韓国の法廷劇2作①『トガニ 幼き瞳の告発』 [映画タ行]

『トガニ 幼き瞳の告発』

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現在、都内では韓国映画の法廷劇が2本公開されている。
1本は『哀しき獣』のハ・ジョンウが弁護士を演じる『依頼人』で、これは純然たるリーガル・サスペンスだ。
もう1本の、この『トガニ 幼き瞳の告発』は、後半は法廷場面がメインとなってはいるが、副題にあるように「告発劇」と呼ぶ方が似つかわしい。


恩師からの紹介で、霧深い地方の町の聴覚障害児たちの集う、全寮制の学校「慈愛学園」の美術教師として赴任してきたイノ。画家としては食えず、妻に先立たれて、幼い娘を抱える身。
母親に娘ソリの面倒を任せて、ソウルからやってきたのだ。
町で車をぶつけられるが、相手は地元の人権センターの女性幹事でユジンといった。
彼女はお詫びにと、イノを「慈愛学園」まで送り、弁償の件で何かあればと、名刺を置いていく。

イノは早速校長に迎えられた。校長室は天井がスモークガラスのようになってる。
行政室長を紹介されたイノは面食らった。校長と瓜二つの男が立っていたからだ。
校長と行政室長は双子だった。
だが朗らかに振舞う校長と比べ、行政室長はニコリともしない。
校長室から出ると、行政室長は廊下でなぜか手の平を掲げて見せた。
イノは意味がわからず、ハイタッチして応じると
「ふざけてるのか?」と睨む。「察しの悪い奴だな」

それは賄賂の金額を示していた。ただで職が得られるとでも思ってたのか?
行政室長は世間知らずとでもいうように一瞥した。
そんな金は手元になかったが、母親が工面してくれた。

教室で生徒たちと顔を合わせるが、子供たちの表情は一様に暗い。
イノはひとり遅くまで残った夜に、トイレから悲鳴のような声を耳にする。
だがトイレの戸を開けようとすると、警備員に止められた。
「ここの子は退屈すると奇声を上げたりする」
そして学校内の異常な状況は、次々とイノの面前に明らかになっていく。


職員室では男性教師のパクが、ミンスという男子生徒を袋叩きにしてる。
他の教師たちは止めようともしない。
イノが声をかけると
「寮を黙って脱け出した罰だ」と言う。

知的傷害のある女子生徒ユリは、イノの手を引いて、廊下から階段の下のドアを指差す。
そこはクリーニング室だった。イノが中に入ると、洗濯機の前に女性の背中が見える。
さらに近づくと、その女性は、女子生徒のヨンドゥの顔を、回る洗濯槽の中に押し込んでた。

体罰を加えてたのは寮長のジャエだった。
体罰の度を超してると非難しても、「しつけだ」と開き直る。
新米の教師がという寮長の態度に
「僕の知り合いには弁護士もいる。それ以上やるなら黙ってないぞ!」
イノはさすがに激昂した。

ヨンドゥを入院させたイノは、あの名刺のことを思い出した。
人権センターのユジンに電話で、「慈愛学園」において生徒たちへの虐待が日常化してると告げた。


ユジンはイノから教えられた病院へ向かい、病室のヨンドゥと筆談を交わした。
ユジンは電話でイノを近くの食堂に呼び出した。
ユジンが切り出した話は、イノの耳を疑うような内容だった。
ユジンは筆談したメモをイノに見せた。
それはヨンドゥやユリ、そして男子生徒までもが、校長やパク教師から、恒常的に性的虐待を受けている、というものだった。

ユジンは早速この事実を地元の教育庁に通報するが、
「学校の就業時間外に行われた事案に関しては管轄外」
と木で鼻を括ったような対応をされる。
区役所に行ってくれと。ユジンは
「区役所に行ったら教育庁に行けと言われたのよ!」

それならばと警察を訪れるが、担当の刑事も腰を上げる素振りはない。
その刑事は「慈愛学園」の校長室に頻繁に出入りしてた。
校長は地元で教会を建てたり、表向きは名士で通ってる。
その実、警察や役所までまで買収して、悪事を隠蔽していたのだ。


ユジンは体罰どころか、子供たちが性的虐待を受けてると知り、怒りに煮えたぎった。
イノもそれは同じだったが、彼の場合は「慈愛学園」の当事者であり、へたに行動を起こせば、教師の職を失う。
幼いソリを路頭に迷わすことになるのが恐ろしかった。

ユジンは人権センターを通じ、地元テレビ局に連絡した。
マスコミを使って、許されざる行為を告発するのだ。

生徒たちはカメラの前に立つことを了承してくれた。
手話と身振りで、自分が校長たちに何をされたのか、ヨンドゥやミンスは、涙を溜めながら、
その屈辱を語った。
そのテレビ番組は大きな反響を呼び、警察も動かざるを得なくなった。
校長たちは逮捕され、司法の場で裁かれることになった。

だがこの告発にイノが関与してることは、当然「慈愛学園」側の知るところとなり、
イノは即刻解雇される。
ユジンは「関わったことを後悔してる?」とイノの瞳を覗う。
「君は気楽でいいよな」
イノはユジンが人権センターで、少ない報酬で働き、家では内職をして補ってることなど知る由もなかった。


この後、事件は法廷の場でその全容を暴かれていくのだが、被告の学園側は、さまざまに策を弄して罪を逃れようとしてくる。

校長たちは予め、虐待する生徒に目星をつけていた。孤児であったり、親が知的障害を負っていたり。
そういう生徒を選ぶことで、もし事が表沙汰になりそうな時には、示談で収めてしまえると踏んでたのだ。

イノがあの夜、校内のトイレで聞いた悲鳴は、校長に襲われるユリのものだった。
イノは、あの時自分が踏み込んでいれば、と悔恨に顔が歪んだ。

そして校長室の天井にも秘密があった。あのスモークガラスの奥にはビデオカメラが仕掛けてあり、校長がヨンドゥを机の上でレイプする様子を撮影してたのだ。
撮影されたディスクを見つけ出したイノとユジンは、これが決定的な証拠になると、検事に預けた。

だが裁判の判決は愕然となるものだった。


この映画は日本では「R-18」指定となってる。たしかに未成年に対する性的虐待の場面は、少女の裸などは勿論見せないが、かなり生々しく描写されてはいる。
トイレに逃げ込んだユリが、顔を上げると、隣の仕切りの上から校長がニヤついて見てる場面など、女性の観客は、根源的な嫌悪感に身震いするんじゃないか?

パク教師は男子生徒のミンスと、その弟にも手を出していた。弟が風呂場で裸の背中を撫で回されてる場面は、日本に限らず、どこの国でも描写としてアウトだろう。
そこまで踏み込むのはさすが韓国映画とは思うが。

「R-18」指定の根拠はそういう描写によるものだろうが、これは被害者が未成年であり、彼らがどれだけ熾烈な思いをさせられたのかということは、同じ未成年の日本人に知らしめていいはずだ。
聴覚障害という、ハンデを負った子供たちへの虐待という題材にも配慮してるのかもしれないが、そこにも違和感はある。


これは韓国の聴覚障害児童の学校で、実際に起きた事件を元にした映画だが、日本でも同様の事件は起きている。だがそれを題材にした映画やドラマは作られない。

日本ではハンデを負った人間を題材にすると、大抵見る者に感動を与えるような、前向きな登場人物や、ストーリーに限定されて、ネガティブな要素は取り上げられない。
腫れ物にでも触るようなスタンスなのだ。

なので重度の知的障害を負ったヒロインが、男にレイプされてしまうという、驚愕の展開で始まる『オアシス』のような映画は、まず作られることもないだろう。
韓国映画は「タブー視することがむしろ不自然」という、そこに明らかなスタンスの違いがある。

この『トガニ 幼き瞳の告発』は、被害者を演じる少年少女たちの演技が真に迫っており、見る者に相当なインパクトを与えてはいるだろう。
映画自体の評価も高まるところだろうが、冷静に捉えてみれば、衝撃的なのは、この映画の元になった事件であって、映画が作り出しているものではない。

原作は事件のルポルタージュという形ではなく、事件を元にした小説という形で世に出されている。
映画の中でパク教師から虐待を受けてたミンスが、ある行動に出る場面があるが、その結末も、映画パンフに掲載されてる事件の記録の中には出てこない。
つまりフィクションが付け足されているわけだ。

韓国映画らしいというか、描写は非常に扇情的であり、被告たちの悪辣ぶりを、これでもかと描き出そうとしてる。温和な表情の裏に卑劣な素顔を潜ませる校長をはじめ、みんないかにも「ワル」という表情を作ってる。

中でも女性寮長のジャエの人相が強烈。パンフには演じた女優の名前がないので、わからないのだが、女性でこんな悪相も珍しいなと、むしろこの女優のことが気になってしまったぞ。
もちろん校長やパク教師が鬼畜なんだが、ほかの見て見ぬふりの教師たちはどうなんだ。
映画では全く空気扱いで、そういう人間たちの、罪とか葛藤とかが抜けてるのも物足りない。


コン・ユが演じるイノは、義憤と保身の間を揺れ動く、その強くなり切れない人物像が、リアルである反面、映画の観客としては「ピリっとしてくれよ」と無責任に思ってしまったりもするので、人権センターのユジンの存在は、映画を進める起爆剤として、上手く配置されてたと思う。

ユジンを演じるチョン・ユミは、日本でいうと深津絵里のようなタイプか。
可愛いけど「女」を押し出してこない。
少女の頑なさを持ち続けたまま大人になったような印象だ。
子供たちの災厄を我がことのように受け止めて、怒りをぶつける、そういう人物像にあっている。

2012年8月9日

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