まばたきしない、汗かかない [映画ヤ行]

『闇金ウシジマくん』

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以前に韓国映画『息もできない』を見た時の感覚に似てる。映画が似てるわけではない。
『息もできない』は公開時に高い評価を得た。
主人公の若いヤクザと女子高生が、埠頭で肩を寄せ合う場面には
「孤独な魂の触れあいに涙がでた」とか、コメントが踊ってたが、
俺には一滴たりとも泣ける要素はなかった。

主人公はなんの躊躇もなく、人をポカスカ殴れる人間だ。
その人間の家庭環境が描かれようが、心に抱えた鬱屈を描かれようが、あんな風に人を殴れる人間の魂など、推し量れるべくもない、俺には。

だがそうやって暮らしてる主人公の、日常の物言いとか、仕草とか、行動などが、注意深く描かれてはいたので、言ってみれば動物園のオリの外から、そういう生き物を、しばらく観察してるような気分にはなった。

あの映画が主人公のヤクザに非常に接近してカメラを向けながら、その人間に過剰に思い入れるわけでなく、観察眼としての接写を行ってるのが、暑苦しくなくて良かったのだ。


この『闇金ウシジマくん』は原作の漫画も、テレビドラマ版も見たことないが、主人公の闇金業者「ウシジマくん」の徹底した無表情ぶりに、キャラ立ちした登場人物を見る楽しさはまず感じた。

闇金業者の取立ての哲学と、取立てられる側の人間の、「人生の環境」が映し出されるが、この映画にもし観客に対して「明日は我が身」というような思いを抱かせようという意図があったとするなら、それは上手くいってるとは言えない。

鈴木未來という、20才くらいの女の子と、未來の幼なじみで、イベントサークルを運営して、成り上がろうと野心を燃やす青年・小川純のエピソードが半々に語られるが、二人とも「明日は我が身」を、肩代わりするような人物像ではない。


大島優子が演じる未來は、母親のやってるスナックを週2日ほど手伝うだけで、高校出て以来、進学もバイトもせず、ブラブラしてる。
その母親はパチンコに嵌っており、生活費もロクになさそうな状態に見える。
未來と歳の離れた小さな弟に、食事を作るのも煩わしいという様子だ。

未來は間近で見て、弟が不憫と思ってるようだが、なら自分がバイトするなり、なんかしろよと思う。
過去にバイト先で何かあり、トラウマになって働けなくなってるというような背景があるわけでもなさそうだし。

黒沢あすか演じる母親はロクデナシではあるが、
「今まで未來ちゃんを食べさせてきたんだから、
今度はお母さんのために稼いでくれてもいいいでしょう?」
とは、言い分が全く通らないとも言えない。

父親が不在で、小さな弟がいるとなれば、20才の未來が家計を助けるのは当然に思える。
まあ母娘の様子を見てると、娘の持つ金も母親がせびってパチンコに費やしてる感じだが。
それなら母親に見切りをつけて、家を出て、貯蓄できた時点で、弟を引き取ればいい。
この未來の、働こうとしない理由が見えないのだ。

母親はスナックもたたむことになり、アパートで売春をするようになる。
スナックの客を誘ったりしてるんだろう。
家から出てくる見知らぬ男を見て、未來は
「お母さん、売りやってるの?」
と糾す。母親はまったく悪びれた様子もなく
「ねえ、未來ちゃん、頼みがあるんだけど」
「今度お母さんと3Pしてくんない?」

このセリフには笑った。日活ロマンポルノを見てるのかな?と錯覚しそうだ。
激昂する未來に
「若いうちに女を売っとかなきゃ損だよ」
しかしこのセリフが出ることで、
「ひょっとすると、未來はしちゃうのか?」と期待してもいいとこなんだが、演じてるのがアイドルの子だから、その描写はあり得ない。

見てる方が、それはあり得ないよなと、期待より諦め気分が先に立つ。
つまりそう思わせてしまう時点で、脚本とキャスティングが乖離してしまってるということだ。

なので大島優子が、セリフ回し自体は「棒」というわけでもなく、そつなくこなしてるとは思うが、その先の展開に限界が見えてしまってるから、登場人物としてスリリングではないのだ。


もう一人の、林遣都が演じる小川純は、もう少し人物像はクリアではある。
元は大学のその手のサークルから出発したのか、年下のイケメンたち「ゴレンジャイ」を束ねて、女の子たちを集める、イベントサークル「バンプス」を主催してる。
3台持つケータイには3000件のアドレス。
その人脈が自分の武器と公言してる。

セレブの集うパーティに、若い女の子たちを手配した純は、主催者社長から招待客に顔を通される。
そこに居合わせたFX長者の猪俣は、人脈が武器という純に対し
「武器になるのは金しかない」
と慇懃に言い放つ。

そのパーティの場にいきなり、丑嶋が率いる闇金業者「カウカウファイナンス」の男たちが乱入する。
猪俣が過去に踏み倒した債権を、丑嶋が引き継いだという。
まだ横柄な態度を崩さない猪俣を押さえつけ、銅線を剥き出しにした電気コードを眼球に突き刺そうとする、その恐ろしい迫力に猪俣は縮み上がる。

借金の総額は1千万。
「明日には必ず!」と言う猪俣に
「借金まみれの奴の明日など信用できるか」
「今払えなければ、半金の500万をこの場で、肩代わりしてくれる人間を探せ」

遠巻きに見てたパーティ客の成金たちは、猪俣が懇願しても、誰も金を貸そうとはしない。
純は金だけの空虚なつながりを目のあたりにした。

猪俣は男たちに引っ張って行かれた。丑嶋に何か言おうとした純に
「金は奪うか奪われるかだ」
「人に媚売って手に入れるもんじゃねえ」


純は2000人を集める一大イベントに、成り上がりのチャンスを賭けていた。
年下のイケメンたちから「おとーさん」と呼ばれ、束ねてるようで、内実は小間使いのようなことまでさせられる。「商品」に足元を見られてるのだ。
イベント会場の人間からは、会場代の前払いを要求され、チケットも捌ききれてない。

苦し紛れにウシジマくんの闇金に金を借りに行くが、
「最初は10万しか貸せねえ」とにべも無い。
純は闇金に一泡吹かせてやると画策する。

女の子たちに金を借りに行かせ、払わないままにし、取立てに来た所で「恐喝された」と訴えさせる。
黒岩刑事は丑嶋をその場で逮捕し、拘留する。
告訴を取り下げさせるには、示談金を払わなければならない。
「カウカウファイナンス」のガサ入れだけは避けなければ。
ウシジマくんは弁護士の西尾にその手配を頼む。
純は闇金から巻き上げた示談金を、会場代にあてる心積もりだった。


ウシジマくんを相手にするだけでもリスク高すぎるのに、新たな難題が降りかかった。
チケットを売りさばくイケメンのうち、一人と連絡がとれないでいる。

その男はイベントに来た女の子をトイレに連れ込んで無理打ち(暴行)する常習犯だったが、純のケータイに聞き慣れない男の声で動画が届き、そこにはバスタブで熱湯を浴びせられるイケメンの姿が映されていた。
「100万寄こせ」
電話の男は「肉蝮」と呼ばれる怪物だった。

示談金をせしめることに成功した純は、そこから100万を、指定されたマンションに持って行く。
下のポストに金を入れ、部屋に上がると、バスタブに、恐怖で人が違ったようになった「ゴレンジャイ」のメンバーがいた。

「肉蝮」は飽き足らずに、さらに「100万寄こせ」と。
今度はケータイ画面に、純の実家の写真が。
どこで調べたのか家族構成まで把握しており、脅迫してくる。

示談が成立したことで、警察から出てきたウシジマくん。
てんこ盛りのプレッシャーに追いつめられる純は、勝負の一大イベントの場にいた。
ウシジマくんも、「肉蝮」も会場に向っていた。


新井浩文が、地顔がよく判らないほど、風貌を作り込んで、怪物「肉蝮」を演じてる。
なぜ純とつながったかというと、「ゴレンジャイ」のレイプ男の被害を受けた女の子が、
肉蝮曰く「俺の女だった」とのことだが、真夏にフード付きのジャンパー着てるとか、明らかに「尋常じゃない」この男に惚れる女がいるのか?
それとも「商品」としての女という意味合いなのか?
原作には肉蝮の背景がもう少し描かれてるんだろうが、この辺が曖昧に感じた。

林遣都が演じる純が、たて続けにプレッシャーに晒されながら、意外に転んでも只じゃ起きない「往生際の悪さ」を発揮するんで、このキャラに引っ張られて見ていける感じはあった。
ただ純も生き方の志向が「ハイリスク、ハイリターン」だし、崖から転がり落ちる可能性はハナからあるわけだ。


「明日は我が身」を感じさせようとするなら、もっとごく普通の生活を営んでた人間が、あっという間に無一文となり、状況を好転させようと、逆に深みに嵌っていく。そういう怖さを描くべきで、
「闇金に頼るような人間は、そもそもそういう人間なのだ」
というサンプルでは、見る側も「眺めてみる」姿勢になってしまう。

文章の最初に書いた『息もできない』と同じく、無責任に観察してる感覚だ。
その意味では、いろんなキャラが出てくるんで楽しめる。

原作はもっと債務者の「堕ち方」がエグいんだろうし、もし韓国映画に作らせたら、そのあたりの描写もねっとり容赦なくやってくれただろう。

山田孝之が画面に映ってる限りにおいては、一度も瞬きしないで能面を貫くのは立派。
ウシジマくんは汗もかかないという設定だそうだ。

2012年9月7日

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コメント 2

inuneko

原作の酷薄さが好きなんですが、レビューを拝見してドラマと映画も見たくなりました。
ウシジマくんと韓国映画は相性いいかも!すごく残酷な映像になりそうですが(笑)
by inuneko (2012-09-07 20:19) 

jovan兄

inunekoさま。

コメントありがとうございます。
そうですか、やっぱり原作はエグいんですね。今度読んでみようと思います。ヤマダくんも良かったとは思いますが、あの無表情ぶりは韓国の男優に演じさせると凄味も増すような気がします。
by jovan兄 (2012-09-09 01:05) 

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