「男ならレイバンだろ」と宣言する映画 [映画カ行]

『キラー・エリート』

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上のパンフのヴィジュアルでステイサム、デニーロ、オーウェンの3人の目を覆ってるレイバン。
いや予め断っておくと、俺はグラサン関係は全く詳しくないんで、3人のかけてるのが全部レイバンなのか、よそのメーカーの違うネーミングのものなのか、そのあたりがわかってない。
なのでああいう形のものはレイバンと総称して話を進めることにする。

この映画は1980年が時代設定となってる。
「今の」アクション映画の見てくれではなく、「レイバンの似合う男たち」が闊歩してた時代の、古風なアクション映画の手触りを目指してる。

『メカニック』や『デス・レース』など、「70年代アクション」の再生に心血注ぐ
ジェイソン・ステイサムだが、この映画はサム・ペキンパーの同名映画のリメイクではない。

だが今売れてる若手の役者たちに
「おまえらにレイバンがかけこなせるのか、ああーん?」
というポーズから、レイバンをキー・アイテムに70年代アクションに目配せしてるように思える。

そう、スーツを「着こなす」と言うように、レイバンは「かけこなす」とでも言うべきか。特に定番の「ティアドロップ型」という、あの表面積の広いタイプは難物だ。

近年では『MIB』のウィル・スミスとトミー・リー・ジョーンズが思い浮かぶが、あれはキャラの一部になってる。「権力側」の象徴に使われることも多いので、レイバンをかけて、しかも渋さや、キャラクターの人間味を出すには、それなりの面相が必要になる。

アメリカ映画で、最初に強烈なイメージとして残ったのは、1967年の『暴力脱獄』だ。囚人ポール・ニューマンたちの屋外労働を監視する看守たちが、シルバーの鏡面のレイバンをかけてた。

そのポール・ニューマンは『新・動く標的』でレイバンをかけてたし、ペキンパーの映画でいえば、『ガルシアの首』のウォーレン・オーツが断トツ渋いし、オーツも出てた『ボーダー』で、国境警備隊を演じたジャック・ニコルソンもレイバンでキメてた。

『パニック・イン・スタジアム』でSWATの隊長を演じたジョン・カサヴェテスが、主役のチャールトン・ヘストンを完全に食ってたのは、あのレイバンに拠る所が大きい。
『ローリング・サンダー』のウィリアム・ディヴェインにもシビれた。

レイバン人気を日本で高めたのはトム・クルーズが『トップガン』でかけてかららしい。
あと忘れちゃいかんのがスタローンの『コブラ』だよ、スタローンの『コブラ』。
連呼しちまったが、まあ映画自体はポンコツな部分もあるんだが、スタローンが
「俺に足りない渋さを出すにはどうしたら?」
と考えてレイバンに行き着いたと、俺は見てる。だから何か憎めない。

日本でいえば「遊戯」シリーズの松田優作、「大門軍団」の渡哲也、それに原田芳雄というところか。
日本人の細面な顎の骨格や、面長感の足りない顔の輪郭だと、レイバンをかけこなすのは難しい。
大人がかけても「フィンガー5」みたいなことになってしまうのだ。俺も昔試して挫折した。

この『キラー・エリート』でステイサムをはじめ、デニーロも、クライヴ・オーウェンも、レイバンが顔から浮いてない。
アクション映画を演るんなら、それなりの面構えも必要なんだよ、という主張がこめられてるのだ。


1年前、殺しの依頼を受けたダニーは、相棒のハンターとともに、リムジンの標的を襲うが、同乗してた少年に引き金を引けず、その一件を契機に仕事から足を洗った。
メルボルン郊外で牧場を営む幼なじみのアンと、平穏な日々を送るダニーのもとに一通の封筒が届く。
中にはオマーンへの航空券と、何者かに捕らわれたハンターの写真が。封筒はダニーたちに殺しを斡旋してきたエージェントからだった。
相棒を見捨てられず、ダニーは「殺しの世界」に舞い戻ることに。

ハンターを拘束してたのは、オマーンの首長のひとり、シーク・アムルとその息子だった。シーク・アムルは四男を除くすべての息子たちを、SASの兵士たちに殺されていた。背後には石油を巡る利権争いがあった。
ハンターはそのSASの兵士3人を捕らえ、自白させたあと、事故死に見せかけて殺害するという依頼を、単独で受けていた。それは高額な報酬目当てだったが、手に余ることから、ハンターは仕事を放棄し、シーク・アムルの四男に捕まってたのだ。

引き継がなければハンターの命はない。相棒であり、殺しの仕事のイロハを教わった、父親代わりでもあるハンターのため、ダニーは無謀な依頼を呑むしかなかった。


パリに飛んだダニーは、かつての「殺しのチーム」を呼び寄せた。依頼内容を聞いて、兵士時代にSASの試験に落ちたというデイヴィスは、呆れたように言った。
「あいつらはパラノイアだ。常にバックアップを用意してる」
「拷問に口を割るようなことはない」
「ネイビー・シールズが逃げ出すくらいの精鋭部隊なんだぞ」

だがその報酬は魅力だし、殺しの標的として、これほど歯ごたえのある相手もないだろう。
「殺しのエリート」を自認するような、チームのプライドに火が点いた。

だがダニーたちが、SASの元メンバーの居所を探ってるということは、すぐにSAS側にも察知された。
SAS出身者の利益や身の安全を守る「フェザー・メン」の工作員スパイクは、作戦中の事故で片目を失い、SASを引退してたが、その凄腕ぶりは組織内でも知れ渡っていた。
世界一の精鋭部隊と、それを標的にする殺し屋たちの、まさに血で血を洗う戦いの火蓋は切られた。


正直言うとね、脚本的にはもう少し面白くなってもいいんじゃないか、という出来ではあるんだよ。
だってさんざん前振りで「SASやべえよ」と言っておきながら、意外と簡単に仕留めちゃってるし。

「こいつはSASの中でも、相当エグい経歴の持ち主」と標的のプロフィールが紹介されるんだが、単なる女好きで、風呂で転んで頭打って死んだことに見せかけるのも無理があるだろ。
そのために、まず標的の家に侵入して、風呂のタイルを1枚失敬する。それをコピーして、ハンマーにペタペタ貼っつける。そのハンマーで頭を殴れば、タイルの成分がくっつくから、アリバイになるということだな。実にローテク。

結局その標的となってる元SASの3人は大したことなくて、手強いのはスパイクなのだ。
ダニーを演じるステイサムと、スパイクを演じるオーウェンの真っ向勝負の肉弾戦は迫力あるね。
アスリート出身で、スピードと切れがあるステイサムが、研ぎ澄まされたナイフとすれば、オーウェンは委細かまわずぶった切る牛刀のような戦いっぷり。
オーウェンの方が3つ年上だが、ともにイギリスの地方都市出身で、売れ出した時期も近い。ライバル意識もあるんではないか?

あのデニーロが完全にサイドキックスの役割に徹してるのは、長年彼の映画を見続けてきた者にとっちゃ感慨もあるが、ダニーの幼なじみアンの護衛を任されたハンターが、地下鉄のホームで、彼女の危機を、本人には知られずに回避する場面はカッコいい。

そう、拘束されてたハンターは、ダニーの手によって、脱走に成功してたのだ。
というかシーク・アムルの護衛たちがヘボすぎ。丸腰のダニーに、二度までもボコられてる。
そういう部分の甘さが、映画としては惜しい。

だが銃撃戦をカッコよく決めようとか、カーチェイスをアクロバティックに見せようとか、演出に変な色気を見せない所はいい。
ゴツゴツとして融通の利かない、それこそ70年代には普通に見られた、アクション映画のフォルムで撮られていて、それが「レイバン」の男たちの風貌に合ってるのだ。

2012年5月28日

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