三大映画祭週間『時の重なる女』 [三大映画祭週間2012]

三大映画祭週間2012

『時の重なる女』

時の重なる女2.jpg

この映画は「イタリア映画祭2010」で既に上映されてる。俺はイタリア映画祭に今年初めて通ったので、今回の上映の機会はありがたかった。

見たいと思ったのは、フィリッポ・ティーミが出てるからだ。
彼はマルコ・ベロッキオ監督の『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』で、ムッソリーニと、彼の隠し子の二役を演じてた。
その他にも、今年の「イタリア映画祭2012」で上映された『錆び』でも、子供たちの敵を演じてて、そのテンション高い役作りは、俺をして「イタリアのマイケル・シャノン」と勝手に言わしめてる。

この映画はミステリーで、それも現実と妄想が混在し、しかも主人公の設定にひとヒネリ利かせてあるという、リンチやブニュエルを彷彿とさせる魅力を感じた。
ハリウッドが手を伸ばしそうな脚本なのだ。


トリノのホテルで、客室清掃係として働くソーニャ。
彼女はスロベニアからイタリアに移民してきた。
とりあえずの会話はできるが、自宅ではイタリア語講座のテープを毎日聞いている。
同じ清掃係のイタリア人マルゲリータとも仲良くなった。

その日も客室をノックして入ると、若い女性がベッドでテレビを見ていた。
改めようとすると「かまわないわ」と言われたので、浴室から行うことに。
洗面所で髪を束ねてると、その様子を見てた客室の女性から
「下ろしてる方が似合うわよ」

女性は部屋に消え、掃除を始めようとした時、ガシャンという物音がした。
部屋を覗くと女性の姿はない。ハイヒールは床にある。
ソーニャは開いている窓に近づき、下を見下ろすと、客室の若い女性が飛び降り自殺して果てていた。
あおむけの死体の目が、ソーニャを見つめていた。


ショックで仕事が手につかないソーニャは、ミスをして副支配人に責められる。
気分も変えたくて、ソーニャは「スピードデート」に参加した。

合コンのようなもので、大勢の男と女が、テーブルにつき、一対一で話をする。
制限時間は数分しかなく、ブザーが鳴ると、次の相手が席に着く。
そうして何人もと話しをする中で、気に入った相手をチェックし、後で連絡先を交換するのだ。

ソーニャの席にも、何人もの男が入れ替わり立ち替わりやってくるが、これという相手がいない。
そんな中グイドに出会った。やたらと質問攻めしてこない彼の寡黙さが気に入ったのだ。


二人は連絡先を交換し、デートを重ねた。
デートの最中に偶然会った刑事との会話から、グイドが元警察官だということがわかった。
今は郊外にある富豪の別荘の警備を任されてる。
二人は体の関係も交わし、何度目かのデートで、グイドはソーニャを、その別荘に連れて行った。
グイドの車のラジオから、イギリスのポップソングが流れてる。

持ち主の富豪は年に数回しか訪れないという。グイドはこの町の喧騒から遠く離れた環境で、野鳥の鳴き声を録音して楽しんでいた。高性能の集音マイクも備えてあった。
グイドは広大な敷地内をソーニャと散歩するため、いつもはかけてあるセキュリティを解除した。
だが誰もいないはずの敷地内の森で、ふたりは突然マスクを被った男に銃で脅された。

男はグイドを警備室に案内させ、すべてのセキュリティをオフにし、別荘のゲートを開けるよう命じた。

モニターの一つには、外で頭に銃を突きつけられてるソーニャが。
男は何人もの仲間を引き連れていた。

「引越しサービス」と書かれたトラックが2台、ゲートから入ってくる。
男たちはグイドとソーニャを柱に縛りつけ、手馴れた様子で、邸宅内の調度品から絵画から、おおよそ値打ちのありそうな物は根こそぎ運び出した。

最後にリーダー格の男が残り、グイドの目の前で、ソーニャの体に触ろうとしてる。
隙を見て縄を解いたグイドは、マスクの男に飛び掛った。揉み合いとなり銃声が響いた。


ソーニャは今日もホテルに出て働いてる。
洗面所の鏡を見ると、額に痣のようなものがある。
あの日別荘でグイドが死んだことは、グイドの元同僚だったリッカルド刑事から聞いた。

リッカルド刑事は、グイドの死に不審な点があると感じていた。
なぜ賊が入りこむその日に限って、セキュリティが切られていたのか?
刑事は、ソーニャがなにか知ってるのではないかと疑っている素振りだった。

リッカルド刑事は別れ際に、ソーニャに写真を手渡した。グイドが持ってたものだと。
グイドとソーニャが仲陸まじく写ってる。場所に見覚えがない。

そして次第にソーニャの周りにも異変が起こってくる。ホテルの警備室のモニターを何気なく眺めていると、階段に死んだはずのグイドが映っている。
ソーニャは血相変えて、その場所に向かうが、誰の姿もない。

自宅に戻って、風呂に浸かってると、どこからともなくメロディが聞こえてくる。
隣の部屋だろうかと、壁に耳をつけるが聞こえない。

ソーニャは湯船に耳まで浸してみる。
すると、あの日グイドの車で流れてたポップソングが聞こえた。
水から顔を上げると聞こえなくなる。また耳を浸すと聞こえる。これはなんなのだ?

突然ケータイが鳴る。
「ソーニャ」
明らかにグイドの声だ!グイドは生きてるの?
でもグイドの葬儀にも立ち会ったのだ。
なぜか神父は私を睨みつけるように見ていたが。


自宅で洗濯物を干していたソーニャは、またあのポップソングのメロディを耳にした。
窓から外の通りを見下ろすと、そのメロディは、「引越しサービス」のトラックから聞こえた。

ソーニャは部屋を飛び出し、自分の車でそのトラックの後を追った。
パーキングに停まったトラックに後ろから忍び寄る。
ソーニャは助手席のドアを勢いよく開けて、乗り込んだ。

そして運転席の男に平手打ちした。
「私まで死ぬとこよ!」
運転席の男は、あの強盗団のリーダーだったのだ。
二人はイタリアからの高飛びを企てていた。行く先はブエノスアイレス。
新聞の死亡欄から同じ年かさの女性を探し出し、偽造旅券を作る手筈だった。


ソーニャは清掃係の同僚マルゲリータに、刑事から手渡された写真を見せた。
「後ろの橋にブエノスアイレスって書いてあるでしょ?」
「でもそんな所、行ったことないのよ」
「合成したんじゃないの?」マルゲリータは言った。

そのマルゲリータが急に仕事先に来なくなった。
副支配人は従業員を集めて言った。
「マルゲリータが自殺した」
ソーニャは尋ねた。
「自殺ってどんな?」
「飛び降りだそうだ」

ソーニャは葬儀に参列した。だが神父は墓の前でマルゲリータではなく、ソーニャの名を口にした。
「なぜ私の名を?」
動揺するソーニャをその場から連れ出したのは、ホテルの常連客の男だった。
マルゲリータから「女性従業員にやたら声をかける」と言われてた男だ。

ソーニャは男の車に乗るよう促される。男は運転しながら、ソーニャに
「コーヒーだよ、ブランデー入りの」と容器を渡す。
それを飲んだソーニャは意識を失くす。

男は車を雑木林に乗り入れ、ソーニャをビニールシートにくるんで、掘ってあった穴に引き下ろした。
意識は戻ったが、体が動かず、声も出せない。
男は上から土を被せていく。真っ暗で呼吸の音しか聞こえない。


次の瞬間、視界が開け、目の前にグイドがいた。そこは病室だった。
グイドは生きていたのだ。
というより、あの事件のあとのことは、夢の中のできごとだったのだ。
グイドとマスクの男が揉み合いになった時、男が撃った銃弾が、グイドの胴体を貫通して、ソーニャの頭部に当たったのだ。だが奇跡的に致命傷には至らなかった。

グイドが献身的に看病してくれたこともあり、ソーニャは退院できることになった。
グイドには実は妻がいたが、心の中では、ソーニャと新しい人生を歩んでいこうと決めていた。

だがソーニャが夢で見たと思われていたことは、すべてが夢というわけではなかった。
ソーニャはある日時を正確に覚えていたのだ。


細かい伏線が生かされていて、終盤にはグイドの持ってた集音マイクまでが、鍵を握るアイテムとなってる。2回見るともっと気がつく場面があると思う。

ソーニャを演じてるクセニア・ラパポルトは、ロシア出身の女優。
ジュゼッペ・トルナトーレ監督の『題名のない子守唄』で、謎めいたメイドを演じてた女優といえば、思い出す人もいるだろう。
今回ももしアメリカ映画だったらミア・ファローが得意としそうな、エキセントリックな役柄を、絶妙に演じて目が離せない。

フィリッポ・ティーミはグイドを演じてるんだが、こちらはいつものエキセントリックな演技を封印して、その静けさをまとった人物像の表現がまたいいのだ。

夢の中で、いきなり大きな音でソーニャが衝撃を受ける場面がある。
これはこけおどしのショック演出というのではなく、よくうつらうつらしてる時に、なにか物音がすると、普通より倍化して聞こえて、驚いて飛び起きるなんてことあるよね。それを表現してるんだな。

その音も伏線となってるのが、後の描写でわかる。
なかなか芸の細かいミステリーなのだ。

2012年8月24日

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コメント 2

キシノレイコ

三大映画祭週間2012で観たばかりです。とても詳しく再現されていて参考になります。
ソーニャが勉強しているのはイタリア語ではなくスペイン語だと思います。なぜなら、彼女はブエノスアイレスに高飛びしようとしているのですから。
スロベニア(旧ユーゴスラビア)の首都リュブリアナ出身といってましたので、イタリアに近く、もともと彼女はイタリア語は不自由なく使えたと思います。

by キシノレイコ (2012-09-24 11:26) 

jovan兄

キシノレイコさま。

コメントありがとうございます。
そうなんですね!それで伏線となってることが納得できます。
俺は見てて、イタリア語とスペイン語の違いがヒアリングできてなかったです。
深い洞察に基づくご指摘ありがとうございました。
by jovan兄 (2012-09-25 00:19) 

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