンのような強い個性はない。
表情に柔らか味があるから、女性が心を許しやすい感じはするね。ということは役には合ってるってことだ。
俺はタン・ウェイのちょっとした表情の変化なんかに見とれてたから、退屈することはなかったけど、ちょっと淡々と進みすぎるきらいはあった。
あとエピローグの場面も、リフレイン以上の意味合いが伝わってこない。
悪くないんだけど、なにか一味足りないように思う。

2012年2月27日

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