飛び降り騒動はダイヤ狙う陽動作戦 [映画カ行]

『崖っぷちの男』

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マンハッタンの由緒あるルーズヴェルト・ホテル、その21階の表通りに面した部屋の窓を乗り越えた男が、40センチに満たない建物の縁に立った。
ほどなくその姿を目撃した通行人たちが、一斉にホテルを見上げ始め、周囲は騒然となる。

男は元ニューヨーク市警の警官だった。25年の刑を言い渡され、収監されてた刑務所から、父親の葬儀に参列するため、特別に一時出所を認められ、その墓地で監視の刑務官を振り払い、脱走したばかりだった。

男の罪状は時価4千万ドルの「モナークダイヤ」を盗み、闇で売り捌いたというもの。
たまたま非番の日に、貴金属輸送車の護衛のバイトを引き受け、その輸送車が襲撃された。
それを警官である男が仕組んだものと判断されたのだ。

男は自分が立つホテルの真向かいにあるビルを睨んでいた。
そこは「モナークダイヤ」の持ち主だった、不動産王イングランダーが所有するビルだった。


自殺志願者と思えた男が、自分の身の潔白と、自分を嵌めた相手に対して「礼」をするという、一石二鳥な賭けに出る、その設定は上手いと思う。

この映画の野次馬のように、ビルの屋上に人が立ってるのを目撃すれば、飛び降り自殺かと思うだろうし、あとの興味は「いつ飛び降りるのか?」だろう。
そのためにケータイのカメラをかざしてる。
駅で飛び込み自殺があっても、通勤中の人々は「はた迷惑なことしやがって」くらいにしか思わない。
ほとんどの人間は、自殺しようとする本人が、そこに至るまで、どんな苦しみを抱えてたのか、そんなことに思い馳せることもないのだ。


主人公の警官ニック・キャシディには、はなから飛び降り自殺をするつもりなどはないのだが、「自殺するしかない」という風に見えた人間が、人生逆転の大芝居を打つ、思い上がった相手に鉄柱を下す、そこに痛快さが生まれる。

ニックは父親の葬儀の場で殴り合いとなる、「ろくでなし」の弟ジョーイがいるんだが、そのジョーイがホテルの向かいのビルの屋上に現れるあたりから、この映画が新手の『ミッション・インポッシブル』なのだと気づかせてく。
ジョーイはラテン系の美人の恋人アンジーを、現場に伴ってる。屋上で小規模な爆破を起こして、そこからビルに忍び込もうという算段。

なぜそんなことをするのか?そのビルの15階には、超高額の貴金属などが保管されてる金庫室がある。
イングランダーは「モナークダイヤ」をニックに盗まれたと証言してたが、現物は保管してあるとニックは確信していた。イングランダーは盗難によって、高額の保険金を受け取っていたのだ。


ニックとジョーイが今回の計画を仕組んでるとすれば、兄弟のいがみ合いも演技ということになるし、父親の葬儀も本当だったのか?ということになる。
もちろんその答えは明らかになるんだが、この映画に関しては様々なツッコミ所があることは、見ればわかる。


まずジョーイとアンジーの「怪盗カップル」なんだが、プロっぽい装備を揃えて、実行に及んでるが、どうやってそんな装備や、スキルを学んだのか?
それはそういう稼業を続けてきたからという見方はできるが、そうなるとジョーイと兄のニックの関係性がわからない。
「泥棒稼業」の弟を持つ兄が、ニューヨーク市警の警官だったわけだろ。
兄弟とはいえ、互いに生きる道はちがうってことでは済まされないと思うが。

ジョーイがスキルを仕込まれたのは、父親からかも知れないことが、映画の中で匂わされてたりもするんで、そうなると、ますます兄のニックだけが警官という仕事に就いてるのが違和感ある。

ニックはホテルの建物の縁に立ちながら、体につけた超小型のマイクを通して、ジョーイと交信してるんだが、当然イングランダーのビルの内部のことは見ることができない。
ジョーイからの通信で見当をつけて指示を与えてる。その指示が的確なんだよな。

金庫までの通路に熱線感知センサーがあるんだが、それを即座に「冷やせ」とか指示してる。
ジョーイがどうやるかは見てのお楽しみだが、金庫室に入ってからも、センサーが張り巡らされて、元の配電盤のコードを切断することになるんだが、そのコードの色まで知ってる。
一介の警官がなんでそんな知識まであるんだよ?

みたいな点が気になってくると、そもそもニック自体、100%「シロ」な存在なのか?と疑問も湧いてくる。


ニックを演じるのはサム・ワーシントン。なんと今年日本では5本目となる出演作の公開だ。
この映画は彼の個性を、これまでの映画では一番生かしてると思う。
垢抜けない感じなんだが、その朴訥さが「裏表がなさそう」な人物像という印象を与える。
つまりはそこが「引っ掛け」であって、警官ニック・キャシディは白なのか黒なのか?映画を見終わった後も、尾を引く感じがあるのだ。

ニックから交渉人に指名される女性刑事リディアを演じるエリザベス・バンクスがいい。
彼女はきわどいコメディにも臆せず出て、サラリとこなしてる、そのさばけた感じが以前から好印象な女優。
この映画ではひと月前に自殺志願者との交渉に失敗して自信を失くしてるという設定なんだが、現場では男どもには一歩も引かない勝気さも見せて、難しい匙加減の演技をこなしてた。

リディアと交代させられる刑事を演じてたのは、エド・バーンズ。以前はエドワード・バーンズと名乗ってたが。
彼が監督・主演した『マクマレン兄弟』からもう17年になるのか。
監督・主演作をその後も何本か作り続け、『プライベート・ライアン』で役者として次期スター候補にも上げられた。デニーロと組んだ『15ミニッツ』で主演するも、その後が続かず。

彼のマスクはアメリカ人が好む面長でタレ目なんだが、ウィークポイントが「声」なんだよな。
これで声が渋ければ間違いなくスターになってただろう。
そのエド・バーンズも久々に見たが、あの万年青年みたいな持ち味だったのが、すっかり中年のオヤジ顔になってた。

もう一人のエドは、イングランダーを演じるエド・ハリスだが、なんか痩せたな。
相手を恫喝する得意の演技を見せる場面もあるが、迫力が足りない気がした。
まだ62才だからね、老け込むには早いと思うんだが。

2012年7月15日

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토토사이트

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by 토토사이트 (2023-10-31 14:13) 

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