見たいけど見たくなかった夏川結衣 [映画ヤ行]

『夜がまた来る』

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一昨年の『孤高のメス』は夏川結衣のナース姿と、彼女のモノローグの声を聞きたさに、2度見に行った。
俺は『愛という名のもとに』で、唐沢寿明に冷たく扱われる令嬢役で女優デビューした頃から、彼女に惹かれていて、その後の柄本明の初監督作『空がこんなに青いわけがない』も、彼女が出てるという理由で、封切りの時に見に行ってる。ブッ飛んだOLを演じてて、ちょっと驚いた。

そして映画2作目がこの『夜がまた来る』の主役・名美だ。俺は当時彼女のことが好きすぎてたんで、絶対あられもない姿にさせられるだろう名美役の彼女を見れず、この映画だけはスルーしてしまった。
最近になってようやくDVDで見たんだが、ホントにあられもなかった。女優デビュー間もない時期にこの役を引き受けたというのは、並みの根性ではない。

このDVDには特典として、2000年に根津甚八と、石井隆監督、岡田裕プロデューサーへ取材したインタビュー映像が入ってるが、もともとはVシネマとして、『天使のはらわた・赤い閃光』と2本撮りする企画として、石井監督に依頼がきたという。
『夜がまた来る』の名美役に難航し、石井監督が偶然目に止めて、連絡を取ったのが夏川結衣だったと。
女優としてはかなり過酷なシーンを演じなければならないし、ヌードにもなる、その内容を了承した上で、彼女は「劇場映画にしてくれれば、出ます」と答えたという。
石井監督は『ヌードの夜』でサンダンス映画祭から賞金(スカラシップのようなものか)を受け取っており、それを劇場にかけるための経費に使ったそうだ。
岡田プロデューサーの言によると、「2本で1億円」という予算だというから、映画を見ると、よくこれだけの画になったなと思う。


この映画で名美は、麻薬Gメンで、暴力団に潜入捜査中だった夫を殺される。夫には麻薬横流しの嫌疑がかけられ、マスコミの容赦ない取材にも晒される。
さらに葬儀も済ませ、アパートの部屋でひとり途方に暮れる名美のもとに、夫が潜入していた池島組の組員が押し入る。
「亭主が盗んだヤクはどこだ!」
訳もわからずにうろたえる喪服の名美を、男たちは輪姦する。
名美は夫の遺骨の尖った部分で手首を切るが、近所の通報により一命を取り留める。

週刊誌の記事で池島組が絡んでると目にした名美は、組長に復讐するため、組事務所の駐車場で待ち伏せする。だが名美がナイフを手にするのを目撃した組の幹部・村木に止められる。村木は名美を組員たちに突き出したりはしなかった。
復讐を果たせず絶望した名美は、海へと車を走らせ、入水自殺を図るが、またも村木によって救われる。
村木は「二度と顔を現すな」と言って去る。

だが名美は、しばらくして、高級クラブのホステスとして池島組長の隣に座っていた。髪を上げ、和服の名美は、印象をガラリと変えていた。
同席していた村木は、名美を連れ出し「どういうつもりだ?」と問いつめる。
だが組長の池島は名美を気に入っていた。
覚醒剤を舌に乗せられ、名美はその晩、池島に犯された。

名美は池島の情婦となり、同じ寝室で寝るようになるが、それは復讐の機会を伺うための行動だった。
そして寝込んでいる池島の胸にナイフを突き立てるが、息の根を止めるには至らず、名美は池島のボディガード柴田に拷問される。
組長を狙うだけでなく、池島組と繋がりのある組が挙げられたりして、情報が外部に漏れている、そのことにもこの女が係ってるんじゃないか?柴田はそう踏んで、名美の素性を吐かそうとするが、頑として口を割らない。そこに村木がやってくる。
「裏切り者は俺が始末した」と。
村木は池島組の若い者を一人殺してきたと言って、そいつが持ってた警察手帳を組長に見せる。
少なくとも、密告に名美は係ってない。だが内部に密告者がいたことに気づかなかったのは幹部である自分の責任と、村木はその場で小指を切断してみせる。
組長は「女は千葉にでも飛ばせ」といい捨てて去っていく。


それから月日が経ち、名美は海沿いの町の、場末の売春バーに売り飛ばされていた。
そこを訪ね、名美を連れ出したのも、やはり村木だった。
なぜ村木はそこまで名美にこだわるのか。
だが助け出された名美は、覚醒剤漬けの体になっており、自分のこともよくわからないような状態にあった。
村木は工事中のビルの地下室に名美を軟禁し、クスリを抜く手助けをする。
禁断症状に苦しみ、暴れる名美。だが村木は辛抱強く彼女の回復を待った。
そしてようやく正気に戻った名美は、村木に銃の撃ち方を教えてほしいと言い、村木は名美の決意が変わってないことを知るのだった。

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夏川結衣はヌードになるだけでなく、「ああ、こんなかっこまでさせられて…」という場面もあり、組長役の寺田農がうらやましい。
地下室でクスリを抜いてる最中にも、村木を演じる根津甚八が目を覚ますと、腰の上に跨った夏川結衣が
「ねえ、クスリちょーだいよ。一発ヤッていいからさあ」
などと、服を胸までたくし上げて迫ってる。下にはなんも履いてない。
これは萌えアニメの必殺ポーズではないか。
今になってみれば、やっぱり封切りの時に見とけばよかったな。

しかし体当たりの演技はともかく、さすがにセリフはかっちかちに固いぞ。
それにヌードもきれいだし、顔も可愛いけど、あれから18年経った今の彼女の方が魅力がある。歳を重ねてどんどん魅力が増してきてるんだよな。ひとつには演技の幅が広がったことがある。
どうしてもシリアスな役柄になりがちだった彼女だが、2006年のテレビドラマ『結婚できない男』で、阿部寛との憎まれ口叩き合いなんかでの、コメディ演技の呼吸は見事で、演じる人物像に広がりが出てきてると思う。
俺は思うんだが、NHKの『セカンド・バージン』も、夏川結衣が主役を演ってればね。
映画版の時にも「見せるもんは見せて」観客の期待に応えられたんじゃないの?


それはともかくこの映画、よくあの予算で撮ってるとは言ったが、細かい部分は粗が見える。池島組の若い者に輪姦された名美が、その組員たちのいる事務所の、組長のそばにいて、なんにも気づかれないのも変だし、入水自殺の場にまで村木が助けに入るというのもね。
だけど、名美がクスリを抜くシークェンスの粘った描写は『フレンチ・コネクション2』での薬漬けされたポパイ刑事の七転八倒ぶりを思い起こさせるし、ラストに、ネックレスを握り締めてる村木の手のアップは、『ガルシアの首』のポスターのキーアートを連想させるし、70年代映画好きにはグッとくるんだよね。

フラメンコ風のカスタネットをフィーチャーした安川午朗の音楽も映画のグレードを上げてる。この後に石井監督と組んだ『GONIN』のメインテーマも最高だった。

根津甚八はとにかくカッコいい。こんな役者は他にいない。

2012年1月14日

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