現役兵士が映画でデモンストレーション [映画ナ行]

『ネイビーシールズ』

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現役のSEALSの隊員たちが、実際にあったミッションを元に、自らを演じる劇映画という作りが、過去の「コンバット・アクション」にはないリアルさを感じさせたのか、全米興行1週目にNo1を記録してる。
たぶんミリタリー・マニアには細部にわたる見所があるんだろう。
俺は戦争映画は好きで見はするが、銃火器の知識はない。
なのでこの映画が、例えば『ブラックホーク・ダウン』と比べて、どの程度本物っぽいのかとか、その差異は全然わからなかった。

予告編でも使われてる、敵の見張りを音を立てずに片付けていく手並みなど「なるほど」と思うし、拉致されたCIAの女性エージェントを奪還する、一連のアクションはスピード感溢れて、援護に来たSOCRボートからの掃射に繋げてく見せ場には目を見張る。

だがアクションとアクションを繋ぐドラマ部分が、本職の俳優でないため、エモーションが足りない。
SEALSの隊員も、子を持つ親であり、愛する女性から身を案じられる存在であるという、そういう場面を演じてるが、それっぽい場面に仕上がってるというだけだ。

むしろ悪役となるテロリスト側はプロの俳優を起用してるので、演技にメリハリがついて、見応えがあるというのは皮肉なものだ。


女性エージェントを奪還した敵のアジトから、イスラム聖戦派のテロリストが、過去最大規模のテロを計画してるという証拠をつかむSEALSが、その阻止に命を張るというのが物語の流れだ。

テロリストたちが「開発」した爆弾が難物で、ジェル状になったクラスター爆弾の球体をつらねて、ベストとして身体に羽織れるようになってる。セラミック製なんで、金属探知機もすり抜けるのだ。
破壊力は半端ないもので、それを身につけた16人の自爆テロ犯が、アメリカの主要都市に向かうのだという。
さすがに空からでは、空港の厳しいチェックをくぐるのは難しい。狙われるのはメキシコ国境だ。

しかしSEALSはあくまで「チーム」として機能してるので、各自が役割に応じて粛々と任務をこなしてく。スタローンやチャック・ノリスのようなスタンドプレーはあり得ないんで、その分地味なのだ。
軍の教育用シミュレーション映像を見せられてる感じにもなる。
後半はちょっと飽きてきた。

高らかに「アメリカ万歳」を叫ぶ作りではないが、隊員同士の絆をサーフィンで描く場面などあり、
『地獄の黙示録』でキルゴア中佐が「朝に嗅ぐナパームの匂いは最高だ」と言いながら、サーフィンしに海に入ってく場面を思い出しもする。
それが任務とはいえ「人を殺しまくった後はサーフィンだよな」みたいにも映るぞ、俺みたいなひねた人間には。

今の剣呑な世界に、彼らのような兵士たちの存在が、それなりの役割を成していることはわかる。
男には肉体の頑強さを限界まで高めてみたいという欲求があることも確かだ。人によるけど。

そうして肉体のレスポンスを、常人と比べ物にならない位に高めた「兵士」という男たちが、それに加えて殺傷能力を求めうる限りにまで高めた様々な武器を、その身に携帯する。
そんな相手が、もし敵意を持って自分の前に立ってたら、どうしろというのだ?
「ひとたまりもない」というのはこの事だ。

「アメリカに敵だと思われなければ、そんな事態にはならない」と日本人は思ってるだろう。
逆に言えばアメリカの機嫌をそこね続けてると、どうなるかわからんぞという事だ。
だからといって、明らかに間尺に合わないことに追随させられるべきではない。

アメリカが屈強な兵士たちを必要とし、武器の性能を高めることに血道を上げるのは、自身を敵と思う存在が世界にいると思ってるからだ。
なぜ敵と思われてるのか?怒りや憎悪というものには、必ず理由がある。
その理由をとことん突き詰めていって、解決の道を探るというのが、知性の使い道であって、人の命を奪うためのテクノロジーに使うものではない。

だがいくら知性を背景に、対話を試みようとも、最終的には分かり合えない、そういうものが厳然とあると、認識してるとすれば、それは「宗教」の壁だろう。
キリスト教とイスラム教は決して相容れない。双方がそう思ってるのだとすれば、だが人類の知性とはなんのためにあるんだと思わざるを得ない。

「平和は結局武力によってしか守れない」
とするアメリカに、世界の平和を預けることはそもそも矛盾があるだろう。


先日ネットのニュース欄で、きゃりーぱみゅぱみゅがフランスで単独コンサートを開いて、フランスの女の子たちの声援を受けたと出てた。
俺はこう書いてるが、きゃりーぱみゅぱみゅという女の子の事はよく知らない。
顔は見たことあるが、彼女がどう若い子たちにウケてるのかとか、どんな歌を唄ってるのかとか。

知らないんだけど、日本人の女の子が、フランスでコンサートやって、ちゃんとお客集めて、熱狂的なファンも多いとすれば、それはなかなかにすごい事なんじゃないか?

アニメのコスプレ風の衣装がウケたりしてるらしいし、先日見た『アタック・ザ・ブロック』の中で、モーゼスが年下の子供たちに「お前らは帰ってナルトでも見てろ!」というセリフがあった。
日本のアニメとか「カワイイ」の文化は、アジアだけでなく、ヨーロッパにも広く浸透していってるようだ。

「オタク文化」「萌えアニメ」「コスプレ」そういったキーワードで括られるモノを、「いい大人たち」は、精神的に未熟とか、よくあんな格好で歩けるなとか、現実逃避の産物とか、ネガティブにしか捉えない。

だが日本の旧世代は、日本から発進した文化で、世界を虜にさせることなどできなかったのだ。
アニメのコスプレで街を練り歩く若い子たちの集団を見かけたとして、それが幼稚っぽいとか、いい年してすることじゃないとか思われたとしても、少なくとも「軍事パレード」のおぞましさに比べれば、なんぼかマシだろう。

きゃりーぱみゅぱみゅに代表される、日本のカワイイを発進する人たちは、
「私がカワイイと思うことは、キリスト教の国であれ、仏教の国であれ、イスラム教の国であれ、
世界中の女の子たちがカワイイと思うはず」
そんな意識があるんじゃないか?
カワイイに国も宗教の違いもないのであれば、その価値観の伝播の強さは馬鹿にできないと思う。


俺自身はアニメをほとんど見ないし、これからハマろうという気持ちもない。
だが日本の若い世代が、世界に向けて、他の大国が成し得ないメッセージを発信してく可能性には期待をかけたい。
日本という国は特定の宗教を持たないがゆえに、宗教の違いで、殺し合いにまで発展するような国民性とは無縁でいられてる。
発進するものに、宗教的な価値観やメッセージなど塗り込められてないから、受け入れられ易いのだ。

ロシアにおいても、若い世代に、日本のアニメ文化はかなり広まってきてるという。ロシアを束ねるプーチンは、周辺国との揉め事は武力でカタをつけようという思考の持ち主だ。
だがもう武力にものを言わせるのは「ダサい」んだよと、ロシアの若い人たちが声を上げるべきだろう。
若い世代が今までとちがう文化を肌で感じ、政権への違和感を膨らませていけば、ロシアに限らず「武力」の時代からの脱却に繋がっていく素因となるかもしれない。


『ネイビーシールズ』のコメントから随分遠くに来てしまったが、俺は以前このブログで
「洋画離れが起きてるらしい」というテーマで、その要因を自分なりに考えたわけだが、特にハリウッド映画の請求力の低下について、いくつか挙げてみた。
その時に挙げなかったが、実は一番はこれかなという事がある。

それは今の10代、20代の人たちには、アメリカ文化に対する憧れとか、コンプレックスがそもそも希薄なんじゃなかろうか?という事だ。

50過ぎの俺あたりの世代はまだアメリカ文化の影響を色濃く受けていて、アメリカ映画も好きだし、アメリカのロックも好きだ。だから今も相変わらずハリウッド映画の新作を見続けてるわけだ。

CMやファッション雑誌は金髪の白人美女が定番だったから、「美しい=金髪」みたいな価値観が植えつけられた。
だが近年CMもモデルも「国産」の美女で占められてるし、映画雑誌も、日本やアジアのスターが紙面を飾ってる。これは実は戦後以来の、大変な価値観の転換が起こってるということなのだ。

世界的に見れば、まだアメリカ映画に代表される、アメリカ文化が強い影響力を誇ってる国は多い。
だがこの日本においては、その状況からの脱却が進んでるように思える。
近年、海外留学を希望する学生の減少が顕著だと言われるが、それは若い世代の「内向き志向」とともに、アメリカという国に、それほど魅力を感じなくなってるということも、理由にあると思う。

アメリカにおける「カワイイ」とは、すなわち「ディズニー」だ。
その世界を構築するプロフェッショナルな運営において、未だに「ディズニーランド」は、アトラクションの場として確固たる地位を築いてはいる。
だが逆に「ディズニー」以降、それに代わるような「カワイイ」をアメリカ文化は生み出し得ていない。

全般において、アメリカ文化の求心力が低下してきてる現在、「カワイイ」をその端緒にして、日本が経済でも、ましてや軍事でもなく「文化」で、世界的なイニシアチブを取っていけるような未来を目指せるといい。

2012年7月12日

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