バトルシップと基地のこと① [映画ハ行]

『バトルシップ』

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このコメント題にしたのは、海軍イケイケの戦争アクション『バトルシップ』と、偶然にも同じ時期に公開されてるドキュメンタリーがあるからだ。
『誰も知らない基地のこと』という題名で、渋谷のイメージフォーラムで上映中だ。
イタリアのドキュメンタリー作家が、なぜ米軍は世界40カ国以上に、計700箇所を超える駐留基地を展開してるのか?という疑問の答えを求めて、ピチェンツァ(イタリア)、ディエゴ・ガルシア(インド洋上の珊瑚礁の島)そして普天間(沖縄)に取材してる。
わざわざこの2作をセットでコメントしようというのは、ある種の予防線を張るということでもある。

俺は『バトルシップ』にすっかり興奮させられてしまって、もう2度見てしまったのだ。
最初は「ユナイテッドシネマズ豊洲」の最大キャパである「オーシャンスクリーン」で、初日に見た。海上の戦いを「オーシャンスクリーン」と名のつく劇場で見るのも洒落てると思った。
駆逐艦がこれだけ満身創痍で戦う映画も初めてのことで、熱気冷めやらず、次に「ワーナーマイカルシネマズ港北」の最大キャパの「ウルティラ」で再び堪能。もう一度見るとすれば「新宿ミラノ座」だな。

映画はアメリカ海軍が全面協力してるわけだし、米軍のPR映画の性格もある。海上での戦いを、陸から援護するような存在となる、義足の黒人退役兵が出てくるが、アメリカでは、戦争で手や足を失った元兵士のための、義手や義足の開発も非常に進んでる。脳から指令を送るだけで、指が動かせるような物まである。そういう側面のPRもなされてるわけだ。

まんまとPR映画に乗せられてしまったとも言え、そのままではいい大人としてバランスを欠くだろうと、勝手に配慮して、米軍のネガティブな部分も押さえてますよ、ってことなのだ。誰に対して配慮してるんだって話だが。


太平洋のハワイ沖で行われる、「リムパック(太平洋海軍合同演習)」の最中に飛来した、エイリアンの戦艦が、ハワイ真珠湾基地を含む一帯にバリアを張ったため、米軍2隻、自衛隊1隻の駆逐艦が、その中に取り残されてしまう。バリアの外側とは通信もできない。
しょーがないから俺たちだけで戦うぞという展開。
エイリアンの戦艦には装備で劣り、しかも海中を移動して、レーダーにも補足されない。ただ向こうも、なぜか相手に戦意があると分かるまで攻撃はしてこないという、紳士的な一面を持ってる。

ならばと、浅野忠信演じる、海上自衛隊駆逐艦「みょうこう」の艦長ナガタはひらめいた。
「津波ブイを計測するんだ」と。
津波を計測するために、ハワイ沖には無数のブイが設置されてる。潮位の変化を見ることで、津波を予測するためだ。
エイリアンの戦艦が海中を移動するとすれば、通過する地点のブイに潮位の変化が出る。バリア内だから、データも拾える。
ブイをディスプレイにマス目状に表示させ、潮位から敵戦艦の動きを予測して、ミサイルを発射する。

この時すでに「みょうこう」は撃沈されていて、ナガタはテイラー・キッチュ演じる、アレックスが指揮を執る、米海軍駆逐艦「JPJ」の司令室にいるんだが、アレックスはその作戦を認め、ナガタに艦長の椅子を譲るのだ。
その予測通り、エイリアンの戦艦の位置が赤く示され、ナガタはミサイル発射命令のタイミングを測る。
この場面の浅野忠信の緊張感に満ち溢れた表情がいい。
ハリウッドの役者たちに囲まれ、まったく遜色なかった。


「津波ブイ」をレーダーに見立てる作戦が、この映画の肝になってるのは、映画を製作してる玩具メーカー「ハスブロ」社の、対戦型ボードゲームを元にしてるから。アメリカ本国ではそのオリジンとなった紙のゲームは1931年に考案されてるそうだ。
対戦型ボードゲームとして日本に入って来たのは1967年。タカラが「レーダー作戦ゲーム」として売り出した。

レーダー作戦ゲーム.jpg

今のノートパソコンのように、蓋面と床面を使う赤と青のボードがセットになってて、2人で向かい合わせに座って対戦する。ボードを背中合わせに置いて、相手から見えないようにする。
蓋面がディスプレイ面、床面はキーボード面というのはパソコンと同じ。
その両面は透明プラスチックが張られていて、たしか10×10位のマス目が区切られてた。
マス目の座標部分は丸くくり貫かれている。
床面のマス目に開けられた穴に、戦艦や空母や駆逐艦などのミニチュアを無作為に差し込んでいく。
これが自陣の隊列のようなことだ。
ディスプレイ面の穴にはピンを刺すようになってる。

どう配置してるかわからない相手の隊列を予想しながら、「ビンゴゲーム」の要領でタテにABC、ヨコに数字が振り当てられた座標を、相手に申告して、ピンを刺してく。
その位置に船が置かれてたら、相手は「命中!」と答えなければいけない。
相手の船を先に全部沈めた方が勝ちというゲームだ。


俺もガキの頃買ってもらい、近所の子とよく遊んでた。
あの「レーダー作戦ゲーム」を、こんなスケールのデカい映画にしてしまったというのがたまらん。
あのゲームをやってる最中は頭ん中では、戦艦同士で撃ち合ってる場面が浮かんでたんだからね。

特に感激したのは、エイリアンの戦艦から放たれたデカい砲弾が、まず船体に突き刺さるように着弾する所。それから起動して爆発するんだが、「レーダー作戦ゲーム」でボードの上部にピンを突き立てて着弾とする、あれをわざわざ再現してるんだから。いや細かいのよ、こだわりが。


駆逐艦は英語では「デストロイヤー」と言うんだそうで、じゃあ何で「バトルシップ」という題名なのかという謎は終盤に解ける。
「それでかあ!」とここでテンション上がんなかったら、もう帰った方がいいと言う位なもんだ。
こっからは海の『スペース・カウボーイ』だもの。

エイリアンが飛来する時点でツッコむのも野暮な話なんだが、前提がまずね。
NASAが行った「ビーコン・プロジェクト」という、地球に似た条件の惑星へ信号を送って、反応を待つのが発端になってるが、そこは『スピーシーズ』と同じだ。
その信号を受けて「先遣隊」が来ちゃうわけだが、他の惑星に来れるような文明を持ってるなら、信号受ける前に、向こうから探して来てるんじゃないか?
それこそ『AVP』みたいに「マヤ文明はプレデターが作った」というように。
「どうぞお入りください」と招かれないと、家に入れない吸血鬼設定でもないだろう。

それよりこれだけ熱くなってしまうのは、この映画が「鉄最強!」で貫かれてるからだな。
こっちの海軍の武器がミサイル含めて「鉄」で出来てのは当然として、地球よりかなり高度な文明持ってるはずのエイリアン側も、ほとんど装備とか「鉄」だよね。「鉄」じゃなくてもいいと思うんだが。
カッキンカッキン、チャリンチャリン、ドッコンドッコン、ガシャコンガシャコンと、もう全編に渡って「鉄」の音が響いてるような映画なのだ。
映像もさることながら、「鉄」の音に身を浸す快感があるんだね。

男はどうも鉄とかメタリックなものに惹かれてしまう。女が宝石が好きなのと一緒だと思う。宝石をなぜ好きなのかとか、一々考えないよね。ただ美しい、キラキラしてる、まあ希少価値っていうのもあるけど。
男もなぜ鉄に惹かれるのか?一つには、「鉄」には大人の男の持ち物という感覚がある。
鉄でできてる物を、乗り物であれ、道具であれ、それを操れたり、身につけたりできるようになるのが、大人になるこという漠然とした憧れが、幼い頃から、心の中に備わってるんじゃないかと思うのだ。

テイラー・キッチュは、短絡的だがやる時はやるという、いかにもアメリカ映画のヒーロー像を体現してるが、彼はカナダ人なんだよね。
兄のストーンを演じるアレクサンダー・スカルスガルドは、『メランコリア』の時は線の細い印象だったが、海軍中佐を凛々しく演じてて、テイラー・キッチュより、女性の人気は高まるんじゃないか?
アレックスの部下の下士官を気合たっぷりに演じてたのはリアーナ。彼女の健闘はかなり大きいと思った。
面白いのは、海上の戦いの中心にいるのが、カナダ人、日本人、スウェーデン人、黒人女性と、アメリカの白人俳優が入ってないこと。
ハリウッドの娯楽映画も、少しづつ革新を遂げてきてるのか。

2012年4月27日

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