押入れからビデオ⑩『エディ・コイルの友人たち』 [押し入れからビデオ]

『エディ・コイルの友人たち』

エディコイルの友人たち.jpg

先日ベン・ギャザラの訃報を聞き、『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』でも見て偲ぼうと思ったんだが、録画してあったはずのビデオがどこ探しても見当たらない。
そうなると似たようなものでもいいから見たくなってきたんで、これを引っ張り出してきた。
1973年のピーター・イエーツ監督作。ボストンを舞台にした70年代版フィルム・ノワールだ。


ロバート・ミッチャムが演じる主人公エディ・コイルは、密造酒の輸送中にパクられ、起訴されて公判を待つ身。
50過ぎで前科持ちのエディは、財務省の捜査官フォリーから、組織の犯罪のネタを密告すれば、司法取引に応じてもいいと言われ、自分が組織のために調達している銃の密売人の情報を売る。

同じ頃、エディの調達した銃を使って、覆面をした男たちが銀行を次々と襲っていた。まず支店長の家に押し入り、家族を人質に取った上で、支店長を伴って開店前の銀行に入る。金庫のロックが解除されるのが朝の時間だからだ。行員たちには、支店長自ら、家族が人質になってると伝え、すべて犯人の指示に従うよう言い渡す。

捜査官フォリーは銃の密売人ジャッキー・ブラウンの身柄を確保、さらに、密売人の情報だけでは不十分と言われたエディが、リスクを犯して、銀行強盗の情報を渡そうとした、その前に、すでに強盗一味も逮捕していた。
だが組織の上層部は、銀行強盗の一件をタレ込んだのはエディだと目星をつけ、その始末を連絡役のディロンに任せる。
ディロンはエディが毎日のように立ち寄る、しがないバーの経営者で、古くからの顔なじみだった。


暗黒街の住人たちを主人公にしてるが、羽振りのいい男など出て来ない。組織の上の方の人間も顔を見せない。組織の末端で、吹き溜まってるような、男たちの日常が描かれる。

安い食堂のウィンドー越しに、ヌッと現れるロバート・ミッチャムの、くたびれた風貌が実にいい。
まだ若い銃の密売人と取引する場面だが、「人の話を簡単に信用するな」という教訓を、
「俺はお前より指の節が4つ多い」
と切り出すあたりから、会話の面白さに引き込まれる。
相手を信用して、引き出しに手を入れようとして、思いっきり閉められて、手を潰されたと。
若い密売人の名がジャッキー・ブラウンという所からも、この映画が、タランティーノ監督がリスペクトしてることがわかる。
この冒頭の会話の場面は、タランティーノ映画の、印象的な会話に繋がってる気がする。

もう1本この映画との繋がりを感じさせるのが、ベン・アフレック監督・主演の『ザ・タウン』だ。
舞台は同じボストンで、銀行強盗が出てくる。

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この映画で強盗たちが、銀行を後にして、目隠しをしたまま、車に乗せた支店長を、途中で解放する場面がある。海の近くで降ろし、
「ここから真っ直ぐ歩いて、100数えたら目隠しを外せ」
と言い、その間に車は立ち去る。
この場面は、『ザ・タウン』の中で、ベン・アフレックが、人質にとった女性行員レベッカ・ホールを解放するやり方と同じだった。

八方塞がりなロバート・ミッチャム演じるエディと違い、ジャッキー・ブラウンは383ヘミのエンジンを積んだダッジを転がす、イケイケの銃の密売人だ。
演じるスティーヴン・キーツは、『ブラック・サンデー』で、ロバート・ショウの相棒となる、イスラエル軍の特殊攻撃隊の隊員役で印象を残した。
弱い立場のエディにつけこんで、組織の情報を引き出そうとする、捜査官フォリーを演じるのはリチャード・ジョーダン。ミッチャムとは『ザ・ヤクザ』に続く共演だ。

そしてこの映画のキーマンとも言える、得体の知れない不気味さを放つのが、連絡役ディロンを演じるピーター・ボイルだ。
ディロンは組織上層部からエディ殺害を請け負うと、エディをアイスホッケーの観戦に誘う。
気の晴れない事ばかりのエディにとって、久々に憂さを晴らすことができ、ビールも旨い。
競技場からのディロンの車の中で、酔って寝てしまうエディに、その先はもはや無い。

監督がピーター・イエーツということで期待するようなカタルシスなどない。むしろこれで終わらせてしまうことで、後にカルト的に支持されることとなったとも言える。
多分監督自身も『ブリット』以降は何でもかんでもカーチェイスみたいなもんを求められてただろうし、ウンザリもしてただろう。
この映画にアクション場面といえる描写はほぼない。だが劇中に交される会話のほとんどが、フレンドリーなものではなく、相手を値踏みし、探りを入れ、優位に立とうとする、そういった緊張の糸がピンと張り詰めてる感覚は、しまりのないアクション映画などより、よっぽど見応えはあるのだ。

音楽はデイヴ・グルーシン。メインテーマなどは2年後の『コンドル』を彷彿とさせる。この映画の旋律をもう少し洗練させて『コンドル』が出来上がったという印象だ。

この映画は昔WOWOWで放映されたものを録画しておいたもので、
過去に一度もビデオ・DVD化はされてない。

2012年2月10日

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