ツイ・ハーク本気の驚愕武侠映画 [映画ハ行]

『ブレード 刀』

ブレード 刀.jpg

人と話してても『ブレード』と言うと「ああ、ウェズリー・スナイプスの」と返される。そうじゃなくてツイ・ハークの方なんだが。俺は香港映画をそれほど多くは見てなくて、好みも、カンフー映画より、剣劇いわゆる「武侠映画」の方が好きなのだ。

それは一時、武侠映画のクロサワなどと呼ばれたキン・フー監督の映画にハマッたからでもある。40年以上前の映画だから、テンポはゆったりしてるし、今の映画のように、見せ場を畳みかけるような演出でもない。
でも大抵出てくる女剣士は凛々しくて惚れてしまうし、キン・フーの映画は出演者が常連で固められてるんで、「あっ、この役者今度は悪役か」
などと、親しみが湧いてくるのだ。どう見ても伊集院光にしか見えない役者も、ほぼ毎回出てくる。
『侠女』の竹林での剣闘は、後に様々な映画で再現されてる。

ちなみにイヴ・モンタン主演の『メナース』の中で、モンタンがフランスからカナダに向かう飛行機の機内で、この『侠女』が上映されてた。フランス人も渋いね。


そんなキン・フー監督をリスペクトしてきたツイ・ハークが、是非監督にと招聘したのが1990年の『スウォーズマン/剣士列伝』だったが、撮影中に両者は衝突、キン・フーは監督を降りてしまう。大物だし頑固だろうことは折込済みで招いてるんだろうし、ツイ・ハークもそこはこらえなきゃと思うよ。これが実現してれば、キン・フー監督のフィルモグラフィーもまだ増えてたかも知れないのに。
ツイ・ハークは節操ない位にいろんな形態のアクションを手がけてきてるが、やはり「武侠もの」への思い入れは強いようで、この『ブレード 刀』は、その決定版と臨んだ1995年作だ。


高名な刀匠が営む刀鍛冶場で腕を磨くテンゴンという若者が主人公。やはり腕のいいチュタオとは親友同士でもある。刀匠の娘リンは二人の気持ちを自分に向かわせ、争わせようなどと考えていた。
仕事で町に出たテンゴンとチュタオは、猟師たちに浚われそうな娘を助ける、武術のできる僧侶を目撃する。
だがその僧侶は直後に待ち伏せを食い、猟師たちに惨殺される。その死体を発見したチュタオは仇を討とうとしてテンゴンに制止される。刀匠から刀鍛冶は人と争うなと、きつく教えられてるからだ。

だがその一件は刀匠の耳に入り、仇討ちに出ようとした刀鍛冶の若者たちは、竹刀で何度も殴打される罰を受ける。テンゴンだけは罰を逃れ、さらに刀匠は、自分の年齢を考え、後継者をテンゴンにすると告げる。
チュタオたち刀鍛冶は納得できず、テンゴンを無視して、自分たちだけで猟師たちを討伐に行くと決めた。
テンゴンは孤立し、刀を置いて去ろうとするが、リンと乳母が、テンゴンの出生の秘密を話し合ってるのを耳にしてしまう。
刀匠に直接問いただすと、テンゴンの父親は昔、全身刺青の「空を飛ぶ男」ルンに惨殺され、皮を剥がされて吊るされたと言う。その時、まだ赤ん坊だったテンゴンを託されたのが刀匠だったと。刀匠の鍛冶場に奉ってあった、半分に折れた牛刀のような刀は、その時テンゴンの父親が使ってたものだと言う。
復讐心にかられたテンゴンは、刀匠の制止も聞かず、その刀を手に飛び出していった。

そのことを知ったリンは、テンゴンの後を追うが、その途中で、猟師が動物に仕掛けたワナに足を挟まれてしまう。「いい獲物がかかった」と迫る猟師たち。
リンの叫び声が聞こえた気がしたテンゴンは馬を走らせ、猟師たちのアジトへ。だが大勢の敵との格闘の末、テンゴンは右腕を切断され、崖から谷底へと転落。直後に駆けつけ、リンを助けたチュタオたちも、テンゴンの生死はつかめず仕舞いだった。

瀕死の重症を負ったテンゴンを救ったのは、荒野のボロ家でひとり暮すチョチンという女。チョチンは読み書きが出来ず、町に出たがらないので、傷の癒えたテンゴンは、町の居酒屋に働きに出る。
だがその客の中に刺青の男を見る。両者は目を合わすが、片腕のないテンゴンに倒せる術はない。
夜に、刺青の男と繋がりのある野盗の一団が、チョチンの家を急襲。テンゴンは吊るされて袋叩きに合い、家は火を放たれて焼け落ちる。
またも瀕死を重症を負うテンゴンだったが、復讐への執念は、彼の生命力をつなぐ源となっていた。
焼け落ちた壁の中から剣術の書を見つけたテンゴンは、片腕による必殺の剣法を会得すべく、死にもの狂いの特訓を繰り返した。


『ワン・チャイ』シリーズで、リー・リンチェイから「黄飛鴻」役を引き継いだウィン・ツァオの剣技がとにかく見もの。
猟師たちと戦う場面の、無数の竹の回廊のような中での格闘ぶりから、すでにテンション上がるんだが、やはりクライマックスだね。

刺青の男ルンが、刀匠を殺しそこねてた事を知り、野盗たちとともに、刀鍛冶場を襲撃してくる。チュタオも、怪我を負った刀匠や、リンをかばいつつ戦うが、もはや絶体絶命。
その時、カメラが右から左へパンすると
「いたーっ!」
って感じで、テンゴンが立ちはだかってる。ここカッコよすぎ。

そしてラスボスの刺青のルンとの一騎打ちになだれ込む。
テンゴンの必殺剣法とは、片足を軸に高速回転し、その遠心力のパワーを刀に伝えて一刀両断するという技。
対してルンは、両手に鎌のような刀を自在に振るって、高い位置から、刈り込むように叩き切る技。
人間カマキリと、人間ベイブレードの、ホントに生きるベーゴマみたいな格闘がハイスピードで展開されるのだ。
「遅い!遅いぞ!」
って言い合いながら。
ここDVDで何度も見てしまう。

映画の構成としては、刀匠の娘リンのモノローグと目線で物語が運ぶんだが、正直このリンを演じる女優に魅力がない。それにリンはテンゴンとチュタオの二人を両天秤にかけようと勝手に思ってるが、チュタオにはひと目惚れした娼婦がいて、テンゴンも、リンが好きというより、刀匠の娘だから守らねばという意識に見える。
つまりはリンは「カン違い女」にすぎないわけで、彼女目線で語る必要があったのか?とすら思う。

俺はこの映画を今は無くなった歌舞伎町の「新宿シネパトス」で見た。見終わって場内が明るくなった時、そばに洞口依子に似た女性客が座ってた。彼女はあの当時、香港映画の熱烈なファンと公言してたから、本人だったんじゃないかと思ってる。
『ブレード 刀』をひとりで見に来る女性もかっこいいよな。

2012年1月11日

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