フランス映画祭③『スリープレス・ナイト』 [フランス映画祭2012]

フランス映画祭2012

『スリープレス・ナイト』

スリープレスナイト.jpg

この日は1日のプログラム4作品全部を見て、レイト上映が終わった時には23時半近くになるというヘビーな1日だったんで、勢いで書き飛ばせそうなアクションのコメントから入れてこうと思ったんだが、これも結構人間関係が入り組んでましてね。

映画の冒頭、車載カメラで道路を映す、そこにオープニング・クレジットが、画面上から下に流れていく。俺が過去に見た中で、クレジットが「下りてくる」映画は、
ジョージ・ルーカスのデビュー作『THX-1138』と、
ラモント・ジョンソン監督の1972年作『爆破作戦/基地に消えた男』などがあるが、
ロバート・アルドリッチ監督が、探偵マイク・ハマーを扱った
1955年作『キッスで殺せ!』も、たしかオープニングで、疾走する夜の路面に、クレジットが下りてきたように記憶してる。

この『スリープレス・ナイト』は、コカインを横領した刑事と、刑事の息子を誘拐したマフィアと、刑事の行動を不審に思い、後を尾けてきた別の刑事の、三つ巴の戦いの一夜を描いて、まさに50年代のアメリカの犯罪映画へのリスペクトを、『キッスで殺せ!』のクレジットを模するオープニングによって表明してるんじゃないか?

などと思いながら見てたが、上映後のトークショーで、監督はむしろ『チェイサー』など、近年の韓国の犯罪アクションの、ボルテージの高さに惹かれているのだと言う。
マフィアの根城でもある、巨大なナイトクラブを舞台に、追いつ追われつ、攻守逆転のノンストップ・アクションが展開され、ハリウッド・リメイクも決定してるそうだ。


潜入捜査によって、大規模なコカインの取引があることを掴んでた刑事二人は、取引場所に向かうマフィアの車を、市街地の路上で白昼に襲う。目だし帽を被ってはいたが、トランクを開けさせた所で反撃にあい、一人は撃ち殺すが、もう一人は取り逃がしてしまう。
コカインの詰まったバッグは奪ったが、逃げた男は、襲ったのがヴァンサンだと気づいて、ボスに告げた。ボスのジョゼ・マルシアーノは、ヴァンサンのケータイを鳴らした。
「お前の息子を預かってるぞ」

同僚刑事のマニエルは、奪ったコカインで借金を片付けようとしてたが、ヴァンサンは凄い剣幕で、強引にバッグを出させ、マフィアの待つ、巨大なナイトクラブに急いだ。
一袋だけポケットに入れ、バッグは男性トイレの天井裏に隠した。
だがバッグを持ってクラブへと入って行くヴァンサンを、女性刑事ビネリが尾行してた。
ヴァンサンとマニエルの行動に不審を抱いていたビネリは、上司のラコムに連絡を入れ、自分もクラブへと向かった。

ダンスフロアは客たちでごった返していた。ヴァンサンは奥まった鉄製の扉で隔てられた部屋に通された。
ジョゼとコカインの取引相手のトルコ人たちが居合わせた。
ヴァンサンはしたたか殴られるが、ポケットのコカインは本物と認められた。
「息子をここに連れてくれば残りを持ってくる」
ジョゼは別の部屋に軟禁した息子のトマを引き合わせる。

ヴァンサンは「3分で戻る」と部屋を出る。男性トイレに戻り、天板を開けるが、置いたはずのバッグがない!
実はヴァンサンの後を尾けてたビネリが、そのバッグを女性トイレの天井裏に移しておいたのだ。

パニックを起こしたヴァンサンは、クロークに、黒いバッグが届いてないか?などと尋ねるが、天井裏に隠した物が、遺失物として届いてるはずないだろ。
ヴァンサンは何を思ったか、厨房に乗り込んだ。
警察手帳を見せ、下働きのインド人を目につけると、引っ張っていき
「小麦粉はどこだ?」
「不法入国でしょっぴくぞ」
と脅され、言われるがままに、小麦粉をビニール袋に詰めてく。ヴァンサンはそれをガムテープで包む。インド人の私物のバッグに詰めてくと、バッグのジッパーをすぐに開かないように細工する。

何食わぬ顔で、ジョゼたちの部屋に戻ったヴァンサン。トルコ人は物を確かめるため、バッグを開けようとする。
ヴァンサンは出し抜けに
「俺は潜入警官だ」
「この店に警官が集まってきてるぞ」
ジョゼたちは半信半疑だ。扉を叩く音。
ヴァンサンが「5分後に部屋に酒を持って来い」と言っておいた新米のボーイだ。
だが焦ってるジョゼたちは、監視カメラで「知らない顔だ」と。
ヴァンサンに「早く逃げろ!」と急き立てられ、トルコ人たちは外で待つ車に乗り込んだ。


トマは監視役の男とプールバーにいる。ヴァンサンはクラブの巨大な空間を、人の波をかき分けながら移動する。ヴァンサンがトマの手を引いてクラブの入り口を目指してる、丁度その時、トルコ人たちが血相変えてジョゼの前に戻ってきた。

「こりゃなんの冗談だ?」
小麦粉のビニールをジョゼの顔にぶつけ、撃ち合いとなり、トルコ人は死ぬ。
「あいつが独り占めしようとしてる」
「息子を返すな!」

手を引いていたトマは、フロアの人混みの中で、再びマフィアに奪い去られる。
ヴァンサンはコカインを強奪した時に、脇腹を刺されていて、傷口から血が滲み始めていた。
厨房にとって戻り、救急箱を漁って、非常階段で傷口を塞いだ。
コカインのバッグはない。息子は奪い去られた。
手を尽くせない絶望に、ヴァンサンは嗚咽した。


どこをどう歩いたか、辿り着いたのは、ホステスたちが男と絡み合う「会員制バー」のような空間だった。なにも働かない頭で、酒をあおるヴァンサン。
カウンターの女性が電話でなにやら注文をとってる。
ミルクとピーナッツ。それが妙に引っかかった。

彼女はカウンター奥の部屋を暗号のようにノックしてる。
「ひょっとしてあの部屋に?」
だが同時にヴァンサンがバーに居ることは、ジョゼに伝わっていた。

女性刑事ビネリから報告を受けた上司のラコムも、クラブにやってきた。
ビネリから、バッグを女性トイレに隠してあることを訊く。
ビネリには引き続きヴァンサンを追跡させた。
そしてラコムは警察手帳を手に、女性トイレに入り、天井裏からバッグを運び出した。


とにかくこのクラブが巨大だということは分かるんだが、構造がどうなってるのか、俯瞰できないから、前半はヴァンサンがクラブ内の空間を右往左往する場面が繰り返され、見てる方もストレス溜まる感じがある。

マフィア側も、自分たちの根城なわけで、監視カメラが至る所に設置されてるってことは、ヴァンサンがバッグを持ってトイレに入るような所も映ってなかったのか?

それとダンスフロア内で、しかも薄暗く視認が困難な状況が、ヴァンサンを捕らえ切れないんだとすれば、消防とかの理由をつけて、一旦フロア全体の照明を点けてしまえばいいのにねえ。
マフィアにとっては一大事なはずなのに、律儀に営業続けてる場合じゃないような気がするが。

後半、息子を取り返すため、形振りかまわなくなったヴァンサンと、ジョゼたちマフィアの争いに、ビネリの上司ラコムが参戦する。ラコムこそ、今回のコカイン横領の黒幕なのだ。

ヴァンサンとラコムがクラブの厨房内で格闘する場面は、厨房内においては、過去に見られない位の凄まじいアクション描写に仕上がってる。スタントマンが入っているだろうが、生傷、打ち身とは半端ないだろうな。
この後ふたりは非常階段でも格闘を続け、もう満身創痍の度を越してる。
このラコムのキャラは、韓国映画『哀しき獣』のキム・ユンソクを思わせると書けば、想像つくだろう。

後半の一気呵成にたたみ掛けていく演出に、それまでの細かいこともどうでもよくなってくんだが、終盤はちょっと胸熱な描写もあったりして、昨年の『フランス映画祭2011」で見た
『この愛のために撃て』と同じように、フランスのアクション映画が、様変わりしてるのを、まざまざと見せ付けられる思いだ。
日本映画はこのジャンルでは、それこそ「ガラパゴス」なみに取り残されていってるね。


主人公ヴァンサンを演じるトメル・シスレーは、演じてて一番難しかったのは、女性刑事ビネリに、バッグの隠し場所を履かせるために、痛めつける場面だったと、トークショーで語っていた。

この映画の登場人物の中では、息子のトマを除いて、善人と呼べるのは、この女性刑事くらいなので、俺もこの場面は演技とはいえ、何度も冷蔵室の棚に体を打ち付けられたり、見ていて痛々しかった。
彼女はさらに災難に見舞われることになるんだが、他の男たちの誰が死んでも構わないが、ビネリだけは死なんでほしいなと思ったよ。

なにか教訓とか、テーマが込められたようなドラマじゃあない。
追い詰められた主人公の一挙手一投足に固唾を呑んでればいいのだ。

2012年6月24日

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