ロマポル③「名美」を描く曾根・相米の2作 [生きつづけるロマンポルノ]

『天使のはらわた 赤い教室』

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初日の曾根中生監督のトークショーにおいて、『天使のはらわた 赤い教室』撮影時の衝撃的エピソードが、監督から淡々と語られた。
これは原作者・石井隆のライフワークと呼べる「名美シリーズ」の1作で、石井隆は脚本も担当してる。そんな彼の思い入れを知ってか知らずか、曾根監督は、脚本としても肝であるはずの結末部分を、勝手に変更してしまったのだという。

ビニ本を製作してる村木は、同業者から秘密の撮影会に呼ばれる。それは音の入ってない8ミリフィルムで、いわゆる「ブルーフィルム」というヤツだった。ひと気のない学校の廊下で、女性教師が数人の男子生徒に囲まれる。彼女は理科室で生徒たちに押し倒され、服を剥ぎ取られて集団暴行されるというものだった。彼女は「実習生」の腕章をつけていた。

フィルムは作り物にしては生々しかった。なにより村木は、その女性教師の顔が焼きついてしまった。
業者の男に、このモデルの連絡先を教えてほしいと頼んでも、「それは無理なんだよ」と断られる。
あれはモデルではなく、本当の女性教師だったのではないか?

村木は悶々として過ごすある日、いつもビニ本の撮影で使用するホテルに、空き室を確認する電話を入れると、受話器の向こうの声にハッとなる。
「あの女性教師?」
しかしあの8ミリフィルムは音が入ってなかったんだから、声聞いたって本人かわかる訳ない。
第六感ということなんだろうか。
その予感通りに、ホテルの狭い受付に座ってたのは、まぎれもなくあのフィルムの女だった。
名前は名美といった。

名美は最初、露骨に警戒を示した。彼女は暴行現場をフィルムに撮られ、それが流出したことで、多くの男たちに顔を知られてしまった。仕事先を変えても、すぐに見知らぬ男から脅迫される。
行き場を失った名美は、金で身体を売るようになっていた。

村木は自分が名美をなんとか「ドン底」から救おうとするが、名美に新しい人生を約束するはずの待ち合わせの日、村木は未成年のモデルを使ったとの容疑で、警察にしょっぴかれてしまう。

村木は3年後に、場末のバーのカウンターに、人相もすさんだ名美を見つける。
だが名美は自分だと認めない。
彼女はこのバーの2階で男たちに身体を売っていた。村木はそれを襖ごしに覗く。

何人もの男が群がり、ひとりが「順番がこねえよ!」と文句言うと、店の男が床下を開ける。制服を着た少女が縛られたまま、男たちの輪の中に放りこまれる。
叫び声を上げる少女を、名美はうつろな目で眺めてるだけだ。ここは鬼畜たちの巣窟だった。

この後、問題の結末に至るラストシーンとなる。
身体を売ったあとに、ようやく村木と二人で話しをする名美。
「俺と一緒に帰ろう」
「この日を3年も待ってたんだ」
「私はあの日、3時間待ったわ」
「ここは君のいる場所じゃない」
「じゃあ、あなたがこっちに来る?」
名美は村木に背を向けた。村木はひとり立ち去るしかなかった。
空き地の水溜りに自分の姿が映ってる。名美は足を水に入れて、自分をかき消した。

これが映画のラストなんだが、石井隆の脚本では、名美は村木の説得に応じて、一緒に帰ることになっていたのだと。山根貞男が
「なんで結末変えちゃったんですか?」と訊くと
「あそこまで堕ちてしまった女が、おためごかしの説得に応じるはずない。」
当然この改変には石井隆も納得せず、大喧嘩になったそうだ。
「まあラストを変えても、石井隆につきものの、女が夜の雨に打たれてるという場面はおさえてたから、それでいいだろうと」

『天使のはらわた』はその後シリーズ化されるが、曾根中生が監督に呼ばれることはなかった。
石井隆が自分で監督もするようになったのは、このいきさつがあったからでは?

ラストの水溜りの場面のアイデアは、撮影監督のもので、そのほかにもビニ本撮影のホテルで、ワンカットで昼から夜になるように見せてるのは照明スタッフのアイデア。
「だからこれは僕が作ったというより、撮影スタッフみんなで作り上げた感じでしたね」

名美を演じるのは水原ゆう紀で、当時としちゃ「こんなゴージャスな美人があられもない姿で」と衝撃だったろう。
曾根監督によれば、彼女は今は「占い師」になってるそうだ。
村木は蟹江敬三が演じてた。



『ラブホテル』

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相米慎二監督が「名美」を撮った、彼のフィルモグラフィ中唯一の「成人指定」作。
この映画で村木を演じてるのは寺田農だ。

出版社の資金繰りに行き詰まり、闇金に頼った村木が、返済が滞ってると男たちに事務所に踏み込まれ、妻の良子は暴行される。
村木は絶望し、自殺を図るが果たせず、ラブホテルにデリヘル嬢を呼ぶ。
自暴自棄となってた村木は、妻がされたように、女を暴行して殺し、自分も果てようと思っていた。
明るい口調であいさつしたデリヘル嬢は、いきなり縛り上げられ、その様子のおかしさに動揺する。
だが抵抗むなしく村木にされるがままに。
村木は用意してたヴァイブを突き立てるが、デリヘル嬢にはすでに恐怖はなく、激しく身体をしならせている。
村木は死ぬつもりの空虚な心に、「生」が思わず沸き起こったことにうろたえ、女をその場に残して、逃げるようにラブホテルを立ち去った。


2年後、村木はタクシー運転手となってた。妻に取り立ての手が及ばぬよう、離婚して、安アパートに暮らす。妻の良子は、たびたび食事を持って、村木のもとを訪れていた。
村木は偶然、見憶えある女が別のタクシーに乗り込むのを見て、後を尾ける。彼女のマンションの前で車を停め、しばらく待つ。
すると帰宅したあと再び、どこかに出かけるのか、マンションの玄関を出てきた。
村木は「流し」を装い、タクシーでゆっくり傍に近づくと、女は手を上げた。
「海が見たいの。横浜まで行って」

長い道中で、村木は切り出した。そして彼女も村木の顔を思い出した。だが2年前にあんな真似をされたのに、村木を憎悪する素振りはない。

彼女は名美と名乗った。OLとして働いてるが、職場の上司と不倫状態にあった。
あのデリヘルは、一度だけのアルバイトのつもりだったが、あの体験が心に傷を残したことは間違いなかった。
村木は「あなたのおかげで救われた。あなたは天使です」
と言うが、名美は困惑する。
村木から受けたあの行為のせいで、名美はその後まともな恋愛ができなくなってた。

村木は贖罪の気持ちにかられ、名美のために、何でもしてやりたいと思っていた。
興信所を雇って夫の浮気相手をつきとめた上司の妻から、仕事場に押しかけられ、掴みかかられたり、その上司からは別れ話を切り出されたり、名美は憔悴してた。
村木は上司夫婦の家に強盗まがいに乗り込み、興信所の資料を出させようとした。
名美を守るため、なりふり構わなくなっていた。

名美は「あの夜の続きをやってほしい」と村木にせがむ。
ラブホテルに着ていった、黄色のカーディガンを身にまとい。だが村木はそんな風には愛せない。
村木が名美に抱く贖罪の愛と、名美が求める愛は別のものになってしまっていた。


『天使のはらわた 赤い教室』が村木を軸の「男目線」で描かれてたのと対照的に、『ラブホテル』では、名美の心情を、相米監督ならではの長回しで見つめる描写が印象を残す。

村木の妻の良子と名美が、村木のアパートの前の階段ですれちがうラストシーンにも見るように、村木を巡る「女目線」の一作になっていた。
ポルノではあるが、性描写はそれほど激しいものではなく、石井隆の「名美」シリーズにつきまとう「男の妄想」の臭味が、他の映画化作ほどに漂ってはこない。

劇中に流れる山口百恵の『夜へ…』も、もんた&ブラザースの『赤いアンブレラ』も俺は初めて耳にした。洋楽ばかり聴いてきたから、邦楽のいい曲というのに触れてきてないなあと痛感したよ。
どちらもしみじみいい曲だった。

特に村木と名美が夜の横浜の埠頭で落としたらしい指輪を、別の日の昼間に探す場面で『赤いアンブレラ』が流れてるんだが、この場面のカメラが素晴らしいな。
あの埠頭も、地面がくりぬかれてるようになってて、余った部分に二人が立って、探してるんだが、画的にスリリングだし、海面とのコントラストもいい。ここ名場面だったね。

名美を演じる速水典子は新人で、どうしてもセリフ回しとか拙いんだが、なにかその固さが、裸をさらしていても、変に「仕事っぽく」なくて、新鮮に映ってた。
寺田農の村木は時にユーモラスでもあり、他の映画の村木には感じられない味があって良かった。
アパートに妻を迎えて、ズボン脱いでももひきに履き替えるとことか、名美だけでなく、良子との描写があることで、ストーリーに奥行きが出たのだと思う。

2012年5月20日

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