ロン・ハワードの背中を追う「アメグラ」同窓生 [映画ア行]

『イルカと少年』

イルカと少年2.jpg

その同窓生とはチャールズ・マーティン・スミスだ。
1974年の『アメリカン・グラフィティ』を封切りの時に見て、「アメリカ人にもこんなのがいるんだな」と親近感湧いてしまった。

彼が演じたテリーは、高校生なのに中年おやじみたいな髪の分け方で、度の強い黒縁メガネ。
ベスパで登場して、いきなり駐車に失敗してる。
自分ではカッコつけたいんだけど、やることなすこと笑いのネタになる。
今の役者でいえば、『バス男』のジョン・ヘダーや『スーパーバッド 童貞ウォーズ』のマイケル・セラなんかに通じる「ナード系」の元祖かも。

いやそれまでにも『ジェレミー』のロビー・ベンソンとか、『少年は虹を渡る』のバット・コートとか、童貞キャラは居ないわけじゃなかったが、彼らの場合はどこか女性にアピールする「可愛げ」も持ち合わせてた。
だが『アメグラ』のチャールズ・マーティン・スミスの風貌は、「非モテ」のかすかな希望すら打ち砕くような冴えなさだった。
だが映画で最もインパクト残したのは、このテリーだった。

『アメリカン・グラフィティ』で共演したロン・ハワードは、青春スターとしての自分には早々に見切りをつけ、早い時期から監督業に乗り出し、いまやアメリカ映画を代表する監督のひとりにまで登りつめた。

チャールズ・マーティン・スミスも役者業の傍ら、1986年に『ハロウィン1988・地獄のロック&ローラー』で監督デビューを果たした。これはちゃんと日本でも公開されてる。


『アンタッチャブル』の会計士役など、歳を重ねて脇役としていい味出してきてるが、彼の役者としての代表作は、唯一の主演映画でもある、
1983年の『ネバー・クライ・ウルフ』だ。

ネバー・クライ・ウルフ.jpg

北極圏のトナカイの激減が、オオカミの仕業によるものなのか、その調査に、カナダ政府から派遣される、生物学者タイラーを演じてた。

これも封切りの時に見てるが、映画のようであり、ネイチャー・ドキュメンタリーのようでもあるという、その演出のスタンスが面白かった。
ロケはアラスカやカナダのブリティッシュ・コロンビア州で行われてるが、その大自然の景観や、野生動物たちを捉えたカメラが美しかった。
撮影監督は日系のヒロ・ナリタで、ちなみに昨日コメント入れた『THE GREY 凍える太陽』の撮影監督は、日本からアメリカに渡ってキャリアを積んでいるマサノブ・タカヤナギだ。

先日コメント入れた『THE GREY 凍える太陽』ではオオカミの獰猛さが強調されてたが、
『ネバー・クライ・ウルフ』では、タイラーが一匹の白いオオカミをずっと観察する様子が描かれ、オオカミへの理解の深さを感じさせた。


チャールズ・マーティン・スミスはこの映画に出たことで、原作者で博物学者でもあるファーレイ・モアットに傾倒したようで、
2003年の『ホワイト・クラッシュ』ではモアットの原作を自ら監督してるのだ。

バリー・ペッパー演じるアラスカの空輸パイロットが、結核に冒されたイヌイットの少女を、町の病院まで運ぶ仕事を引き受けるが、機体のトラブルで、アラスカの大湿原の真っ只中に墜落。一命は取り留めたものの、過酷なサバイバルを余儀なくされるというストーリー。

屈強にそうなパイロットより、病弱なイヌイットの少女が、大自然で生き抜く知恵を持っているのだ。
ここでは『THE GREY 凍える太陽』と同様に、絶望的に広大なアラスカの、人を寄せ付けない厳しさが描かれていた。

そんなわけで、「オオカミ」と「アラスカ」というキーワードで、昨日の『THE GREY 凍える太陽』から、チャールズ・マーティン・スミスに繋いだんだが、本来なら『ネバー・クライ・ウルフ』か『ホワイト・クラッシュ』にコメント入れる所だけど、『イルカと少年』だ。

これは同窓のロン・ハワードの背中を追うように、監督キャリアを重ねてきたチャールズ・マーティン・スミスにとって、初めての「全米興収第1位」を獲得した映画になったのだ。
俺の好きなアシュレイ・ジャッドも出てるというのに、日本では劇場公開に至らず、DVDスルーとなってしまった。


フロリダ沖で漁の網にからまってしまい、浜に打ち上げられたイルカを保護した実話を元にしてる。
イルカは地元のNPOが運営する、海洋生物保護施設「クリアウォーター」で、ウィンターと名づけられ、ケアされるが、深い傷を負っていて、尾ヒレが壊死すると見られたため、やむなく切断される。

だが泳げないイルカは生きてはいけない。
「クリアウォーター」の飼育員たちは、人工の尾ヒレを、ウィンターに装着させようと試みる。

この骨格の部分は事実の通りで、そこに文字通り、話にも「尾ヒレをつけて」ファミリー向けの感動作に仕立て上げてるわけだ。
まず浜に打ち上げられたウィンターと出会うのが、地元に住む11才の少年になってる。


少年ソーヤーは、父親が数年前に突然失踪して以来、ふさぎこむようになり、友達と遊ぶこともなく、家では部屋に閉じこもって、ラジコンヘリの組み立てに没頭してる。
高校の競泳記録を持つ従兄のカイルが、唯一の話相手だ。
そのカイルはオリンピックの資金稼ぎにと軍隊に入り、しばらくは会えない。

浜に打ち上げられたイルカに近づいたソーヤーは、体に巻きついた網を解いてやる。
イルカはレスキューに運ばれて行ったが、NPO施設「クリアウォーター」で、再会することになる。

まだ子供のイルカはウィンターと名づけられてたが、怪我の具合も悪く、何も食べようとせず、衰弱してる。だが網を解いてくれたソーヤーのことを憶えていて、ソーヤーが手にした哺乳瓶から、ミルクを飲むようになる。
ソーヤーは「クリアウォーター」の獣医クレイ先生から認められ、ウィンターの世話を手伝うことに。


クレイ先生には、ソーヤーと同い年くらいのヘイゼルという娘がいる。ヘイゼルは親の教育方針もあり、学校には通ってない。なのでソーヤーは、初めてできた友達なのだった。
ふさぎこんでたソーヤーは、ウィンターや、クレイ先生親子との触れ合いで、明るさを取り戻していく。

夏休みの補修授業にも出ずに、「クリアウォーター」に入り浸る息子を母親ロレインは叱るが、ソーヤーに手を引かれてウィンターのもとを訪れると、息子が普段とまったくちがう、快活な表情を見せることに驚き、その「夏の課外授業」を見守ることにする。

一方笑顔を取り戻したソーヤーと対象的に、明るかった従兄のカイルから笑顔が消えた。
カイルは軍の赴任先で爆弾により、脊髄を損傷し、片足が利かなくなり帰国したのだ。

ソーヤーたちにも会わず、町の病院で車椅子で過ごしていた。もう水泳選手の夢は絶たれた。
面会に来たソーヤーと母親にも背を向ける。
ソーヤーはカイルに「僕たちがどんな気持ちでいるのか、わからないの?」となじった。
その言葉はカイルの胸を突いた。


そのカイルの傍らにいたのが、義足の専門家マッカーシー博士だった。博士は
「人生はひと通りしかないなどと思い込むな」
「夢が消えたのなら、別の夢を追えばいい」とカイルを諭す。
カイルを通してマッカーシー博士と知り合ったソーヤーは、相談を持ちかける。
「ウィンターに会ってやって」

「クリアウォーター」を訪れた博士は、尾ヒレのないイルカと対面する。
ウィンターは尾ヒレを失った後、飼育プールの中で、体をくねらせる独特の泳ぎ方をしていた。
だがその無理な動きは、脊髄にダメージを与える危険性がある。
クレイ先生の説明を聞き、マッカーシー博士は、挑んだことのない、イルカ用の人工尾ヒレの製作を承諾した。


アシュレイ・ジャッドは、ソーヤーの母親ロレインを演じてるが、そうだねもう母親役が板についてきたというか、ほぼ同時期デビューのシャーリーズ・セロンとかキャメロン・ディアスのようには、いかなくなってきてるのはちと淋しくはある。

マッカーシー博士を演じるのはモーガン・フリーマン。安定の役柄だ。
クレイ先生の父親で、係留されたクルーザーで暮らしてるのがクリス・クリストファーソンという、何気に豪華キャストなのだ。

そしてクレイ先生を演じて、キャストの図柄でも真ん中にいるのが、ハリー・コニック・Jrだ。
昨日の『THE GREY 凍える太陽』に出てたダーモット・マローニーも、出るたび印象がちがって、すぐに本人と判らない役者と書いたが、ハリー・コニック・Jrも俺にとっては同じような印象がある。

もとはジャズピアニストだから、役者は本職じゃないはずだが、『メンフィス・ベル』『インディペンデンス・デイ』『閉ざされた森』と、軍人を好んで演じてるような所があり、意外とマッチョ志向なのかと。
この『イルカと少年』でも、首が太いし、上体が逞しいんで、最初は本人とわからず。
役柄もあって爽やかな印象だ。

クレイ博士はシングルファーザーで、ソーヤーの母親ロレインはシングルマザーなんで、二人のロマンスもあるのかと思いきや、そこはファミリー向けなんで、スルーだった。

イルカのウィンターは「本人」が出ていて、その表情やしぐさなどは、子供たちの心を掴むだろう。
悪人は一人も出てこないという「おとぎ話」みたいな内容だが、映画のエンディングには、実際の映像が映し出されてる。
ウィンターは今も、人工尾ヒレをつけ、「クリアウォーター」の水族館のプールで、手や足を失った子供たちの訪問を受けているのだ。
ウィンターの体に触れて歓声を上げてる子供たちの映像にはグッとくるものがある。

夏に涼しいシネコンで、親子連れで見るには最適じゃないかと思うんだがなあ。

2012年8月22日

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안전놀이터

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