いや2回は死んでるだろ不死身の逃走犯 [映画ハ行]

『プレイ 獲物』

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先の「フランス映画祭」で上映された『スリープレス・ナイト』もそうだが、とにかくテンションの高い演出を、ノンストップで保ち続けるという、新時代のフレンチ・アクションが隆盛となり始めてる。

『すべて彼女のために』『この愛のために撃て』と、この『プレイ 獲物』など、それらに共通するのが、それまで日本では馴染みのなかった役者たちが主演してる点だ。
それほど若くはない、イケメンでもない男たちが、「大切なもの」を守るために、なりふり構わず突っ走る。そこに親近感も覚えるし、またフランス映画界の意外な層の厚さも思い知るのだ。

この映画の主役を演じるアルベール・デュポンテルも、日本で知られてはいないが、俺はたまたま彼の主演作を以前、劇場で見ていた。非常に濃い顔をしてるんで目に焼きついてた。

2003年の『ブルー・レクイエム』がそれで、2年後に、今はない渋谷マークシティの裏にあったミニシアターで封切られてた。
現金輸送車を襲う武装グループの襲撃場面に巻き込まれ、幼い息子の命を失った男が、復讐を誓う。
男は武装グループがまた襲撃を行うと予想し、自ら警備会社に入り、接触の時を待つというドラマで、男の執念が命知らずな行動へとエスカレートしてく様が、キリキリと締め付けるような緊迫感の中に描かれていた。

この『プレイ 獲物』でも、アルベール・デュポンテル演じる囚人は、愛する妻と、幼い娘に危険が迫ってることを知り、大胆な手段で脱獄を試みる。


銀行強盗犯として服役中のフランクは、刑務所の中で気を抜くことができない。
逮捕前にフランクは奪った大金を「ある場所」に隠しており、元の仲間たちは、看守を買収して、フランクにえげつない脅しを始終かけてくる。
唯一気を休めることができるのは、愛する妻アンナが面会に来てくれる時間だけだ。

同室のモレルはおとなしい男で、未成年への性的暴行の罪で服役してたが、本人は冤罪を主張してた。
だが刑務所内ではモレルは小児性愛者と目され、囚人たちからも侮蔑されていた。

ある晩、ロシア人の囚人たちが、フランクの房に入ってきた。自動ロックは買収された看守によって解除されたのだ。「お前は出てろ」と言われ、フランクは廊下に出される。
ロシア人たちは、モレルを獲物とするつもりだった。
しばらく悲鳴を聞いていたフランクは、思わず止めに入り、房内で乱闘となる。

騒ぎを起こしたことで、フランクの刑期は半年延長されてしまう。
面会に来たアンナは、もう生活費が厳しくなってると言い
「あのお金の隠し場所を教えて」とせがむ。
フランクは妻にさえ教えてなかったのだ。だがその妻の言葉にも、フランクは頷かなかった。

刑務所での演奏の慰問の時間に、フランクは突然後ろの席から羽交い絞めにされ、ケータイの画面を見せられる。妻と5才の娘アメリが外を歩いてる写真だった。
耳の穴にはアイスピックを突きつけられ「金のありかを言え」と。
フランクは偽の在り処を教え、なんとかその場を切り抜けるが、耳からは出血し、平衡感覚を一時的に失ったフランクはその場で意識を失う。

意識が戻ったのは4日後。刑務所の病室のベッドの傍らには、なぜか同室のモレルがいた。
「相手が証言を翻して、無実が認められた。もう釈放になるんだ」と言う。
フランクを襲った囚人たちは1週間独房に入れられてると言う。
出てきたら嘘がバレる。妻と娘の身が危ない。
「僕でよければ力になるよ」
と言うモレルに、フランクは妻への伝言を託した。
「身を隠す場所を探せ」
「父さんを頼れ」という伝言だった。

それはモレルに妻子の居所を教えるということだった。
看守まで買収されてるこの刑務所で、信用するに足りるのはモレル以外思いあたらなかった。


その日以降、妻子の安否を気にかけながら、残りの刑期を全うしようとするフランクに、見知らぬ男が面会にやってきた。憲兵隊に所属するマニュエルという男だった。

釈放されたモレルについて、知ってることを訊きたいと言う。
「冤罪で釈放されたんだろ?」
だがマニュエルは、少女連続殺害事件の容疑者として、モレルを探っていた。
逮捕時の尋問の受け答えや表情から、「こいつだ」と直感してたのだ。
だがモレルは狡猾で、役所勤めも真面目にこなし、妻もいる。
決定的な証拠がつかめないでいると言う。
「一番信用してはならない人間を信用してしまったのか?」

フランクの不安は事実となり、刑務所内から自宅に電話しても繋がらない。
5才の娘アメリは失語症で声を上げられないのだ。

そして追い討ちのように、独房から出てきた元の仲間たちに、作業時間終わりに囲まれてしまう。
看守はひとりニヤニヤと笑うばかりだ。すぐさま3対1の乱闘が始まった。
だがフランクは男たちの予想を上回るタフさで向かってきた。死闘の末、3人を倒したフランクは看守に近づいた。

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ここで図らずも脱獄を決行するんだが、いわば「レクター方式」というヤツで、これは『羊たちの沈黙』を見てれば察しはつくだろう。

この後は撮影当時46才の中年アルベール・デュポンテルが、逃げて逃げて逃げまくる。
と同時に妻子の行方の鍵を握ってるモレルの居場所を見つけ出さなければならない。
フランクが大金の隠し場所を訪れ、そこで見る衝撃の光景。

モレルの足跡を辿ると、そこには失踪した少女の死体が。フランクはそのことには気づかずに、自分の痕跡を現場に残してしまうことで、警察からは脱獄犯としてだけでなく、連続少女殺人犯という、モレルの罪も被る状況に追いやられる。

だが一度はフランクを追い詰めながら、取り逃がした敏腕の女刑事クレールは、
「ああまで必死に逃げるのには、なにか訳があるはず」と思い始める。


赤毛の少女に異常な執着を抱くモレルの、残忍な行いは被害者の写真や遺体などで描写されるが、モレルには妻のクリスティーヌがいて、実は彼女が夫の異常な欲望の手助けをしてるのだ。

彼女自身には異常性はないのだが、たぶん夫の愛を繋ぎとめるため、あるいは夫の行為を正当化する、洗脳めいた言いくるめられ方をされてるんだろう。
獲物を見つけると、まずクリスティーヌに声をかけさせて、警戒感を抱かせないようにしてるのだ。

16才の赤毛の少女が毒牙にかけられる場面があるが、それまで写真や遺体で、モレルの異常性は表現されてたんだから、どうやって網をかけるのかという実践ぶりを見せるにしても、あの末路の描き方は嫌な気分にさせる。

この映画の本筋は、フランクがいかに「逃げながら取り戻す」かということなんで、あの赤毛の少女のことが頭に残ってしまい、アクションとしての痛快さに水を差す。


『スリープレス・ナイト』の監督も、近年の韓国映画からの影響を述べてたが、この映画も例えば
『チェイサー』の、生き延びたと思えた女性が、思わぬ場所で犯人と鉢合わせし、殺されるという
「そこまでせんでも」的な描写に倣ってるようで、そこは真似しないでもいいんだよと言いたくなってしまう。

フランクの逃げっぷりは手に汗握るという表現そのままで、走る列車の屋根に飛び移るというスタントは、今までにもよく見かけたが、この映画はその後まで描いてる。
フランクはズボンのベルトを外して、列車の屋根の柵に括りつけ、それを命綱に客車の窓まで降りて行き、唖然とする乗客の前で窓を割り、窓の脇にある「非常停止レバー」を引いて、列車を止め、地面に飛び降り、逃げ去ってく。この一連の動作が理詰めに考えられていて感心したよ。

アクション演出自体はいいんだが、音楽がうるさ過ぎるね。ここぞという時にだけ鳴らせばいいんだよ。この辺はハリウッド製の悪しき真似だろう。

フランクが逃げる間にどんどん不死身になってくのはちょっと笑えるし。
少なくとも2回は死んでると思うんだがな。
アメリを演じる女の子はまあ、お人形さんのようだったね。

2012年7月11日

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