ロマポル⑤谷ナオミ登壇『花芯の刺青 濡れた壺』 [生きつづけるロマンポルノ]

『花芯の刺青 濡れた壺』

ロマポル花芯の刺青.jpg

『生贄夫人』に続いて、この映画の上映終了後にも、谷ナオミが登壇し、撮影裏話を聞かせてくれた。
これも小沼勝監督とのコンビ作だが、監督は『生贄夫人』から2年後のこの映画で、谷ナオミの女優としての表現力が、明らかに高まってることに感銘を受けたと言う。
それは裸の見せ場に限らず、なにげない場面での仕草やセリフに感じたと。
小沼監督が一番好きな場面は、彼女が親友でクラブのママをやってる花柳幻舟と、カウンターでせんべいを分け合って食べるくだりだそう。


この映画はSMでも「緊縛」ではなく「刺青」がテーマだ。
谷ナオミ演じるみち代は、江戸千代紙人形師の後妻で、夫亡き後は、先妻の娘と一緒に暮らしている。
千代紙人形の技術を受け継ぎ、評価も得ていた。みち代は元々、歌舞伎のかつら職人の家に生まれたが、十代の頃に、歌舞伎舞台の奈落で、娘道成寺の蛇面をまとった珠三郎に体を奪われた。その記憶は今でも不意に甦り、胸をしめつけた。
忌まわしい記憶のはずなのに、珠三郎に対する相反する気持ちに心がかき乱されるのだ。

義理の娘たか子が、車との接触事故に遭い、病院に運ばれた。駆けつけたみち代は、加害者が今は亡き珠三郎の一人息子、ヒデオであると知り動揺を隠せない。その面影は珠三郎そっくりだったのだ。
幸いたか子のケガも軽く、それが縁で、みち代はヒデオの家で、珠三郎の遺品を見せてもらう。
その中にあの娘道成寺の蛇の衣装を見つけ、みち代は肉体の昂ぶりが抑えられなくなり、その場でヒデオに身体を預けてしまう。

だが義理の娘たか子もまたヒデオに惹かれており、ヒデオの家を訪れると、挑発するような視線を投げかけた。
たか子の声を聞いて、物陰に隠れていたみち代は、吹き抜けとなる2階の部屋から、下の部屋で裸で絡み合う若い二人を見るうち、思わず自慰に及ぶ。

みち代は敗北感に苛まれていた。たか子は性にも奔放で、ヒデオは彼女の若い肉体に抗うことはできないだろう。血は繋がってなくても、自分の娘のように愛情を注いできたが、今やたか子は、みち代にとって恋敵としてしか見れなくなった。

みち代は放心したようにドシャ降りの雨に打たれ、雨宿りの軒先で偶然出会った、彫師の辰の仕事場へと付いて行く。辰から見せられた、刺青の図柄の妖しい美しさに魅入られる。
みち代は辰に言った。
「私の肌に道成寺を彫ってください」


有名な刺青師の凡天太郎が、実際に刺青を入れる様子をカメラに収めており、その刃が肌に刻まれる音が、ちょっと表現しにくい音で、身震いするような感覚がある。
血の滲むさまもすべて本物なので、「縛り」とちがって、見てる方も痛覚を喚起される。

このくだりは非常に粘り強く描写されており、彫師の辰を演じる蟹江敬三の目力もすごい。
この映画の蟹江敬三は、浅黒く野性味があり、他の映画の印象とまったく違う。
『ピアノ・レッスン』の時のハーヴェイ・カイテルを連想させるものがあった。

彫り終わり、みち代が風呂で身体を洗う場面は、その湯による痛みに悶絶する、谷ナオミの演技がリアル。火傷と同じような状態に、肌の表面はなってるのだろう。
谷ナオミの柔肌に描かれた刺青は、風呂につかっても色が落ちない。
これは絵心のある、日活の大部屋俳優(名前は失念)が7時間かけて描いたものだそうだ。
水に溶けない特殊な絵の具を使ってると。

その肌の隅々、局部にいたるまで、刺青をまとったみち代は、挑みかかるような視線で、ヒデオの前に裸身を晒す。この場面の谷ナオミの勝ち誇ったような身体のくねらせ方が圧巻だ。
刺青が生き物のように躍動してる。
これは海外の観客にも大ウケするんじゃないか?


実際、数年前に谷ナオミの主演作の特集上映が、フランスで開かれることになり、多くの観客を集めたというが、その際、小沼監督からホテルに電話があり、
「パリジェンヌの前で仁義を切ってこい」
と言われた谷ナオミが、上映の舞台挨拶でやってみせたら、拍手喝采だったという。

撮影が手がこんでいるのも印象的だ。2階の部屋の手すり越しに、下の部屋が見える建物の作りというのは、テレビドラマ『鹿男あをによし』で、玉木宏と綾瀬はるかが下宿してる、長屋みたいなアパートの構造を思わせた。
1階でまぐわって、2階で自慰という、立体エロティック構造のワンショットが見事。
ラストで叩き割った鏡台の鏡の破片に、いくつものみち代の顔と、柔肌の刺青が映されるカメラもいい。


小沼監督はトークショーで、特にみち代と辰が出会う、雨宿りの場面の描写を強調してた。
辰がみち代を眺めてるんだが、その視線が彼女のうなじにうっすら滲む汗を捉え、濡れた足袋を脱ぐ足元を捉える。こういうエロスを表現することが、最近の映画には無くなったと語っていた。

『生贄夫人』においても、谷ナオミが夫から、石切り場で縛られる場面があるんだが、それをロングで捉えていて、目を奪われる。
小沼監督の作品は、ロマンポルノという、セックスシーンが売り物でありながら、即物的な感覚はなく、映画を見てるという濃密な時間が味わえた。

トークショーで谷ナオミが
「映画監督の方はみなさんサディストのような気がするんですが」
と振ると、小沼監督は
「僕はマゾだと自分では思いますよ」
「映画監督はイメージとはちがってマゾが多いと思う」
「日活ロマンポルノの監督で唯一のサディストと思うのは曾根中生だね」
この発言には会場内も妙に納得な空気になってた。

2012年5月24日

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TN

パリの映画祭で仁義を切ったのは去年です。
by TN (2012-06-13 22:06) 

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