インドネシア容赦ない『ザ・レイド』 [映画サ行]

『ザ・レイド』

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ブルース・リーが十数分だけ出てる「主演作」の『死亡遊戯』を、封切りの時に、日比谷映画で見た。

黄色に黒のラインが入ったトラックスーツを着た、ブルース・リーによる格闘場面が十数分撮られたまま、彼の死で未完となった「幻の映画」を、代役を使って完成させたものだ。

短編を長編映画に作り直すということは、よくあることだが、断片的なフッテージから、1本の長編映画をこしらえるというのは稀だろう。

その無理矢理感は公開前の段階からプンプン臭ってはいたが、映画オープニングの、ジョン・バリーのテーマ曲のカッコよさに
「ああ、これはちゃんとした映画になってるはず」
と、つかの間胸を撫で下ろした。

だが本編に入り、リーとおぼしき主人公は現れてからは、もういけない。
黒いグラサンで目は覆っているが、本人ではないことは一目瞭然だった。

一応代役の人たちも、それなりカンフーを習得してるから、動きは悪くない。
遠目でアクションを見てる分にはいいが、寄るともろバレで、場面によっては、ブルース・リーの顔をはめこんだりしてる。

本来なら「ふざけんな!」ってとこなんだろうが、俺を含めて、映画を見てた客たちは、
「なんであれ努力してることは認める」
というスタンスだったと思う。そして代役であれ、
「あれはブルース・リーなのだ」
と、自分の中で脳内変換させて見てたのだ。

こんなに観客に気を遣わせる映画もない。

そこにはもちろん商売っ気があったにせよ、ブルース・リーの雄姿を、いま一度スクリーンに甦らせようとした、作り手の執念と、そのことを踏まえて気を遣いながら見る観客の、そんな不思議な連帯感があの映画を形作ってたんだと思う。

ブルース・リー 死亡遊戯.jpg

その観客の気遣いが終盤の「レッドペッパー・タワー」(唐辛子塔ってどうよ?)での本人登場で報われる。
と同時に代役たちに「今までご苦労さん」と言う気持ちにもなった。

階を上がるごとに刺客が現れ、本物のブルース・リーが打ち倒していく。
ヌンチャクの戦いも見れる。

ただ最上階のラスボスの、カリーム・アブドゥル・ジャバーがな。
俺はその時は胸に閉まっといたが、あれはどう見ても「ただのノッポ」だ。

バスケ選手としてはスターでも、リーのもとでジークンドーを習ってたとは云っても、あんな蹴りでブルース・リーの相手は務まらない。
チャック・ノリスに見劣りしすぎる。
そのラスボスの残念感だけは拭えなかった。


でようやく、この『ザ・レイド』に話がつながる。
日本に入ってくること自体が珍しいインドネシア映画だが、『死亡遊戯』の「レッドペッパー・タワー」でのシークェンスだけを抽出したような、全編が殺し合いという凄まじさなのだ。

ジャカルタにある、麻薬王が君臨する、スラムのような30階建ての高層アパートに、20人のSWATチームが突入する。
プロットはそれだけだ。
スピルバーグの『激突!』なみにシンプル。


SWATチームは完全武装して乗り込んでるが、見張りの一人に逃げられ、麻薬王リヤディは、突入の事実を知る。
アパートの各階に設置されたカメラによって、SWATチームの位置が把握され、リヤディはモニタールームから、全館に通知する。

「当ビルに害虫が侵入した。駆除に協力してくれた者には、アパートの永住権を与えよう」

それを聞いて、ドアというドアから、住人たちがワサワサと襲い掛かってきた。
襲撃に備えて、向かいのビルに配置してた麻薬王のスナイパーたちの銃撃も受け、20人いたSWAT隊員は、瞬く間に半数以下となる。

SWATのチームリーダーのジャカは、奇襲作戦を計画したワヒュ警部補に、本部に応援を要請してほしいと告げる。
だがこの作戦は警部補が独断で決めたもので、応援は来ないことが判明。
退路も断たれたSWATチームは、一転窮地に陥る。

屈強なジャカは徹底抗戦を覚悟するが、自分のチームの中に、救世主となる男がいることに気づいてなかった。


SWATに配属されたばかりの新人警官ラマは、インドネシア発祥の格闘術「プンチャック・シラット」の使い手だった。

リーダーのジャカと別行動となったラマは、なみいる敵を次々に打ち倒していった。
凄まじい速さの拳と蹴り。
ナイフや棒も自在に操り、容赦なく留めを刺してく。
6階からリヤディのいる15階まで、ラマは徐々に歩を進めつつあった。

階が上がるごとに、銃撃戦から肉弾戦へと様相は変わっていった。
そしてリヤディの側近「マッドドッグ」が動いた。

ジャカが銃を突きつけられると、マッドドッグは、銃など必要ないというジェスチャーで、ジャカを呼び寄せる。
素手でカタをつける気だ。

ジャカも腕に覚えはあるが、マッドドッグの強靭さは想像を超えていた。
拳も蹴りもまるでダメージを与えられない。
ジャカの表情に絶望の色が滲んでくる。

二人の戦いを知る由もないラマは、後から後から湧いてくる敵に、満身創痍となりながらも、前進を続けていた。
もはやラマが15階に辿り着いた時、マッドドッグと相まみえることは、避けようがなかった。

ザレイド2.jpg

主役ラマを演じるイコ・ウワイスはマスクもいいし、格闘のスキルも半端ないので、これはトニー・ジャー以来のスターになりそう。
この映画が前述した『死亡遊戯』より優れてるのは、なんといってもラスボスがガチに強いという所だ。

マッドドッグを演じるヤヤン・ルヒアンは1968年生まれというから、映画の撮影時には43才になってるが、29才のイコ・ウワイスに全く遜色ない、動きの速さと技の切れを見せる。

この人はプンチャック・シラットの他、さまざまなマーシャルアーツを習得してるだけでなく、
「インナーブリージング」という、衝撃に耐えられる体を作るテクニックも持っているという。

「拳も蹴りもまるでダメージを与えられない」という設定は絵空事ではないのだ。


こういうマーシャルアーツ系の映画は、とにかく肉弾戦を「ひえええ」とか「うはあああ」とか感嘆を漏らしながら、画面に釘付けになるというのが楽しいのであって、その意味ではアドレナリン出まくりで、見終わってグッタリするほどだ。

インドネシアおそるべし。

ジャカを演じたジョー・タスリムという役者は、口ひげのはやし方とか、全体の印象が、フィリピンの歴代最強ボクサー、マニー・パッキャオそっくりで、これは本人が意識してやってるんだろう。

監督がイギリス人のギャレス・エヴァンズという人で、演出スタイルに垢抜けた感覚がある。
アジアの監督だともう少しドロ臭くなるところだろう。

2012年11月5日

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안전놀이터

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