ホリフィールドの戦いを思い出すロボット映画 [映画ラ行]

『リアル・スティール』

img3917.jpg

『REAL STEEL』という題名を、『REAL DEAL』のもじりだとすぐに気づくのはボクシングファンだろう。元世界ヘビー級チャンピオンの、イベンダー・ホリフィールドのニックネームがREAL DEAL(真の男)だったのだ。
ホリフィールドは元々はヘビー級より一回り体格の軽いクルーザー級を制したチャンピオンだった。だがそれに飽き足らず、体重無制限のへビー級に、筋力トレーニングでビルドアップさせた体で打って出た。
そして一度はヘビー級のベルトをも巻くことになるが、実は彼がチャンプとなった1990年代前半というのは、ヘビー級最強のマイク・タイソンが、傷害罪で監獄に入ってた時期だった。そしてもう一人の強敵リディック・ボウとは3度に渡る死闘の末、1勝2敗と負け越した。
ホリフィールドは「真の男」の名にふさわしいのか?その評価にも陰りが見えていた。

タイソンは1995年にリングに復帰、間もなくWBA・WBC二団体のヘビー級チャンピオンを奪取した。4年のブランクなどないかのように、タイソンはやはり最強だと印象づけた。
そして1996年11月、ホリフィールドは、タイソンの持つWBAのベルトに挑戦することとなる。ほとんど誰もがタイソン有利を予想した。

ゴングが鳴り、タイソンはあの殺人ハンマーのような右を振ってくる。その時ホリフィールドは、そのモーションに合わせるように、自分も体を踏み込んでいった。そんなことをするボクサーはいない。誰もがタイソンの右が来ると思うと、体が引けてしまってたから。
ホリフィールドはそれでは勝てないと知っていた。あの右に合わせたクロスを狙うしか勝機はない。だから何度も何度も怯むことなく、タイソンに向かって踏み込んでいった。

ホリフィールドタイソン2.jpg

この試合をWOWOWの中継で見てたが「おっそろしいまでの勇気だな」と武者震いがした。
そして6Rに、ホリフィールドの拳がタイソンを捉え、タイソンは吹っ飛ぶように尻餅をついた。試合はその後11Rで決着がついた。ホリフィールドの攻勢に、タイソンがたまらず横を向いてしまったのだ。もうタイソンに戦意は残ってなかった。
この試合で、ホリフィールドは、誰もが認めるREAL DEAL(真の男)となった。

この格闘ロボット映画で、最強のチャンプのゼウスに真っ向挑みかかるATOMの姿は、まさにあの試合のホリフィールドのようだった。映画のリング中継のアナウンスで「ゼウスに怯まなかった初めての相手です!」と言ってる。


映画の中のボクシングシーンのコーディネイトを請け負ってるのが、こちらも5階級制覇の伝説のチャンプ、シュガー・レイ・レナードというのも嬉しい。
クライマックスの試合でゼウスがATOMをロープにつめて、速射砲のようなパンチを浴びせる場面があるが、あのパンチはレナード自身が得意としてたものだ。あれをラウンドの終盤、2分半あたりから繰り出すと、会場が一気に盛り上がる。レナードは観客を魅了する術も心得たチャンプだった。

ゼウスに打たせるだけ打たせて、我慢してディフェンスして、パワー切れを待つという戦法は、モハメッド・アリが、1974年の「キンシャサの奇跡」と語り伝えられる、ジョージ・フォアマンとの一戦でとった戦法の再現だ。


ダメな父親が子供に支えられ再生を目指すというのは、『チャンプ』や『オーバー・ザ・トップ』などと同じで、テーマも筋立てもシンプルなもの。だがベタではあるが、ベタベタではない。つまりベタついた情緒に訴えかけすぎな、この手の映画の臭みをうまく抑えてある。

それに大きく貢献してるのが、11才の少年ダコタ・コヨだろう。
前に挙げた2作や、擬似的な父子ものといえる『パーフェクト・ワールド』なんかにも通じるんだが、子役が健気で「いい子」すぎるのだ。涙を誘おうという意図が透けて見えてしまう。
このダコタ・コヨ演じるマックスは、鼻っ柱も強いし、頑固だし、現代(いま)の子のドライさもあって、それが映画にテンポを与えてると思う。
彼とロボットのATOMがダンスの練習をしてるとことか、あの微笑ましさは只事じゃないな。はっきり言って、ヒュー・ジャックマンが霞んでる。

ロボットと少年の相性のよさというのもあるんだろう。俺がガキの頃、夢中になってた『鉄人28号』とか、『マグマ大使』とか、『ジャイアント・ロボ』とか、みんなロボットのそばにいるのは少年だった。
このATOMはその中で、造形としては、ちょうど今公開されてる『ミッション・インポッシブル ゴースト・プロトコル』で、初の実写に挑んだブラッド・バード監督が手がけた傑作アニメ『アイアン・ジャイアント』のロボットを思わせる。古めかしいけど愛嬌感じるあたりが。


一箇所、ちょっと肩透かしに思えたのは、試合前の控え室でATOMが鏡に映った自分をじっと眺めてる場面。あれがなんか伏線になるのかと思ったが、なにもなかったこと。まあATOMは言葉はわかるが、ロボットなんで感情はないだろうし。眺めてて何を思ったということもないんだろうが。結構意味深に長いカットだったからね。

だがそれも瑣末なことだ。一度は自分の夢のために、息子を捨てたような父親失格なチャーリーが、ATOMとの一心同体の戦いを通して、息子マックスにとってのREAL DEAL(真の男)になるまでを、胸熱くしながら見守ってればいいんだから。

2011年12月20日

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。