押し入れからビデオ⑫『ナイトライダーズ』 [押し入れからビデオ]

『ナイトライダーズ』

ナイトライダーズ.jpg

ジョージ・A・ロメロ監督の「非ゾンビ」かつ「非ホラー」な内容の1981年作。日本では劇場未公開、ビデオ・DVDもリリースされておらず、昔WOWOWで放映されたのを録画してあった。
昨日コメントした『恋人たちのパレード』と繋がるんだが、これも「旅する一座」の物語なのだ。


冒頭、森の中で目覚めたエド・ハリスが、川で水浴をしている。木の枝でさかんに自分の背中を打っている。
中世の騎士の鎧のような衣装を身につけ、馬ではなくバイクに跨る。
エド・ハリス演じるビリーは、ペンシルベニア一帯を巡業して回る「一座」の座長だ。彼らの出し物は、中世の騎士が行ってた「ジュースティング」という馬上槍試合を、バイクで再現するというもの。もちろん本物の槍ではなく、長い竿を使う。
題名は「夜の」ではなく「騎士」のKNIGHTの方だ。
一座はアーサー王伝説に準えて、ビリーはウィリアム卿であり、マーリンと呼ばれる医者もいる。バイクに跨る騎士たち以外にも、楽隊やグッズを売る者や、なかなかの大所帯で、巡業先の設営地にテントを張ったり、トレーラーハウスで寝起きしたり、ヒッピーのコミューンのようでもある。

試合はモトクロス・バイクによるジュースティング以外にも、サイドカーを使った「戦車」レースなどもあり、観客を楽しませる。ビリーの強力なリーダーシップのもと、一座は結束していたが、ビリーは自分たちのやってるのは、ただの見世物ではないという意識が強かった。
試合には騎士道精神を謳い、自分たちは見る者に、名誉や礼節といった、今の世の中に失われてしまった価値観を伝える役目を負ってると考えていた。

設営地の使用料以外にも賄賂を要求してくる警官にも一切応じない。
ビリーの融通の利かなさは、一座の人間を戸惑わせることもあり、収入も十分とは言えなかった。それにビリーは、黒い鳥に襲われるという予知夢を見たと、マーリンに話していた。

賄賂を拒否された警官から、その晩ガサ入れを受け、団員の一人が大麻所持で連行されていく。
ビリーは一緒に行くといい、留置場で団員が殴りつけられるのを、激しい怒りとともに見つめていた。
ビリーに「戻るまで次の巡業地には行くな」と言われてた一座だったが、期日を守らないと違約金を取られるため、出発を決める。ビリーはそれを知り憤慨する。
先に次の巡業の町に着いた一座には、地元のTV局と、ワシントンD.C.の芸能プロダクションの人間が接触してきてた。
ビリー一座の公演の経費や契約を任されてる弁護士は、ビリーに名を売れば収入も増えると進言する。
殴られた団員は言った。
「俺は昔、揉め事を起こし、同じように死ぬほど殴られた。その時は味方もなく、自殺も考えた。
だが今回は殴られても笑ってたろ?それは仲間がいるってわかってるからだ。」
「この一座はバラバラになっちゃいけない」
今や、一座を離れて名を売ろうと思い始めてる団員と、ビリーとの間の齟齬は埋めようもない所まできていた。
だがビリーは言った
「この一座に大切なのは精神だ。俺がもし居なくなっても、それは引き継がれるべきものだ」と。

一座で黒騎士を演じてたモーガンは、ビリーに代わり王の座を欲したが、人望がなかった。モーガンは一座を去り、芸能プロダクションと契約する。ビリーとは親友の間柄でもあったアランも袂も分かっていった。
ビリーは新しい巡業の地に設営の許可を取り、しばらくそこに留まることにした。仲間たちが戻ってくることを信じたのだ。
モーガンは芸能の世界の不毛ぶりをすぐに目の当たりにして、失望していた。アランたちも、一座を出たものの、言い知れない物足りなさに包まれていた。

ある朝、公演の準備をしてると、バイクの轟音が響いてきた。出て行った仲間たちが戻ってきたのだ。
ショウはいつも以上の昂奮に包まれた。そして、ショウが終わりに近づいたその時、黒い鳥を模った鎧を身につけたバイカーが、ビリーの前に現れた。
ビリーは一騎打ちに臨む。激しい攻防に一座が息を呑む中、ビリーは黒い鳥をバイクから打ち落とす。
仮面を剥がすと、町で一座のパレードをじっと見つめていたネイティブ・アメリカンの若者だった。
その勇気ある戦いぶりを認めたビリーは、川面でひざまずく若者の肩に剣を掲げ、一座の騎士として認めた。
そしてモーガンに王冠を譲って、一座を去ることにした。

鉄兜を被り、バイクで平原の道を行くビリーの後ろには、騎士になったばかりの若者が、バイクで付き従っていた。

町のダイナーに立ち寄ると、あの賄賂の警官が食事をとっていた。ビリーはおもむろに殴りかかり、ピストルを奪うと、から揚げの油の中に落とす。ボッコボコに殴りつけてると、周りの客からも歓声が上がった。
ダイナーを出て、なおもバイクを走らせる。着いた先は小学校だった。巡業先でサインをねだった子供が通ってる教室を訪ねる。あの時、子供が手にしてたバイク雑誌の記事が、自分の意図に反すると、サインを拒否したのだ。

騎士の格好のビリーは、子供に黙って剣を手渡した。
これでやるべきことはやった。
ビリーは若者を付き従えて、また走り始めた。
一直線の道を走るうちに、草原を馬で駆ける騎士の姿が、ビリーの脳裡に浮かんでいた。
次の瞬間、トラックがビリーのバイクを粉々に破壊して、後ろを走る若者のバイクのそばで停まった。


この映画の前年1980年には、クリント・イーストウッドが監督・主演で
『ブロンコ・ビリー』を撮ってる。
ルイジアナ州をやはり巡業して回る「ワイルド・ウエスト・ショー」の一座の物語だった。
この映画のエド・ハリスが、中世の騎士道に取り憑かれ気味なのと、ちょっと似た意味で、『ブロンコ・ビリー』の座長イーストウッドも、自分が西部の時代に生きてるとカン違いしてるような面があった。ヤケを起こして列車強盗を企てる場面があるんだが、線路を来るのは、ゆったり走る蒸気機関車などじゃなく、猛スピードのアムトラックが、あっという間に通過してくというオチがあった。

もう1本「ジュースティング」を行う騎士の話といえば、2001年にヒース・レジャーが主演した『ロック・ユー!』がある。この『ナイトライダーズ』は、中世の騎士道を現代に再現するような話だが、『ロック・ユー!』は舞台は中世で、劇中に流れるクイーンやデヴィッド・ボウイの楽曲に「中世」の住人たちが踊ったりするという、現代を放り込むという遊びを試みた快作だった。


この映画はエド・ハリスの初主演作となるんだが、その他のキャストはほぼ無名。というより『ゾンビ』など、ロメロ映画で馴染みの顔ぶれが並んでる。トム・サビーニは黒騎士モーガンを演じていて、彼の出演キャリアの中じゃ、一番カッコいいと思う。
ロメロ映画の諸作に倣って、この映画もホームグラウンドのピッツバーグを拠点にロケされてる。緑豊かなロケーションが、中世の装いにもマッチしてるし、ホラーのホの字も見当たらない人間ドラマに仕上がってる。
結末にはアメリカン・ニュー・シネマの残り香を嗅ぐ感じもあった。


字幕の翻訳間違いがあった。ビリーがサインを拒否した子供の持ってた雑誌が「バイカー」雑誌で、イーヴェル・ニーヴェルが出てるものだった。

イーブル・ニーヴェル.jpg

翻訳では「こんな悪魔崇拝とは関係ない」とビリーは言うんだが、イーヴェル・ニーヴェルとは、1970年代に派手なバイク・スタントのショウで全米を湧かせたスタントマンの名だ。
映画『ビバ・ニーベル』に本人が主演してる。
翻訳者が彼のことを知らずに「イーヴェル」を「イーブル」と思い「悪魔崇拝」と訳してしまったんだろう。
ビリーとしては「ニーヴェルみたいな見世物スタントとは違うんだ」と言うのが本来の訳だ。

2012年3月5日

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