ラテンビート映画祭『ゾンビ革命 フアン・オブ・ザ・デッド』 [ラテンビート映画祭2012]

ラテンビート映画祭2012

『ゾンビ革命 フアン・オブ・ザ・デッド』

ゾンビ革命2.jpg

師匠ロメロからの「暖簾分け」のような形で、今や世界各国でゾンビが闊歩する状況となってるが、ついに社会主義国キューバで、初のゾンビ映画がお目見えした。

血生臭さも、ゴア描写もそれなり頑張ってはいるが、南独特のまったりした開放感というのか、どんなにゾンビが湧いてきても、切迫した空気にならないのが可笑しい。

監督のアレハンドロ・ブルゲスは、コメディ系ゾンビ映画をきっちり研究してるようで、この映画も主人公ホアンは、ボンクラ中年に設定されてる。


フアンは、かつてはアンゴラ内戦に従軍し、忍者から手裏剣の技や格闘術を学んだと自己申告してるが、証拠はない。
棚にはヌンチャクが下げられており、ブルース・リーを師と仰ぐ。
絵に描いたボンクラである。

40過ぎても定職に就かず、贅沢を考えなければ、飢えて死ぬことはないと、
社会主義の恩恵にあぐらをかく怠惰な日々。
女の体のことしか頭にない、親友ラサロもそれは一緒だ。

つい最近は盗みを働いて捕まり、刑務所にブチこまれてた。
出所すると、妻にはヨリを戻すつもりはないと言われる。
「私はマイアミに行くつもり」


懲りもせず、盗みの計画を立ててたが、どうも最近ハバナの町の様子がおかしいことに気がついた。
四六時中、喧騒の中にあるような町が静けさに包まれてる。

亭主の留守中に色っぽい人妻を寝取ったりしながらも、フアンはその変化を訝しく思っていた。
女好きだがブサメンでまったくモテないラサロは、フアンと事を済ませた後の人妻を屋上から覗いてマスかいてる。

そんなのんびりした二人の周りでは、ハバナの住人たちが、食い殺しあうという、凄惨な地獄絵図が展開されていて、ついにそれはニュースでも中継された。
国営テレビはこの状況を、
「帝国主義国家アメリカが、裏で糸を引いて、反体制派を蜂起させた暴動である」
と報道した。


どうも襲われて噛まれたりした人間が、伝染病に感染でもするように、同じ症状になり、人を襲ってるようだ。
フアンは同じアパートに住む老婦人の亭主が、似た症状を起こし、死んだ後に甦り、襲ってきたので、概略がつかめてきたのだ。
体にいろんなもんを刺してもビクともしないが、頭に刺したら動かなくなった。
頭を狙えばいいのか。

その老婦人が、甦った亭主を再び息の根止めることなどできそうもないのを見て、フアンはビジネスを閃いた。
ラサロと二人では人手が足りない。
「ワル仲間」でオネエキャラのチナと、彼女のペット兼ボディガードの筋肉マン、プリモ。
フアンの娘カミーラに、父親と違ってイケメンの、ラサロの息子ブラディ・カリフォルニア。
その他数人の半端者たち。
頭数を揃えたフアンは、仕事内容を説明する。

ゾンビ革命3.jpg

謎の病気が蔓延してるが、一度症状にかかった身内を殺すことができない、そういう人々に代わって、
「あなたの愛する人、殺します」
をキャッチにして、殺人代行ビジネスを始めようというのだ。
日々患者は増えてるんだから、依頼には事欠かない筈だと。

意気揚々と町へ繰り出した一行。
フアンはボートのオールを、ラサロはナタみたいな刃物を両手に、チナはパチンコを、プリモは腕力を、それぞれ武器にして、町に湧き出る死人の群れを始末していく。

だが所詮はボンクラの思いつきだけのビジネス。
どんどん感染が進むにつれて、首都ハバナはまともな人間の方が僅かになってしまってるんで、依頼者も見つからないのだった。

状況が悪化してく中で、娘のカミーラと、ラサロの息子ブラディが接近しつつあると察知したフアンは、カミーラに「ブラディはヘルペス持ちだぞ」
と嘘を吹き込むという予防線を張ることは怠らなかった。
そんなフアンたち一行は、海の見える広場で、ついに大量の死人たちに囲まれてしまう。


絶体絶命のその時、一台のピックアップトラックが猛スピードで近づいてきた。
荷台から大きなモリを発射すると、それはフアンたちのそばにある電柱に突き刺さった。
「伏せろ!」の声にフアンたちは身をかがめた。

モリにつながれたワイヤーがピンと張られ、トラックは電柱を中心に円を描くように周囲を1周した。
死人たちの頭部は一斉にワイヤーで切断された。それは鮮やかな手際だった。

トラックを運転してたのは、アメリカ人で、自身をファザー・ジョーンズと名乗った。
ファザー・ジョーンズは、死人の群れのことを「ゾンビ」と呼んだ。
それはウィルスによるものではなく、資本主義諸国ではゾンビという現象として定義されてる。
キューバにおいては、まだその概念が浸透してなかった。

彼に導かれてフアンたちは地下駐車場へと向った。
ファザー・ジョーンズには、このハバナを脱出する秘策があるようだった。
だが彼が説明をしてる最中に、ラサロの持ってたフィッシング用のモリが暴発して、ジョーンズは即死した。
フアンは頭を抱えるが、さらにラサロは衝撃的な事実を告げる。


ラサロは太腿を怪我していた。死人たちを倒しまくってる最中に負ったものらしい。
「噛まれたのか?」
フアンの問いに、ラサロは悲しげな表情をかえすのみだった。
二人はビルの屋上で夜明けを待った。
ラサロは朝日を見る前に死ぬかもしれない。
もし甦ったらその時は頼むと。

そしてもう一つ頼みを聞いてほしいと言う。
「愛してるんだよ、フアン」
「俺もさ」
「そういう意味じゃない。本当に愛してたんだ」
フアンはラサロをまじまじと見返す。
「だから死ぬ前に、しゃぶらせてくれないか?」
あまりの告白に絶句するフアン。だがラサロの目は本気のようだ。
フアンは意を決してパンツを下ろした。


という呆れた展開になってくるんだが、これにもオチがあった。
フアンのアパートの屋上から、度々ハバナの町を遠景で捉え、黒煙を上げるビルが増えてくことで、破滅化が進んでる様子を描いたり、細部に手を抜かずに作ってる印象だ。

ゾンビはメイクなどはよくできてるが、ロメロ型のノロノロ歩きのがいたり、走れるのがいたり、まちまちだ。
「ゾンビもいろいろでしょう」というキューバ的なアバウトさなのか。


エグさを売りにするようなギャグが、いまいち決まらないという恨みはあるが、登場人物たちのキャラは立ってるので、楽しめる。

フアンを演じるアレクシス・ディアス・デ・ビジェガスという長い名前の役者は、俺の単なる先入観だが、キューバ人にしては、大らかな感じではなく、根暗な表情なのが意外だった。
キューバの松重豊みたいな。
親友ラサロを演じるホルヘ・モリーナは、その直球下ネタな感じが、昨年の「LBFF」で見た
『トレンテ4』のオヤジとカブる。

シド・ヴィシャス版『マイ・ウェイ』が飾る、エンディングのアニメーション画がカッコいい。

2012年10月3日

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