洋楽好きには楽しめる合唱ドラマ [映画サ行]

『ジョイフル♪ノイズ』

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これも都内では現在「シネマート新宿」のみの単館公開だ。先週別の映画をここに見に行った時には、小さいキャパの「スクリーン2」で上映されてて、満席の回とか出てたようだ。今週になり「スクリーン1」に再び格上げになってたので、この機にと見に行った。

「合唱映画」というのは、どんな曲を歌うのかというのが、俺のとっての一番の関心事だ。
ストーリーよりもそっちが楽しみ。

昨年1月に公開された、韓国の「塀の中の女性合唱団」を描いた『ハーモニー』では、合唱曲の中に、驚くようなレアな洋楽が含まれてた。
スペインのポップスバンド、モセダデスの『エレス・トゥ』という曲だ。
これは日本ではラジオの「全米トップ40」を聴いてたような洋楽好き以外には知られてない。坂本九の『スキヤキ(上を向いて歩こう)』と同様に、アメリカの音楽チャートで、「英語じゃない歌詞」としてヒットを飛ばした、数少ない曲のひとつなのだ。
多分韓国では70年代に、日本よりもよく聴かれてたんだろう。実際美しいメロディで、サビ部分はコーラスだから、合唱曲にもうってつけだ。

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モセダデスのヒットはこれ1曲で、こういうアーティストのことを
「ワン・ヒット・ワンダラー(一発屋)」と向こうでは呼ぶ。
この『ジョイフル♪ノイズ』でクイーン・ラティファ演じるヴァイ・ローズの息子ウォルターが、ヒット曲マニアで、一発屋に異様に詳しいという設定になってる。
ウォルターは自閉症気味で、学校ではイジメにあったりするが、音楽の才能はある。

人前では歌えないというウォルターを、ドリー・パートン演じるG.G.の孫ランディが励まして、ピアノで連弾しながら歌うのが、1966年の一発ヒット『いとしのルネ』だ。ビートルズなどから影響を受けたアメリカのバンド、レフト・バンクの全米5位を記録した曲だ。
この曲が映画で使われたのは初めてじゃないかな。
家族に口を開くと、まず「一発屋」のウンチクが入る、ウォルターのキャラが面白いんで、彼を主役に「ワン・ヒット・ワンダラー」の楽曲だけを使ったスピンオフを作ってもらいたい位だ。


ジョージア州のパカショーという架空の町を舞台にしていて、日本の地方都市と同じく、シャッターの下りた店ばかりが目立つ不況の町で、その住民たちの期待を担って、全米聖歌隊コンクール「ジョイフル・ノイズ」での優勝を目指す、教会の聖歌隊が主人公だ。
聖歌隊といえばゴスペル・ソングと思いがちだが、「神への賛美や、人生を肯定する」曲ならジャンルは問わないようだ。

この聖歌隊も冒頭でMJの『マン・イン・ザ・ミラー』を歌い、ポール・マッカートニーのソロ後のヒット曲『メイビー・アイム・アメイズド』なんて渋い所も持ってくる。
スライ&ファミリー・ストーンの『アイ・ウォント・テイク・ユー・ハイヤー』から、アッシャーの『YEAH!』、クリス・ブラウンの『フォーエヴァー』とつなぎ、「サインド、シールド、デリヴァード、アイム、ユアーズ♪」と歌われるスティービー・ワンダーの『涙をとどけて』に至る「ハイヤー・メドレー」など、合唱シーンはさすがに聴かせる。

合唱以外の場面でも、現代が舞台になってるわりには、ボズ・スキャグスの『ロウダウン』、カチャ・グー・グーの『君はトゥー・シャイ』(彼らも一発屋)、ルー・ロウルズの『ユール・ネヴァー・ファインド・アナザー・ラヴ・ライク・マイン』など「懐メロ」が流れるのは監督の趣味なんだろう。
年季の入った洋楽好きなら、この選曲は気に入るだろうな。


だが映画の作り自体はいろいろ難点もある。こういう映画の場合、逆境におかれた登場人物たちが、一丸となって栄光を目指すというのがルーティンだと思う。
ベタだけどやっぱりその展開が胸熱になるからだ。
聖歌隊のメンバーの、生活に窮してる様子とか、シャッター商店街の店主たちが、聖歌隊のために後方支援に回るとか、うなだれた町が覇気を取り戻していくような、ストーリーが見たい所なんだが、まったくそういう気配はない。

クイーン・ラティファ演じるヴァイ・ローズと、ドリー・パートン演じるG.G.が何かにつけ、角突き合わす様を見させられる。

G.G.の夫のバーニーをクリス・クリストファーソンが演じてるんだが、聖歌隊をまとめてたバーニーが急死してしまい、妻のG.G.が後任に選ばれる。
ヴァイ・ローズはサブとして聖歌隊に貢献してきた自分を差し置いて、G.G.が選ばれたのが納得いかないのだ。
そこに持ってきて、ヴァイ・ローズの娘オリビアと、G.G.の孫のランディが接近したりで、いよいよ二人の間はこじれていく。
クイーン・ラティファとドリー・パートンは、どちらも芸達者だから、いがみ合いもそれなりに楽しく見れはするが、所詮「家庭の揉め事」を見させられてるだけであって、他の聖歌隊のメンバーはほぼ空気となってる。
合唱団映画につきものの「人間模様」ってやつが無視されてるのだ。

アメリカ映画にありがちな、ヘッポコなチームや集団が、最後にはすごい成果を示すという設定にはなってないのはいいと思う。
「ここまでうまけりゃ、最初からある程度はうまいはず」と見てて思うことが多いので。
この聖歌隊は実力はあるんだが、地区大会に立ちはだかる強豪の壁を突破できないでいるのだ。
これは『チアーズ』と同じ設定だね。


その地区大会で見せる「デトロイト教会」のパフォーマンスが見事だ。実際のゴスペル界のスター、カール・フランクリンがソロパートを担ってるが、聴衆を煽る煽る。もう会場ノリノリだ。
だがコーラスがあまりに上手すぎて「プロなんじゃないか?」と、クイーン・ラティファたちは疑うと、察する通りに、プロを使ってたということで、宿敵は失格となり、思いもかけず全国大会決勝へと駒を進めることになる。

そしてこの決勝の相手として出てきたのが、子供時代のマイケル・ジャクソンかと思うような、見事な歌唱の黒人少年がソロパートを担う合唱団だ。
俺は合唱というと全編コーラスと思ってたが、ソロパートの役割が大きいのだな。
この相手チームのパフォーマンスも圧巻で、その後に出るパカショーの聖歌隊のメンバーは「不公平だよ」と意気消沈してるのもわかる。

難点として対戦相手のクオリティが高すぎないか?ということなのだ。
いや見る側にとっては、見事なパフォーマンスがいくつも見れて、それはそれで満足ではあるんだが。
パカショーの聖歌隊が勝てると思えないんだよな。

ドリー・パートンの顔の整形をネタにした、レストランでの大ゲンカの場面は、笑っていいのかな。
続編作るなら、ドリー・パートンとシェールで
「自然に歳を重ねたとはとても思えない人工感あふれた美魔女」
共演を期待したい。

2012年5月18日

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