TNLF『シンプル・シモン』 [トーキョーノーザンライツフェス2012]

『シンプル・シモン』

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アスペルガー症候群の弟シモンと、一番の理解者ながら、弟に振り回されもする兄サムの日常を、軽やかなタッチでユーモラスに描いたドラマだった。

シモンはなんらかのストレスがかかると逃げ込む場所がある。
よく山小屋なんかに、ドラムカンを利用した「ロケット・ストーブ」っていうのがあるが、あんな形状の、要はドラムカンなんだが、上には大きな鍋蓋が付けられてて、その中に入って膝を抱え、蓋を閉めて真っ暗な空間に何時間も篭もってしまう。
シモンはこれを宇宙船に見立てていて、感情がなく、ゆえに誤解も混乱も生じることがない宇宙空間に身を置いた気分になれるのだ。
一度その状態になると、兄のサム以外には「交信」できなくなる。
サムは管制官となり
「宇宙船のシモン、応答せよ。プシュー」
と、柳沢慎吾の警官ギャグみたいな口調で、ドラムカンのそばから話しかけないとならない。

実家で暮らすシモンもとうとう両親の手には負えなくなって、サムはガールフレンドのフリーダと同棲中の家に、シモンを連れてくとこに。
ただですら彼氏の弟が同居なんてあり得ないと思ってる上に、シモンは生活上のあらゆる事を時間通りに行わないと気が済まず、役割分担も勝手に決めてしまう。借りてくるDVDは必ず『2001年宇宙の旅』で、フリーダはサムとラブコメが見たいのに「自分の部屋で見て」と。
ついにフリーダはキレてサムのもとから去ってく。

シモンは困った。
「僕には兄さんが必要、兄さんにはフリーダが必要、それで万事うまく行ってたのに」
その方程式に戻すために、シモンはサムに新しい恋人を見つけるために奔走する。


アスペルガー症候群については近年、社会的にも認識が広まってきてるようだが、この映画を見る限りでは
「人に触られるのを嫌う」
「物事を法則だてて考える」
「時間にルーズなのは許せない」
「ある分野において人より明らかに秀でている」
「人の感情の機微というものを理解しにくい」
「普段はほぼ無表情」
といったような所か。
近くにいるとめんどくさい存在かも知れないが、法則性を把握してると、逆につきあい易いかも。

だがシモンはサムの恋人になってもらう女性を見つけるためには、他人とコミットしていかなくてはならず、その中で、人の感情には矛盾があったり、物事は自分の意思とは関係なく変化していってしまったりということを、少しづつ認識してくのだ。

イェニファーというオープンマインドな女の子と出会うことで、シモンの頑なさが、ちょっとづつ和らいでく感じが微笑ましいのだが、一方で、シモンが会いに行っても、サムが会いに行っても、断固関係の修復を拒否するフリーダの描写もいい。
ハリウッド映画なら、彼女も考え直してサムとハグなんて展開になりそうなもんだが、世の名には、シモンのような人とは相容れない人もいるだろうから。

シモンは毎朝サムの大きな荷台が付いたバイクで、勤務先の清掃会社に送ってもらう。3人の同い年くらいの仲間がいるが、交流はしない。時間通り仕事をして、真っ直ぐ帰る。
だがイェニファーと知り合って、彼女の家に遊びに行ったりして、清掃会社から帰ってこない。
焦って探し回るサム。夜中に普通の顔して帰宅するシモンを激しく責める。シモンは、サムの新しい恋人を見つけたと言うが、その気持ちは兄には通じない。

お前のためにどれだけ自分が振り回されてるのか、サムはつい本音をシモンにぶつけ、部屋を出てく。

シモンはショックを受け、「宇宙船」に篭もった。
だが気を取り直したシモンは、ドラムカンから飛び出し、清掃会社の仲間に協力を呼びかけ、サムとイェニファーのために飛び切りのデートを演出する作戦を立てた。


アスペルガー症候群の主人公を描いた映画には2004年にジョシュ・ハートネットが演じた
『モーツァルトとクジラ』がある。あの映画ではアスペルガー症候群の男女が惹かれあうというドラマだったが、この『シンプル・シモン』はあまり症状をシリアスに描くことはせず、ファンタジックな描写を交えてるあたりは、1993年の『妹の恋人』のテイストに近いかも。
あの映画は、自閉症の妹メアリー・スチュアート・マスターソンが、町にやってきた風変わりな青年ジョニー・デップと心を通わせるようになり、兄のエイダン・クィンが複雑な心境で見守る情景が描かれてた。

『シンプル・シモン』の劇中で、シモンは外出する時は、常に真っ赤なジャージを着るんだが、胸には
「アスペルガーです、触れないで!」と書かれたバッジをつけてる。
スウェーデンでは、この症状が日本以上に認知が進んでることがわかる。
イェニファーもついシモンの腕をつついたりして、その度に「触るなって言ったろ!」と突き飛ばされてるが、ちっとも怒らないね。ほんとにそういうもんなんだろうか。


シモンを演じるビル・スカルスガルドは名前の通り、ステラン・スカルスガルドの息子だ。父親ほど、なんというか北欧系の「白い顔」ではなく、アメリカ映画の青春ものとかに出てても違和感ないね。
男優も女優も、クセのない馴染みやすいルックスをしてるし、北欧の特にスウェーデンの映画に感じるんだが、出てくるインテリアとか、小物とかの色使いを見るのも楽しい。
ポップソングが全編に流れるのは常套ではあるけど、気持ちよく見終えることができる。
一般公開されるといいのにね。

2012年2月20日

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