押し入れからビデオ⑪『ボーイ・ワンダーの孤独』 [押し入れからビデオ]

『ボーイ・ワンダーの孤独』

ボーイワンダー.jpg

今年のアカデミー賞を受賞したのは、サイレント映画そのままの手法で、サイレントからトーキーに移行する時期のハリウッドを、フランス人の監督・キャストで描いた『アーティスト』だった。
日本公開が楽しみだが、その『アーティスト』の時代設定と関連づけられそうな映画を、押し入れから探し出してきた。内容は全然ちがうけど。

リチャード・ドレイファスが『アメリカン・グラフィティ』と『ジョーズ』の間の1974年に主演した、日本劇場未公開作。
俺んちの押し入れからは『この生命(いのち)誰のもの』に続くドレイファス映画。なぜかウチにはドレイファスの未公開ものが数本あって、1978年の主演作『THE BIG FIX』(TV放映題名「私立探偵モーゼス」)も、時間かけて探せば出てくるはず。

この『ボーイ・ワンダーの孤独』は1989年にTBSの深夜に放映された時の題名で、原題は『INSERTS』だ。
この「挿入」という単語はダブル・ミーニングとなってる。
映画技法の用語「インサート・カット」と、男が女に「インサート」するという意味。


映画の主人公ボーイ・ワンダーは、サイレントからトーキーへと移り始めた、1930年代前半のハリウッドに暮らす映画監督。だがすでに才能は枯渇したと言われ、今は自宅で酒浸りになりながら、自宅内にスタジオを組んで「ブルー・フィルム」を撮るという無為な日々。
今日も主演女優でありガールフレンドでもあるハーレーンが、撮影のため家を訪れる。彼女もサイレント時代には人気の女優だったが、今は仕事もなく、ポルノで稼ぐようになる。稼ぐといっても、彼女のギャラはコカインで支払われる。ハーレーンは
「クラーク・ゲイブルっていう若い役者が、あんたの才能を褒め称えてたわよ」
などと言うが、ワンダーは関心も向かない。
ハーレーンは撮影前に「注射」を射ち、ワンダーを誘ってくるが、ワンダーは勃起もしない。

そのうち若い男優がやってきて、さらに撮影の様子を見ようと、プロデューサーのマックが若い愛人を連れてくるんで、ワンダーはますますクサる。
ハーレーンはマックのポケットからコカインの包みを受け取ると、ワンダーの制止も聞かず、上の寝室に射ちに行ってしまう。
ワンダーが人気監督だった時代に買った邸宅は、フリーウェイの建設予定地となっており、立ち退きに応じてれば大金が入ったのにと、マックはこの家から外にも出ず、隠遁生活を送るだけのワンダーを見下してる。
マックは、フリーウェイが通ったら、そこにハンバーガーのチェーン店をいくつも建てるんだなどと青写真を描いてる。

ワンダーがそんな無駄話を聞かされてると、若い男優が上の階から血相変えて降りて来る。
「彼女死んでるぞ!」

コカインの過剰摂取だ。だからあれほど止めたのに。ワンダーはその場を動く様子もなく、マックと男優が死体を運び出して、家を出て行った。
その間、ワンダーと、マックの連れて来た若い愛人が部屋に残ることに。

彼女はキャシーといい、まだ大学を出たてのようだった。マックは自分のことを「パパ」と呼ばせてたが、私はそんな子供じゃないわと。
キャシーはワンダーが撮影前に口にした「インサート」と言う言葉に盛んに反応した。
「ねえ、インサートってどういう意味?」
何度も聞いてくる。キャシーも女優志願だという。

ワンダーは、ハーレーンが死んで撮れなくなった分を、キャシーを代役に立てようかと思いついた。
巧みに言葉を弄して、キャシーを撮影用のベッドに上がらせ、ドレスを脱がせる。
「インサートカットがいるんだ」
なかなか乳房まで見せようとしないキャシーとの、一進一退の攻防が展開される。
無気力だったワンダーに、「映画的」情熱なのか、別のものなのかわからないが、込み上げてくるものがあった。

「女優を目指してるというなら、その意気込みを全身で表現してみろ」
キャシーはついに一糸まとわぬ所まで乗ってきた。
「おっぱいのアップは撮れた、次はアソコだ」
ワンダーは、どうせそこまではできないだろうとタカを括って言ったが、キャシーは動じなかった。
しかもいつの間にかワンダーの股間は大きくなっており、それを指摘されたことで、キャシーとの攻守が逆転してきた。カメラを回すならセックスしてもいいと。

ワンダーは最初は小娘だと鼻にもかけなかったキャシーに、今は我を忘れ、カメラを回す暇などなしに、彼女と体を重ねた。
ことが終わり、キャシーはカメラが回ってなかったことを知ると、途端に冷淡になった。
「単に、あなたとセックスなんかするわけないでしょ」
そして、二人がベッドに裸でいる所を、戻ってきたマックが目撃した。


この映画はアメリカ公開時には成人指定を食らって、監督とリチャード・ドレイファスは抗議を行ったという。
アメリカでは映画が成人指定になると、興行はもとより様々な面でハンデを抱える。例えば宣伝も規制がかかる。確か入場料金も割高に設定されてたはずだ。
成人指定というが、セックス場面はほぼ無い。ただ女優はほとんど半裸のまま演技してる。

最初に出てくるハーレーンを演じてるのはベロニカ・カートライト。『エイリアン』で、シガーニー・ウィーヴァーと共に、女性クルーとしてノストロモ号に乗船してた。『SF/ボディ・スナッチャー』にも出てたね。
そのベロニカが服を脱いで下着姿で、ワンダーを誘う場面で、足を広げると画面にボカシが入るのには驚いた。
民放で放映してるんだけどね。ヘアが映ってるのか、米国盤のDVDでも見れればわかるんだが。

それにも増して「よく出たな」と思ったのが、キャシーを演じるジェシカ・ハーパーだ。

ジェシカハーパー.jpg

『サスペリア』と『ファントム・オブ・パラダイス』の2本のカルト映画のヒロインとして、秘めやかに愛されてる女優だが、もう途中から脱ぎっ放しである。
全裸ではないが、彼女もボカシを入れられる場面があった。

ただベロニカにしろジェシカにしろ、痩せてるんで、ヌードになっても、なんかこう「もう服着ていいから」と気を遣いたくなってしまうんだよな。
この映画は彼女たちの「黒歴史」になってなきゃいいけど。
プロデューサーのマックを演じるのはボブ・ホスキンス。若い頃からあんな髪型だったんだな。

映画は主人公のワンダーの邸宅から、カメラは一歩も外に出ず、舞台劇のような印象だ。落ちぶれてしまった映画監督の隠遁ぶり、その鬱屈した心情を反映するように、風通し悪い密室感を演出してる。
登場人物も5人という、コストかかってないね。

サイレントの時代からブルー・フィルムというのは撮られていた。ジョン・シュレシンジャー監督が、やはり1930年代のハリウッドを描いた1975年作『イナゴの日』の中では、映画と言われて、ブルー・フィルムでレズシーンを撮らされて、カメラの前で泣いてる女優の卵を映した場面があった。

2012年3月1日

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