ロバート・パティンソン、サーカスへ [映画カ行]

『恋人たちのパレード』

恋人たちのパレード.jpg

数日前の『人生はビギナーズ』のコメントで、最近の邦題に関して、ひとくさりしたんだが、この邦題もなあ。別に日本語としておかしくはないが、どういう映画なのか、全然ピンとこないよな。

1930年代、大恐慌下のアメリカを巡業する、移動サーカスを舞台にしたドラマで、小説および映画の原題は『サーカス象に水を』だ。
象に乗って街中をパレードする場面は確かにあるが、重要な場面ではない。
配給会社としちゃロバート・パティンソン主演のラブストーリーを強調して、主人公がサーカスの一団に入るなんて要素は、むしろマイナスと思ってるんだろ。だけどな、そうやって宣伝打って、シネマート新宿の1000円鑑賞デーにも係らず、客はパラパラとしか居なかったぞ。その後に見た『ゾンビアス』の方が、3割増し位は入ってた。

「物語」として、オーソドクスだけど、きちんと作られていて、むしろそういう映画の内容を、はっきり伝えられるような邦題なり、宣伝方針で臨むべきなんじゃないか。
じゃあ、どんな題名がいいんだよ?と言われても困るんだが。『僕と彼女と旅するサーカス』とか、そんな凡庸なモンしか浮かばない。いっそパティンソンだったら、便乗して『トワイライト・サーカス』ってのはどうだ?

冒頭、現代のサーカス小屋の前に一人の老人が現れる。振り向いたその顔を見て
「おお、ハル・ホルブルックだあ」
と、もうそこから映画に引き込まれた。この人は今年で87才になる。2007年の『イントゥ・ザ・ワイルド』で助演男優賞を受賞してれば、その時点でオスカー最年長記録を更新できてたんだが。
俺のような「70年代組」にとっては、『ダーティ・ハリー2』『カプリコン1』『密殺集団』などの、一筋縄でいかない権力側キャラで馴染みの役者なのだ。
この老人がサーカス小屋の事務所に招かれ、若い団員が持ってた昔の写真、象に乗った美女を目にして、感極まり、訥々と昔語りを始めるいう導入部。
ハル・ホルブルックの老人が、若き日のロバート・パティンソンなわけだが、「歳とったら、こういう顔になるかもな」と違和感ないね。


1930年代、ポーランド移民の両親を持つジェイコブは、親に学費を工面してもらい、コーネル大学で獣医を目指し、勉強していた。だが卒業間近で、両親が事故死。銀行の人間から家が抵当に入ってたことを告げられる。
父親も医者だっだが、治療費を払えない患者も診察を拒まなかった。家を抵当に入れたのは、ジェイコブの学費を捻出するためだった。銀行の人間は
「この恐慌の時代に、君の父親の行為は無責任だ」と言い放つ。

家を明け渡し、卒業もできず、ジェイコブは町へと職探しに出るが、仕事にありつけるご時勢ではない。線路脇の川に、歩き疲れた足をつけてると、汽車がやってくる。ジェイコブは衝動的に貨物車輌に飛び乗ったが、すぐに数人の男たちに捕まってしまう。
その汽車は「ベンジーニ・ブラザース」という移動サーカスが所有する汽車だったのだ。
年配のキャメルは、ジェイコブの「訛り」から、同じポーランド系と見抜き、相好を崩す。次にサーカスを催す場所で1日働いて、へこたれなければ雇ってやると。

夜明けに汽車は、広大な平原に停車した。手馴れた様子で、サーカスの巨大テントを設営してく男たち。猛獣たちの檻も下ろされる。
ジェイコブは白い馬に連れ添う、金髪の美女に目を奪われる。キャメルから
「彼女には話しかけるな」と釘を刺される。
サーカスは無事終わり、次の巡業地へ。その車中でジェイコブは、団長への挨拶に特別車輌に連れてこられる。団長はオーガストという、小柄で慇懃な感じの男だった。
ジェイコブはつい口数が多くなり、オーガストは
「次の場所で追い出せ」と背を向ける。ジェイコブは
「あの白い馬はあと4日もすれば歩けなくなるぞ!」
と、つい口走る。獣医を目指してたジェイコブの見立てだった。
このサーカスにおいて独裁者のように振舞うオーガストは、若者の臆することない態度が気に入った。
「いいものを見せてやる」
オーガストはジェイコブを走る汽車の屋根に連れて行く。月光に照らされた大地と山々の美しさに、ジェイコブは魅了される。
「あの馬は一番の出し物だ。脚を治せたらここに置いてやる」

その白い馬に乗り曲芸をするマーリーンは、団長オーガストの妻だった。
ジェイコブは馬の脚を見て顔を曇らせた。ヒズメからばい菌が入り、痛みを取り除く術はない。ジェイコブはマーリーンを説得し、銃で安楽死させてしまう。それはすぐに団長の耳に入り、走る汽車から突き落とされる寸前となる。だがそうはされず、オーガストは恐怖で顔を歪ませるジェイコブに言う。

「ここでは俺が掟だ。お前を突き落とさなかったのは、あの馬の死体が、
ライオンたちの餌として何日か都合できるからだ」

大恐慌時代、移動サーカスの経営も楽ではなかった。他所で廃業したサーカスがあると聞けば、その団員たちを安い給料で雇い入れる。餌代が捻出できないと、ライオンにも腐った魚などを与えて凌ぐ。
大学に通い、世間を知らないジェイコブには、初めて知る厳しい現実がそこにあった。

オーガストは白い馬にかわるメインの出し物として、年老いた巨象ロージーを大金で買い入れた。そしてその調教をジェイコブにやらせるという。象には舐められないように、鋭いフックのついた棒で調教を行えと。
だがロージーは人間に慣れており、ジェイコブやマーリーンにも、すぐに心を許してるようだった。水よりも酒を好んだ。
象とマーリーンの曲芸デビューの日、団長のオーガストは演技の最中に、コントロールするため、フックを何度もロージーの皮膚に突き立てた。象は背中に乗ったマーリーンを振り落とし、満員の観客の前から脱走してしまう。

町の八百屋で野菜を失敬してる所を、ジェイコブとキャメルが見つけ、連れ帰るが、激高したオーガストは、ロージーが倒れ込むほどの折檻を加える。
ジェイコブとマーリーンはその晩、ずっとロージーに付き添っていた。サーカスに不意に現れた若者と、団長の若く美しい妻は、互いに惹かれあうようになっていく。

団長の部屋では、オーガストが頭を抱えていた。マーリーンが口を聞いてくれない。だが自分もこのサーカスを運営してくプレッシャーがきついのだと。ショーが流行らなければ、団員を食わせることもできない。
独裁者然と振舞うオーガストの複雑な人間性に、ジェイコブは翻弄されるばかりだった。

ジェイコブは傷が癒えつつある象のロージーに、何気なくポーランド語で話しかけると、ロージーはすぐさま反応を示した。ロージーは元々ポーランド人に調教を受けてたらしい。ジェイコブはそのことをオーガストに伝え、ポーランド語の命令通りに動くことがわかると、オーガストは歓喜した。これでショーは成功すると。
ジェイコブは晴れて「ベンジーニ・ブラザース」の家族に迎え入れられることとなった。
だが猜疑心の強いオーガストは、自分の妻とジェイコブの間に何かあるのではないか?と思い始めていた。


ロバート・パティンソンは、サーカス一座に紛れ込んだ「大学出のぼっちゃん」という、異分子の風情に合ってて、父親の血を継いだ優しい性分の若者をストレートに演じてていい。
彼が恋するマーリーンを演じるのはリース・ウィザースプーンなんだが、サーカスの花形ということで、体をスリムに保たなきゃならなかったんだろうが、ちょっと痩せすぎだね。顔とか、骨に皮が張り付いた感じで、柔らか味がない。

映画の終盤は、団長と妻とジェイコブの三角関係のもつれみたいな話になっちゃって、そこはありきたりで残念だったが、演技の見せ場を作ってるのは団長を演じるクリストフ・ヴァルツだろう。
『イングロリアス・バスターズ』でブレイクして以降の作品では、今回のが一番いいと思う。
仇役のようなポジションではあるが、悪い人間とは言い切れない。職もないような恐慌下で、多くの団員を抱えて巡業を続ける経営者なのだから、綺麗ごとだけではやっていけないだろう。だが用なしとなった人間を走る汽車から突き落とすってのは酷いけどな。
ジェイコブを翻弄する多面性を表情の端々に滲ませて、その演技には見応えがある。

出番は多くないが、ジェイコブを引き立てる老団員キャメルを演じるジム・ノートンもよかった。アイルランドの役者で、今年74才になる。声が低くていいんだよね。
それから『アーティスト』で、「金の首輪賞」を受賞した名犬アギーが、この映画でもサーカス一座の団員に飼われてる犬として出てる。
『人生はビギナーズ』もそうだったが、ジャックラッセルテリアというのは、特に頭がいいのかね。今後ペットとしてブームになりそうだが。

恋人たちのロケーション.jpg

緑の平原にサーカスを設営する場面とか、美しい絵柄が楽しめるのは、ジャック・フィスクがロケーションを含めた「絵作り」に貢献してるからだろう。
この人は『地獄の逃避行』以降、ほとんどのテレンス・マリック作品でプロダクション・デザインを担当してきてる。
アメリカの中西部から北西部の風景の、ノスタルジックな美しさを知り尽くしてる人だ。

考えて見ると、昔は『地上最大のショウ』とか『空中ブランコ』とか、サーカスを題材にしたアメリカ映画があったけど、近年は思い浮かばない。
移動サーカスというと、どうもヨーロッパの文化という感じがあって、例えばフランスなら『ロザリンとライオン』とか、『橋の上の娘』とか、イギリスでも2005年の東京国際映画祭のコンペに出品された『バイ・バイ・ブラックバード』があったし、スペインでは昨年の「ラテンビート映画祭」で上映された「THE LAST CIRCUS」が、この映画と同じように、団長の女房に惚れてまう主人公の話だった。まああっちはアレックス・デ・ラ・イグレシア監督の毒素充満な世界だったが。

でもって邦題の話に戻るが、内容が団長の女房と駆け落ちしようって話だから、「恋人たちの…」と大手を振って言うのもどうかと思うが。
今までSF・ホラー分野の作品を作り続けてたフランシス・ローレンス監督が、こういうケレン味を抑えた「物語」映画を撮ったのは意外だったが、ハル・ホルブルックに最初と最後を託す演出も、しみじみといいんだよな。
都内1館の上映は淋しいね。

2012年3月4日

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