スパイでストーカーなふたり [映画ハ行]

『ブラック&ホワイト』

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これはすごい映画だ。ひょっとすると後々カルトムービー化するかも知れない。すごいというのは「素晴らしく出来がいい」とか言う意味じゃない。
この脚本でよくゴーサインが出たなという意味だ。脚本が壊滅的に出来が悪いとかいう事でもない。
ただ「尋常な神経ではない」脚本ではある。


CIAの凄腕エージェントということになってるコンビがいる。クリス・パイン演じるFDRと、トム・ハーディ演じるイギリス人のタック。まずこの二人が凄腕であるという信憑性がない。
映画の冒頭で、香港の超高層ビルで、大物武器商人ハインリッヒの取引現場を押さえるため、二人は張ってるんだが、屋上で銃撃戦となり、ハインリッヒはパラシュートしょってビルから落下。
その弟は転落死する。
大物を取り逃がしただけでなく、弟を死なせたことで、報復を企てられる危険性は限りなく高くなる。

その後はそれぞれが偶然出会った、リース・ウィザースプーン演じる独身アラフォーのローレンを巡って、職権乱用しまくるのみで、なにも国を守る仕事はしてない。

終盤に案の定ハインリッヒが報復のためにロスに乗り込んでくるわけだが、市街地のフリーウェイで展開されるカーチェイスや銃撃戦なども、「市民の安全を守るための」戦いなどではなく、自分たちがヘマしたあげくに、恨みを買ってのものだから、市民からすれば迷惑この上ない。


シリアスなスパイアクションなどではなく、派手めのラブコメという作りなんだが、CIAという国家権力の側にいる人間が、その権限や装備をフルに使って、自分が惚れた一般女性のプライベートを丸ごと監視したり、嗜好を調べて気に入るようなシチュを演出したり。
そんな堂々たるストーキングをラブコメとして描いてしまうということ自体、狂ってるとしか言いようがないんだが、アメリカ人は笑ってられるんだろうか?
個人情報保護が取り沙汰されてる日本じゃ、この脚本は考えられないと思うが。

一応キャラの性格づけとして、イギリス人のタックは、まあ多分仕事がもとで、妻ともうまくいかなくなったのだろう。今は離婚して、小さな息子とは週1で顔を合わせる日常。

FDRは実家も金持ちで、プレイボーイとして独身生活を満喫してる。
ちなみにFDRとは、アメリカではフランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領を指す呼称だが、クリス・パイン演じる主人公が、なにかの縁故があるのか、そういった説明はない。

失恋の痛手から立ち直れないローレンを見かねた親友のトリッシュは、勝手にローレンのプロフィールを「出会い系サイト」に登録。それをたまたま目に止めたタックがアクセスしたのだ。
エージェントが出会い系に顔を晒すっていうこと自体ありえんが。

親友のおせっかいを怒るローレンだったが、アクセスしてきたタックは中々のイケメンと思い、二人はカフェで会うことに。互いに好印象で、次回のデートを約束して別れる。
ローレンは帰りがけにレンタル店にDVDを借りに寄ると、そこには偶然にもFDRがいた。いつもの調子でナンパしようとローレンに声をかけるが、さらりとかわされた。
ナンパに失敗することなどないので、逆にローレンのことが気になってしまう。


ここでFDRがまずやった事は、CIA支局に戻って、「ハインリッヒに関する極秘任務だ」と職員に言って、レンタル店の顧客データにハッキング。向こうの店は会員の顔写真を登録してあるらしく、たちどころにローレンが見つかる。仕事先は商品調査会社と分かる。
モニターを装って会社を訪れ、半ば強引に彼女とのデートを取り付ける。
ここですでに法を犯してるわけでね。女性としちゃドン引きでしょう。

タックもFDRも、相手が同じ女性とは知らず、互いのパソコンの壁紙にローレンの写真を貼り付けてあることがわかり、激しく動揺。
だがここはフェアプレーに、どちらを選ぶかは彼女に任せて、自分たちは協定を作る。
彼女に自分たちが知り合いだとは言わない。
互いのデートの邪魔はしない。
彼女とヤラない。
協定は作っても、法律は無視ということかな。
とりあえず協定を結んだ二人が最初にやったことは、ローレンの自宅への不法侵入だからね。

諜報活動はお手のものなんで、タックとFDRは別々に侵入して、各々が盗聴マイクを仕掛けてくのだ。自宅の様子もばっちりカメラで監視中。
タックとFDRは相手を出し抜くために、互いにバックアップ・チームを編成する。
「ハインリッヒに関する極秘任務」だから。しかし互いのデートを監視したりするだけで、チームの連中もおかしいと思わんか?
タックが協定を破って、先にローレンと一線を超えてしまうが、その様子も収められてる。

部下がFDRに「まさにブリティッシュ・インベージョンです」っていうのには笑った。

さらにすごいのは、この二人が知り合いで、今までの経緯とかみんな知ってしまうことになるローレンが、それでもどっちかを選んじゃうってことだよ。
あんたストーカーされてたんだぞ!


ローレンの親友で、ほとんど下ネタしか話してないトリッシュを演じるチェルシー・ハンドラーという熟女は、俺は初めて見るが、アメリカでは有名な作家でありコメディアンだそうだ。
「とにかくヤッちゃいなさいよ」みたいなアドバイスばかりなんだが、タックとFDRどちらかに絞れないローレンに
「いい男を探すんじゃなくて、いい女にしてくれる男を探すのよ」
という、含蓄ある言葉を投げかけたりするんで、侮れない。
このオバサンがカーチェイスのとばっちりを食う場面は、この映画一番の笑い所になってる。

ああ、もう1箇所あった。タックとFDRが、ローレンとトリッシュの恋バナを盗聴してるんだが、ローレンに「危険な魅力みたいなものがない」と言われたタックが、次のデートに誘うのが、ペイント弾を使った「サバイバル・シューティング」。
もう本職全開で相手チームの人間を撃ちまくる。ゲームと思えないマジな動きに、参加した子供たちが小屋に隠れて
「こわいよ~こわいよ~」って。
この場面のトム・ハーディは最高だった。

そのトム・ハーディがこんなに小柄だったのかというのは意外だった。クリス・パインがそんなに長身というイメージないんだけどな。かなり身長差があった。多分ハーディは『インセプション』の時はジョセフ・ゴードン=レヴィットと一緒にいたんで、小柄には見えなかったのか。


しかしここまで不謹慎な描写をラブコメに仕立て上げてるのは、逆に天晴れなのかもしれんし、「CIAが国の利益を守るとか、単純に信じちゃダメだよ」ってメッセージ入ってるのかもしれんし。
CIAが今まで世界各地で展開してきた諜報活動や、サボタージュなど、見方によっては「悪行」ともいえる、その様々な行為を戯画化して描いた、一種のブラック・ユーモアかもしれんし。

CIAにしてもここまでコケにされれば「アホくさくて相手にできん」と思うだろうけど。
邦題は意味不明。原題は「これって戦争だろ」みたいな意味。

2012年4月23日

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