冒頭20分のハリウッド映画術 [映画雑感]

先日見た『ペントハウス』は後半の強奪場面のディテールが強引すぎるという難点があったが、話の滑り出しはすこぶる快調だった。

ハリウッド映画でもサスペンスの要素が入ったものや、話の展開の面白さで見せてこうという映画の場合、冒頭20分位の、「起・承・転・結」でいえば「起」の部分が、周到に描かれているのがわかる。

『ペントハウス』でいえば、
主人公ベン・スティラーはどんな職業に就いてるのか?
仕事先の場所はどうなってるのか?
彼の仕事ぶりと、その人柄はどんな感じなのか?
主人公とこの後映画で係っていくのは、どんな顔ぶれなのか?
その大まかな性格は?
主人公と対立するであろう人物は誰か?
この映画がどんなテイストの映画になりそうなのか?

これらの要素、つまり建築でいうと建物の「基礎」にあたる部分を、20分ほどで、かっちり固めてくのだ。
観客に映画のストーリーにすんなり入ってもらうのに、ここの部分の明解な描写は欠かせない。
よく見てると、いかに効率的に話を語り出すかということが、演出の主眼になってるかわかる。
画面に人物をどう入ってこさせるか?次の人物への紹介を、どういうセリフきっかけで行くか、それが短いカットの積み重ねで、かなり早いテンポで描かれてく。

なので、ハリウッドの娯楽映画を見る時には、冒頭20分に最も集中して見ておくべきだ。映画によってはその部分ですでに伏線が張られてることもあるし、またタイトルバックが出てる状態でも、どんどん会話が進んでたりもする。
だからそこをボケーッと見てると、後半になって「うん?」という置いてきぼりを食うことがある。
見終わって釈然とせず、後でもう1回見直した時に、
「こんなとこですでに語られてたのか!」
と気づいたりね。
個人的にも、近年のハリウッド映画は前半3分の1あたりまでが一番面白かったということが多い。
「これからどんな物語に転がってくのか?」というワクワク感を与えてくれるような演出になってる。

だが建築でも、いくら基礎がしっかり出来てても「ウワモノ」を建てたら、装飾が過剰でダサいビルになったとか、デザインに凝りすぎて使い勝手が悪すぎるなんてことはままある。
それと同じで、映画でも後半に行くにしたがって、話の風呂敷広げすぎて、収拾つかないとか、ありきたりな見せ場で決着つけるとか、「ウワモノ」に当たる部分の描写が練られてない映画が目立つね。

日本の商業映画のクリエイターたちが、ハリウッド映画から学ぶことがあるとすれば、CGの使い方だとか、爆破シーンやカーチェイスの演出だとか言うことより、映画の「起」にあたる、語り出しの部分を、どう快調に捌いてくかというテクニックではないかと思う。


俺が今まで見た映画でも、とりわけ冒頭20分が「すげえ!」と思わせたのは、
マーティン・スコセッシ監督の『カジノ』だ。
タイトルバックが明けてから、ラスベガスのカジノがどのように運営されてるのか、その入り口から出口までの、「おっかない」部分もある裏側を、水際立った演出と編集で、それこそ息継ぎしないで、一気に語り尽くす感じだった。

カジノ.jpg

スコセッシ監督のインタビュー映像とか見たことある人ならわかると思うが、あの人も相当な早口でまくしたてるが、それは映画に関して語りたいことが山ほどあるという事なんだろう。
その監督の口調がそのまま映像になってるようだった。俺は『カジノ』のこの冒頭部分ばかり、もう何度となく繰り返し見てるのだ。

例えばこの『ペントハウス』でも、日本で同じ予算と脚本で撮らせたとしたら、140分位の上映時間になるだろう。
ちなみにこの映画は104分だ。

日本映画の場合、ちょっとでも大きな予算がついた映画になると、すぐに120分超えしてしまう。
監督が苦労して撮った所だからと、もっと見せたい所を我慢して切る、無駄なカットを減らす、そうやって研磨されたものを、最終的にスクリーンにかけてほしいのだ。

2012年2月23日

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