TIFF2012・4日目『あかぼし』『恋の紫煙2』他 [東京国際映画祭2012]

東京国際映画祭2012

『あかぼし』
『恋の紫煙2』
『ライフライン』



『あかぼし』(日本映画・ある視点)

あかぼし.jpg

140分という上映時間に、ただならぬ気合を感じ、チケットを買った。
実際これは低予算のインディーズ映画ではあるが、濃密で、脚本のロジックもしっかりとした、ちょっと驚くべき一作だった。

吉野竜平監督はQ&Aの最後に「まだ配給先も決まってない」と言ってたが、これは公開しなきゃ駄目だろ。公開されれば、その年の日本映画ベストテンに名前が挙がるはずだ。

夫が蒸発してしまった日から、精神のバランスを崩した佳子。
その夫はしばらく経って、自殺体となって発見される。
息子で小学校(5年生位か)の保(たもつ)は、表情のない母親を見つめるしかない。

家事も手につかず、夕飯はレトルト、ハウスキーパーのパートでも、ミスを連発する。
ホームのベンチで座りこむ佳子に、
「あなた、苦しんでるのね?」
と労わるように声をかけてきた夫婦は、キリスト教の布教を行っていた。

堰を切ったように号泣する佳子。
その日から、宗教の力が、彼女の拠り所となった。


前日に見た中国映画『風水』も偶然にも、夫が自殺してる。
あの家の息子は、父親の自殺の原因が母親にあると思い、それから母親を拒絶していく。

この『あかぼし』の息子・保は対称的に、こわれていく母親に寄り添い続けようとする。
だから見てて切ない。

子供連れだと布教活動に効果が出ると言われ、佳子は保を連れて、住宅を回る。
次々に勧誘が成功し、夫婦からも褒められた佳子は、みるみる生気を取り戻していく。

母親の変化が不自然とは感じつつも、保は母親が元気になってくれるならと、友達とも遊ばず、布教訪問につきあう。
トロい同級生をイジメる側の一員だった保は、瞬く間にイジメられる側に立たされる。

佳子は自分が勧誘してきた主婦が、自分以上に勧誘実績を上げるようになり、苛立ちを募らせる。
結婚の報告に来た妹は
「仏教式のは、異教になるから止めて」
と佳子から言われ、姉がいつの間にか新興宗教にハマッてることを知り、愕然となる。
「目を覚まして!」
と言う妹に、佳子は逆上し、ついには絶縁を宣言する。
「あんた、サタンの手先なんでしょ?」

パートの仕事先でも同僚に勧誘を迫り、佳子は職も失う。
さらに拠り所である夫婦のもとでも問題を起こし、佳子は墓穴を掘り続けて、孤立無援に陥っていく。

布教を行う夫婦には、カノンという娘がいた。どう見てもロシア系で、夫婦が養子にしたと思われる。
カノンは中学生だったが、援交で小遣いを稼いでいた。

学校にも行かなくなった保は、ある日カノンから
「一緒に家出する?」と持ちかけられる。

あかぼし2.jpg

佳子を演じる朴璐美は声優として有名だそうだが、存知上げなかった。
これが映画初出演だが、圧巻のダメ母ぶりである。
『風水』の母親はまだ弁護の余地はあったが、この母親は、自らドツボにはまってくような精神構造しか持ち合わせてないのだ。

だから彼女ひとりにフォーカスしてたら、見る側もゲンナリさせられただろう。
終盤は息子の保とカノンに視点が移るんで、淀んだ空気が入れ替わるような効果があった。

保を演じる亜蓮という男の子は、オーディションで選ばれたそうだが、朴璐美の濃い演技に拮抗する眼差しを持っていて、感情表現も巧みだ。
監督の演技指導の賜物なのか、とても映画初出演と思えない。

カノンを演じたブラダという(おそらくロシア系)女の子は、金髪にセーラー服という必殺アイテムで、もう演技云々を超えている。

保が母親から執拗にダメ出しされる、勧誘の決まり文句が、あんな形でラストに繋がるとは。
その鮮やかさも、脚本が練られてるという証拠だ。




『恋の紫煙2』(アジアの風・中東パノラマ)

恋の紫煙2.jpg

この映画の前作は2010年の「TIFF」のこの部門で上映されてるが、チケットが速攻売り切れで、俺は見れなかった。
このパート2は、ショーン・ユーとミリアム・ヨンのカップルのその後を描いてるというんで、本来なら前作を見てなきゃ話にならないんだが、監督がパン・ホーチョンなので、見とくことにしたのだ。

なにしろ、血まみれ不動産バブル・ホラー『ドリーム・ホーム』を作った人だ。
あれは最高だった。

今回の映画も、冒頭に出てくるのは、別のカップルなのだ。
その二人を突如襲う悲劇には、『ファイナル・デスティネーション』かい!と、思わず腰が浮くほどビビった。やっぱりホラーでくるのか?と思ったが、それはつかみみたいなもんで、あとはロマコメモードに終始する。

前作でショーン・ユー演じるジーミンと、ミリアム・ヨン演じるチョンギウは、同棲する所で終わってるらしいが、その同棲生活が半年でピリオド打たれるというのが、今回の出だし。

香港に住む二人が、一度は別れるが、それぞれが仕事の都合で、北京へと移り住み、そこで再会。
互いに想いは残してるのに、互いに新しい「恋人」がいることを知る。
その4人の関係が描かれていく。

俺はカップルがくっついたり、はなれたりって話は興味はないんだが、パン・ホーチョンの演出は、ユーモアがふんだんに盛り込まれていて、飽きさせない。
それも子供っぽいドタバタではなく、大人のユーモアで楽しませてくれる。


ジーミンが北京に移住するフライトで、いきなり知り合ってしまう、若いCAのシャン・ヨウヨウを演じてるヤン・ミーという女優。
彼女この間見た『画皮 あやかしの恋2』で雀の妖魔を演じてた。

あの時は名前がわからなかったのだ。しかし可愛いね彼女。
例によって「誰かに似てるシリーズ」でいうと、65%の人が加藤夏希と答えるだろう。

ジーミンが若い彼女か元カノかと、優柔不断に決めかねてる、その理由が
「ピンクの乳首は手放し難い」って、率直にもほどがあるぞ。

ミリアム・ヨンの「どうせ私若くないし」という、自虐入った感じの苛立ちぶりもリアルで、彼女の表情演技が、この映画を支えてる部分は大きい。

イーキン・チェンや、俺は知らなかったが、かなり人気があるらしい、ホァン・シャオミンのゲスト出演には、香港映画ファンの女性客がどよめいていた。
ちゃんとエピソードに絡んで出てるのがいい。
1作目とセットで一般公開が実現すればいいのに。




『ライフライン』(アジアの風・中東パノラマ)

ライフライン.jpg

演出にしろ、撮影にしろ、脚本にしろ、あらゆる面で「足りない」と感じた。

イラン北部の山岳地帯に囲まれた町で、多くの男たちが従事してる仕事が、送電線の鉄塔の組み立て作業。
男たちの中でもひときわ腕の立つサマンと、都会から戻って、作業チームに加わったエムラン。
二人は幼なじみでもあったが、絨毯屋の娘を巡るいさかいから、高い鉄塔の上でコンビを組む二人の男の間に、一触即発の緊張が漲る。

あらすじだけ聞けば、スリリングで面白くなりそうなもんだが、製作陣の取り組み方がぬるいんで、緊張も高まらない。
高所で作業してるんだから、まずはその危険さを画でわからせなければいけない。
この監督は『超高層プロフェッショナル』を見てないんだろう。
アメリカ映画だから見てなくて当然だけど。

撮影監督がリスクを冒してないんだよな。
鉄塔の上部から下を見下ろすようなカットがほとんどない。
下から仰ぎ見るカットか、作業員たちをバストショットで捉えるかしかない。
これが木村大作だったら、自らカメラ担いで鉄塔の上まで登って、絵を撮るはずだ。

たまに手を滑らせて、鉄骨を下に落としてしまうって描写があるくらいで、見ていて作業の怖さが伝わらないのだ。
サマンとエムランによる、決定的な事故の描写も、カットを割ってるんで、迫力もなし。

二人の男の板挟みになる、絨毯屋の娘も、セリフがあまりにも少ないんで、何を考えてるのか掴みとれない。
山岳部のロケーションは雄大でいいのだが、そこに送電線を這わせていくという、行為のダイナミズムがいまひとつだ。

鉄塔の組み立て作業というと、警戒しねければならないのは「雷」だと思うんだが、予算の都合なのか、雷の怖さを描く場面もなし。
その仕事はこの土地の男たちに代々伝わってるという、誇りを描いている部分はいいと思うのだが。

2012年10月23日

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