7月の「フィルムセンター」が熱い件 [映画雑感]

と言っても、国の機関だから、夏の電力需要に気を遣って、館内冷房抑えめにしてるから、蒸し暑いとかの意味ではない。組まれてるプログラムが熱いってことだ。

先だって「EUフィルムデーズ」の『カロと神様』を見に行った際のコメントの中で、7階の展示室で
「ロードショーとスクリーン 外国映画ブームの時代」
と題された展示が楽しいと紹介したが、いよいよそれにちなんだ映画17本を、
7月12日(水)から7月29日(日)まで上映することになったのだ。

ラインナップを眺めてみると、これは『(裏)午前十時の映画祭』と呼べるもので、すべて35mmフィルムで上映される。ちなみに本家『午前十時の映画祭』で上映された作品も4本入ってる。

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上映作品は以下の通り。年代順に並べてみると


『サスペリアPART2』(1975)

1977年の『サスペリア』が日本で大ヒットしたため、東宝東和がその続編という体で翌1978年に公開した、ダリオ・アルジェント監督の「ジャーロ」的傑作。
『サスペリア』とは繋がりがないことは、すでに皆さんご承知の通り。
『欲望』のデヴィッド・ヘミングスが、あの不条理感を引きずった感じで翻弄される展開もいいし、気色悪い人形と、最後のばあさんはトラウマ級の怖さだった。フィルムで拝めるのは俺にとっては初公開時以来だ。
なお今回の上映は、後にビデオ・DVD化された際の126分の「完全版」ではなく、劇場公開時の106分版とのこと。


『キングコング』(1976)

ピーター・ジャクソン版のコングはCGだが、このジョン・ギラーミン版は「アニマトロニクス」&「着ぐるみ」という、手作り感がいいのだ。ジャック・ブラックには悪いが、こっちのジェフ・ブリッジスの方が格上だし。
ジェシカ・ラングもこの頃はちょいエロくてよかった。
なによりこのコングが登るのはエンパイア・ステート・ビルではない。
その「世界貿易センタービル」の在りし日の姿を偲ぼうってもんだ。


『カサンドラ・クロス』(1976)

先日『星の旅人たち』のコメントで、マーティン・シーンについて熱く語ったばかりなので、この映画の久々のスクリーン上映は嬉しい。
この年の年末に「お正月映画」として、東宝東和の『キングコング』への対抗馬に日本ヘラルドが打ち出したのがこの映画。パニック大作の触れ込みだったが、ラストのミニチュアは正直しょぼい。
だがそこに至るまでのサスペンス描写に、その後『ランボー怒りの脱出』で大きく当てる、新鋭コスマトス監督の手腕が見てとれる。
ジェリー・ゴールドスミスの流麗なスコアも聴きもの。
ちなみにこの映画アメリカではほとんど知られてないのだ。


『Mr.BOO!ミスター・ブー』(1976)

初公開時に見た時はなかなかに衝撃的だった。カンフー映画一色だった香港映画に、現代を舞台にしたコメディが出現、しかもギャグがドリフなみにベタなドタバタで、それが波状攻撃的に展開される。
マイケル・ホイが全くフツーのおやじ顔というのも衝撃。三男の年寄り顔したリッキー・ホイと3人ならぶと、さほどイケメンでもない次男のサミュエルがことさら美男に見えるという錯覚で、女の子から人気を博した。
これはテレビでやった時の、広川太一郎の吹替版で上映してほしいなあ。
ちなみに俺は3作目の『Mr.BOO!ギャンブル大将』まではつきあった。


『コンボイ』(1978)

このサム・ペキンパー監督作の元になってるのは、C・W・マッコールというカントリー歌手が、1976年の1月に全米ヒットチャート第1位に送り込んだ同名の曲。
俺は当時、ラジオ関東の「全米TOP40」を毎週聴いてたんで、この無名の歌手のいきなりの大ヒットナンバーには馴染みがあった。イントロにCB無線のやりとりが入るあたりから、ワクワクさせられるものがあり、もう自分の中で、大型トラックの「船団」がアメリカ大陸を爆走する絵面が浮かんでたのだ。
それをあのペキンパーが映画にするというんで、公開が待ち遠しかった。
いざ見てみると、妙にコミカルな味付けで違和感あったな。
だがこれも初公開のたしか丸の内ピカデリーだったか、そこで見て以来なので、今見れば気楽に楽しめるかもしれない。スクリーン映えする景色だし。


『エレファント・マン』(1980)

これがデヴィッド・リンチ監督の日本初紹介作だった。モノクロの、フリーキーであり、かつ胸を揺さぶられる描写に溢れているという、思えば他にあまり例のない映画なのかも。
新宿プラザで見たはずだから、リンチ作品としては、今に至るまで『砂の惑星』とともに、最大スクリーンでの公開だったわけだ。
「象男」の哀しみを全身で体現したジョン・ハートの驚異の名演。静かに受けるアンソニー・ホプキンスのこれも名演だ。
英ハマー・プロで数々のホラー映画を監督してきたフレディ・フランシスが、美しいモノクロのカメラを担当してる。彼が『フランケンシュタインの怒り』の監督でもあることからも、これは変則的な「フランケン」物であるとも言える。


『ジェラシー』(1980)

ミニシアター・ブームの先鞭をつける一館となった、新宿歌舞伎町のミラノ会館内「シネマスクエアとうきゅう」の、こけら落としとして公開され、俺も駆けつけた。
ニコラス・ローグ監督作では『地球に落ちてきた男』から4年後の新作で、評判だけは聞かれ、日本には入って来ないんじゃないかと思われてた。
日本公開は後になるが、1973年の『赤い影』のヴェニスから、舞台はクリムトの絵が小道具となるウィーンへ。
その迷宮感覚につながりを感じる。
DVDも出てはいるが、ローグ監督の映像感覚はスクリーンで、フィルムで味わいたい。
テレサ・ラッセルがこれ以上なくエロ美しい。


『エンドレス・ラブ』(1981)

実は今回のラインナップでこの映画だけ、初公開時に映画館で見てないのだ。
まあ青春ラブロマンスということで「けっ」と思ってたのか、アメリカ本国ではラジー賞候補にもなってて、前評判の悪さもあった。
今聴くとテーマ曲の、ダイアナ・ロス&ライオネル・リッチーの『エンドレス・ラブ』も、いい曲と思えるが、これも当時全米で何週も1位の座にあり「早く落ちろよ」と思ってたんで、全体的に印象が悪かったな。
だが当時まだ16才のブルック・シールズは、すでに美貌が完成されており、この機会にスクリーンで拝むのもいいだろう。トム・クルーズも端役で出てる。


『ハウリング』(1981)

こういうのをやってくれるのが嬉しいね。『ピラニア』の次は狼男と、ジョー・ダンテ監督が上げ潮に乗ってく時期の、サービス精神に溢れたモンスター映画。
脚本は『アリゲーター』も手がけたジョン・セイルズなんで、どこかしらヒネリがある。キャストも含めて「ロジャー・コーマン一派」の後押しも頼もしい。
主演のディー・ウォーレスは『E.T.』のお母さんだが、彼女この映画のほかに『クジョー』やら『アリゲーター2』やら『クリッター』やらと、怪物系に起用されてたね。
ロブ・ボッティンによる、狼男への変身シーンは、ビデオになった時に、何度も巻き戻して見たもんだ。


『愛と哀しみのボレロ』(1981)

この映画に関しては、以前このブログの、俺の『午前十時の映画祭』(80年代編)の1本に選び、コメントも入れた。
今回のラインナップでは、他の16本は現在DVDやブルーレイでも見ることができるが、この映画だけは、DVDが廃版となってるので、見ること自体が困難なのだ。
もともとはスクリーンでこそ見るべき映画で、俺も初公開の丸の内ピカデリーで見て以来だから、今回の企画の目玉だと思う。
ラベルの「ボレロ」はもとより、全編音楽に溢れた、クロード・ルルーシュ監督の渾身の大作。
音楽をフランスの巨頭2人、フランシス・レイとミシェル・ルグランが担当してる豪華さだ。


『ランボー』(1982)

1981年と1982年の、正月映画因縁の戦いというのがあった。
1981年にCICは、スピルバーグ監督の全米大ヒット作『レイダース/失われたアーク』を、満を持して正月映画に持って来た。ところが蓋を開けて見ると、東宝東和のオールスター映画『キャノンボール』に興行でまさかの敗北を喫する。
そして翌年、東宝東和はスタローンが新境地開拓となる「戦士」もの『ランボー』を正月に。
それを迎え撃ったのがCIC、スピルバーグ監督再びの『E.T.』だった。さすがにこれは強く、CICは前年の雪辱を果たしたのだ。
その『ランボー』は東宝東和がつけた邦題だが、それが本国でも通り名となり、大ヒット・シリーズに成長した。
この1作目はテッド・コチェフ監督の小気味よいアクション演出と、人物造形の説得力では、やはりシリーズ随一と思う。


『プロジェクトA』(1983)

この映画によって「ジャッキー・チェンの時代」が高らかに宣言されたと思う。
それまでの主演作はカンフーの見せ場の凄さはともかく、時代設定が古色蒼然としてたのだ。時代を近代に持ってくることで、映画全体が垢抜けた印象に変わった。
そしてカンフー以外の大仕掛けな見せ場や、目を見張るスタントシーンのアイデアなど、その後のジャッキー映画のエッセンスが、すべてこの映画に詰まっていた。
最初のアメリカ進出は成功しなかったが、何かを学んで帰ってきたジャッキーの、アクション映画哲学が結実したと言える。自分で歌う主題歌が流行ったのもここからじゃないか?


『ターミネーター2』(1991)

これはもちろん初公開時に見てるし、あの1作目をここまでブラッシュアップさせたかと、当時は圧倒されるのみだったな。
ただジェームズ・キャメロンの映画だったら、これより『エイリアン2』をやってほしかった。
あれはたしか先行上映で満席の日劇で見たのだ。リプリーが最後にパワーローダーに乗って出てくる場面では、場内に興奮のどよめきが起こった。あんな体験は滅多にない。

以下の4本は『午前十時の映画祭』で上映済なんで、コメントは割愛。

『大脱走』(1963)
『ジュリア』(1977)
『フィールド・オブ・ドリームス』(1989)
『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984)


以上の17本、どうせ今年の夏も暑いんだろう。暑気払いに「フィルムセンター」に通うのもいいぞ。
各作品3度づつ上映機会がある。スケジュールは「フィルムセンター」のHPを参照のこと。

気になるとすれば、「ニュープリント」とは記載されてないから、フィルムの状態はまちまちかもね。
だがいやしくも「東京国立近代美術館フィルムセンター」という、日本を代表する「映画の保存・所蔵機関」であるからして、その状態には期待を持たせて頂きますよ。
入場料金が普段より高い1000円というのが残念だが。

2012年6月16日

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