TNLF『ネクスト・ドア/隣人』 [トーキョーノーザンライツフェス2012]

『ネクスト・ドア/隣人』

ネイバース隣人.jpg

北欧圏の映画を集めて上映する「トーキョー・ノーザンライツ・フェスティバル(略してTNLF)」が、今年も昨年と同じく、渋谷のユーロスペースで開催されている。
昨年はルーカス・ムーディソン監督特集があり『リリア4ever』をようやく見れた他、『レイキャビク・ホエール・ウォッチング・マサカー』など4本を見た。今年も4,5本という所になるかな。

この映画の監督はノルウェーのポール・シュレットアウネ。1996年のデビュー作『ジャンク・メール』が日本公開されてる。郵便局員がストーカー行為を働くという、全く共感を持たれなさそうな話なんだが、予期しない方向に転がってく脚本で、最後まで飽きずに見れたという印象がある。
この映画は2005年に撮ったサイコスリラーだ。かなりエロくてバイオレントな描写もあり、本国ノルウェーでは滅多にない「成人指定」を食らってる。


古めかしいアパートの5階の部屋に住んでるヨーンのもとを、つい最近別れたばかりのイングリットが訪ねて来る。憔悴するヨーンを横目に、彼女は私物を持ち帰ろうというのだ。新しい彼氏が下の車で待ってる。クラクションに窓から手を振って反応してる。
ある一件がイングリットに別れを決意させたんだが、どうもその話を新しい彼氏にしたらしい。なぜプライベートなことを、他人に話したりするんだと、ヨーンは気色ばんで彼女を責めるが、イングリットは荷物を抱えてドアへと背を向けた。

別の日、ヨーンは会社帰りの、アパートのエレベーターに乗り合わせた若い美人が、自分と同じ階の、しかも隣りの部屋の住人であることを知る。鍵を取り出してると、声をかけられた。
彼女はアンネと名乗った。ヨーンが自己紹介すると
「知ってるわ」と。
部屋にある大きな家具を動かしてほしいと言う。
「少し待って」と言うと
「別に急ぐ用事もないんでしょ?」

ヨーンは半ば強引に部屋に招かれ、タンスをドアの前に移動するよう頼まれる。なぜそんな場所に?と考える間もなく、アンネはシャンパンを用意して、ヨーンを居間に誘った。
そこにはもう一人若い美人が。妹のキムだと言う。キムは意味ありげな視線をヨーンに投げかける。
落ち着かず、帰ろうとすると
「彼女と別れて淋しいんじゃない?」
「なぜ知りもしないことを?」
「隣りから声が聞こえてたわよ」
この二人は、壁を通してヨーンの私生活を把握しているようだった。
気味が悪くなり、ヨーンはその場を立ち去る。

自分の部屋に戻り、隣りとの壁に聞き耳をたてても、なにも物音は漏れ聞こえてこない。ドアがノックされ、開けるとまたアンネが。不快なのでドアを閉めると
「キムはレイプされたの」
ドアを開け話しを聞くと、以前ヨーンの前にこの部屋の住人だった男に、キムが連れ込まれてレイプされたと。
それ以来キムは引き篭もり状態で、ドアの前にバリケードを築いてないと気が休まらないのだ。
自分が薬局に行く間に、様子を見てやってほしいと言われ、ヨーンは渋々隣りの部屋を訪れた。

先程に入った居間の向こうにも、これが同じアパートの部屋かと思うほどに、迷路のような部屋割りがなされている。その奥の一室にキムがいた。ほとんどショーツ一枚のような扇情的な格好でソファーに座ってる。
中カギをかけられ、出ように出られない。
「私の話しを聞いてくれたら帰してあげる」
キムは部屋を訪れた3人の内装工にレイプされた時のことを、生々しく語り始める。
ヨーンは聞きながら妙な気分に襲われてきた。

キムは話し終わると、いきなりヨーンを平手打ちした。唖然としてると今度は拳が飛んできた。
カッとなり殴り返す。するとキムは昂奮し出して、服を脱ぎ「もっとやって」と、ヨーンの顔面を殴りつける。
ヨーンはセックスしたまま、何度も何度もキムの顔面に拳を叩き込んでいた。
朦朧としたまま、自分の部屋に戻ったヨーンは、洗面所の鏡を見て愕然とする。
顔面はアザだらけで、無数の切り傷ができ、白いワイシャツの胸の部分は真っ赤に染まっていた。

翌日腫れの引かない顔で出社したヨーンは、同僚たちの好奇の目にさらされた。
会社帰りに、どうしてもキムのことが気にかかり、ヨーンは隣りの部屋のドアをノックした。そして、ヨーンをさらに混乱させる事態がそこには待っていたのだ。


最初はヨーンが、なんでこんな簡単に隣人の言葉に乗ってしまうのかと、苛々させられるんだが、実はその反応も織り込み済みという、ミスリードぶりが上手い。
ポランスキー監督の『テナント/恐怖を借りた男』のような、強迫観念や妄執を背景にしたサイコスリラーというわけだ。
ヨーンとイングリットが別れる「一件」というのがキーポイントになってく後半は、一気呵成という展開で、75分というタイトな上映時間に1分の緩みもない語り口は見事だ。

次第に神経衰弱に陥ってくヨーンを演じるクリストファー・ヨーネルに見応えがある。
会社に出て来ないヨーンの部屋を同僚が訪ねる場面。
ドアを少しだけ開けたヨーンが同僚に
「君がいま立ってるのは廊下だよな?」
と言って、恐る恐る手を伸ばして、同僚の体に触れる。
この場面がなんとも切ない。

ポール・シュレットアウネ監督はノオミ・ラパス主演の新作を完成させてる。
それも見れるようになればいいんだが。

2012年2月16日

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