韓国版『グローリー』の戦場サバイバル [映画マ行]

『マイウェイ 12,000キロの真実』

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だってオープニングに流れる合唱曲みたいなヤツ、『グローリー』のジェームズ・ホーナーのメインテーマそっくりだし。
日本人と朝鮮人、ふたりの男が主人公で、対立関係に置くとなれば、
「日本人卑怯!朝鮮人悪くない!」
な描写になろうことは予想はつく。
だがカン・ジェギュ監督はそこをテーマにしたいわけではないだろう。過去の2作の線上にこの新作を置けば、描きたいテーマや、あるいは嗜好は一貫してるんではないか?

一つは「人間の因縁」というもの。
近い距離にある二人の人間が、抗い難い力によって、憎しみ、対立、翻弄されてゆくという構図。
『シュリ』では、結婚も間近に控えた自分の恋人が、北朝鮮のスパイだと知ってしまう、韓国情報部員の苦悩を。
『ブラザーフッド』では、朝鮮戦争に徴兵された兄が、弟を戦地から家に帰すため、武勲を立て、権限を持てる地位を得ようと、鬼神の如く戦いに身を投じる内、正気を失っていく。弟は兄の真意がわからず、反発を募らせ、最後には「北」の軍服を着た兄と、戦場で相まみえる。

『恋人』『兄弟』と描いてきて、今回の関係性は『ライバル』だ。
マラソンランナーとして足を競った、憲兵隊司令官の孫、辰雄と、使用人一家の息子キム・ジュンシクの、流転の運命を、第2次世界大戦の激戦地をリレーして描いていくという、破天荒とも言えるようなストーリーになってる。

「実話」を元にしてるという謳い文句は、この手の映画にはつきもので、そこは話し半分でいい。
この映画が、『グローリー』を連想させるのは、キム・ジュンシクが、日本軍に徴兵されて、最前線に駆りだされるという展開。「自分たちのためにもならないような戦い」「大儀のない戦い」で死線をさまよう。

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『グローリー』は南北戦争を舞台にしていて、初の黒人兵で編成された部隊を描いている。リンカーン大統領は、この戦争を「黒人奴隷の解放」を大儀に掲げてたが、実際は国を一つの旗の下にまとめることにあった。
黒人兵たちは「自分たちのため」と聞かされながらも、その凄惨な殺し合いに、果たして意義などあるのかと疑問を持っていた。
一方、「黒人のため」と戦いに駆りだされた白人兵たちも、自分たちとは関係のない戦いで、血を流すなど、納得できるものではなかった。
映画の中で、同じ北軍の黒人部隊と白人部隊が、森で激しく衝突を起こす場面がある。互いに大儀を抱けない戦いに、身を投じざるを得ない、その理不尽が、『マイウェイ』のキム・ジュンシクに通じる所がある。

黒人部隊を指揮してたのは、若い白人指揮官で、デンゼル・ワシントン演じる若い黒人兵は、最初は何かと反発ばかりしてたが、映画のラスト、難攻不落の南軍の要塞を、黒人部隊が正面から攻めるという段になり、内面に変化が起こる。

日露戦争でいえば、旅順の要塞を正面から攻めた日本軍のようなもので、玉砕は必至なのだ。
だがその作戦に自分たち黒人兵を率いる若い白人指揮官は、先陣切って突っ込もうとしている。
銃弾の雨あられの中、要塞を駆け上がる白人指揮官が銃弾に倒れ、彼が持っていた部隊の旗を、デンゼル演じる黒人兵が、代わりに担いで先へ進む。
『マイウェイ』の、ノルマンディ上陸作戦のさ中に、キム・ジュンシクが、自分の認識票を辰雄に渡す、
「朝鮮人と思われれば、連合国の兵に殺されないですむ」
という場面を想起させる。
「託す」「託される」という行為の類似性だ。

『グローリー』も『マイウェイ』も俺が見る所では「反戦映画」ではない。
「玉砕を覚悟する」「意味のある死を選ぶ」という姿に、ロマンチシズムを見出そうとする作家の視線がベースにある「娯楽戦争映画」だ。あとは好きか嫌いかという問題だけだ。


俺が感服するのは、この「大ボラ」ともいえるような話を、画にして見せるためのプロダクション・ワークの本気度だ。

まずノモンハンでソビエト軍の戦車隊相手に白兵戦で望む、凄惨な戦闘場面を見せ、捕虜に取られ、シベリアの強制労働の場面を描き、そこから、モスクワを目指して進攻してきたドイツ軍と戦うため、ソビエト軍の兵士として駆り出されるジュコーフスキーでの戦い、ウクライナからヨーロッパを徒歩で縦断したキム・ジュンシクと辰雄が、辿り着いた海岸が、ノルマンディ上陸作戦の戦場となる、その場面まで、すべてに大掛かりな見せ場を作っている。
どこの国の人間を雇ってるか知らんが、ソビエト兵、ドイツ兵など、白人の俳優たちも多く登場する。

たまたま同じ日に、『山本五十六 太平洋戦争70年目の真実』も見たんだが、真珠湾攻撃の場面であれ、米国艦隊との海戦場面であれ、敵側の兵隊が全く画面に出て来ない。何と戦ってるのかわからないような空虚な戦闘シーンに呆れてたので、余計に違いが目立つのだ。

ファン・ビンビンは、『フルメタル・ジャケット』のラストに出てきた、ベトナム人少女スナイパーを思い起こさせたが、もう少し出番を引っ張ってほしかった。戦闘機一機撃ち落すって、カッコいい見せ場はあったけどね。

2012年2月11日

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