ライアン・レイノルズのテンパり護送劇 [映画タ行]

『デンジャラス・ラン』

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デンゼル・ワシントンが演じるトビン・フロストは、CIAでも飛び抜けた技量を持ったエージェントだったが、10年前、突如CIAに背を向け、国家機密を売買する、最重要危険人物として、36ヵ国で指名手配を受けている。

南アフリカ、ケープタウンのとあるバーで、フロストは英国諜報部「MI-6」のウェイドから、極小さなアンプルに仕込まれた、マイクロチップを受け取った。
フロストは常に監視されてることを意識していた。
バーを出て、ウェイドと車を発進させた途端、助手席のウェイドが銃で撃ち抜かれた。
武装集団がさらに狙いをつけてくる。
フロストは車を降り、デモ隊に紛れて、追っ手を交わす。
追っ手がフロストの背中を捉えた時は、すでにアメリカ領事館に駆け込んだ直後だった。


「国家の敵」となった男が、自らアメリカ政府の施設に姿を現したことで、ラングレーのCIA本部は色めき立った。作戦本部副長官のハーランは、尋問を南アフリカのチームに任せた。

CIAの新米職員マット・ウェストンには突然の大仕事だった。
それまでこのケープタウンで、「セーフハウス(隠れ家)」と呼ばれるアパートの管理人に命ぜられていたが、それは彼が目指した諜報活動とは無縁の、退屈な日常業務だった。
その「セーフハウス」に、伝説の大物フロストが連行されて来るというのだ。

頭に布を被せられたフロストとともに、尋問のプロのキーファーが、部下とやってきた。
尋問用の部屋に、椅子に手足を括りつけられたフロスト。
キーファーは向かい合い、情報を聞き出そうとするが、すぐに無駄とわかると、拷問の用意に入る。

タオルに水を含ませてるのを見て、フロストは
「そのタオルじゃグラムが軽いぞ」
と指摘する。マジックミラー越しにその様子を見てるマットは聞かされていた。
フロストが人心を掌握する天才だと。
早くもそのスキルを披露してるのか?

キーファーは言葉を無視して、椅子を仰向けの体勢にさせる。
フロストの顔をタオルで覆い、その上から水をかけ続ける。
「イスラムのテロリストは20秒持たなかったぞ」
一旦終わらせると、フロストは荒く息をしながら
「何秒だった?」
その尋問のやり方を、マットは「合法なのか?」と呟いた。
フロストは全くこたえる様子もない。

「次はナイフだ」キーファーがそう言った瞬間、部屋の灯りが消えた。
すぐに非常回路が作動し、玄関を映すモニターには、武装した集団が。
「襲撃だ!」
キーファーたちは応戦するため、マシンガンや銃を構える。

大物が来たと思ったら、武装集団の襲撃。マットはパニックに陥った。
椅子に座ったフロストは表情ひとつ変えない。
マットは「そいつを見張れ!」と尋問部屋に、フロストと二人残される。


部屋の外では激しい銃撃の音がする。
キーファーたちが防げなければ、奥まったこの部屋もすぐに発見されてしまう。
動揺するマットに、フロストは言う

「あいつらが俺を捕まえた時は、お前は死んでる」
「俺を守り切ることが、お前の助かる唯一の道だぞ」
相手の行動を支配してしまう、トーク術が炸裂してる。

マットはフロストに手錠をかけ、裏口から外へと連れ出す。
道路で無理矢理、人の車を奪うと、フロストをトランクに押し込みアクセルを踏んだ。


ここからは厄介な相手を連行して、追っ手から逃げ続ける新米の奮闘が描かれてく。
デンゼルと若い白人男の関係性で手繰れば、デンゼルがアカデミー主演男優賞に輝いた
『トレーニング・デイ』のプロットと同じとわかる。

あの映画ではイーサン・ホーク演じる、実地1日目の新米刑事が、デンゼル演じるベテラン刑事の、悪徳とも思える捜査ぶりに、次第に違和感を拭え難くなる。
なにしろ1日目だから、デンゼルの言うことは、有無を言わさぬ迫力で、新米刑事を萎縮させる。
だがそれはタフな現場を生き抜くための「金言」にも聞こえ、新米には冷静にその善悪を判断しきれない。

この『デンジャラス・ラン』においても、デンゼル演じるフロストは、逃亡の最中にも、言葉で揺さぶりをかけてくる。

「なんで俺がセーフハウスに連行されたことが、すぐに察知されてるんだ?」
それはCIA内部から情報が漏れてることを示している。
フロストはこうも言う
「もしお前の上司がこう言ったら気をつけろ」
「君はよくやった。あとは我々に任せろ」
「それはお前が捨てられたということだ」


『トレーニング・デイ』のイーサン・ホークと同様に、この映画でマットを演じるライアン・レイノルズも、説教に丸めこまれそうな頼りなさを漂わせてる。

本人には悪い言い方だが、彼はバート・レイノルズという大スターの息子として、なに不自由ない子供時代を送ったんじゃないか?
今年36になるが、どこか「ぼくちゃん」な面影を残す。
サンドラ・ブロックと共演して大ヒット飛ばした『あなたは私の婿になる』のようなラブコメの方が、本来の個性には合ってるんだろう。

だがこの映画の場合は、要領の得ない新米が、それでも職務を諦めずに闘い続ける、その終始テンパった感じが、説得力持って伝わってくる。

主役はデンゼルだが、デンゼル自身の役柄としては『トレーニング・デイ』を踏襲する部分もあり、いつもの「安心して見られる」演技という域は超えてない。
ライアン・レイノルズの、満身創痍の表情演技が、物語に惹きつける力を滲ませてると思う。


スウェーデン出身で、これがハリウッド監督デビューという、35才のダニエル・スピノーサの演出は、『ボーン』シリーズ以降のフォーマットにのっとった、とにかくアクションつるべ打ちになっており、カースタントもかなりアグレッシブだし、格闘場面にも迫力がある。

フロストとマットの人物像をごく短時間で描き分け、幾重にも危機的状況に見舞われる前半部分は特に快調だ。だがマイクロチップの中身といい、CIA内部の裏切り者の正体といい、ネタが割れてく後半は、ありきたり感は拭えない。
エンディングなんか『ゴースト・プロトコル』のまんまだったよ。


ケープタウンが舞台となる映画で、「逃走・謀略」ネタというと2本思い浮かぶ。

1968年の『謀略都市』は、ケープタウンでスリを生業にする男が、若い女性の財布を盗むが、その中にはスパイの機密フィルムが入っていたため、諜報機関から追われるハメになるという内容。
『デンジャラス・ラン』の「機密データ」とつながる部分がある。

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ジャクリーン・ビセットが財布の持ち主を演じていて、彼女の美貌を堪能したい所だが、DVDにはなってないんだよな。ちなみに彼女の後ろにいるのは、クリスチャン・ベールみたいな顔してるけど、若き日のジェームズ・ブローリンだ。


もう1本は1975年の題名もズバリ『ケープタウン』
黒人政治犯と、彼の弁護を引き受けた女性弁護士、そのボーイフレンドの3人が、検問を振り切り、ケープタウンから、ボツワナ国境まで、1500キロの逃亡を企てる。
その逃亡には75万ポンドの価値があるダイヤが絡んでいたというもの。

ケープタウン.jpg

政治犯を演じるのが、デンゼル・ワシントンなど黒人俳優の先達でもある名優シドニー・ポワチエ。
一緒に逃亡するのがマイケル・ケインというのが、今回の映画の黒人と白人のコンビと同じだ。
まだ無名時代のルトガー・ハウアーがわりと重要な役で出てたりする。

この『ケープタウン』もビデオ・DVD化はされてない。

2012年9月7日

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