フランス映画祭⑤『ミステリーズ 運命のリスボン』 [フランス映画祭2012]

フランス映画祭2012

『ミステリーズ 運命のリスボン』

ミステリーズ運命のリスボン.jpg

昨年2011年8月に死去した、南米の異才ラウル・ルイス監督の遺作。
4時間37分、間に休憩をはさんでの一挙上映だ。

前日4本見て深夜に帰宅という強行軍で、睡眠も充分にとれてないコンディションだったが、不思議なくらいに集中力が途切れなかった。
事前に読んだHPの作品解説からも、登場人物が多いだろうことを予想してたんで、固有名詞をメモとりながら見てたのだ。
それでもこのタペストリーのような因果関係を1回見ただけで呑み込むのは至難だった。

後で憶えてる限り書き出そうと思うが、その部分は、この秋に一般公開となる時に、この映画を見ようと思うなら、読まないでいてほしい。
なぜかというと、14才の少年の出生の秘密と、そこから派生する人間関係の糸をたぐるように描かれていて、少しづつ視界が開けていく感覚が、先にあらすじを知ってしまうと味わえないからだ。

俺が書いておこうと思うのは、記憶が混濁してくのを防ぐためで、これを踏まえて2度目に見た時には、ストーリーに引き摺られずに、画面そのものに集中できる、そういう考えもあるからだ。


大体以下のような流れだと思うが、
「ジョアンと、その母親アンジェラの秘密」に関しては記憶違いはないと思うんだが、
「ディノス神父の秘密」と「コメ・ファッカスの秘密」に関しては、細部が怪しい。

なにしろ固有名詞がどんどん出てくるんで、走り書きのメモを見直しても、不明瞭な部分が残る。

例えばアルヴァロ神父が駆け落ちした相手は、ヴィソ伯爵夫人だったか、その前のジョアンの話の時に出てきたモンテゼロス侯爵夫人だったか。
ブランジェが狩猟小屋で暮らすことになった経緯とか、アルトゥーロが本当にアルベルトと決闘したのかも、実は確たる記憶ではないのだ。

なので俺自身でストーリーを補足してしまった部分もある。
そんないい加減なものを書くなって所だろうが、4時間半の登場人物の多いドラマの内容を、どの位初見で把握できたかという、その検証みたいなもんです。
一般公開されたら、これを読み返して、記憶間違いを自ら指摘しつつ見るのも、楽しみとなるかなと思ってる。

まあとにかく「韓流ドラマ」なみに狭~い因果関係が、ごくごくシリアスな顔つきで語られてくのが、なんか可笑しくもなるのだ。

ワンシーン・ワンカットの端正な絵作りなんだが、時折不思議な位置にカメラを固定してみたり、決闘の後になんの関係もない付き添い人みたいな男が、銃を持って自殺して果てたり、メイドが大抵、人の話を盗み聞きしたり、覗き見したりしてる。


主人公のジョアンは、自分の「姓」がないことに苦悩してた。
「姓」は「家」であり、「家族」であり、「家系」である。
特に19世紀のヨーロッパ、それも貴族社会となれば、自分の出自はその人間を評価する、一番の決め手とされてしまう。

ディノス神父やアルベルトは、自分の名にこだわりなど持たず、時々に応じて取り替えてしまうことで、社会を泳いできた。自分の「名前」に縛られる人生を送る貴族とは対照的だ。
ジョアンも「姓」がないのなら、自らどうにでも名乗ることもできただろう。自分の生き方も決められる。
ディノス神父はそういう、したたかな生き方の術があることを、ジョアンに教えればよかったのに。
だが自分が何者か知ってしまったことで、途端に因果に翻弄されることになる。

14才のジョアンを起点に、登場人物が入れ替わり立ち代り、数珠つなぎのように、因果関係を構成していく、その過去に遡った流れが、ゆっくりと迂回して、少し先の、つまりはペドロとなったジョアンへと合流する。
刻々と変化する対岸の風景をゆったり眺めるような、そんな船旅をしてる気分になってくる。



「ジョアンと、母親アンジェラの秘密」

19世紀ポルトガル。修道院に暮らす14才の少年ジョアン。彼に姓はなく、ただ「ジョアン」と呼ばれている。
姓がないのはお前の父親が卑賤な者か罪人だったからだと、冷たい言葉を浴びせる年長の少年に掴みかかり、取っ組み合いの末に、ジョアンは昏倒する。
身寄りがないはずのジョアンを、なぜか伯爵夫人が見舞う。意識はおぼろげだったが、「私の息子…」という声が聞こえた気がして、ジョアンは彼女が母親なのだと確信した。

後日ジョアンはその事を、ディノス神父に問う。ディノス神父はジョアンを幼少の頃に預かり、この修道院で育ててきたのだ。神父はジョアンを散歩に連れ出した。
城の敷地内に置かれたベンチに腰掛けてると、城の部屋の窓に女性の姿が。だが直後に、この城の持ち主サンタ・バルバラ伯爵が、ふたりを不審者と思い、警告にやってきた。
ジョアンは、見舞いに訪れたのは、あの窓の女性だと思った。

あの城に働く従者ベルナルドが、伯爵夫人からの手紙を携えて、ディノス神父の元へやってきた。伯爵はポルトガル内戦で、ペドロ派を打倒すべく、国王軍に加わるため、城を不在にしてるという。
この期に城を訪れてほしいと。ジョアンを伴って。

城において、伯爵夫人アンジェラは、長く再会の叶わなかった我が子を胸に抱いた。
アンジェラはこの城で、夫のサンタ・バルバラ伯爵により、8年も幽閉されていたのだ。それには理由があったが、伯爵は使用人の娘であるエウジェニアを、妻の代わりに愛していた。
ディノス神父は、ベルナルドの手引きで、アンジェラをこの城から救い出した。
とりあえず自らの修道院で匿うこととし、母と子は水入らずで過ごす機会を得た。

ディノス神父は、口の重いアンジェラに代わり、ジョアンの出生に関わる経緯を語り始めた。
きっかけは、ディノス神父の修道院に、ひとりの青年が助けを求めに現れたことだった。銃による怪我を負っていた。神父が介抱すると、青年は自らの悲恋を語った。

ペドロ・ダ・シルヴァと名乗る青年は、貴族の出で、同じ貴族モンテゼロス侯爵の娘アンジェラと、互いに惹かれ合っていた。だがペドロが申し出た結婚の許しを、モンテゼロス侯爵はすげなく断った。家柄に問題はないが、財力の劣る相手に嫁がせるわけにはいかないと。

ふたりはその後も隠れるように愛を育んでいたが、それは侯爵の知るところとなり、侯爵はコメ・ファッカス(もの食うナイフ)と異名をとる山賊に、始末を任せる。
ペドロはアンジェラの部屋を訪れようとした際に、撃たれたのだ。

モンテゼロス侯爵は、娘が子供を身篭ってることを知り、アンジェラを、リスボンから遠く、山岳地帯にある自分の領地に移した。そしてコメ・ファッカスに監視させ、産まれた赤ん坊はすぐに殺せと命じていた。
ディノス神父はそこまでの経緯を知ると一計を案じた。
神父の身分を隠し、放浪者サビロ・カブラとして、山へと向かった。

コメ・ファッカスと出会うと、酒を酌み交わし、それとなく話を聞きだした。
人と話す機会もなく、孤独をかこってたコメ・ファッカスは饒舌だった。
侯爵の娘と赤ん坊の話になった時、サビロ・カブラは提案をした。
コメ・ファッカスの前に金貨の詰まった袋を置く。
「これで赤ん坊を譲ってくれ」
なんでこの放浪者がそんなことをするのか、怪訝に思うが、目の前の金貨は魅力だった。
「侯爵からの報酬より多く出そうじゃないか」
コメ・ファッカスは了承した。

母親アンジェラは我が子に、愛した青年と同じペドロ・ダ・シルヴァと名づけた。サビロ・カブラは彼女に自分の正体を明かし、赤ん坊の身の安全を保証した。
その存在が明かされないよう、ペドロには「ジョアン」という名をつけて、修道院で育てたのだ。
修道院の周りでは、ジョアンは神父の子ではないかと噂されていた。

モンテゼロス侯爵は赤ん坊は始末したと信じて、娘を手元に戻した。侯爵が催す宴の席で、アンジェラに見惚れた青年がいた。それがサンタ・バルバラ伯爵だった。
モンテゼロス侯爵はこの青年の後見人となっていた。
サンタ・バルバラ伯爵の父親は獄死しており、死に追いやった男は、モンテゼロス侯爵の政敵でもあった。共通の敵を持つ二人は気が合っていたのだ。

モンテゼロス侯爵は、この青年に娘を嫁がせようと考えていた。
むろん娘が他の男の子供を身篭ったなどとは知らせるべくもない。

だがリスボンの貴族社会は狭い。噂はどこからともなく耳に入ってくる。
結婚後にその事実を知ったサンタ・バルバラ伯爵は、アンジェラが否定しないのを見て激怒し、その裏切りの代償として、城に幽閉してしまう。
そしてアンジェラの姦淫行為を世間に吹聴し、彼女の名誉まで貶める。

だがやがてサンタ・バルバラ伯爵は若くして病に倒れる。妻を8年も幽閉したという自責の念に、彼は死の床で懺悔し、遺産をアンジェラに遺すと言った。
だがそれを聞いたアンジェラは贈与を拒否し、修道女となる道を選んだ。
息子ペドロとはつかの間の母子の温もりに満ちた時間だった。ペドロはまた自分のもとから去ってしまう母親の気持ちを、推し量るべくもなかった。



「ディノス神父の秘密」

少年ジョアンに真の名ペドロ・ダ・シルヴァを告げた、命の恩人であるディノス神父自身にも、出生の秘密が隠されていた。
それはディノス神父が敬愛する、アルヴァロ神父に呼ばれて、彼の修道院を訪れた時のことだ。
年老いた神父は「話しておかなければならないこと」とし、この話を語り始めた。

50年以上時代を遡る。ポルトガルを統治してたジョゼ1世が崩御した、1777年あたりの頃だろう。
若いアルヴァロは貴族だった。ヴィソ伯爵とは、ジョゼ1世の後を受け、独裁を行うボンパル侯を打倒しようと共闘する間柄だった。
ヴィソ伯爵の妻シルヴィナは美しく、いつしかアルヴァロは、友人の妻と不倫関係を結んでいた。
二人は逃げるようにヨーロッパ各地を旅行して回った。フランス、スペイン、イタリアまで。

旅のさなかにシルヴィナは妊娠するが、彼女の身体は、出産に耐えられなかった。
アルヴァロはこれを「罰」と受け止めた。アルヴァロはローマに住む友人パウロに赤ん坊を託したが、そのパウロが死に、レイモン・ド・モンフェール侯爵が身元を引き受けた。
ディノス神父は、シルヴィナが赤ん坊を産み落としたのが54年前のことと聞かされ、すべてを悟った。
それは自分の今の歳だったからだ。
アルヴァロ神父こそ、自分の真の父親だったのだ。
ディノス神父も、ペドロと同じように、祝福され、認められて生を受けたわけではなかった。

ディノス神父は幼き頃はセバスチャンと名づけられ、ナポレオン軍のポルトガル遠征では、親仏派として、ナポレオン軍の軍服に袖を通し、戦地に赴いた。
セバスチャンは親友ブノワと行動を共にしたが、戦地で銃殺寸前の、フランス軍人ラクローズ連隊長の窮地を救う。
ラクローズはモンフェール家に招かれるが、そこで娘のブランジェを見初める。親友のブノワもブランジェを想っていた。やがてラクローズは命を落とし、ブノワはブランジェと結婚する。
セバスチャンは義妹のブランジェには、例え秘めた気持ちを抱いてたとしても、言葉に出すことは叶わなかった。

ブランジェはやがて双子の姉弟を出産。その双子はブノワとの間の子ではなく、ラクローズ連隊長との忘れ形見だった。ブランジェはボルドーの屋敷に住まわず、狩猟小屋で暮らした。
姉弟はエリーズとアルトゥールと名づけられた。



「コメ・ファッカスの秘密」

貴族たちが集うリスボンの社交の場で、ペドロの母アンジェラの醜聞をひけらかしていた夫人たちに、皮肉の刃を突きつけた男がいた。
ブラジルから渡ってきたという事業家の、アルベルト・デ・マガリャンエスがその男だった。
その激しい責めの口調に、夫人たちは言葉を失った。アルベルトは奴隷商ではないかなどと噂されてたが、正体は謎だった。

ディノス神父はそのアルベルトから、館に招待を受けた。
「あんたとは前に会ってるんだ」
ディノス神父はその言葉で初めて気づいた。ヒゲもじゃで、薄汚れた格好をしてた、あの頃の面影はどこにもない。いや野卑とも言える口の悪さは相変わらずだった。
アルベルトこそ、あのコメ・ファッカスだったのだ。
あの時神父から受け取った金貨を元手に事業を起こし、今は大成功して、貴族たちとも対等につきあえる立場となっていた。
アルベルトは昔の自分の行いを悔いてか、あの金を返したいと言う。
「ではその金はペドロの人生のために使うとしよう」

少年から成長を遂げたペドロは、フランス留学の機会を得た。そのフランス行きの船の中で、自分に視線を送ってる男がいた。アルベルトだった。
ペドロはパリで、初めてのオペラを観劇するが、その席で、アルベルトを凝視する女性が気になった。
彼女はエリーズといい、クリトン侯爵の夫人だった。
元の名をエリーズ・ド・モンフェール。ディノス神父の義妹ブランジェの娘だった。
エリーズは以前アルベルトと不倫関係にあったが、アルベルトが関係を清算しようと申し出てたのだ。
姉の名誉を傷つけたと、弟のアルトゥーロが決闘を申し込み、命を落としていた。

リスボンに戻ったアルベルトは意外な女性と結婚していた。ペドロの母アンジェラを幽閉してた、サンタ・バルバラ伯爵の愛人だったエウジェニアがその相手だった。
エウジェニアもまた伯爵の遺産分与に預からず、アンジェラに謝罪したいという気持ちを持っていた。
そのことをアンジェラは修道院で伝え聞いていた。そのペドロの母アンジェラは、コレラで命を落とした。

エリーズはリスボンにやってきて、アルベルトの知人の男を館に呼び、言葉巧みにアルベルトの住まいを聞き出した。
エリーズはアルベルトが不在の館で、妻のエウジェニアと会い、脅しをかけるような言葉を発して去って行った。
エウジェニアは恐ろしくなり、ベッドの下や、テーブルの下に隠れ、出てこようとしなくなった。

エリーズとは姪と叔父の関係にあるディノス神父を通じて、ペドロはエリーズと顔を合わせるうち、年上の彼女に強く惹かれるようになる。
そしてエリーズがアルベルトから受けた仕打ちを聞かされるうち、義憤に燃えるようになる。
ペドロはアルベルトに決闘を申し入れた。
なぜエリーズのために、つながりもないペドロが命を張るのか、アルベルトは面食らった。
しかもペドロは、アルベルトが自分の出生に因縁深い人物だとも知らない。
だがアルベルトはそのことを話すこともせず、決闘を受け入れた。

2012年6月26日

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