エイリアン対不良、団地の対決 [映画ア行]

『アタック・ザ・ブロック』

img211.jpg

ストリート・キッズvsエイリアンという図式が面白い。
コピーをつけるなら「今度は団地で戦争だ!」ってとこか。

低所得者用の巨大な公共団地がそびえる南ロンドン。住人の少女はいみじくも言った。
「なんだって南ロンドンを侵略に来るのよ!」
つまりこんなとこ侵略したって「誰得」?っていうくらい、物好きにも程があると言いたげな、そのセリフに爆笑した。

最初に目撃された1体は、侵略というより、アクシデントで偶然この地に落下したようだ。
見習い看護師のサムも、若い白人女性には、あまり似つかわしくない、この公共団地の住人だったが、帰宅間際に、同じ住人の悪ガキたちに囲まれてカツアゲされる所だった。

いきなり何かが路上駐車の車に落下し、悪ガキたちが覗きこむと、小さな謎の生物が飛び出してくる。
近くの倉庫に逃げ込んだ生物を追い詰め、ボコボコにして「俺らの前に現れたのは不運だったな」と、その死体を団地に運び込む。サムはそのどさくさに難を逃れた。

「こいつの正体は何なんだ?」
最上階に住むオタク白人のロンに聞いてみようと、悪ガキのリーダー、モーゼスたち5人は部屋を訪れる。
ロンの部屋にはたまたま生物学を学ぶブルースが、ドラッグをやりに来ており、死体を眺めて
「地球上の生物の形状とはちがう」と言う。
やはりこいつはエイリアンなのか?

その最上階には、マリファナを栽培する巨大な温室があり、モーゼスたちは、そこを仕切るギャングのハイハッツへの手土産にしようと、エイリアンの死体を持って行く。

だが時を同じくして、夜の闇を裂くように、閃光とともに、隕石が次々に南ロンドンの町に落下してきた。窓からその様子を見たモーゼスたちは、
「また返り撃ちにしてやる!」
と、それぞれの家に一旦戻り、武器になるものを手にして、母親には「晩ごはんまでには帰る」と約束して、団地から外に出た。
原付とマウンテンバイクとで、落下現場に急行する。

サムからカツアゲ被害の通報を受けた警察のバンと鉢合わせになり、モーゼスたちは拘束されてしまうが、次の瞬間、二人の警官は真っ黒な生物に襲われ、無残な死体となる。

「俺たちがやっつけた奴よりデカい!」
しかも闇夜では姿が見えず、凶暴そうな歯が並んだ口蓋部だけが青白く光ってる。
その場に居合わせたサムとともに、モーゼスは警察のバンに乗り込み、アクセルを踏んだ。

真っ黒なエイリアンは執拗に追いかけてくる。駐車場に逃げこんだ所で、他の車とクラッシュ。
その車にはギャングのハイハッツが乗っており、警察のバンでカマを掘ってきたモーゼスたちに
「いい根性じゃねえか!」と銃を向ける。

次の瞬間ハイハッツの手下が、真っ黒なエイリアンの餌食となった。
「とにかくヤバい!」
モーゼスたちも、サムも、ハイハッツも、団地に逃げ戻ることに。


団地周辺での騒ぎに警察も出動してくるが、あっという間にエイリアンに襲われる。
その真っ黒で俊敏なエイリアンたちは、続々とモーゼスたちの団地に襲来してくる。
敗走する間に、悪ガキ仲間の一人も犠牲となる。

マリファナの温室に逃げ込んだ彼らと、居合わせたブルースが何かに気づく。
それはモーゼスのジャンパーだった。紫外線ライトを照らすと、無数の白い模様が浮き出てる。

最初のエイリアンをボコった時に付着した、エイリアンの体液ではないか?
そのエイリアンはメスで、体液は強烈なフェロモンを出し、それを嗅ぎ付けた体の大きなオスたちが、群がってきてるのだと。
騒ぎの種を撒いたのは自分たちなのか?モーゼスは腹をくくることにした。


真っ黒で毛むくじゃらで、凶暴な歯を持つエイリアンの造形は『クリッター』を思わせる。
モーゼスたちを追っかけてくる場面などはCGではなく、着ぐるみで、中に「シルク・ド・ソレイユ」の団員が入ってたそうだ。身のこなしが俊敏だったわけだ。

海兵隊とかではなく、ストリート・キッズたちが、ロケット花火なんかで武装するという、小じんまりした戦争っぷりが楽しい。低予算ではあるが、スピード感に溢れていて、安っぽさはない。

看護師のサムが、行きがかり上、団地の自分の部屋で、怪我を負った悪ガキの一人を手当てすることになるが、彼女が簡単には打ち解けないのもいい。
そりゃカツアゲされそうになった相手なんだから。

リアルに感じたのは、この団地の廊下部分だな。普段は暗くなってて、人が通る時だけ照明が灯る。
団地の廊下ってひんやりと、底冷えするような感触があるのだ。
その場所を見せ場として効果的に使ってた。


俺自身も「団地っ子」と言える生活を続けてきた。
公営団地から引っ越したアパートは、「一棟立て」だったので、厳密には「団地」ではないんだろうが、住人のメンタルは変わらないものがあったと思う。
今と違って子供の数がやたら多い時代だったから、この映画の悪ガキたちより、もっと大勢のアパートの子供たちが、塊になって毎日遊んでた。

あの時代にはまだ私立の学校に通う子は少なかったし、そういう家庭はあまりアパート住まいとかしないんで、住人の子供たちは、学区の小学校や中学校に通い、学校でも帰宅後も、それこそ四六時中、顔を合わせてるようなもんだった。

アパートやマンションや、いわゆる「集合住宅」の住人のつながりは希薄と、よく言われることだが、それは単身で住んでる人間たちの間のこと。
子供がいると、子供を介して、その母親同士が言葉を交わすようになる。
俺の住んでたアパートは、特に一棟しかないから、住人の顔ぶれもほぼ把握されてる。

こういうコミュニティの中心になるのは「子を持つ母親」なのだ。
俺はまだガキだったから、当時は推し量るべくもなかったが、母親の間には、自分の亭主の仕事先とか、稼ぎとか、あるいは子供の成績とか、毎日の井戸端会議で交わされる会話の中から、浮かび上がってくるものがあり、そこはかとない「ヒエラルキー」が形成されてもいるようだった。

それと、子供を持つ母親と、持たない奥さんとの間柄というのは、やはり付き合いの密度が薄くなるようだった。

この映画の悪ガキたちのように、つるんでカツアゲに及ぶなんてことは勿論なく、事件らしい事件も起こらなかったな。
あの頃はローラースケートが流行ってたんで、学校終わって、夕飯までの時間は、アパートの子供たちが一斉にあたりを「カチャカチャ」いって走り回ってたんで、大人たちにとっちゃ、うるさくてしょーがなかっただろう。

もうひとつ学校でもアパートでも大流行りしたのが、酒のフタによる「おはじき」だ。
酒というのはいろんな銘柄があるから、珍しいのをはじいて手に入れると自慢できたのだ。
アパートの近くに、酒屋の倉庫があり、酒の空瓶が木箱に詰まれていて、そこに無断で入っては、フタだけ失敬していく。
「どうせ要らないもんでしょ」とガキは思ってるが、人の所有する敷地内に無断で入り、物を盗んでく「窃盗罪」には違いない。

あまり頻繁にフタが無くなるんで、酒屋から小学校にクレームが入り、それをもとに教師が、生徒たちに聞き取りを行ったところ、俺の名前が出て、母親が学校に呼ばれた。

たしかにアパートの子供たちの間で、俺は年長の一人だったし、率先して倉庫に入りこんでたのは事実だ。それで年下の子供が名前を出したんだろうが、簡単に名前を出されるという所に、俺の人望のなさが偲ばれるんである。

その後も現在に至るまで「あなたは人望がある」などと、一度も言われたことがないな。
そのへん悪ガキだが、悪ガキならではの人望がありそうなモーゼスとはちがう。

2012年7月5日

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。