映画みたいな女子ソフト部 [映画ワ]

『私たちの時代』

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2010年の12月末にフジテレビで放映されたドキュメンタリー。放映直後から大きな反響があったもので、俺は「見ときゃよかった」と後悔してたんだが、先週から新宿武蔵野館で、朝1回上映してるというんで駆けつけた。
元々はフジテレビのプロデューサーと石川テレビの若いディレクターが、能登半島にある門前高校女子ソフトボール部を、長期に渡って取材していこうという企画だったという。

過疎化の進む島の、生徒の少ない高校で、インターハイ全国出場を目指して、白球を追う彼女たちのひたむきな姿を追い続けることで、ネガティブな話題ばかりがメディアに乗りがちな、若い世代の、普遍的ともいえる青春の肖像を描く心積もりがあったのではないか。劇的な何かを取材しようという意図はなかった。
カメラを持つのが地元の人間ということもあるのだろうが、気の置けない雰囲気が画面から感じられる。生徒たちの素の表情が収められてる。

その部員たちを牽引するのが、女性監督の室谷先生だ。彼女は元女子ソフト日本代表として、世界大会優勝の経験を持ち、体育の教師として、生まれ育ったこの門前町の高校に赴任してきた。それから30数年、一度の転勤もなく、体育と女子ソフトボール部の監督として、生徒たちを育て、送り出してきた。
室谷先生は
「教師というのは、金を稼ぐ仕事じゃないんです」
「一人でも、一人でも多くの生徒を救ってやりたい、それだけです」と話す。
彼女は部員たちのために、自宅を合宿所にしてしまった。親元を離れて、ここに住み込む生徒も多い。
俺はこんな歳になって今更遅いんだが、こういう大人が、大人のあるべき姿なんだろうな。

室谷先生率いる女子ソフトボール部の最初の年の部員だったのが、現在は室谷監督の右腕的存在の道コーチ。彼女は室谷先生の人柄に惚れ込み、卒業後は門前高校の図書室の司書となり、部の練習ではノックを行う。部員たちの動きを見つめるツーショットがあるんだが、二の腕も逞しく、失礼ながら「男前」のお二人である。

だがそんな長期取材を始めた1年後、2007年3月25日、震度6強の「能登半島地震」が地元の門前町を直撃する。この作品でナレーションを担当している、ソフトボール部のマネージャーの子の自宅である理髪店は、運よく被害を免れたが、部員の中には、自宅が損壊し、取り壊しとなるため、長年住み慣れた我が家を諦めなければならない子も。
多くの住民が避難所での生活を余儀なくされ、茫然自失となる中、ソフトボール部は地震の2週間後には練習を再開した。
室谷監督は部員たちに
「生きているということが大事。無くなったり壊れたりした物は、また買うことができる。命は買えない」と話す。
ノックをする道コーチは檄を飛ばす
「声を出せ!声は願いなんや!」
部員を集め
「こんなことで負けてたまるか!」

取材する側も動揺したであろう、この大災害を機に、このドキュメンタリーは、白球を追う十代の女の子たちの日常を描くことから、何もなかったはずの日常を不意に襲った試練を、彼女たちが、島の人たちが、どう乗り越えてゆくのか、それに寄り添い、見つめ続けていくというテーマに変貌していく。


作品の後半3分の1位は、インターハイを目指す門前高校の戦いをカメラは追う。
門前高校には、常に県大会の決勝で顔を合わせる津幡高校というライバル校の存在がある。津幡のエースの球がなかなか攻略できないのだ。
2008年の県大会。3年生のマネージャーには最後の大会。そして定年を迎える室谷先生にとっても、これがチームを率いる最後の大会だった。
さらに門前高校は、生徒数の減少が止まらず、能登高校に統合されることが決まっている。
「こんないい高校を。勿体無いですよ」
室谷先生の口調に悔しさが滲む。

決勝の日曜日は、奇しくも秋葉原で無差別通り魔事件が起こった6月8日だった。
女子ソフトボールの試合は野球より短い7回表裏の攻撃まで。津幡に1点先制されたまま、相手エースを打てずにいた門前は7回裏に同点に追いつき、延長戦へ。
だが8回表の津幡の攻撃で、キャッチャーフライを捕りに行った1年生キャッチャーとファーストが衝突。ふたりは救急車で運ばれるというアクシデントが。
その時、レガースをつけたのは、1年生にレギュラーを奪われた3年生の元正捕手だった。
津幡の攻撃を0に抑え、その裏の打席には、その3年生キャッチャーが入る。

その3年生が1年生の有望株にレギュラーを奪われた経緯も取材してある。なのでここはもし映画だったら
「こんなできすぎた展開があるか」
と思われてしまいそうな位のお膳立てになってるんだが、これは多分長期取材の中で、部員のほぼ全員のエピソードを押さえてあったからじゃないか、と想像するが。

ただこのクライマックス的な場面を、スローモーションと無音で処理してるのは、ちょっときれいに作りすぎてると思う。
これはスポーツを描く映画全般に言えることなんだが、ここぞという場面をスローで見せるよね。
考えて見ると、これ描写の仕方が逆なんだよ。

普段テレビなんかで例えば野球中継を見てると、ホームラン打つ場面でも、予めスローなんかにはならないよね。そりゃライヴだから、いつホームラン打つかわからないんだし。スローになるのは、リピート映像の時でしょ。
つまり映画ではなからスローかますと
「ここできますよ」と言ってるようなもんで、興奮が阻害されるんだよ。
最初は通常のスピードで打つ場面を見せてほしいわけ。スローじゃないと盛り上がらないってのは、作り手が勝手に思い込んでるだけだよ。

俺はこれを「巨人の星症候群」と呼んでる。あのアニメなんか一球投げるのにどんだけ時間かけてんだよという位、CM明けまで引っ張ったりしてたからね。でもあの後、大概の映画とかアニメとか、スポーツ物でスローかますようになったんだよな。いい加減その呪縛を解き放つような演出を見せてほしい。

それからここんとこフレデリック・ワイズマン監督のドキュメンタリーを集中的に見てたんで、あの取材側の作為とか、過剰さを一切排した作り方とは、対照的な、情緒に訴えかける過剰な要素が含まれているとは感じるんだけど、これはこの題材だから、これでいいのかもと思える。

当事者の心情を反映したナレーションのつけ方が、『北の国から』の純のナレーションを連想させるという感想も見られるように、これはよくできた劇映画を見たという感触に近いのだ。
ドラマを構成するすべての要素が、図らずも、門前高校女子ソフトボール部の4年間にあったということなんだろう。

2011年11月30日

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エルポ

はじめまして。
『私たちの時代』見てみたくなりました。
しかし、ちょいと指摘を、

>過疎化の進む島の
能登半島であって島じゃないです。

>さらに門前高校は、生徒数の減少が止まらず、能登高校に統合されることが決まっている。

能登高校じゃなくて輪島高校が統合先です。
能登高校は能都北辰高等学校と能登青翔高等学校の統合校です。
by エルポ (2012-01-31 11:44) 

jovan兄

エルポさま

コメントありがとうございます。

ご指摘の通りで、大変恐縮です。
この作品に限らず、記憶を辿って書くので、思い違いや表現ミスが散見されるかもしれません。気がついたら修正するようにはしてるのですが。
今後も同じような表記ミスがありましたら、ご指摘くだされば有難いです。
よろしくお願い致します。
by jovan兄 (2012-02-01 00:22) 

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