フィリピン容赦ない [映画カ行]

三大映画祭週間2011

『キナタイ マニラ・アンダーグラウンド』

キナタイマニラ.jpg

「三大映画祭週間」とは、「ヒューマントラストシネマ渋谷」にて開催されてる上映企画。
カンヌ、ベネチア、ベルリンの世界3大映画祭で受賞した映画に、ロカルノ、セザール賞受賞作など加えた9本の日本未公開作(一部はTIFFで上映済)を集めてる。
俺は5回券を買って見に行った。


この『キナタイ…』は「屠殺」というような意味のフィリピン映画。
題名からしてヤバそうなんだが、実際ヤバい。

冒頭、マニラの喧騒を切り取るカメラが生々しい。この映画の主人公となる、警察学校の生徒が、花嫁とともに、役場で簡素な婚姻の手続きに行く所だ。
この主人公は顔が若い頃の石橋保に似てるんで、以下タモツと記す。

その後、親族の集まった披露宴で、新妻との新たな人生を控えて、頑張ろうと心に期すタモツ。
その晩、新妻と過ごすのかと思いきや、タモツは夜の雑踏の中にいた。貧乏学生のタモツは、すでに汚職に手を染めてた友達の手引きで、麻薬売買で小遣いを稼いでいたのだ。
俺の知り合いが昔フィリピンに旅行に行った時に、警官に呼び止められ
「拳銃を買わないか?」と言われたと聞いたことがあるんで、この描写には驚くことはなかったが。

その仕事を終えて家に戻ろうとすると、友達が元締めを紹介するから挨拶しとけと言う。
ワンボックスに乗せられ、元締めらしき男は、ダンスバーの前で車を止めた。
そして店内から女を連れ出し、車に押し込んだ。
女はマリリンと名乗る娼婦だった。麻薬の代金を滞納してたらしい。恫喝され、叩かれたり、小突かれたりして、女はすすり泣いてる。
女の口にテープが貼られ、タモツを含めて5人の男たちが乗った車が走り出した。
いきなりの状況に狼狽えるタモツ。男たちはどこへ行くとも答えないし、質問できる空気じゃない。
友達からも緊張が伝わる。

この映画の見どころは、ここからの長い移動の描写にある。

女のすすり泣きだけが聞こえる車内。車は街中から抜けようとしている。
「いつもこの辺は渋滞してんだよなあ」とか、
「あいつの息子、あのビルに就職決まったんだってよ」
などと、時折ボソリと会話するだけの男たち。
車は渋滞を抜け、郊外への幹線道路へ。夜の闇の中、行き交う車の数も減ってきている。
「一体どこまで行くんだろう…」
つい数時間前まで、花嫁と披露宴で幸せに包まれてた自分がなぜここに?

幹線道路から外れ、さらに進む内、急に元締めが
「女を座席の下にやれ」と言うと、隣席の男が殴る蹴るの暴行を加え、女は動かなくなった。
「死んだんじゃないか?」との声に、思わず十字を切るタモツ。
「大変だ、大変なことに巻き込まれた」
多分そう思ってるタモツの目に、道路脇の「食肉加工工場」が目に入る。
「まさかここに?」だが車はそのまま走り続ける。
「なんだスルーかよ…」一瞬安堵の表情に見える。

ほどなく車は川の土手らしき所で止まる。
「川に投げ捨てるのか?」
だが男たちは車を降りて立ちション。タモツは車から一番離れた位置でする。小便しながら迷う。
「ここで逃げ出すべきなんじゃないか?」
土手の下を覗く。足を踏み出そうとするタモツ!
でもダメだ、男たちが
「いつまでションベンしてんだ!」と怒鳴る。すごすごと車に戻るタモツ。

いよいよ田舎の道へと入って行く。バスの営業所らしき場所にポツンと商店があり、そこを少し過ぎたあたりで、車は再び止まった。草が鬱蒼と繁げる建物があり、古びた門を開け、車はガレージへ。
男たちは動かなくなった女を担いで、中に入る。
1階のキッチンらしき部屋の床を開けると、地下室への階段が。
女を地下室へと降ろした男たちは休憩するらしい。

「これから、絶対楽しくないことがおこる」
多分そう思って表情も暗いタモツに、友達が
「元締めからのプレゼントだ」と銀色に輝く拳銃を手渡す。
「これで俺にやれというのか?」
多分そう思ってビビるタモツ。
そうでなくても、拳銃を受け取るということは「これでお前も仲間だ」という印だろう。

男たちから「さっきの商店で卵買って来い」と言われ、向かった先の商店を通り過ぎ、バスの営業所へ。
バスのドアが開いてる。都心へと向かうバスがまだあるのだ。思わず乗り込むタモツ。
「逃げなきゃ、でないと恐ろしい事に加担することになる」
「でも、もう拳銃も受け取っちゃった。どうやって返せばいい?」
「逃げたらもう友達も仕事をくれなくなる、それより裏切り者として、嫁さんにまで危害が及ぶかも…」
多分こんな感じで悩む。
バスの発車時間が迫る!
「ああ、やっぱりダメだ…」
すごすごとバスを降りる。

戻ると男たちは地下にいるようだ。元締めがバケツ一杯の水を浴びせる。
踊るように目を覚ますマドンナ。その声を外で聞いたタモツは
「生きてたんだ…」
と安堵の表情。地下の男たちから呼ばれ
「飯を食うからお前、こいつを見張っとけ」

またすすり泣くマドンナと地下室で二人きりとなるタモツ。
台の上の置かれた彼女の私物から子供の写真が。
「子供がいるのか?」
「お願い、ここから逃がして」
「逃がすといってもどうやって?」

頭の中はグルグルと考えがまとまらない。
「友達は除くとして男は3人、こっちには貰った拳銃があるけど、弾は入ってるのか?」
「でもここで助けなきゃ、彼女は確実に殺されるぞ」
「おい、どうする、どうするんだ俺!」

多分そんな感じで悩むタモツ。その時、男たちが動き出す。
「よく切れるナタと、麻袋を探してこい」
指令が飛ぶ。いよいよだ…。探してる場合じゃないぞ!
戸を開けると、警察の制服が!
ここは警察の施設だったのか?男たちは警察官なのか?
男たちは道具を手に地下室に集まってくる!
どうするんだタモツ!撃つのかタモツ!
でも弾入ってなかったら?自分も殺されちゃうかも?
でも撃たないと彼女が殺されるぞ、目の前で!
どうするんだよタモツ!

ああー!ダメだ、何もできない…

マドンナと名乗った女が無残に殺される様を、呆然と眺めるしかない。
ほんと何もできないな、『マレーナ』のガキくらい何もできないぞ。


ここから先は『冷たい熱帯魚』の光景が目の前に。
あの映画はでんでんのハイテンションと共に、狂騒の中でおぞましい行為がなされてたが、こちらの場合は、男たちはルーティーンワークのように、黙々と事を行なっている。
その静かな圧迫感に身じろぎできない。

帰りの車中の男たちの振る舞いも酷い。死者に対する一片の尊厳も持ち合わせてない。
タモツはもうこの夜までの自分ではなくなってしまった。
新妻の元に帰った時、自分はどんな顔をしてるのか。

この映画はまだ一般公開の予定はないみたいだけど、公開するとなれば、やはり「シアターN渋谷」かなあ。

2011年9月24日

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(1) 
共通テーマ:映画

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。