ウィレム・デフォーによる「タスマニア物語」 [映画ハ行]

『ハンター』

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2本見たこの日は、『ドラゴン・タトゥーの女』が本命で、こっちはサブと考えてたんだが、なんだなんだ面白いぞ、かなり。
ウィレム・デフォーの単独主演映画がシネコンにかかるのも意外な感じだし、予告編で見た印象は、孤高のハンターの旅を描いた、ハードボイルドな内容ではないかと、見てみることにしたのだ。
実際始まってしばらくは、渋くて地味という感触で、シネコンの客層にはそぐわないんではないかと思ったが、いい意味で予想を裏切るような展開を見せるのだ。

ウィレム・デフォー演じるマーティンが、バイオテクノロジー産業の会社から依頼されたのは、タスマニア島へ行き、幻の「タスマニア・タイガー」を捕獲する仕事だった。凄腕のハンターとして名を知られていたマーティンは、仕事を請け、資料の映像をじっと眺める。そこにははるか以前に捕獲された、背中に縞のあるタスマニア・タイガーの姿が。

このプロットなら、日本映画の『タスマニア物語』があったね。タスマニア・タイガーを探すのは田中邦衛だったから、アクの強さに関しちゃ、デフォーといい勝負ではある。だけど向こうのは、小学生高学年くらいの兄弟が、父親に会いに行くような設定で、最初からファミリー映画の作りだった。
こっちはデフォーがひたすら孤独に、幻の動物を追い続ける、そういう「男のドラマ」と思って見てたのだ。
するとこっちにも出てくるじゃないか子供が。


マーティンは、タスマニア島現地のガイドから、宿を用意してもらってたが、そこは幼い姉弟と、寝込んだままの母親が住む民家だった。
動物学者の父親は、環境保護調査のため、原生林に入ったまま、もう長く音信を絶っているという。
発電機は壊れて電気が使えず、バスタブは長く放置され、湯も出ない。やたらと話しかけてくる上の女の子サスと、無口な下の男の子バイクがまとわりついて来る。子供たちは長く父親と会えずにいて淋しいようだ。
だがマーティンにはそのすべてがストレスでしかなく、逃げるように雑貨店に買出しに出る。

バーに立ち寄ると男たちの敵意に満ちた視線に晒される。男たちは地元で、森林を伐採して生計を立ててる。この地は環境保護活動が盛んで、その活動家たちとは険悪な状況にあるのだ。
マーティンは活動家に見られたようだ。
マーティンは大学の研究者を装い、タスマニアの原生林を何日か掛けて移動し、宿に戻るという生活を始める。

タスマニア・タイガーの痕跡は容易には見つからないが、他の人間が仕掛けた鉄製のワナは、原生林のいたる所に散見された。マーティンは鉄製のワナは使わない。標的が好む小動物を狩って餌とし、すべてそこにある木や枝を用いて、昔の狩猟のやり方でワナを作る。あとは五感を研ぎ澄ませて気配を追う。その繰り返しだ。

宿に戻ると、男手がなく、具合の優れない母親に代わり、マーティンが自分が快適に過ごせるように行う事が、その家族の生活の改善に繋がっていく。最初は疎ましく思ってた子供たちとも打ち解けるようになっていた。
無口なバイクがじっと見守る中で、何時間もかけてようやく発電機を動かすことができ、笑顔ひとつ見せなかったマーティンは、子供の前で歓声を上げる。
バスタブに湯も張れるようになり、マーティンは母親のルーシーを抱えて風呂に入れてやる。
ルーシーのベット脇のテーブルには大量の睡眠導入剤などが置いてあり、それはガイドのジャックによるものらしい。
ルーシーは初めてまともに挨拶を交すマーティンに、風呂の礼を言い、家族で食卓を囲んだ。
マーティンは不思議な感慨におそわれていた。今までの人生で、子供たちと時間を共にすることなどなかったし、求めもしなかった。だがこの居心地は決して悪いものではなかった。

マーティンは家族との会話の中から、行方の知れない父親が、自分と同じようにタスマニア・タイガーを探してたことを知る。
なぜか言葉を発することがないバイクは、マーティンに自分の描いた絵を見せる。そこにはタスマニア・タイガーと、大きな木と、点在する水辺のようなものが描いてあった。
「この場所にいるのか?」

マーティンは翌日から水辺らしき場所を特定し、痕跡を辿る。
するとその場所には白骨化した死体があり、その頭蓋骨には銃弾を受けた穴が。遺留品から宿の家族の父親であることがわかる。
さらに、バイクの描いた絵の紙の裏側には、マーティンに仕事を依頼した、バイオテクノロジーの会社のロゴがあった。
今回の仕事や、家族の周辺にキナ臭さを感じたマーティンだが、その宿の母子たちにも、危機が迫っていた。


映画を選ぶ時に、子供が物語に絡んでるとわかってたら、スルーしてたかも知れない。そういう手のは苦手だからだ。
だがこの『ハンター』の場合は、自分の予断とちがう展開で、子供たちが出てきたんで、逆に興味を引いた。それにこの子供たちが素朴で可愛い。
ウィレム・デフォーと子供たちという、全然そぐわない感じが、いい距離感を生んでもいる。大体デフォーの骸骨みたいな面相がヌッと出てきたら、子供は普通ならビビるわな。

これが俺が当初思ってたような、ハンターが原生林をひたすら獲物を追い求めてく展開だったら、渋くはあるが淡々とし過ぎてたかも知れない。
タスマニアの陰影に富んだロケーションの美しさは堪能できるのは間違いないが。
デフォーと子供たちの触れ合いの場面がことの他よかったんで、家族に悲劇が襲うのはちょっと辛い思いがした。ラストはこうなってほしいという、その通りの描写になってるが、ベタであっても、ジンとくるものがあった。

俺はレイトで見たんだが、観客は男ばかりだった。そういう映画の印象があるからだろう。でも見終えると、これは小さい子向けではないが、家族で見てもいい内容だ。暴力的な場面もほとんどないし。

『タスマニア物語』では肝心のタスマニア・タイガーの描写がビミョーな事になっており、思い出の片隅に追いやられているようだが、この映画ではウィレム・デフォーの演技も相まって、心に沁みるような描写に仕上がってる。

2012年2月13日

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