「玉を割る」とはどんな人? [牧口雄二監督]

『玉割り人ゆき』

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東映1975年の成人映画だ。なのでコメントも成人向け仕様で。
俺が中学の頃、映画の立て看板は町の至る所にあった。通学路にも扇情的な映画ポスターがイヤでも目に入り、たいがい朝の男子の話題の一つに取り上げられる。
この映画に関しては『玉割り人ゆき』の、「玉割り」とはどんな意味なのか?
ということが教室内で論議を呼んだ。きっと男のアレをクラッシュするという、剣呑な女の話ではないかと、下半身が涼しくなったものである。

あれから随分の月日が経ち、こうしてDVDが手元にあるわけだが、それは「玉割り」の意味がわかったので、そういうことなら買おうと思ったのだ。
監督は牧口雄二。70年代東映のエロ・グロ路線を語る上で、外すことのできない「鉄人」であり、ごく最近まで、その伝説の監督作のほとんどが目にすることが叶わなかった人でもある。
俺は昨年だったか、一昨年だったか、ラピュタ阿佐ヶ谷での「牧口雄二の世界」というレイト上映企画に通って、『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』と『女獄門帖 引き裂かれた尼僧』に初めてお目にかかった。
エログロアナーキーがトグロ巻いてるような、体調の悪い時に見たら食あたり起こす、異次元の怪作だった。
特に「牛裂き」の方は、殿様を歓ばすためにいろんな拷問の手段が披露されるというだけの、映画の体を成してるかすらギリギリの線にあった。

その2作に比べると、牧口監督のデビュー作でもある、この『玉割り人ゆき』は、もちろんエロいんだが、ドラマとしての情緒もあるし、ストーリーもかっちりしていた。
これには原作となる劇画があって、絵を描いてるのは松森正なのも意外だった。
俺にとって松森正は、十代前半の頃に夢中になった漫画家の一人だ。自らの復讐を映画にしようとする『地獄裁判』とか、世界で唯一「ノーベル殺人賞」を授かった女スナイパーを描いた『木曜日のリカ』とかね。
当時連載されてたマンガ誌の懸賞で、『木曜日のリカ』のポストカードが届いたんだが、セーラー服着て、銃を構えてるリカの絵柄を見て、母親はいかがわしい物ではないかと邪推してた。
その松森正が成年向け劇画を描いてたのは知らなかったな。

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例によって本題への入りが遅くなってるが、要は「玉割り人」とは、昭和初期の京都・島原の遊郭で、娼妓にはSEXの奥義を、遊郭に売られてきて、水揚げを待つ生娘には、SEXの基本技を、身体を使って伝授する達人のこと。AVのソープもので、先輩が新人に実践で教える設定のがあるけど、あんな感じね。
ゆきは女性だから、描写は「レズシーン」ぽくなる。なので買ったんだが、描写そのものは大したことない。身体に触り合ってるだけ。
だがこの技を教えるのが当人たちだけの場ではなく、周りに何人ものオヤジたちが生唾呑んで見守ってるというのがエグい。
さらにエグいのが、ゆきは二人の娼妓を同時に相手にしてるんだが、二人を絶頂に導いた後に、股間から溢れ出た液体を紙に掬い取り、オヤジたちに渡す。
オヤジたちは「甘い」とか「苦い」とか言ってる。
「甘い」方の娼妓は一級、「苦い」方は二級とされ、娼妓の買い値の競りが、その場で行われる。当時実際そんなことをしてたのか知らないが、いくら男性客しかターゲットにしてない映画とはいえ、男の俺でもちょっと引くわ。

またさらに生娘を水揚げする金持ちのオヤジが、処女を破った後の、流れつたう血をすするのが趣味とか、「おまえはドラキュラか」という、おぞましいオヤジたちがぞろぞろ出てくるのは、後の牧口監督作に通じる要素だ。

グロ描写はまだ控え目だが、それでも、大工に惚れて足抜けしようとした娼妓が仕置きされる場面は、両足の親指の爪を剥がされる描写がある。
大工を演じてるのが『牛裂きの刑』の時にも、娼妓と一緒に逃げたあげく、捕まって酷い刑で殺されてた川谷拓三だ。その大工は娼妓の隣でシラを切り、ゆきにイチモツを刃物で切り取られてた。

ゆきはその後、大杉栄を信奉するテロリストと偶然出会うことから、運命を変えられていくという筋立て。そしてイチモツを失った川谷拓三も、しぶとく生き残り、ゆきたちの行く手に立ちはだかることになる。

東映スタジオのセットと、京都の古い町並みや寺社をうまく画面に取り入れ、レトロな時代色を出している。汽車が走る場面はフッテージを使用してるが、画質的な違和感はない。予算以上に金をかけた画面に見える。
牧口監督も一作目ということで、アナーキーさは抑えられ、端正な絵作りに気を配ってる印象だ。

脚本は数多くの日本映画の名作に関わってる田中陽造。昭和初期のテロリストが物語に絡むあたりは、その前年に長谷川和彦が脚本を書いた、神代辰巳監督作『宵待草』を連想させる。

ゆきを演じる潤ますみは、元々日活ロマンポルノの女優ということだが、前にも書いたが俺はロマンポルノをほとんど見てないんで、この映画で初めて見た。綺麗な女優だな。

2012年1月12日

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