チャットモンチー『鳴るほど』をシネコンで見る [音楽&ライヴ映画]

『鳴るほど』チャットモンチー

チャットモンチー鳴るほど.jpg

俺は50過ぎのオヤジだが、チャットモンチーは好きなバンドだ。1stシングル『ハナノユメ』がTVKでプッシュされてた頃に、「面白い音出すバンドだな」と関心持ったのが初めだ。俺が80年代に好きで聴いてた、やはり女性のロックトリオ「ナーヴ・カッツェ」の音とか詞の世界とかと似てるなと思ったりもした。
以来CDやらDVDやら出たら買ってるが、ライヴには行ったことがない。チケットが取れないということより、絶対スタンディングになるから、腰の悪い俺には耐えられないのだ。

この『鳴るほど』は、彼女たちが3人でプレイする最後のアルバムとなってしまった『YOU MORE』に合わせて行われた全国ツアーや、地元・徳島のライヴハウスでの3人に密着したドキュメンタリー。発売されるDVD・ブルーレイには収録されない映像も見れるという1回限りの上映企画ということだが、俺はまだディスクの方は見てないから、どの辺が未収録なのかはわからない。
だが上映前にえっちゃんによるアナウンステープが流され、シネコンの注意事項をアレンジして
「上映中に、この後ご飯なに食べようかとか、おしゃべりしないでください」とか
「NO MORE 映画泥棒!」
まで言ってて場内ウケてた。
このアナウンスはディスクには入ってないだろうから、上映に来た甲斐はあったね。
後ろの方の席で入ってくる客を眺めてたけど、行儀よさそうな若い人が多かった。こういうファン層なんだろうね。

これはライヴ・ビデオではないので、ライヴのシーンはあるけど、だいたい舞台袖とか、記録として撮ってる感じ。
中身としては、ツアー中の3人を追ったフォト・ドキュメンタリー『3人の居所』の映像版かな。あの本の中でも、メジャーな存在になったことに対する、彼女たち自身の葛藤が、インタビューを通して伝わってきたが、あの本と大きく異なるのは、『鳴るほど』で密着するツアーのさ中に、ドラムスのクミコが脱退を表明することだ。

改めて書いとくと、チャットモンチーは、
橋本絵莉子(えっちゃん)がヴォーカルとギター、
福岡晃子(あっこ)がベースと曲によってはキーボード、
高橋久美子(クミコ)がドラムスという編成。
詞は3人がそれぞれ書くが、曲はえっちゃんが作ってる。一応バンドのフロントマンはえっちゃんになるんだろうが、このバンドは3人であることのバランスとか強靭さとかが際立っていて、一人欠けてしまうということが考えにくいのだ。
他のバンドでベースが脱退する、ドラムスが脱退すると聞いても「残念だけど、新メンバー探してやってけるよね」と思うが、そうはいかない。

『鳴るほど』の中で3人がターニングポイントに上げてるのは、シングル『シャングリラ』が大ヒットしたことで、バンドの方向性を巡る葛藤が各々に生まれたことだという。えっちゃんはテレビ収録の時に「この曲は明るい曲調なんで笑顔で歌ってほしい」と注文つけられたという。それまでライヴでも演奏に集中して笑顔なんて作ってられなかった。それに曲調は明るくても、これは男目線の切ない詞だから、笑顔で歌うという発想はなかったと。
でも曲は有名になると、自分たちだけのものだけじゃなくなる。これからはそういう事も意識してやってかなきゃならない。ただ、チャットの曲としては異色といえるポップな『シャングリラ』が当たったことで、今後も同じような路線を期待されてしまうのか?彼女たちの中にあるロック志向と相容れなくなる懸念を抱き始めてたのだ。
あと、えっちゃんがプロモーション活動が死ぬほど苦手で、売れるほどにその機会が増えていくことのストレスも語られてた。

徳島でのライヴハウスの映像が出るが、地元の名もないバンドがプレイしてる感じで、「メジャーになって帰ってきました」的な余所余所しさが皆無。これは悪い意味で言うんじゃなく、彼女たちの本質が変わってないということだ。これはプロの対極にある意味でのアマチュアっぽさではなく、ライヴをやることに何よりも歓びを見出す、このバンドの素の状態が消えずに残っているということだろう。
インタビューの中であっこが「プロってなんだろう、プロっぽさってどういうものなのか」と自答してる。メジャー・デビューして何年も経つのに、まだそんなことと、取られそうな発言だけど、彼女たちはレコード会社と契約して、プロになったんだから、プロらしく変わっていかなきゃいけない、なんて考えて音楽をやってきたバンドじゃないんだね。だから割り切ってやれそうなことも、ダイレクトに葛藤に結びついてしまう。

クミコが脱退を表明したのは7月で、3ヶ月後にアルバム『YOU MORE』がリリースされてる。俺は前作『告白』がアルバムとして最高峰と思っていて、シングルにしても、クミコ作詞の『ヒラヒラヒラク秘密ノ扉』の、あのアクロバティックな詞と曲の完成度たるや、真似られる者はいないだろうとすら思った。詞が非常に力強くて、聴いてて自然にテンション上がる。そのクミコの書く詞が『YOU MORE』では、どこか投げやりな、煮詰まってる感が漂うものばかりとなってる。
彼女は国語教師になりたいという目標もあるし、絵も描いてるし、チャットに関してはある種の「やり切った感」があったんじゃないか?脱退の理由を「ドラムを叩くとこへの熱意が薄れてきた」と言ってる。

えっちゃんは『YOU MORE』でもう1回花火を上げたいと言ったという。バンド自体の煮詰まり感もあったんだろう。それを聞いて「ごめん、私無理」と率直に返答したのは
「えっちゃんの決意は相当なものだったはずで、それに中途半端な気持ちで乗っかるべきじゃない」
とクミコは思ったという。
えっちゃんも
「私がやると決断したのと同じ位、やめるという決断にはエネルギーがいったはず」
と心中を察している。

ツアーの最後のステージで、歌の途中で絶句してしまったえっちゃんが、あとは顔を上げずにギターをかき鳴らし続け、ベースのあっこも、ドラムスのクミコも一心不乱に音を叩き出す、この場面は、バンドのひとつの終わりを告げる、胸の痛くなるような光景だった。
カメラはそれをステージ袖から捉えており、演奏が終わると、えっちゃんは泣きながら、袖に走りこんでくる。
あっこは肩を抱こうとするスタッフの手を払いのける。
クミコは最後までステージに残り、一礼して静かに袖に下がった。

映像はこういうシリアスな場面ばかりじゃなく、オフの彼女たちのリラックスした表情もふんだんに捉えている。
観光バスをチャーターして移動する場面では、えっちゃんがバスガイトのコスプレで登場。「これからしばらくの間…」などとバスガイドを気取りながら、彼女が小学生の時に初めて作った歌を披露するという、お宝映像もあった。
チャットモンチーは日本のロックやポップスに見られる、常套句だらけの詞をよしとしない、それだけでも貴重な存在だと思ってる。2人になった彼女たちがどう進むのか、期待というより、やっぱり不安が大きい。

2011年12月7日

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。