マ・ドンソクのアシスト光る『ミッドナイトFM』 [映画マ行]

『ミッドナイトFM』

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2010年の韓国製スリラーで、現在都内では「新宿武蔵野館」のみの単館公開となってる。
この映画に興味を惹かれたのは、深夜のラジオ番組の女性パーソナリティが、熱烈なリスナーの男に脅迫を受けるという設定だったから。しかもその番組は「映画音楽」を流してるのだ。

俺が学生時代の頃に、毎週聴いてたFMの番組に、映画音楽を扱う番組が二つあった。
関光男が案内役の、NHK-FMの「映画音楽特集」と、FM東京の「ナカウラ・スクリーン・ミュージック」。
こちらは映画評論家の「小森のおばちゃま」こと小森和子が案内役だった。
NHKの方はスクエアな感じで、淡々と曲が紹介されてった印象で、結構ここで初めて耳にした映画音楽も多かった。
FM東京の方は、あばちゃまのほのぼのした語りで、カジュアルな雰囲気があったね。

この映画では「映画音楽室」というラジオ番組名になってるが、これは架空の物ではなく、現在も韓国MBCラジオでオンエアされてる、実際の長寿番組なんだそう。

日本では1980年代以降、映画のテーマ曲というと、ミュージシャンが映画に提供した楽曲の方をイメージされるようになり、「スコア盤」と呼ばれる、インストゥルメンタル曲を収めたサントラ盤は、ほとんど売れなくなってしまった。映画音楽マニアが支えてるようなもんだ。
なので、韓国では未だに昔かたぎな「映画音楽」の番組が残ってるというのは、ちょっとうらやましい気もするね。

ラジオDJを主人公にした映画は過去に何作もあって、この映画の中でもタイトルが挙がってるが、この映画自体のヒントになってそうなのは、3本思いつく。

1本は『フィッシャー・キング』
過激な発言が売りのジェフ・ブリッジス演じるDJが「ヤッピーなんて殺しちまえ!」と叫んだのを真に受けたリスナーの男が、銃を乱射して7人を殺害してしまうという出だしだった。

もう1本は『トーク・レディオ』
実際のDJエリック・ボゴジアンが主演し、スタジオに電話をつないで、リスナーを挑発するような口調でまくしたて、命を狙われることになる。

最後の1本はクリント・イーストウッド主演・初監督作『恐怖のメロディ』
ジャズ番組に毎回「ミスティをかけて」とリクエストしてくる女性と、実際に会い、肉体関係を結んでしまったDJが、次第にそのストーカー的執念に脅かされていくという話だった。


スエが演じる人気ラジオパーソナリティのコ・ソニョンは、自らの番組「映画音楽室」の最終回の収録に臨んでいた。元はTVニュースのアンカー・ウーマンまで昇りつめた彼女だったが、凶悪犯の釈放に番組内で異を唱えたのがきっかけで、番組を降り、以来5年間ラジオに情熱を注いできた。

まろやかな落ち着いたソニョンの声にはファンも多く、リスナーをスタジオに招くコーナーのために、毎回のようにスタジオに顔を見せる、ストーカーまがいのドクテのような男もいる。
ソニョンは最終回にドクテみたいな男を番組に呼ぶつもりはなかった。
シングルマザーのソニョンには幼い娘ウンスがいる。娘は失語症で、その治療のため、アメリカに渡ることを決めてたのだ。

だが完璧な段取りで始めた番組の収録中に、ソニョンの携帯が鳴った。
「俺と一緒に番組を終わらせるんだ」
なんのイタズラ電話かと思うソニョンは、携帯の画面にライヴで送られてきた映像に目を疑う。

そこはソニョンの自宅だ。子守を頼んでいた妹のアヨンが縛られてる。怪我もしてるようだ。
さらに妹の子供もテープで巻かれ、横たわっている。
「俺の言う通りに番組を続けろ。逆らえばお前の家族の命はない」
ソニョンは気が動転したが、しかし画面の向こうに娘ウンスの姿は見えない。
「このことは誰にも言うな」

ドンスと名乗る男に言われたが、気が気ではないソニョンは、警察に自宅の様子を見てもらうよう要請を出す。
自宅を訪れた警官2人は、ドンスに迎え入れられる。
だが部屋で女性が縛られてるのを目撃した瞬間、背後からレンチで一撃され、もう一人も反撃する間もなく、止めを刺される。
ウンスは物陰に隠れていた。
ドンスはソニョンに娘がいることを知っており、妹のアヨンを問い詰める。
アヨンは「今は病院にいる」と嘘を言うが、足の小指を切断されてしまう。

警官を寄こした罰を映像で見せたドンスは、ソニョンに『タクシー・ドライバー』のテーマ曲を流せと言った。
そして番組で以前それを流した時、しゃべった内容を再現しろと。
そんなこと憶えてるわけない。以前の収録テープも保管庫になかった。


明らかに様子がちがうソニョンを見て、熱烈リスナーのドクテは彼女の後をついてきてた。
そして彼女を困窮させてるのが、番組の内容に関することだと察する。
ドクテはおずおずと切り出した。それは以前ソニョンが『タクシー・ドライバー』について語ったこと、そのままだった。
ドクテは彼女の番組に関しては驚異の記憶力を有していたのだ。

なんとか内容を再現したソニョンは、ドンスの機嫌を取れたかに見えたが、番組の内容がおかしいと、プロデューサーがスタジオに乗り込んできて、『タクシー・ドライバー』のテーマ曲を、勝手に代えてしまう。
流れたのは『スティング』のテーマ曲だった。

ソニョンはプロデューサーに殴りかかった。
「家族が殺されるのよ!」

スタジオにいたスタッフは何が起きているのか知ることとなった。
ドンスは妹をすでに手にかけたらしい。
ソニョンはプロデューサーに、移動中継車を出すよう頼んだ。
自分も殺されるかもしれないが、対決するより道はなかった。
そしてドクテも、関係者でもなんでもないんだが、一緒について行った。


ドンスを演じるユ・ジテのサイコぶりは見ものだが、一見キモヲタのリスナー、ドクテが実は頼りになる奴という展開はいい。
ドクテを演じるマ・ドンソクは、極楽とんぼの山本にそっくりなんだが、もともとドンスもドクテも熱烈なリスナーなわけだ。
それが片や誇大妄想の脅迫者に変貌し、片や熱烈で忠実なリスナーのままなのに、ソニョンにはストーカー呼ばわりされて、力になろうとしてるのに報われない。

「助けてあげようとしてるのに、なんで嫌うんですか!!」
このドクテの魂の叫びは映画一番のピーク地点だったね。


ドンスはなんで『タクシー・ドライバー』にこだわるのか?自分をトラヴィスだと思ってるからだ。
ソニョンがTVのニュースで「正義はないんですか」と言った、その言葉は自分に向けて発せられたと思った。
そしてラジオで『タクシー・ドライバー』の映画の内容に触れたソニョンが、
「トラヴィスの行為は英雄と呼べるもの」
と語ったことは、ドンスの行動を決定づけた。
ドンスは自分が「町のダニ」と映る人間たちを処刑し始めたのだ。

このあたりの、ラジオの発言を一方的に解釈して暴走するキャラ設定は、
『フィッシャー・キング』を連想させるのだ。


香港映画と同じに、子供を過酷な目に遭わせることでは人後に落ちない韓国映画だから、ソニョンの娘ウンスを演じる子役も健気なくらいに熱演していて、かなり無理がある展開も勢いで押し切ってく感じはある。

ただこれは突き詰めれば、ドンスとソニョンの間の因果に起因してる事件なわけで、それにしては周囲の人間たちに犠牲が出すぎる。

ソニョンが娘を取り返すため、なりふり構わない母親パワーを見せるのは、スエの熱演によって、充分に伝わりはするが、妹なんかただ酷い目に遭うためだけに出てきてるようなもんで、
「娘さえ無事なら結果オーライなのか?」という割り切れなさが残るのだ。

それにせっかくラジオ番組を題材にしてるのに、映画音楽もあまり流れないうちから、もう本題のサイコサスペンスに突入してしまうんで、そこが勿体ない。

同じ韓国映画なら1997年に、ハン・ソッキュがラジオ番組のディレクターを演じた『接続 ザ・コンタクト』のような、ラジオの収録風景をしっとり聴かせるような時間を、前半にとってほしかったな。
後半のバイカーまで絡めたカー・チェイスとか要らないでしょう。

2012年6月2日

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