『エイリアン』からこんな小難しいことに [映画ハ行]

『プロメテウス』

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「人類の起源の謎に迫る」という触れ込みで客を呼ぼうということなんだが。
「人間はどこから来て、どこへ行くのか?」
というのは人類最大の命題でもあり、たびたび映画のテーマに掲げられてきてる。

俺としては『トータル・リコール』の時に、「本当の自分とかどーでもいい」と書いたのと同様に、
「人類がどっから来たか?」なんてことも、どーでもいい。
享楽主義者だから、今日に満足できてればそれでいい。
どーでもいいんだけど、SFは好きだし、リドリー・スコットの映画も、何を見せてくれるかという期待があるから、見に行くわけだ。

そして冒頭で、山海塾系の人が、黒酢みたいなもの飲んで、体がバラバラになって滝つぼから落ちて、DNAが千切れるみたいな描写を見るにつけ、
「これはそう大それたことを描いたもんではないな」と気分も軽くなる。


映画はその後、2089年の時代設定で、スコットランドのスカイ島の洞窟で、女性考古学者エリザベスが、3万5千年前の洞窟壁画を発見する場面を描く。
星を表したような球体がいくつか描かれ、それを指し示す者の姿も描かれている。

『エイリアン』にも出てきた企業「ウェイランド」社は、未知の惑星を探査する「プロメテウス」号の乗組員を招集していた。探査の意図を説明するためだ。
エリザベスは恋人でもあるホロウェイ博士とともに、画像の解説をした。

スカイ島の壁画と同じ球体を描いた壁画が、メソポタミアほか、世界各地の古代遺跡からすでに見つかっている。
これは「サイン」であり、人類の創造主から送られた「招待状」ではないか。
エリザベスは創造主のことを「エンジニア」と呼んだ。
壁画に描かれた球体の配列から、該当しそうな惑星をはじき出していた。


『エイリアン』でも、貨物船ノストロモ号が、ある惑星からの信号を、「救難信号」と思い、その惑星に向かったことで災難に合うのだが、今回も似たようなとっかかりだ。

「好奇心が猫を殺す」ではないが、人間の好奇心や探究心というものが、自ら厄災を招くというのは、SFの分野ではよく見られる。
1995年の『スピーシーズ 種の起源』でも、20年前に宇宙に向けて発信した人類からのメッセージに、反応が返ってくる。
それはDNAの配列のようであり、そのDNAと人間のDNAを結合させる実験の末、生まれた子供が、人類侵略の先鋒となる内容だった。
そういえば『エイリアン』の船には猫も乗ってたな。


プロメテウス号は「LV223」と名づけられた惑星に接近する。
2年以上の眠りから覚めた17人のクルーは、土星のような輪のある、その惑星の、灰色で荒涼とした大地に降り立った。
滑走路のような直線がひかれた、その先には巨大なドーム状の遺跡が見える。
惑星の大地は宇宙服に身を包んでなければ、呼吸もできない環境だったが、遺跡の中は酸素が作られており、ヘルメットを脱いでも問題ないことがわかる。

探査隊の中に、ウェイランド総帥自らが「生みの親」である、人間型アンドロイド、デヴィッドがおり、遺跡の壁にあるスイッチに手を触れると、探査隊のメンバーたちの前に、ホログラムの映像が現れる。
この遺跡の住人たちが必死で逃げてる映像だ。その先を追うと、ミイラ化した遺体に遭遇した。
死後2000年ほど経ってると測定された。

デヴィッドがミイラが倒れてる扉を開けようとしてる。エリザベスの制止も遅く、なんで開け方がわかるのか知らないが、とにかくデヴィッドは扉を開けてしまう。
その空間には人間の顔そっくりな巨大な彫像があり、地面には無数の壺状の物体が並んでる。
扉で切断された遺体の頭部をエリザベスは持ち帰ることにする。
そしてデヴィッドは秘かに、その壺をバッグに忍ばせた。

猛烈な砂嵐の発生を警告され、探査隊はプロメテウス号に帰還。
だが生命体のミイラを見て、その先の探査は御免だと別れたはずの生物学者と地質学者のコンビは、まだ船に戻ってなかった。遺跡の中で迷子になってしまったのだ。


ここから先はほぼ『エイリアン』のような展開だった。
わからないのは、マイケル・ファスヴェンダー演じるアンドロイド、デヴィッドの行動だ。
初めて訪れる惑星の遺跡の、からくりめいた部分に対する知識がすでにあるような描かれ方だ。

デヴィッドは持ち帰った壺から採取した液体の一滴を指に採る。
「小さな事が大事に至る」
と呟いて、その一滴をホロウェイ博士の酒の中に落とす。その時に
「創造主を見つける旅の結果に待ち受ける答えを、受け止める覚悟はあるか?」
というような問いを投げかけてる。

ホロウェイはすぐに体に異変を感じる。
鏡で顔を凝視すると、眼球から尻尾が一瞬見える。


エリザベスはミイラの頭部を解剖していた。硬い表面はヘルメット状のもので、デヴィッドがそれを外すと、生命体は人間のような顔をしていた。
電気ショックを与えると頭部は爆発し、そのDNAを検査すると、驚くべき事実が判明した。
人間のDNAの型と完全に一致したのだ。

部屋を訪れたホロウェイに、エリザベスはその事実を告げる。
その生命体は人間のルーツなのか?
ではなぜそれが滅んでしまったのか?
謎に一歩踏み込んだ興奮が二人を包んでいた。二人はそのまま抱き合った。


明らかに何かに寄生されたホロウェイと、肉体的に結合したエリザベスの身に、何が起こるかは誰でも判る。このプロメテウス号には、「人工手術マシーン」というものが搭載されてる。
エリザベスは惑星に降りる前に、女性監督官ヴィッカーズに部屋に呼ばれ、その時に初めて目にしてるのだ。
カプセルに横たわると、あとは患者の指示に応じて、ロボットアームなどが、自在にオペしてくれる優れものだ。


ホロウェイの抱き合った、その10時間後に、早くも腹部に猛烈な違和感を感じたエリザベスは、
「人工手術マシーン」を必死に稼動させ、オペを要請する。
「帝王切開して!」
「手術は男性専用です」
「は?」みたいな。
「もう帝王切開じゃなくていいから、お腹痛いの何とかして!」
と半ギレ状態でカプセルに入って、腹部切開の指示を出す。
すでに腹が波打ってる。
局部麻酔で、真横にメスを入れ、丸い塊を取り出す。塊が弾けてイカみたいなものが暴れてる。
いまにもアームから外れそうだ。
エリザベス必死で縫合を指示。バチンバチンとホチキスみたいに止めてく。
「もうそれでいい!」って感じでカプセルを脱け出し、ヨロヨロと船内へ。誰か助けてやれよ。
腹かっさばいた直後にあれだけ動けるとか、もう根性でしかないな。

『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』でリスベットを猛演したノオミ・ラパスを起用した意味がわかった。この場面がインパクトありすぎて、あとの場面が印象薄れてしまってる。


一応、創造主に関する見解めいたものは提示されてるが、「この世界を誰がどう作ったか?」というようなことは、ハリウッド映画においては、「キリスト教」的宗教観であり世界観がベースになっている。この映画の中でも、キーワードになるような聖書からの引用とか、そういう仄めかしがこめられてるのだろう。
そのキーワードを探り当てながら、映画のテーマを解釈するというのは、ミステリーの謎解きの、知的興奮があることはわかる。

この映画に限らず、ハリウッド映画にはしばしば聖書からの引用や、ギリシャ神話からのモチーフや、信仰をベースとした原罪を背景に持つ物語が作られる。
アメリカ映画を理解するには、聖書に関する知識は必須という意見もある。
たしかに聖書に書かれた記述を知っていれば、「ああなるほど」というSFやミステリーはあるだろう。

でもな、日本人にしてみたら、それを知った所で
「で、どうだというのだ?」という気分は否めない。

天地創造にしても、神の存在にしても、宇宙の創造主に関しても、キリスト教を信じる人たちがこしらえた話だろう。


ハリウッド映画でそういうことを描かれると、その捉え方こそがグローバル・スタンダードみたいになってるが、それはあんたたちが勝手に思ってることでしょ、と俺などは白けた気分になる。
そういうハリウッド映画に込められた暗喩であるとか、引用であるとか、それを解きほぐすことが、キリスト教に対する理解を深めることにつながる側面がある。

いや自分以外の背景を持つ人々に対して、理解を深めることは悪いことではない。
だけど相対的に、キリスト教への理解ばかりが深まるように仕向けられちゃってはないかな?
同じようにイスラム教への理解だって深まっていいはずだし、そもそも日本人にとっては一番身近といえる仏教の知識すら、実は満足に持ち合わせてないよね自分たち。

だから俺はこの映画が描く宗教的な背景などは放っぽっといて、勝手に解釈することにした。
映画自体がいろいろ謎を残しすぎてるというのか、どうにでも解釈してくれという風にも見えたんで。


俺は、この映画は「人類の起源」でも「エイリアンの起源」でもなく、あれは「核物質」のメタファーだと思った。「核」のメタファーなど、ありふれた解釈にすぎると普通なら自分でも思う。
だがこと、この『プロメテウス』の母体となる『エイリアン』というSFシリーズを顧みると、そう考えたくなってしまうのだ。

いま公開中の『ダークナイト・ライジング』にしても『アベンジャーズ』にしても、問題解決の手段に核物質(核兵器)が出てきてしまう。
『アルマゲドン』にしても『インディペンデンス・デイ』でもそうだった。

対して『エイリアン』シリーズでは核兵器の描写や言及がない。
つまり安易に使用すべきものではないという、SFクリエーターとしての「慎み」を感じるのだ。

アメリカ人は他所の国に核爆弾を投下しておきながら、そのおぞましい破壊力に関して、あまりにも想像力が欠けている。
『ダークナイト・ライジング』で、バットマンが核兵器をゴッサムシティ沖の海に投下して、事なきを得るような結末をつけてるが、事なきを得るはずないだろ。
町一つ滅ぼすような破壊力のある核兵器を海中で爆発させれば、海洋生物はほぼ死滅する。
ゴッサム市民は未来永劫、海産物は食えないぞ。

『プロメテウス』は一貫して灰色のトーンの映像で仕上げられてる。
惑星の不毛な大地も、その空も灰色だ。
核戦争後の死の灰に覆われたような世界だ。

惑星にある巨大なドーム状遺跡は、核施設にも見える。
あの無数に並べられた壺は、プルトニウムの燃料棒に見えるし、あの遺跡の中だけ酸素があり、天井から水が滴っている、その水は、燃料棒の冷却水に例えてみる。

エリザベスたち人間があの場所に足を踏み入れたことで、厄災がもたらされる。
触れてはならない「パンドラの箱」を開けてしまったのだ。
あのエイリアンの原型となるヌルヌル生命体は「放射能」ということだ。
夥しい量の放射能を浴びた人間が体に異変をきたす。

シャーリーズ・セロン演じる女性監督官ヴィッカーズが、生命体に寄生され変貌を遂げつつあるホロウェイを、船に乗せようとせず、火炎放射器を浴びせる場面は、放射能汚染された人間を見殺しにする「体制側」の姿勢を象徴してる。

エリザベスたちが、洞窟壁画から「メッセージ」を受け取って、惑星の遺跡に辿り着く過程は、人類が核エネルギーを発見する過程となる。

人間には好奇心や探究心というものが備わっており、最初に火を発見して、それを使いこなせるようになった人間が、核エネルギーを発見するのは必然だったのだ。

だが最初に発見した「火」の力に、依然として頼らなければ、文明を維持できないという人間が、「火力」に代わる革新的なエネルギーを発見し得てない人間が、「核」を扱う資格はまだないのだ。
使用済み核燃料の最終処分をどうするのか?
その問題も、例えばフィンランドでは10万年後まで見据えて、どう処分すべきかの議論がなされている。ゴミすらそれほど厄介なのだ。

あまりに安易に「核」を解決手段に使おうとする従来のハリウッド映画に対する、『プロメテウス』は一つの見識を示そうとしてる。
「核」はまだ人類が扱えるシロモノじゃないのだという。
日本人の俺はそんな風に解釈した。

2012年9月1日

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コメント 4

YaCoHa

思い出しました、「男性専用」。
私もその意味がわかりませんでした。(笑;)
by YaCoHa (2012-09-04 23:20) 

inuneko

男性というか、社長専用なんでしょうね。
by inuneko (2012-09-05 00:36) 

jovan兄

YaCoHa様、inuneko様

コメントありがとうございます。
そうですね、社長用ですね。あの社長の状態だと、どんな手術も無理めな感じでしたが。
by jovan兄 (2012-09-05 02:42) 

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